経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

若者が借金を返す相手

2012年07月23日 | 経済
 先日、ある国立大の若手の先生が「高齢者福祉は財政赤字で賄われ、その借金は若い世代が返さなければならない、こうした不公平を正すためにも消費税を」という旨のコメントしていた。まあ、そういう見方もできるとは思うが、経済学というのは総合性が大事でね、「それって、誰に返すの?」と聞きたくなってしまう。

 日本の家計貯蓄の大半は、高齢者が持っている。したがって、政府にお金を貸しているのは、銀行などが仲介しているとは言っても、突き詰めれば、高齢者である。つまり、今の日本は、大雑把に言うと、お金持ちの高齢者からお金を借り、年金や医療・介護サービスという形で、お金のない高齢者に渡している構図だ。

 もし、お金持ちの高齢者がお金を使うことなく亡くなって、政府に貸していた分の資産を相続税で回収できたとすると、財政赤字の問題は、それで終わりである。若い世代が返すという問題にはならない。これとは反対に、お金持ちの高齢者が、寿命の尽きるのを前にして、「合理的」に行動し、急にお金を使い出したとしたら、消費が増大して景気が良くなり、若い世代は仕事にありつけるようになるだろう。

 もちろん、あまりに消費が増えてインフレになるようなら、消費を冷やすには絶大な効果を有する消費税を上げれば良い。結局、今の日本というのは、資産が偏在し、消費が不足しているのだから、相続税などの資産課税を強化しておき、消費税は将来の物価上昇に備えておくだけで良いということになる。

 現実には、これと逆のことが行われている。贈与税を緩めてみたり、デフレ脱出も見通せない中で、一気に消費税を上げようしているわけだ。そういう価値観を否定するつもりはないが、少なくとも、今の経済状況には合っていないし、社会厚生も小さくしてしまうだろう。消費税を引き上げて景気を失速させれば、困るのは、就職に難渋する若い世代だろうと、筆者は思う。

 当たり前の話だが、経済運営は、その時々の状況に合わせなければならないし、負担の問題は、構造を良く理解し、将来の動きも見通しつつ、制度を整えなければならない。財政赤字は是か非か、世代間は「公平」かといった価値論だけに訴えて、判断を済ませられる問題ではないのである。

(今日の日経)
 金融ニッポン・市場に育つ成長の芽。電子部品の受注回復。環境税見直しを・経団連。韓国に漁獲抑制を要請、輸入未成魚97%。みずほ最終益7割増。米議会の細る中道派。セブンが弁当供給能力3割増。米IT国境越え節税。経済教室・技術変化は格差を縮める・小林慶一郎。

※復興のために緊縮ができなくなって経済は底を打った。そうなれば世界から金融屋が集まってくる。日本国債の相対的な安全度が上がったようだが、これも1-3月期の高成長のお陰。成長こそ財政破綻を遠ざける。あとは消費から生産と投資への波及を期待したい。

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リカード中立命題と消費税 (KitaAlps)
2012-07-23 11:03:01
>「ある国立大の若手の先生が「高齢者福祉は財政赤字で賄われ、その借金は若い世代が返さなければならない、こうした不公平を正すためにも消費税を」という旨のコメントしていた。
>「それって、誰に返すの?」」

 経済学的に言えば、この問題はコアなリカード公債中立命題で理解できますね。コアな中立命題とは、財政資金を得るのに、増税しても公債発行で調達しても経済に与える影響は変わらないというものです。

 国債を発行した場合、好況であれば、民間の資金需要も強いでしょうから、金利が上昇するでしょう。また、国債を買う人達は、消費の欲求を捨てて国債を買うわけです。ですから、国債を発行した時点の世代の社会は、国債による資金調達によっても、政府の資金調達の負の影響を受けるのです。別に後の世代に負担を転嫁しているわけではありません。その世代が負担するのです。

