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「エレヴァス」問題

2016年12月15日 | 吉本さんのこと

「エレヴァス」問題


檀一雄『太宰と安吾 』の解説を吉本さんが書いています。その解説の末尾に書かれている言葉「エレヴァス」の意味がわかりません。分かる方、教えていただけませんか。わたしは、「エトヴァス」の誤植ではないかと思っています。資料文章を挙げます。



資料 「エレヴァス」の件

1.檀一雄『太宰と安吾 』の吉本さんの解説(文庫の二ページ分)、その後半部分

  ※該当部分を●表示


 太宰と坂口の作品に通底するのは、戦後の状況に対する「否定」の雰囲気である。戦争の中に平和を、平和の中に戦争を透視することができない他の知識人と比較して、政治も社会も文学も、戦争も平和もすべて嘘っぱちじゃないかという二人の拠って立つところは、際立っていた。つまるところ、太宰と坂口「解って」いたのではないかと思う。
 ところで、武田泰淳、野間宏、石川淳といった第一次戦後派と呼ばれた作家たちがいる。彼らは敗戦直後の混沌の中で、一瞬の煌(かがや)きにも似た佳作を生み出しているが、太宰や坂口が彼らとも異なるのは、私なりの言い方でいえば、大それたことを考えていたということになる。大それたこと、つまり政治なり社会なり、あるいは人間存在について深いところで認識しながら、ある種の大きな普遍性を意図的に作品に繰り込もうと考えていたふしがある。こうした姿勢を持った作家は太宰と坂口だけであり、その後出ることはなかった。
 太宰治、坂口安吾の他、織田作之助、石川淳、檀一雄といった、いわゆる無頼派と呼ばれた作家たちは、それぞれ良質な作品を残しているが、彼らは、女、薬、酒といった表層的なデカダンスと裏腹に極めて強い大きな倫理観を持っていたように思う。これが一見無頼派的にみえる彼らの作品の奥底に流れていた、生涯をかけた大それた●エレヴァス●であった。 平成十五年三月
(「檀一雄『太宰と安吾 』」の解説の末尾の部分、初見は『吉本隆明資料集159』P79 )


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※わたしの感想
 若い頃からの文学体験や修練を経て、戦争-敗戦の「生きた心地もしない」という生存の危機に陥り、自然な時間の推移と苦闘の中から、内省を「内部の論理化」や「社会総体のイメージ」の獲得へと差し向けて、未だかつてこの列島の人々の未踏の場所で孤独な営為として持続してきた吉本さん。今は亡き太宰と坂口の深部に向かって差し出された、そして読者のわたしたちの深みに染み渡って来るような解説の言葉には、その持続の中で生み出された『共同幻想論』や『言語にとって美とはなにか』『心的現象論(序説)』などを経験した(論理の)言葉や、それらから反照する言葉の視線が込められています。途方もない修練を経た、こういう深みのある読みができる人が亡くなったのはほんとうに残念なことである。
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2.

今年の11月初めに、檀 一雄『太宰と安吾 』(角川ソフィア文庫)の解説(吉本隆明)の中の言葉「エレヴァス」について出版社にネットのホームページの問い合わせ窓口から尋ねましたが返事をもらっていません。以下は、その問い合わせの文章です。 

尚、その後のネット検索によると、『太宰と安吾 』初版の単行本は、バジリコ株式会社で2003年4月30日刊行とあります。出版社が違っているから初版の単行本を出した方に尋ねるべきだったかもしれません。(こうした場合の二番目の別会社の出版が、元原稿に当たるのかどうかなどどの程度のチェックで成されるのか知りませんが) 

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数日前、檀 一雄『太宰と安吾 』(角川ソフィア文庫) を購入した者です。

別の所で、本書の解説(吉本隆明)のみ目にする機会がありました。その解説の末尾にある言葉「エレヴァス」に引っかかりました。エレヴァス(エレバス)でネット検索しても、それらしい意味が見つかりませんでした。仏語かなとも思って、「何か」「あるもの」の意味でグーグル翻訳にかけてもヒットしませんでした。
読んで最初に思ったのは、わたしの耳の記憶にあった、「何か」や「あるもの」の意味の「エトヴァス」(ドイツ語 etwas エトワス,エトヴァス)の誤植ではないかというものでした。それで、本の内容への興味もあり本書を買ってみました。しかし、本書の解説の末尾(P413)も「エレヴァス」になっていました。

そこでお尋ねしたいのは、
1.「エレヴァス」は、「エトヴァス」の誤植ではないかということ。
2.1.でなければ、吉本さんの誤用(いろいろと独自の用字法をされているから)ではないかということ。
3.1.でも2.でもなく、「エレヴァス」にはちゃんとした意味があるのだとすれば教えていただきたいということ。

文脈として大体意味がつかめるから、それでいいかなとも思いましたが、もやもやが残りそうでメールでの問い合わせをした次第です。おそらく多忙中にお手数かけますが、よろしくお願いします。
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