『ダークフォース』(DF)とか、 あとは読み物、落書き、日記などのブログ。

DFなどのブログを始めてみました。

小説というより、かなりテキスト寄りです。
更新遅めですが、よろしくです。^^

ダークフォース 第二章 IX

2009年09月29日 15時51分41秒 | ダークフォース 第二章 後編
   Ⅸ

 謁見の間の正面の、その扉が開かれる。
 内側から掛けられていたアダマンタイト鋼の分厚い閂(かんぬき)はまるで小枝でも折るかのようにバキッと折れた。
 ズシンと、重厚な音を立てて崩れ落ちた、真っ二つの閂。
 徐に謁見の間へと入ってきた、その肩にかかる銀髪に銀光の瞳を持つ男は、手も触れずに扉を閉じると、白いドレスにその身を包んだエリクに向かい、こう言った。
「お初にお目にかかる、エリク姫。我が名は、セバリオス。貴女を神界フォーリナへとお連れ致そう」
 セバリオスと名乗ったその男は、エリクのその純白のドレス姿の麗しさに関心してか、こう続ける。
「このセバリオスを迎えるのに、このような場所を選んでくれたことを、姫に感謝する。素晴らしい仕立てのドレスも、姫のその姿をより一層高貴なものに見せてくれる。さすがに美しい、レムローズの薔薇姫よ」
 エリクは二人の兄とハイゼンの方を怯えるような瞳で見つめた。
 セバリオスには、エリク以外には眼中に無いようで、他の三人が剣を構えているにも関わらず、それをまるで意に介す事も無く、エリクのいる場所へと繋がる赤く一直線に伸びた絨毯の上を、ゆっくりと歩いていた。
 カルサスは言う。
「エリク、後ろに下がっていろ。ハイゼン候、エリクの事を宜しく頼む!!」
「承知!」
 そう言うとハイゼンはエリクの手を引き、この広間の奥の方にある、身を隠すにはちょうど良い窪みへとエリクを導いた。
 と、同時にローヴェントが何かのスイッチを入れると、この広間へと繋がる扉が、次々と青銅色の隔壁によって閉ざされていった。
 セバリオスは言う。
「これは、何の趣向かな?」と。
 ローヴェントとカルサスは、このレムローズ王宮内にあって、最高の強度を誇る外壁に覆われた、この広間を決戦場に選んだ。
 華美な装飾は後に施されたものであり、元々ここは、古代文明の超硬度の外壁で一面を覆われた、いわば逃げることも出来ない古の時代の闘技場のようなものである。ドーラベルンの地下深くにある、あの闘技場をやや小さくした感じだ。
 二人の王子たちは、ここでセバリオスを取り逃がすわけにはいかなかった。
 エリクには悪いが、二人はエリクを、セバリオスをここへ誘き寄せる餌として使い、セバリオスをこの鋼鉄のかごの中へと閉じ込めた。
 未知数の強さを誇るセバリオスに対して、エリクを守り抜くには、彼を自由にさせるわけにはいかなかった。
 戦う場所を選ばせては、三人とも各々に倒され、あっという間に幕切れとなる。
 単身で戦うことなど不可能な相手だからこそ、このような小細工も必要であった。
 ハイゼンの戦士レベルは87、ローヴェントは92、カルサスは94にも至る。
 およそ、この地上で組める最強の編成で、セバリオスに対するわけだが、戦士としての極みにあるレベル100のセバリオスに対しては、当たってみるまで分からないというのが、彼等の本音であった。
 ここに、かの剣王バルマードを加えれば、三人は勝利に確信を持てたかも知れないが。仮想敵国の王である彼の協力など、今の彼等には望めるべくもなかった。
 セバリオスは、薄ら笑うように彼らに言う。
「フフフッ・・・、僅か戦士三人で、この身に挑もうというのか。さて、我が名も四千年もの永い時を経ると、こうも侮られるものか」
 セバリオスは、ローヴェントとカルサスに挟まれるような位置に立っているが、一向に戦うような素振りも見せず、その背中にある長剣を抜こうとさえしない。
 ローヴェントとカルサスの二人は、セバリオスがこちらを侮っている間に、まずは一撃入れて、彼との実力差を図りたかった。
 不意打ちで勝てる相手でないことくらい、彼のその威圧的なまでの存在感が簡単に示してくれる。
 次の瞬間、二人の王子の姿が消える!!!

