経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

税収はどこへ消えた?

2014年01月26日 | 経済(主なもの)
 内閣府が作成する「中長期の経済財政に関する試算」は、日本の経済と財政を運営するに当たって指針となる重要な資料なのだが、実に奇妙なシロモノである。以前、本コラムで指摘したように、昨年8月の「試算」は、アベノミクスで景気が好調であるにもかかわらず、国の一般会計の2013年度の税収が前年度よりも低く設定されているものだった。

 これでは、素人でも一目で変だと分かる。推計は足元から将来へ伸ばすものだから、足元の数字が狂っていたら、信用できない。おそらく、「当初予算の数字を書くのがルール」といった経済推計の外の事情でこうなったのだろう。こんなことをすると、何のためのものなのか分からなくなってくる。

………
 そんな「試算」のニューバージョンが1/20に公表された。さすがに、昨年のようなことはなく、2013年度の税収は、前年度より2.2兆円多くなっている。ところが、3年後の2016年度の税収は、前回の「試算」と比較すると、0.1兆円しか増えていない。足元の発射台が高くなれば、将来も高くなるのが自然だが、どこへ消えたのだろう?

 理由は、いくつか考えられる。一つは、前回の「試算」より、若干、名目成長率の設定が低くなったことだ。しかし、0.1兆円程度に過ぎない。もう一つは、大規模な投資減税の決定だが、2014年度の税制改革大綱の減税額は0.6兆円だから、これでも説明がつかない。それで、いろいろ計算し、行き着いた結果は、「足元がどうあろうと、2016年度には税収が60兆円強となるよう「試算」がなされているらしい」ということである。 

 それは、こうすることで分かる。まず、2014~16年度の消費増税による国の増収分9.3兆円を各年度に配分し、4.5、2.6、2.2兆円と設定する。これを各年度の増収額から差し引くと、自然増収分が出てくる。これが0.7、2.7、3.0兆円である。この結果は、名目成長率の違いを踏まえても、明らかにバランスが悪い。2014年度が低すぎ、2015、16年度が高過ぎるのだ。

 おそらく、2014年度は予算案の低過ぎる数字を使ったがために、その反動で2015、16年がやけに高くなったと推察される。成長戦略の高めの成長率にあっては、数年のうちにリーマン前の高税収(消費増税抜きで51.0兆円)を取り戻すとするシナリオは正しいと思うが、それを後ろに皺寄せしたことで、歪みが生じてしまったのだろう。

 まあ、日本では、前回のような「穴」があっても、気にしないようなお国柄だから、こんなことを指摘するのは、本コラムくらいのものだろう。しかし、なかなかどうして、大きな意味がある。言うまでもないが、現実に即した税収の見積りをしなければ、まともな財政運営などできるはずがない。

 ちなみに、その後の2017~2023年度の税収については、その増加率は、3.0%から始まって、名目成長率の3.7%へと、徐々に高まる設定となっている。まったく素直で歪さはない。増収額で言うと、1.8兆円から2.6兆円へと滑らかに増える形である。余談になるが、新たに投資減税をし、第三の矢も放ったはずなのに、前回より成長率の設定が低下している。これは、効果のなさを認めたのであろうか。

………
 さて、「高税収を取り戻すことが織り込まれているなら、そこに至る過程はどうでも良く、足元の税収の見積りが低いと目くじらを立てるのは意味がない」のだろうか。そうではない。足元の税収が早く高まっていれば、消費増税を遅らせても、計画どおりに進められるから、経済状況を見て、増税を判断する余裕が生まれるからだ。いずれ上げることは避けられないが、時期を選べることのメリットは大きい。

 筆者の推計では、2013年度の税収は47.5兆円で「試算」より2.1兆円多い。2014年度は53.5兆円(+3.6)、2015年度が58.0兆円(+2.7)である。つまり、2015年度時点で消費税1%分の過剰達成となる。ならば、消費税を2%アップにとどめても、計画に変わりはなかったことになる。これなら、再建を金科玉条とする人とも議論が可能だろう。だからこそ、何がなんでも増税したい御当局は、認めたくないものであったに違いない。

 実は、自然増収を認めようとしない御当局の「試算」にも正しい側面がある。それは、一気の消費増税が景気の腰を折り、筆者が推計したような自然増収を無にしてしまう可能性が高いからだ。そうなっても、彼らは、予算に自然増収を入れていないから、「増税が却って税収を減らした」という批判を受けないで済む。自然増収を認めない理由には、こうした意味合いもある。

 もし、現実に即した税収見積りをして、消費増税を圧縮していれば、自然増収は、そのまま得られたことだろう。国民にすれば、少ない「痛み」で財政再建ができていたことになる。このことを良く認識し、いかに現実的な税収見積りが大切か、どれほど「経済財政における中長期試算」の検証が大切で、揺るがせにできないかを分かってほしいと思う。

(今日の日経)
 ビッグデータ共有し新商品。週明け株安・円高か、新興国通貨安に市場動揺。アルゼンチン市民生活に影、通貨下落が波及。マレー系優遇が華人と亀裂。読書・社会保障を立て直す、マリー・クヮント、現代アラブ社会、デモクラシーの生と死・モニタリングとそこにあるもの。

※やはりテーパリングは容易ではないね。

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