 この意味で、増税によろうが国債発行によろうが、最終的には、それが民間経済から資金を引き抜いていることには違いがないわけです。これが、コアな中立命題と考えます。公債発行や増税で得た資金を、政府がため込まず、再び投資や消費や福祉などで民間経済に全額吐き出してやれば、経済全体としては(資金の需給も)元に戻ります。

 では、何も効果がなかったかと言えば、福祉に使うのであれば、余裕資金を持っている家計から持たない家計に所得移転が行われて社会的な厚生は向上します。
 一方、不景気時の財政出動に使うのであれば、不景気で設備投資や商品の購入に使われていない資金(設備資金需要などがないことは金利が低下していることで明らかです)を政府が吸い上げて、政府が代わりに投資や消費を増やすことになり、それは景気を回復させます(「設備投資や商品の購入に使われていない資金」が発生したこと、存在そのものが需要不足の原因なのですから)。こうした政府の行動は経済的厚生を向上させます。

 マンデル=フレミング効果は、政府が資金を吸い上げることで、金利に上昇傾向が生じ、それが自国通貨高につながって輸出が減少し、財政出動の効果を相殺してしまうというものです。しかし、リーマンショック直後に各国が膨大な財政出動をしても金利が上昇しなかったことや、日本で毎年巨額の国債を発行しても低金利が続いていることなどで明らかなように、この効果は、今のような重い不況期には当てはまらず、好況期やせいぜい軽い景気変動下(こうした時には民間設備投資は比較的~かなり活発ですから民間の資金需要が強いため、政府の資金調達はそれと競合して金利に上昇傾向が生じ、マンデル=フレミング効果が発現するでしょう)でしか成立しないと考えます。

 しかし、そもそも、政府が公債発行で資金を吸収しても、政府はそれを直ちに消費なり投資して最終的には民間経済に戻しますから、資金調達が競合して金利が上昇するというのは一時的な話です。マンデル=フレミング効果の実証研究で、それが「実証された」というのは、単に景気がよくなったら設備投資意欲が上昇して金利が上昇した、という当たり前のことをなぞっただけのような気がします。・・・少なくとも公債発行に係わる部分については、モデルのメカニズムとは違ったメカニズムによる現象との偶然の一致に過ぎないような気もします。

 では、国債を償還する時点ではどうなるかということですが、増税によって償還財源を調達し、実際に償還しますと、税の負担者から国債の保有者にお金が移転することになります。それは同世代間のお金の移転に過ぎません。つまり、一国の経済全体で見れば、償還時期に該当する世代が、過去に行った国債による借り入れを負担してはいるわけではないのです。政治的には増税するという『負担』が発生しますが、その際に経済的にマイナスが生じると言う意味で負担が生ずるわけではないのです。政治的な不平不満が拡大し、大変だという程度の話です。

 実は、こうしたことが言えるのは、日本の国債が、ギリシャやスペインと違い、円で自国民に買われているからです。ギリシャやスペインのように、他国民が買っていると、借りた時点の世代は、外部から借りた金で贅沢し、返す時点では返す世代が、他国民に返すわけですから、まさに世代間負担の移転が生じます。

 もっとも、大きな問題として、リカードの公債中立命題で、増税と公債(国債)は等価だと言いましたが、一般に、公債の購入は、もっとも使い道のない金が充てられるのに対して、増税は、税の内容にもよりますが、使う予定の金にも賦課されますから、一定程度消費や設備投資に影響を与える問題があります。

 このための増税方法については、慎重に考えられなければなりません。経済に対する影響の観点から最も好ましいのは、資産課税です。消費税は景気に与える影響がほぼもっとも大きいという意味で最悪の選択というべきです。

 最後の問題としては、私は、主に景気対策としての財政出動に関心がありますから、比較的短期・中期を想定しているのですが、福祉となると、かなり長期を考える必要があります。
 ですから、長期的には、日本の経常収支が赤字に転落している可能性もあります(私は簡単には転落しないとは考えていますが)。そうしたことを考えると、「ある国立大の若手の先生」のおっしゃられることも意味のないことではないかもしれません。ただ、だから、消費税が必要だというのは疑問ですが。
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