  カァァァァーーーンッ!!

 二人の息の合った同時攻撃も、セバリオスにはまるで通じていない。
 セバリオスは何もしていない。
 自身の周りに防御の壁を広げるでもなく、ただじっとその攻撃を受けた。
 圧倒的な実力差を知らしめれば、王子たちにも、抵抗がいかに無駄であるかを示せるからだ。
 確かに二人の王子たちは、すぐさま体勢を立て直すと、その驚異的とも言えるセバリオスの力に圧倒させられた。
 それは想定以上の実力差だったと言っていい。ローヴェントもカルサスも、その手に握る剣先が微かに震える。
 セバリオスはその王子たちを銀色の瞳で見ると、涼しい顔をしてこう言った。
「抵抗は無意味だ。地上で幾ら勇猛を誇ろうが、それは閉ざされた場所での事しかない。確かにその実力は認めるが、完成された強さとは程遠い。この私と対等に戦える者が在るとするならば、それはファールスの魔王・ディナスをおいて他にないだろう」
 刹那、セバリオスの背後から、ハイゼンが現れる!!

  シュンッ!!

 ハイゼンの一撃がセバリオスの肩口に、一線の傷を付けた。
 セバリオスが彼の方を振り返ると、ハイゼンはセバリオスにこう言う。
「我は、レムローズ王国のハイゼンと申す!! 神界の主であられるセバリオス神には、取るに足らぬ一戦士でありましょうが」
「フハハハハッ、さすがに若い王子たちより戦い慣れているな。瞬時に剣気の流れを読み、この私に傷を負わせるとは、見事な事よ」
 ハイゼンはエリクを安全な場所に移すと、素早く戻ってその一撃を加えた。
 エリクを守る盾の役目も大事であったが、二人の王子が倒れては、結果として彼女を守りきれない。
 ハイゼンが、続けて二撃、三撃とセバリオスに斬りかかると、ローヴェントとカルサスは、剣気を練るのに十分な時間を彼から貰った。
 ローヴェントはその剣・アイスソードに十分な剣気を宿らせ、奥義を発動する!!
「凍結剣・絶対零度ッ!!」
 ハイゼンに足止めされたセバリオスに、マイナス273度の凍て付く凍気が襲い掛かる!!
 その絶対零度とクロスするように、カルサスのファイヤーソードに蓄えられた爆炎が、一気に放たれた!
「火炎剣・烈波導ッ!!」

  ドゴォォォーーーーーンッ!!!

