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白鯨


監督 ジョン・ヒューストン
出演 グレゴリー・ペック、リチャード・ベースハート、レオ・ゲン

 原作は高校のころに読んだ。なんとまあ、しちめんどうくさい、寄り道の多い小説であった記憶がある。話は巨大な白いマッコウクジラに足を食いちぎられた捕鯨船の船長が宿敵モビイ・ディックを追い、死闘を繰り広げるというもの。
 この映画、レイ・ブラッドベリが脚本に参加している。そのためか、幻想的で重厚な映画に仕上がっている。19世紀のアメリカの港町。船員相手の安宿。教会。そして帆船の捕鯨船。捕鯨船の荒くれた乗組員たち。大変にリアルに映像化されているのではないか。
 鯨捕りの場面は、現代のCGやらSFXのない時代の映像としては、大変に迫力があり、勇壮な「勇魚」捕りを彷彿とさせられる。特に最後のエイハブ船長とモビィ・ディックの死闘は両者の執念がよく描かれていた。マッコウクジラのモビイ・ディックの眼がクローズアップで映るが、人智を超えた悪魔的な鯨であることがよく判る演出だ。
 主役のエイハブ船長を演じたペックが大熱演。エイハブはモビイ・ディックへの執念というより、仏教的な「業」を感じさせる人物に見えた。セリフ、所作が大仰で大そう。歌舞伎がアメリカにあれば、こんな具合ではないだろうか。
 ラスト、乗組員で最も常識的な人物である、一等航海士スターバックが、思いもかけぬ行動に出る。エイハブの執念と、勇魚捕りの「業」の深さがよく表れていた。
 この作品、昨今のモンスター映画や動物パニック映画にはない、風格を感じさせる。これに匹敵するのは「ゴジラ」第1作ぐらいか。スピルバーグの「ジョーズ」も確かに名作ではあるが、あれはただのサメである。第1作ゴジラや、本作のモビイ・ディックは荒ぶる神だ。
 荒ぶる神=大自然=モビイ・ディックを御すことに執念を燃やすエイハブは、乗組員を道連れに海に沈んだ。ただ一人語り手のイシュメイルだけが生き残った。
 東日本大震災という荒ぶる神に襲われ、原子力という荒ぶる神の目を覚まされたわれわれ日本人の姿を、モビイ・ディックとの闘いに執念を燃やしたエイハブにダブらせてしまう。
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