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とつぜんSFノート 第4回

 理科好きで空想好きな少年雫石鉄也は、「未来」「宇宙」「ロケット」「ロボット」なんかが出てくるお話が大好きな少年だった。それらのお話が「空想科学小説」なるモノであることを知り、それらしい本をながめては喜んでいた。そんな小生を「SF」の世界に吸い込んだのが「SF入門」という本であった。
 発行が1965年。小生が持っている本は再版。初版は1965年5月31日。同年7月10日に再版している。初版に何部刷ったか知らないが、一ヶ月とちょっとで再版。よく売れた本であるらしい。今から44年前の本だ。出版社は早川書房。編者は初代SFマガジン編集長福島正実。SFマガジン創刊が1959年だから、それから5年後。巻末にハヤカワSFシリーズいわゆる銀背の広告が90冊分載っていた。最初のフィニイ「盗まれた街」からワイリー「勝利」まで。このシリーズが軌道に乗っていたことが判る。
 こういう時期タイミングで「SF入門」が出版された。柴野拓美氏、矢野徹氏、野田昌宏氏、星新一氏、光瀬龍氏たちを日本の第1世代のSF者とするのならば、小生は第2世代といっていいだろう。その第2世代のSF者たちがSFの世界へのとば口に立っている時に、ちょうどこの「SF入門」が出版されたのだ。小生にとって、渡りに船的な本となったわけ。上記のような売上げを見ると、小生とおなじ世代のSF者のお歴歴も、この本を買ったムキも多かったのだろう。小生自身にとって、また、日本のSF界にとって、初期の起爆剤として、この本の意義は大きいと思う。
 ではどんな本か紹介しよう。目次を転載する。

1、SFの定義をめぐって
  序にかえて・・・福島正実
2、SFの歴史
  ギリシャ・ローマ・中世・ルネッサンス・・・福島正実
  ジョナサン・スウィフト・・・小泉太郎
  ジュール・ヴェルヌ・・・村上啓夫
  H・G・ウェルズ・・・福島正実
  英米SFの系譜・・・福島正実
  ソビエトSFの系譜・・・袋一平
  フランスのSF作家たち・・・北村良三
  アメリカのSF現代作家・・・福島正実
  ソビエトのSF現代作家・・・飯田規和
  日本SF史の試み・・・石川喬司
3、SFしんぽじうむ
  SFの流行について・・・安部公房
  SFの批評性・・・木島始
  ソビエト・サイエンス・フィクション序文・・・アイザック・アシモフ
  モア・ソビエト・サイエンス・フィクション序文・・・アイザック・アシ
  モフ
  ファンタジーの退屈・・・アーサー・ケストナー、
  社会主義的SF論・・・イワン・エフレーモフ
  拝啓イワン・エフレーモフ様・・・小松左京
  戦略的SF論・・・石川喬司 
  最近のソ連SF・・・袋一平
4、SFかりきゅらむ
  SFマーケット・・・伊藤典夫
  SFコンベンション・・・矢野徹
  SF映画展望・・・岡俊雄
  SF漫画・・・手塚治虫
  SFの英雄たち・・・野田宏一郎
  SFのベムたち・・・伊藤典夫
  SFにあらわれる武器・・・光瀬龍
  SFにあらわれる宇宙船・・・豊田有恒
  SFとESP(超能力)・・・斎藤守弘
  宇宙人類学・・・斎藤守弘
  タイム・トラベル・・・小隅黎
  時間旅行調査委員会報告・・・安部公房+中原佑介
  ロボット物語・・・福島正実
  ファンダム・・・柴野拓美
5、SFをどう書くか
  短編をどう書くか・・・星新一
  長編をどう書くか・・・小松左京
6、SF用語辞典・・・福島正実
付録 
  SF読書の手引き・・・福島正実+石川喬司

 ご覧いただいたように、当時の日本SF界が総力を上げて創りあげたSFの入門書だ。入門書としての過不足ない機能を有すると同時に優れた評論集ともなっている名著だ。

 1章で福島正実がSF観を述べているが、いささか時の流れを感じずにはいられない。「科学」(ここでいう科学とは自然科学)を意識せずにはSFを論じられない。「SFの鬼」いわれた福島正実ですら、この当時は「科学」をまったく無視というか、視野に入れずに創作されたSFは考えられなかったと見える。21世紀の現代においては、「科学」とは全く無縁のSFも多く存在する。早川にて福島の後輩が企画した「想像力の文学」などはその証左ではないだろうか。
 2章の歴史は、やはり一般基礎教養として押さえておくべき内容だろう。これが大学ならば教養課程の必須科目といったところか。
 3章のシンポジウム。主にソビエトSFに言及されている。ソビエトはご承知のような国であった。ソビエトSFは科学に対して全幅の信頼を置いていた。科学技術の発展によって、明るい社会主義の未来が開く。悲観的に科学を見ることが多い英米SFに比べ、ソビエトSFは科学を楽観的に見る。今となっては歴史の巨大な皮肉を感じる。
 エフレーモフは「大文学」なるものを想定して、文学のあらゆるジャンルに科学知識が必要になる。SFは存在意義を失い消滅して「大文学」に吸収される。小松左京がそれに対する反論を書いている。科学が旧来の重苦しい文学を解放した。それがSFだ。SFは「自由」なのだ。イワン・エフレーモフVS小松左京。この2項はなかなか読みでがあった。エフレーモフには気の毒だが、社会主義国家ソ連は崩壊した。
 それにしても昔は、ソビエトSFが英米SFと並んで、論評紹介されることが多かった。最近はSFマガジンが非英語圏SFやロシアSFの企画を思い出したようにやるだけ。ロシアSFなどには面白いものが多いと思うのだが。ソ連崩壊前と崩壊後のロシアSFを比較する企画などは面白いと思うのだが。
 4章SFカリキュラム。この章がいちばん心引かれて読んだ。SFのキモは「センス・オブ・ワンダー」なんだということを、この本のこの章で知った次第。SFの大きなテーマである「破滅」が抜けているが、おおむね必要な項目は網羅されている。
 野田宏一郎(昌宏)担当の「SFの英雄たち」で、キムボール・キニスンという男に興味を持った。彼の出てくる作品を読みたいと思った。その願いはそれからしばらくして実現した。 
  
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