 と、激しい地響きをさせて、二人の渾身の奥義が炸裂した!!
 ハイゼンも、二人の王子も、瞬時に間合いを取り直して剣を構える。
 この程度の攻撃が、あれほどの圧倒的力量差を感じさせたセバリオスに通じるハズはない。
 セバリオスとの差を埋めるには、何度となく波状攻撃を仕掛ける必要がある。
 ハイゼンの戦闘経験があれば、二人の王子もそれが可能ではないかと思わせた。
 王子たちの攻撃で、広間の外壁の一部が剥き出しになり、辺りには金銀様々な装飾の破片が粉のように舞っている。
 エリクが身を隠した場所は、青銅色をした石壁の装甲に守られており、彼女が自ら表に出ない限りそれらの被害を被る事はない。
 セバリオスがその塵を一気に振り払うと、彼のその右手には長剣が握られていた。
 彼のその長剣は、名を『神剣・ラグナロク』という。
「なかなか良い動きをする。さすがに、この私に挑むという大言を吐くだけの事はある。なるほど、二人の王子たちはハイゼンという、良い師に恵まれたようだな。三人の勇士たちに応えるよう、私も剣を取ろう。フフッ・・・、フェルツ辺りに姫のことを頼んでいたら、返り討ちにあっていたかも知れぬな」
 セバリオスが神剣・ラグナロクを握ると、ついにその実力が顕わになる。
 凄まじい剣気、恐るべきオーラ。
 三人は、そのセバリオスの超越した力の壁の前に、身体ごと押し潰されそうになる。
 また、その足は重い鉄球でも括り付けられたかのように、酷く鈍くなるのを感じた。
 三人が、『マスタークラス』格にある戦士と戦うのはこれが初めての事になる。
 先んじて、剣王バルマードと一戦交えていれば、これほどに強烈な力の差を痛感せずにすんだのかも知れない。
 セバリオスは、対する三人すらも己の力の源の対象としてそれを吸収し、絶対的なライトフォースの錬気を神剣・ラグナロクへと集中させていく。
 戦士としての技量は、いかに周囲に存在する質量、エネルギーを己のものに出来るかで大抵は決まる。まして、セバリオスはマスタークラス中最強の戦士と言ってもいい。
 同じ、マスタークラスのバルマードなら、ハイゼンや二人の王子たちのように、自らの力まで奪われるようなことはなかっただろう。
 三人が感じているその感覚は、紛れも無くセバリオスの吸収(ドレイン)を受けているせいなのだが、それにより、本来の差以上の力量差をセバリオスに付けられてしまう。
 時間をかければかけるほど、その差を広げられてしまうと瞬時に感じたハイゼンは、セバリオスの集中を止めるべく、わざと彼の前に飛び出した!!
「神と一太刀交えられるなら、武人として思い残すこともない。まして、神界一のセバリオス神ならば!!」
 ハイゼンは、セバリオスの攻撃を交わす気などない!
 自らの持てる力の全てを、攻撃と速度に回し、決死の覚悟でセバリオスの懐に飛び込むッ!!
「我が奥義、御覧あれ! 苛烈剣・烈火ッ!!」
 撃ち出されたハイゼンの高速の一撃は、赤い一閃となって神剣・ラグナロクに叩きつけられる!!

  カアァァァーーーーンッ!!!

 セバリオスの前を、二つに割れた烈火の赤が過ぎ去る!

  ドスンッ!!

 と同時に壁際まで弾き飛ばされたハイゼンの姿があった。
 ハイゼンの身体は、壁に酷く打ち付けられ、その甲冑の隙間からは鮮血が流れ出す。
 ぐったりと壁を背に倒れこむハイゼン。
 遠目から、彼の生死を窺い知る事は出来なかったが、口元から垂れ落ちる赤い雫が、床を滲ませた円をじわじわと大きくする。
 エリクはその光景に、言葉を失う。
 恩師であるハイゼンが目の前で倒れ、兄たちはそれに振り返ることなく、強大な敵を相手に剣を構える。
 エリクは自分を守る為に、大切なものが失われていく、壊されていくその瞬間に、耐えられずにその身を震わせた。
 エリクがハイゼンの元へ駆け寄ろうと、その身を乗り出そうとすると、それに気付いたローヴェントは右手を突き出してそれを制止し、エリクの方に微笑んで見せた。
 カルサスもローヴェントと気持ちは同じで、師であるハイゼンがその身をかけて作り出したセバリオスの隙を、無駄になどすることは出来ない。
 セバリオスの錬気がハイゼンの捨て身の一撃で、不十分になったのを、二人の王子は軽くなったその身体で感じ取ることが出来た。
 攻撃するには、今をおいて他に無い!!
 ローヴェントもカルサスも、その一撃に全てを賭けて、この日の為に編み出した奥義を、セバリオスに向けて繰り出す!!
 その奥義の名は『グランドクロス』。
 ローヴェントもカルサスも、その全身全霊の凍結剣と火炎剣を放ち、その攻撃をセバリオスを軸にして融合させる!!
 その威力は先ほど放った奥義の比などではない。
 爆縮するグランドクロスは、小太陽をこの空間に生み出し、セバリオスを核熱の渦へと叩き込む!!
 核熱をカルサスが増大させ、ローヴェントの緻密な計算で撃ち出される凍結剣がその外殻となり、より高温の核融合を可能にした。
 凍結剣の外殻は恐ろしいほどのスピードで融解、再構成を繰り返しており、その分厚い氷壁によって、周囲はほぼ無音状態にある。
 
  シャリーーーーンッ!!
 
