さっそく、P・クルーグマンの「さっさと不況を終わらせろ」を入手し、訳者解説を読んだ。本体はもちろんだが、山形浩生さんの解説も楽しみでね。日頃、自分とは違う考えの論者の主張も読むことを心がけているが、やっぱり、自分と同じ立場の論考を読む方がうれしい。各紙の財政再建至上主義に囲まれて、げんなりしているだけにね。
山形さんは、クルーグマンも考えを変えてきたと指摘するが、筆者も同感だ。「金融緩和でインフレ期待を高めるべし」と言っていたというくだりには、懐かしさを覚えた。金融緩和で期待を作るのは容易ではないから、当時は、何を言っているのかと思ったものだ。そのクルーグマンも、現実を踏まえて財政重視に修正してきたのは立派なものである。日本では、十年一日の「理論家」が多いから、特にそう思う。
ちなみに、本コラムは、財政運営についての論説が中心だが、別に金融緩和を軽視しているわけではない。それは当然の前提と考えている。ただ、日銀に金融緩和を求める論者は、世の中にたくさんいるので、重ねて批評したりしないだけである。それとは対照的に、財政運営については、基本的な実態把握さえできてない論者が多いので、ここで書いているわけである。
………
さて、考えを変えてきたクルーグマンだが、これからも変わると思うね。いま必要なのは財政出動だが、それを使ったとしても、長いながい戦いを余儀なくされるからだ。確かに、米国経済のゆっくりした回復は、財政出動の物足りなさもあろうが、そもそもバブル崩壊の傷とは、癒えるのに時間がかかるものなのである。経済運営の要諦は、いかに忍耐強く財政出動を続けるかにある。
日本を例に取れば、リーマンショックに際して、麻生政権が果敢に財政出動をしたまでは良かったが、十分に回復していない2010年度に、一気に10兆円の緊縮財政を敷き、年度後半に景気を失速させ、円高を招いている。また、2011年度は、大震災のショックがあったのに、復興増税に拘って財政出動を遅らせ、ゼロ成長にしてしまった。近頃、判明した復興予算の執行停滞や税収の8000億円もの上ブレを勘案すれば、事実上の緊縮財政をしていたようなものである。
思えば、2010年度には、無理せず、エコポイントなどの経過措置を取れば良かったのだし、2011年度は、阪神大震災のときと同様、復興と経済対策を迅速に打って、成長を確保することもできたはずだ。日本の財政運営は、急減を防ぐ措置も考慮せず、過去の成功例も無視するという稚拙なもので、まったく忍耐強さに欠けている。
米国の場合は、なんとか、ここまで漕ぎ着けたが、年末には「財政の崖」が待ち受ける。それをクリアできても、イライラするような鈍い回復が続くだろう。普段なら、金融緩和で景気を押し上げてくれる住宅投資は、バブルの後遺症で上向かないし、景気を支えている輸出は、欧州の自滅で景気減速が新興国に及んでいることもあって、予断を許さない。ひとり財政が景気を支える「孤独な戦い」を強いられるかもしれない。
不況期の財政出動は、単に需給ギャップを埋めるというものではない。安定した需要に導かれ、設備投資が出て来るのを待つ必要がある。バブル崩壊後は、企業の財務が痛んでいて、なかなか設備投資に結びつかないことも多いが、それでも、我慢して財政出動を続けなければならない。その上、米国は経常赤字国てあり、財政出動の継続には、金利や通貨の安定に難しい舵取りがいる。当然、雑音も大きいだろう。クルーグマンも、そこまで達観して財政出動を説く日が来るのだろうか。
………
こう言ってはなんだが、財政出動をしてヒーローにはなれない。1992年から1993年にかけて、当時の宮澤政権は、大規模な公共事業を打ったが、GDPの減少を押しとどめるのがやっとだった。それは、住宅投資が崩落し、大幅な円高にも見舞われて、ひとり財政が支える構図になったからである。これによって、1997年以降と異なり、家計の所得と消費は温存されたのだが、誰もありがたいと思わなかった。宮澤の奮闘は評価されるどころか、財政出動の無意味さの証拠にすらされている。
また、財政出動には「漏れ」の問題がついて回る。マンデルフレミング効果は有名だが、そこまで行かなくても、内需の目減りは避けがたい。最近では、太陽光発電の買い取り制度によって、中国産のパネルの輸入が急増しているように、経済政策に工夫がないと、せっかくの財政出動が海外に流れてしまう。生産力が弱い米国では、なおさら問題だろう。
加えて、中央政府が財政出動をする一方、地方政府が緊縮財政をしてしまうということも起こる。実際、今の米国の失業率の改善の遅さには、地方公務員の整理があるとされる。日本のバブル崩壊後も、1996年までは、地方政府がかなりの黒字を出していた。これは社会保障基金にも言えることである。こうした政府部門全体の調整が効かないチグハグな状況下で、財政出動を背負わねばならないのである。
