大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・315『あしの名はあし!』

2015-06-06 18:18:29 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・315
『あしの名前はあし!』



 あしは一人称が「あし」 自分では「あたし」て言うてるつもりやったけど、正月に啓介に指摘されて愕然。

 で、気いつけて「あたし」て言うねんけど、すぐに「あし」に戻ってしまう。
 啓介はバカにするつもりで言うたんやない。ちょっとあしの……あたしの面白いクセとして喜んでるだけ……やと思う。
 そやかて、受験で忙しい時に映画に誘うてくれた。

『幕が上がる』を見に行った。

 知ってる人おおいと思うねんけど、ももクロが本気になって演技に取り組んだ初めての映画。あしは、あれを見て、高校行ったら演劇部に入ろと決心した。
 あとで分かったことやけど、啓介は大のももクロファン。よう思うたらダシにされただけかも……せやけどええねん。ダシにするんやったら、他にもいてる。他にもいてるその中からあしを選んでくれたんやから、中三としては、それでよかった……。

 あしはO高校に入った。偶然やったけど、O高校は大阪でもトップクラスの演劇部。あしは一も二も無く演劇部の門をたたいた。

 凛々しい発声練習、気合いの入ったストレッチ、外からでも聞こえる稽古場の声。あしも、その一員になれた!

 五月に総会と兼ねた講習会がK高校であった。これにも感激! なんちゅうことやろ、いつもやったら五百人くらいのとこに七百人も集まった!

 九十分ほどのワークショップはあっと言う間に終わってしもた。脱力と集中、発声方にエチュードの大事さと、コツを教えてもろた。

 クラブの基礎練習も良かったけど、講習会で習うたことも試したかった。
「うちは、うちのやり方やさかいにね」
 先輩は、そない言うて、相変わらずの発声練習。気いついたら、先輩ら、みんな同じ声や。すごいねんけど個性が無い……思うてても口には出されへん。「あのう……」て言いかけただけでシカトされてしもた。あしの幕は、なかなか上がれへん。

 夏休みにOHPに出るための稽古。既成の本やけど、言うたら、学校やらあしのこと分かってしまうんで堪忍してください。

 期末テストを境に1/3ほどが辞めていった。あしとこは親が寛容ちゅうか無関心言うか、欠点二三個とっても、家に帰るのが十一時になっても何にも言わへん。
 馬力にまかせて、まるで突貫工事でビル建てるような勢いで稽古した。

 OHPは大盛況やった。観客席も舞台も一体になって、ごっつい熱気やった!

 せやけど「幕が上がる」とは微妙に違う。違う思いながら季節は巡って、コンクールが近くなってきた。新入部員は半分にまで減った。
 コンクールは顧問のY先生が……あ、一応生徒が書いたことになってるをする。あしのクラブは創作脚本賞をようさんとってる……わりには、よそでやってくれたことがないのに気いついた。

 同期のチイちゃんが辞めたときはショックやったけど、先生はすぐに本を書き直して、チイちゃんの役を無くしてしもた。
 このころ、ちょっと疑問が湧いた。うちの顧問はもう四十代の後半や。そやけど独身。
「オレは高校演劇と結婚したんや!」と先生は言う。

 そやけど、先輩からこっそり教えてもろた。

 実は、先生は昔の部員と恋仲になったらしいけど、実らへんかったらしい。こういう話には耳がダンボになる。なるけど、先輩はそれ以上は教えてくれへんかった。先輩らは尊敬してるらしいて、一定以上の先生の話はしてくれへん。

 コンクールになった。

 びっくり……がっかりした、ちょっとだけ。客席が寂しい……。ももクロの映画やったら、家族やら友だちやら一杯来てくれて、ハラハラドキドキ。ほんで幕が上がる。
 不思議とあがれへんかった。自然に役の中に入っていけて、クライマックスでは、ほんまに役として泣くこともできた。

 映画ほどやなかったけど、達成感はあった。正直先輩らみたいなステレオタイプの役者にはなりたなかったから、こっそり『メソード演技』の本買うて練習してた。稽古が進んでいくにしたがって、台本やら台詞の無理やら飛躍に気いついたけど、なんにも言わへんっかった。舞台ではすんなり渡す道具があったけど、本番ではあしは渡さへんかった。相手役は先輩やったけど、切実に「渡して欲しい」気持ちになってへんかったから、渡さへん。
 先輩はマジで「渡して!」と叫んで渡したげた。客席からまばらな笑いが起こった。

 六十点ぐらいの出来やったけど、よその学校がひどい出来やったから最優秀間違いなしやと思うた。

 それが、信じられへんことにS高校が最優秀持っていきよった。
――伝わらないもどかしさが、よく現代社会をあらわしてました!――
 なにそれ? みんな思うた。S高校は、ただヘタクソなだけやのに。
――O高校は安心して観てられました。破綻もありませんでした。ただ作品に血が通ってない。思考回路、行動原理が高校生と違います――
 ワケ分からへん。先生も同じ気持ちらしい、血管が浮いてた。
「あいつ、むかしT高校落としたときと同じこと言うとる!」
 そやけど、審査は絶対。

 なんで映画みたいにいかへんねやろ。

 アホくそなって、うちは演劇部を辞めた。

「な、あし、ちゃんと『あたし』て言うてるやろ?」
 明くる年の初詣で啓介に聞いた。
「ハハ、やっぱり『あし』やな。半年演劇部におってなにしててん」
「そやかて、ちゃんと!」
「あしはあしでええ。無理して変えたら自分らしないわ」

 気持ちが籠ってた。演劇部……無駄やったんか、成果に繋がったんか、まだ整理はできてません。

 せやけど、もうええ……そんな気持ちのこのごろです。あしの名前は……あしです。


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