 という音と共に、球体となった凍結剣が砕け散る。
 ダイヤモンドダストのように凍気の結晶が舞い散る中、二人の兄、ローヴェントとカルサスの姿を、エリクは見つけた。
 何が起こったのかのか、エリクにはわからない。
 わからないが、二人の兄たちは、そこにちゃんと立っている。
 疲れた顔をごまかすように、二人の兄たちがエリクに向かって微笑むと、エリクは堪らずその場所を飛び出し、兄たちの元へと駆け寄った。
 その次の瞬間!!

  ザシュッ!! ザシュッ!!!

 セバリオスの長剣ラグナロクが、二人の兄たちの身体を貫く。
 二人の兄は膝を折るようにして、ゆっくりとその場に倒れた。
「さて、後はエリク姫を頂いて、フォーリナへと戻るとしよう」
 そう言ったセバリオスは、腕や足などに多少の傷を負ってはいたが、それはかすり傷程度の事でしかない。結局、渾身の奥義もセバリオスにはダメージを出せなかった。
 逆に、二人の兄たちは致命的な一撃を受けており、もはや助ける術も無い。
 エリクが二人の身体をその両手で抱き寄せると、その白いドレスは二人の血の色で、朱く染められていく。
 エリクはどうしてやることも出来なかった。
 次第に白いドレスは、吸血でもするかのようにその生地を深い赤色で染めて、血の版図を広げていく。
 ローヴェントはエリクの膝にその美しい黒髪を乗せると、エリクを見上げてこう言った。
「まもれなくて・・・ごめん・・・。生きて、エリク・・・」
「ローヴェント兄様、しっかりして下さい!! 約束はどうなるんですかッ!」
 カルサスは最後の力を振り絞って、エリクの肩に手を乗せると、笑いながらこう言った。
「約束って・・・なんだよ。・・楽しいことなら、・・オレもまぜて・・くれよな・・」
 エリクは二人の兄の身体を必死に抱きしめる。
 止めどなく流れ落ちる涙。
 エリクの温かい体温に、二人の兄たちは安らいだ表情を見せる。
 もう、目は見えていないようだ。
 二人が何かを、言葉にしようとしている。
 エリクは耳を傾け、その微かな声を拾おうとする。
 とても小さな声だったが、二人が口にした言葉は同じものだった。

 「ありがとう」
       ・・・と。

 二人の心音が止まるのをエリクは感じた。
 この時、エリクの中で世界の全てが終わったように思えた。
 もう、あの場所へは戻れない。
 二人の兄たちとハイゼン候と、どんなに寒い雪の日でも、一緒にいれば温かかったあの小さな楽園。
 二人の兄たちが大事にしていた毛糸の手袋も、今ならもっと上手に仕上げられた。
 力尽きた二人の兄たちのそれぞれの懐に、大事にしまわれたその手袋を見つけた時、
 エリクは人を愛することの意味を理解した。
 この身などどうなろうと構わない、かけがいのない人たちを救うことが出来るのならば。
 エリクは二人の兄たちを救いたいと願った。
 だが、過去を変えることは、二人の兄を救うことは、もう出来ない。
 エリクは瞳を閉じて、沈黙する。
 自分がいなければ、ハイゼン候や兄たちを巻き込むこともなかった。
 彼らの優しさを想えば想うほど、それは痛く胸に突き刺さった。
 ありがとう、を言わなければならなかったのは、むしろ自分の方だった。
 だから、今からでも言おうと思う。
 そう、
 「ありがとう」、と。
 
 エリクが再びその目を開いたとき、赤いはずの瞳の色が変わっていた。
 それは、白い。
 全ての色の光を混ぜたような、そんな白い瞳。
 エリクが無表情に立ち上がると、その艶やかな赤い髪さえ、白く染まっていった。
 エリクがその顔を上げた時、それは以前のエリクとは別人であった。
 二人の兄たちの身体は、眩いばかりの白い光に包まれて、その光の中に消えていった。
 残された二人の剣、アイスソードとファイヤーソードをエリクは手にする。
 その光景にセバリオスは、銀色の瞳を大きく見開いた。
 息を呑んでエリクを見つめるセバリオスの方を、エリクは冷淡なその白い瞳で見つめ返す。
 と、同時に、強大な力がエリクを中心に溢れ出て来る!!
 力は、エリクの身体を軸に収束を始め、やがてエリクの背中に二枚の翼のような光を形成するに至る。
 エリクは覚醒する。
 