筆者も古いので、バブル崩壊後の日本の対応を髄分と経験したし、デフレ脱出では、日本が何度も何度もチャンスに出会っているのに、それと同じ回数だけ失敗を重ねてきたのを見てきた。米国も、クルーグマンの思うようには行かないだろう。財政出動の貢献は、なかなか感じ取ってもらえず、家計と同一視する財政赤字へのナイーブな批判に、どうしても勝てない。願わくは、今度こそ復興の契機を活かし、最高の先達となりたいものである。
(今日の日経)
不動産の売買復調、金利低下で投信が取得。ユーロ95..39円。オリラン・4-6月期に営業最高益。東電値上げ企業は14.9%。復興増税なぜいま増額・大塚節雄。小粒な太陽光続々、中国勢攻勢。来年度の政策的経費は71兆円以下難題に、社会保障費の自然増だけで1兆円。低成長なら就業者850万人減。スペイン不安再燃。百貨店、都心で集中投資。コンビニ6月2.6%減。大樹・長期金利の二極化・山河。建設工事の請負費か一段高。
※金融緩和は、まず資産価格に来る。日銀も気になるだろうね。他方で円高ユーロ安だし。※復興予算の積み増しは、被災地の将来の公共投資を前倒すだけなので、長い目でみると財政負担は変わらないからだよ。※経費も増えるが、税収増はそれ以上だろう。※財政再建より若者就業だと思うが現実はね。※6月の家計消費が心配。
山形さんは、クルーグマンも考えを変えてきたと指摘するが、筆者も同感だ。「金融緩和でインフレ期待を高めるべし」と言っていたというくだりには、懐かしさを覚えた。金融緩和で期待を作るのは容易ではないから、当時は、何を言っているのかと思ったものだ。そのクルーグマンも、現実を踏まえて財政重視に修正してきたのは立派なものである。日本では、十年一日の「理論家」が多いから、特にそう思う。
ちなみに、本コラムは、財政運営についての論説が中心だが、別に金融緩和を軽視しているわけではない。それは当然の前提と考えている。ただ、日銀に金融緩和を求める論者は、世の中にたくさんいるので、重ねて批評したりしないだけである。それとは対照的に、財政運営については、基本的な実態把握さえできてない論者が多いので、ここで書いているわけである。
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さて、考えを変えてきたクルーグマンだが、これからも変わると思うね。いま必要なのは財政出動だが、それを使ったとしても、長いながい戦いを余儀なくされるからだ。確かに、米国経済のゆっくりした回復は、財政出動の物足りなさもあろうが、そもそもバブル崩壊の傷とは、癒えるのに時間がかかるものなのである。経済運営の要諦は、いかに忍耐強く財政出動を続けるかにある。
日本を例に取れば、リーマンショックに際して、麻生政権が果敢に財政出動をしたまでは良かったが、十分に回復していない2010年度に、一気に10兆円の緊縮財政を敷き、年度後半に景気を失速させ、円高を招いている。また、2011年度は、大震災のショックがあったのに、復興増税に拘って財政出動を遅らせ、ゼロ成長にしてしまった。近頃、判明した復興予算の執行停滞や税収の8000億円もの上ブレを勘案すれば、事実上の緊縮財政をしていたようなものである。
思えば、2010年度には、無理せず、エコポイントなどの経過措置を取れば良かったのだし、2011年度は、阪神大震災のときと同様、復興と経済対策を迅速に打って、成長を確保することもできたはずだ。日本の財政運営は、急減を防ぐ措置も考慮せず、過去の成功例も無視するという稚拙なもので、まったく忍耐強さに欠けている。
米国の場合は、なんとか、ここまで漕ぎ着けたが、年末には「財政の崖」が待ち受ける。それをクリアできても、イライラするような鈍い回復が続くだろう。普段なら、金融緩和で景気を押し上げてくれる住宅投資は、バブルの後遺症で上向かないし、景気を支えている輸出は、欧州の自滅で景気減速が新興国に及んでいることもあって、予断を許さない。ひとり財政が景気を支える「孤独な戦い」を強いられるかもしれない。
不況期の財政出動は、単に需給ギャップを埋めるというものではない。安定した需要に導かれ、設備投資が出て来るのを待つ必要がある。バブル崩壊後は、企業の財務が痛んでいて、なかなか設備投資に結びつかないことも多いが、それでも、我慢して財政出動を続けなければならない。その上、米国は経常赤字国てあり、財政出動の継続には、金利や通貨の安定に難しい舵取りがいる。当然、雑音も大きいだろう。クルーグマンも、そこまで達観して財政出動を説く日が来るのだろうか。
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こう言ってはなんだが、財政出動をしてヒーローにはなれない。1992年から1993年にかけて、当時の宮澤政権は、大規模な公共事業を打ったが、GDPの減少を押しとどめるのがやっとだった。それは、住宅投資が崩落し、大幅な円高にも見舞われて、ひとり財政が支える構図になったからである。これによって、1997年以降と異なり、家計の所得と消費は温存されたのだが、誰もありがたいと思わなかった。宮澤の奮闘は評価されるどころか、財政出動の無意味さの証拠にすらされている。
