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経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済の長期停滞説を考える

2014年07月16日 | 経済
 3回にわたった経済教室の「長期停滞」シリーズだが、さすが岡崎哲二先生の論考は読ませるね。日米の過去100年の投資率と実質金利のグラフは、示唆に富むよ。掲載用に縮小した図では分かりにくいが、日本は今でも米国より投資率が高かったりする。それなのに米国より低成長なのは、なぜなのかな。

 長期停滞が疑問に思えるのは、「投資は金利に従ってなされる」、「金利は低いのに投資がなされないのはなぜか」というパラダイムによるものだ。筆者は、「設備投資は金利より需要リスクに強く影響される」という考え方なので、ある意味、疑問が生じない。本当の問題は、パラダイムに潜んでいるというのは、ままあることだ。

 もし、消費増税がなかったら、賃金増→消費増となっていて、人手不足と需要増の見通しが設備投資を強く刺激していただろう。それは企業を儲けさせることにもなる。これが更なる賃金増と消費増へと転がれば、長期停滞とはサヨナラだ。他方、金融緩和に消費増税を組み合わせると、投資は、実物や国内ではなく、資産だの海外だのに行ってしまう。

 そうなると、当然、物価は加速しないし、低金利も持続する。文脈は異なるのかもしれないが、岡崎先生の「消費増を軸に突破を」というのは、的を射ていると思う。そして、現実には、消費増「税」を軸にしているのだから、終わりの見えぬ長期停滞というコナンドラムは、エリートの首を捻らせつつ、庶民の首を絞め続けることになるだろう。

(今日の日経)
 水素ステーション100か所。レセプトにご当地ルール。建設費21年ぶり高騰。少子化で非常事態宣言。賃上げの波が中小にも、前年比1.1%、飲食1.8%。対中投資は上期半減。工作機械国内受注27.1%増。経済教室・長期停滞・岡崎哲二。子供の貧困率が最悪・国民生活基礎調査。

※21年ぶりでも2009年頃と大差ない。※中小はこんなもの。人手不足の飲食ですら。※貧困も非常事態。少子化も当然だよ。

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2 コメント

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長期停滞 (KitaAlps)
2014-07-16 10:17:11
>筆者は、「設備投資は金利より需要リスクに強く影響される」という考え方なので、ある意味、疑問が生じない。本当の問題は、パラダイムに潜んでいるというのは、ままあることだ。

 まったく、そのように思います。付け加えれば・・・

 軽微な不況など、均衡成長経路周辺の軽微な景気変動下では、「金利」は、設備投資に重要な影響を与えていると思います。しかし、現在のような重い不況下では、金利が重要性を失い、需要の見通しが大きな影響を持つ状況がありうるということだと思います。

 設備投資の決定要因としては、ざっくり、①投資による売上収入の増加見通しと、②コスト(設備投資コスト+運営コスト)の見通しの2つがあります。

 金利は、②のうちの、そのまた、ごく一部に係わるわけです。一方、①の売上収入の見込みは、需要の見通しに左右されます。これは企業毎に区々ですが、経済全体で合算すると経済全体の需要の伸びに一致するでしょう。

 そこで①の売上収入についてみると、軽微な景気変動下の比較的平穏な時期には、おおむね一定の需要の成長が見込まれますから、すべての企業を合算したマクロでは①はあまり問題になりません。
 一方、②のコストも企業毎の設備投資の内容によって様々ですが、合算したマクロでは個々の変動の方向性はほとんど相殺されるでしょう。こうした状況下で、金利という、すべての設備投資に共通するコスト要因が、すべての設備投資に共通して同じ方向の影響を与えます。金利を中央銀行が外生的に操作すると、それは、すべての設備投資に同一方向の影響を与えます。
 つまり、平穏な軽微な景気変動下では、金利がほぼ唯一、様々な設備投資の決定に共通して影響する要因になるわけです。だから、平穏な環境では、金融政策はよく効くでしょう。

 少し、言い直せば在庫変動等の軽微な不況では、短期(1、2年)の不況の後、需要は回復に向かうと考える企業がほとんどですから、回復後に向けて、(資金さえあれば)今のうちに設備投資しようと企業は考えるでしょう。
 つまり、中長期的に将来の需要が安定して伸びると予想される状況下(=軽微な景気変動下)では、需要の心配は、個々の事業単位ではあるにしても、マクロ的に平均すると、それほど問題ではない・・・したがって、設備投資のコストに共通して影響する金利引き下げなどの金融緩和政策は効くと考えられます。

 一方、重い不況が長期に続く状況下(=重不況下)では、第1に、需給ギャップがあり、設備の稼働率は低く、生産能力に余剰があります。需要が増加しても、生産余力がある状況では、直ちに設備投資を行う理由はありません。企業の判断は、まずは需要の増加で売上が上昇して、需給ギャップが解消する見込みが立ってから、設備投資を考えるということでしょう。設備投資が先行する理由はありません。需要(売上)増加が先です。

 第2に、長期の不況下で行ってきた合理化で、生産余力が低下している企業はどうでしょうか。
 将来の需要の伸びに対する確信が平均的に失われている状況下(=重不況下)では、すべての企業、業種の需要の伸びの将来見通しが平均的に(斉一的に)低くなっています。多くの企業は、現在の需要の伸びを前提に将来の需要増加を低く見積もります。
 ここで、金利以外にもう一つ、すべての企業に共通して影響を与える要因が出現しているわけです。これは上の①に係わります。

 そうした低い需要見通しに基づいた低い売上げ見通しは、設備投資資金の償還の原資となるべき売上収入(上記の①)の見込みを低くします。この結果、企業は、設備投資しても、投資費用を回収できないと考えて設備投資を抑制します。このような判断を行う企業が増加し、それはマクロ的な設備投資に影響を与えます。

 ここで、設備投資資金の回収が見込めないというレベルは、金利の高低で赤字か黒字かが決まるような水準ではないでしょう。こうした状況では、金利は設備投資の決定に当たってはゴミです。金利の影響などはふっとんでしまいます。

 だからこそ、ゼロ金利が実現すると思います。そもそも、金利引き下げが設備投資の刺激に十分な効果があるなら、名目金利がゼロになる前に設備投資が増加し、金利は反転しているはずで、ゼロ金利が実現するはずはないでしょう。

 現状は、日銀の資金循環統計をみても、本来は常に資金不足部門・・・家計の余剰資金を借りて設備投資を行う・・であるべき企業部門が、資金余剰となり、内部留保を積み増ししている異常な状態です。

 ・・・このように、現代マクロ経済学は、平穏な時期しか扱えないモデルで、重い不況下の現状を無理に解釈しようとしていると考えます。平穏で軽微な景気変動下と、重い不況が中長期に続く状況(重不況)では、異なるメカニズムが支配していると考えます。まさにパラダイムの転換(といっても、それは連続的に理解することが可能だと考えます)が必要だと考えています。

(拙著『日本国債のパラドックスと財政出動の経済学』(2013)と『重不況の経済学』(2010) は、以上の観点のものです。)
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「長期停滞」コメの文字化け (KitaAlps)
2014-07-16 10:21:36
コメントが一部文字化けしました。

&#9312  ・・・(1)

&#9313  ・・・(2)

と読み替えていただければ幸いです。
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