  その名を、『戦天使』という。
 
 それはかつて、この地上にもたらされた、たった一つの希望と呼ばれた。
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ダークフォース 第二章 X

2009年09月29日 15時48分48秒 | ダークフォース 第二章 後編
   Ⅹ

 戦天使化した白い姿のエリクは、この空間に立つ一人の男の姿を、ただ、じっと見ている。
 それはセバリオスを見ているというより、何か動く物体に反応したような感じだ。
 血塗られたドレスに身を包み、その眩き白に染まった長く美しい髪をなびかせるエリク。
 背中の二枚の光の翼は、周囲のライトフォースをひたすらに吸い上げるように輝き、エリクの姿をより神々しく照らした。
 セバリオスは、神剣・ラグナロクを構え、エリクの動きに備える。
 戦天使化したエリクの戦士レベルは推定95。
 セバリオスには、遠く及ばない。
 しかし、セバリオスの本能が己に危機を告げる。
 今まで、構えすら見せなかったセバリオスが、両手にその長剣を握り締め、身構えているのが何よりの証拠だった。
 エリクは歩くようにゆったりとした感じで、セバリオスの方に近寄ると、左手に握られたファイヤーソードを叩き付けるように振るった。

  キィィィィーーーン!!

 高い金属音が鳴り響く!
 セバリオスはそれを難なく受け流すが、その剣はとても重い。
「この直撃を受けたら、私もただではすまぬ、な」
 刹那、二撃目が右手のアイスソードから振り下ろされると、セバリオスはそれを素早く後ろへとかわす。
 空を切るというより、空間そのものを引きちぎるような勢いで振るわれたアイスソード。
 セバリオスはその身を翻すと、エリクにラグナロクの一撃を繰り出す!!

  カァァァァーーーン!!

 たやすく弾かれるラグナロク!
 その剣はエリクに触れるどころか、かなり手前で弾かれた。
 エリクの周りに集まるエネルギーの帯が全身を覆う盾となり、まるで見えない羽衣となってセバリオスの攻撃を受けつけない。
「これが、話に聞く戦天使能力か。確かにその防御は鉄壁だが、この私を前に、絶対であれるかな」
 セバリオスは再度、ラグナロクを構えなおす。
 エリクは、セバリオスの言葉にまるで無関心な素振りで、動くものを叩きつけるという行為を、ただ本能的に行っていた。
 意思や感情など何もない。エリクの秘められしその能力が、エリク自身の自我を守る為、彼女の想いを檻の中へと閉じ込め、敵とみなす者を駆逐する。
 戦天使としての能力が、エリク自身の心と身体を守りながら戦っているのにセバリオスが気付いた時、彼はその勝利を確信する。
「フフッ、なるほど・・・」
 何故ならば、それは本来の戦天使の戦い方ではないからだ。
 本来、戦天使は、複数の戦士をその翼の支配下に置き、完全防御の加護を戦士たちに付与する事で、戦士たちを強力な剣(つるぎ)と変えて戦う、その指揮者である。
 戦天使能力を受けた戦士は、爆発的攻撃力を発揮し、その命を戦天使の下に委ねる。
 かつて、その組み合わせにおいて最強と呼ばれ、異界の神々をも圧倒し、畏怖せしめた剣皇グランハルト=トレイメアスと戦天使オーユの事を、セバリオスは知り得ていたからこそ、その戦天使能力の下に戦士を持たぬエリクに、その能力の限界を見た。
 確かにエリクのその戦天使の防御力は、鉄壁である。が、それは目覚めたばかりで、完全とは言えない。
 しかも、その剣となる戦士すら持たず、エリクは、二人の兄たちの残した剣をその手にするのみである。
 セバリオスは、神剣・ラグナロクによる連続攻撃をエリクへと浴びせかけた。
 ラグナロクの刀身は2メートルを越える長物で、高速に振るうには向いてはいないが、それでもセバリオスの攻撃は目にも留まらぬ速さである。

  カンッ! カンッ!! キーンッ!!

  カンッ!! キィィィーーンッ!!!