また、財政出動には「漏れ」の問題がついて回る。マンデルフレミング効果は有名だが、そこまで行かなくても、内需の目減りは避けがたい。最近では、太陽光発電の買い取り制度によって、中国産のパネルの輸入が急増しているように、経済政策に工夫がないと、せっかくの財政出動が海外に流れてしまう。生産力が弱い米国では、なおさら問題だろう。
加えて、中央政府が財政出動をする一方、地方政府が緊縮財政をしてしまうということも起こる。実際、今の米国の失業率の改善の遅さには、地方公務員の整理があるとされる。日本のバブル崩壊後も、1996年までは、地方政府がかなりの黒字を出していた。これは社会保障基金にも言えることである。こうした政府部門全体の調整が効かないチグハグな状況下で、財政出動を背負わねばならないのである。
筆者も古いので、バブル崩壊後の日本の対応を髄分と経験したし、デフレ脱出では、日本が何度も何度もチャンスに出会っているのに、それと同じ回数だけ失敗を重ねてきたのを見てきた。米国も、クルーグマンの思うようには行かないだろう。財政出動の貢献は、なかなか感じ取ってもらえず、家計と同一視する財政赤字へのナイーブな批判に、どうしても勝てない。願わくは、今度こそ復興の契機を活かし、最高の先達となりたいものである。
(今日の日経)
不動産の売買復調、金利低下で投信が取得。ユーロ95..39円。オリラン・4-6月期に営業最高益。東電値上げ企業は14.9%。復興増税なぜいま増額・大塚節雄。小粒な太陽光続々、中国勢攻勢。来年度の政策的経費は71兆円以下難題に、社会保障費の自然増だけで1兆円。低成長なら就業者850万人減。スペイン不安再燃。百貨店、都心で集中投資。コンビニ6月2.6%減。大樹・長期金利の二極化・山河。建設工事の請負費か一段高。
※金融緩和は、まず資産価格に来る。日銀も気になるだろうね。他方で円高ユーロ安だし。※復興予算の積み増しは、被災地の将来の公共投資を前倒すだけなので、長い目でみると財政負担は変わらないからだよ。※経費も増えるが、税収増はそれ以上だろう。※財政再建より若者就業だと思うが現実はね。※6月の家計消費が心配。
日銀は、リーマン・ショックの時も、他国が大幅に増刷したにもかかわらず、増刷拒否の姿勢を崩さず、さらなるデフレを招き日本は世界で一人負け状態になりました、最近では、3.11の後で、復興のための円需要が高まったにもかかわらず、増刷拒否の姿勢を崩さず、そのためさらなる急激な円高を招いていました。それに、最近1%のインフレ目処を打ち出しましたが、目標達成は平成14年度どあるとし、ことあるごとに、追加緩和措置など打ち切り、あいかわらず、増刷拒否の姿勢を崩しません。このようなことは、暗に中央銀行の役割りを果たさないと宣言しているようなものです。まるで外国の中央銀行の手先であるかのような、日銀。日銀の爆走は、何がなんでも阻止しなければなりません。白川征伐と、日銀征伐は、日本のデフレを克服するために、喫緊の課題です。詳細は、是非私のブログを御覧になってください。
こんにちは。マンデル・フレミング効果によれば、変動相場制で小国という条件ながら、財政政策はあまり効果がなく、むしろ金融政策のほうが効くとしています。
日本は、経済大国でありしかも、輸出がGDPに占める割合は、16%前後にすぎないことから、この効果がいつも成り立つというわけではありませんが、この効果が成り立つ局面もあります。やはり、財政政策と金融政策の両方が必要です。
クルーグマン氏のこの新著、もともとは氏のブログをまとめたものであり、いわゆる経済書ではありません。だからこそ、クルーグマン氏の信念が前面にうちだされていて、共感を覚えるものです。この書籍の主張は、きわめてシンプルなものです。5年目に突入した大不況は、失策を認めたくない人たちが複雑な構造的問題に見せかけているだけであり、脱出は驚くほど簡単であるという内容であり、 いま最も信頼できるノーベル賞経済学者が叩きつける最終処方箋ともいうべき内容です。「不況のときに緊縮財政するな。政府は財政赤字なんか気にせずに拡張的な雇用創出政策をやれ。中央銀行はそれを支援しろ」というものです。煎じ詰めれば、これだけです。この主張を補強するために、金融危機の前史から経緯をふりかえり、アメリカ、ユーロ圏、イギリスなどの現状を概観し、流動性の罠に関する不況の経済学をわかりやすく解説し、清算主義を批判しています。そうして、世界の歴史をひもとけば、欧米だけではなく、日本でも、クルーグマンの主張が正しいというより、常識であることが理解できます。この書籍、こうした常識を忘れた現代人に対する警鐘を鳴らすものであると思います。そう思うのは私だけでしょうか?詳細は是非私のブログを御覧になってください。