 エリクは両手に構えた兄たちの剣で、セバリオスに応戦する。
 反射的にラグナロクの攻撃を弾き返しているが、時折混ぜられる不規則な動きには対応しきれず、それらの直撃は受けていた。
 エリクに疲れた感じや、ダメージを受けた様子などは見受けられないが、セバリオスに押されている感は否めなかった。
 実力は、圧倒してセバリオスが上である。
 それをエリクは、覚醒したての戦天使能力で、どうにか互角に持ち込んでいた。
「フフフッ、どうしたかな、エリク姫。さっさと敗北を認め、私のものにならないか? 出来れば無傷で手に入れたい。麗しき、レムローズの薔薇姫よ」
 そんなセバリオスの挑発めいた不敵な笑みも、エリクはまるでそれを無視でもするかのように、顔色一つ変えようとはしない。
 実際、聞こえていないのだ。
 戦天使としての能力が、彼女の想いを守る為に、外界の情報を一切シャットアウトしている。

 心の檻に幽閉された赤い髪のエリクは、そこで二人の兄たちの姿を見た。

 ぼんやりとした光の中で、二人の兄たちは輝く光の羽の舞い散る場所で、深い眠りについているのが見える。
 その安楽の姿、優しい寝顔。
 エリクが二人に幾ら呼びかけても返事がない。
 光の明暗がハッキリしないそんな檻の中で、エリクはただ、がむしゃらにその壁を叩いては、二人の兄の名を叫ぶ!!
「お願い、気付いて、ローヴェント兄様!! カルサス兄様!!」
 エリクの叫びは止まらない。
 何度も、何度も二人の名前を繰り返し叫んだ。
 そうしている内に、エリクの方へと暗闇の中から人影が歩み寄って来る。
 エリクはその人物の姿に、まるで鏡でも現れたのかと驚く。
 その影は、白い髪と瞳を持つ、戦天使化したエリクのものだった。
 戦天使である彼女は言う。優しい微笑みを浮かべて。
「今、特別な力であなた愛する人たちの傷を治しているの。だから、静かに彼らを寝かせておいてあげて」
「お兄様たちは生きているの!?」
 赤毛のエリクのその問いに、戦天使は一瞬、口を閉ざした。
 そして、彼女にこう返す。
「わからない、・・・ただ、あなたが望んだから、私は二人を救いたいと思った。・・・でなければ、大切なものさえ守れないなら、この背中の翼には、何の意味もないのだから」
 白い髪をしたエリクは、その戦天使能力で、消え去り行く二人の兄の命を繋ぎ止めるという、膨大な力を内に消費しながらも、セバリオスと対峙し、赤い髪の少女の、その大切な想いを守ろうとしていた。
 戦天使は言う。
「私を、信じて」
 そう言って、白き姿の戦天使が、エリクの赤い髪を優しく撫でると、卒倒するように赤毛の少女は意識を失った。
「おやすみなさい、私の存在の四分の三である、愛しい赤い髪の乙女。あなたの四分の一を構成する私が、『大いなるモノ』のその意思の分体であるこの私が、必ずあなたを守ってみせるから」
 戦天使は途中、意味不明な言葉を残し、セバリオスとの戦いへと戻っていった。

 セバリオスと戦う、白き姿の戦天使。
 もう一人のエリクである白い髪の彼女は、どれほど不利な立場に立たされようが、怯むことなくセバリオスとの戦いを続けていた。
 眉一つ動かさない、冷淡な表情の彼女。
 実は動かさないのではなく、動かせないのだ。
 己の心を、その想いの力を、二人の兄たちを包む光の翼と変え、必死に二人の命を繋ぎ止める彼女に、表面の自分を制御出来る余力などない。
 生まれ持った戦闘本能にセバリオスとの戦いを任せる彼女だが、セバリオスの思惑通り、最大の戦天使能力である、剣となる戦士をその支配下に彼女が持たぬのは、この最強の敵を前にして、何よりも致命的であった。
 全力で当たったとしても勝つことが難しい、この世の神であるセバリオス。
 彼と対するに、まして幾つもの重荷をかせられた状態の彼女では、時の経過と共に敗北という二文字が迫るのを待つのは、もはや必至である。
 セバリオスは言う。
「そろそろ、その羽衣にて我が剣を受け続けるも限界であろう。私とて、大切な我が戦天使に、奥義など用いて、要らぬ傷など付けたくはない。・・・私は、二度も待ったのだ。ようやく見つけた、戦天使としての適正因子を持ったレイラ姫は、先王に逃がされ、開花せぬまま散らせてしまった。そして、今度は難なく手に入る予定だったエリク姫も、余計な邪魔が入り、しかも姫自らの抵抗を受けるとは」
 戦天使エリクはその言葉に耳を貸そうとはせず、セバリオスへの攻撃の手を休めない。
 セバリオスは易々とその攻撃を交わすと、さらにこう続けた。
「こんな事ならば、姫が生まれた時点でフォーリナへと連れ去るべきであったな。ジラが開花する時を待てなどと言うから、それを受け入れたが、それがこのザマだ。王子たちは、薔薇の毒気にあてられ、父王の言葉を無視して我が天使を奪おうとする始末だ。・・・邪魔者は片付けたが、さて、どうやってこの姫の抵抗を鎮めるべきか」
 セバリオスの心無い言葉が、内に眠らされた赤毛のエリクの耳には、届いたような気がした。
 眠りについていたとしても、自分の名を呼ばれればそれが聞こえる。そんな感じだ。
 セバリオスは、白い髪を振り乱し二つの剣を振り回すエリクと、一度間合いを取りなおすと、ラグナロクへの剣気を高める!!
「・・・やはり、手荒い仕置きが必要だな。未熟とはいえ、戦天使の防御はさすがに堅い。諦める気がないならば、その気ごと根こそぎ奪ってくれよう!! 安心するがいい、二人の愚かな兄どものように、床に這い蹲って死に逝くことはない。多少、後の残る傷を付けてしまうことになるが、それもまた我へのよき忠誠の刻印となるであろう!!」
 神剣・ラグナロクへと収束される剣気の量は膨大で、そのあまりに美しい煌めきがセバリオスの実力を誇示するかのようである。
 精錬されたライトフォースの波動がラグナロクの刀身全体を覆い、それはとても神々しい光を放ち始め、その威力たるや計り知れない。
 セバリオスは、その光の柱となった長い剣を振り上げる。
 天高く突き出されたこのラグナロクの構えこそ、セバリオスの奥義の構え。
 ラグナロクを中心にプラズマが発生し、電光はセバリオスの身体を覆うように巡っている。その電圧は十億ボルトに達し、まさに天から振り下ろされようとする裁きの雷(イカヅチ)のようだ。
 この雷光を帯びた一撃を浴びれば、例えその防御が強大な戦天使とはいえ、エリクの身はただで済むはずもない。
 しかもこれは、このセバリオスにとっては、特に大した事もない奥義の一つであった。セバリオスはさらにこれよりも三段階高いレベルの奥義まで備えている。
 だが、不十分な戦天使能力しか発揮していない今のエリクでは、その余力を残したセバリオスの一撃をかわすスピードも、耐え抜く力もない。
 対照的にセバリオスは、実に余裕の表情である。
 彼の本能がその危険を告げた、このエリクの戦天使能力が自身の予想よりも遥かに下であったからだ。
 もし、覚醒後、戦天使セリカほどの実力をエリクに出されていたならば、セバリオスは、彼の従神であるジラやフェルツを緊急に召喚する必要に迫られただろう。完全にその戦天使能力を制御し、そのレベルが限界値である100に達する、エグラート世界の守護天使・セリカとは違い、エリクのレベルはせいぜい95。
 そのレベルでは、これが限界なのかとセバリオスを安心させた。
 と同時に、それは彼をガッカリもさせた。
 実は、その能力が真に発揮されていない事を、セバリオス自身、知り得てはいない。
 セバリオスは右腕一本で十分といった感じで、奥義を放つ体勢に入る。
「我が神剣の雷、その身に受けるがよい!! ・・・やれやれ、これでフォーリナへと戻ることが出来る、な」
 凄まじい剣気を弾けさせながら、セバリオスがその奥義の一つである「神剣・ラグナロク、第二の剣『銀雷』」をエリクに向けて振り下ろしたッ!!!
 白き雷光が、稲妻となってエリクに襲いかかる!!

  ガガガァァーーーーーンッ!!!

 激しい音を立てて落雷するセバリオスの銀雷!!
 それは、周囲を木っ端微塵に吹き飛ばし、爆煙を巻き上げる!!
 その中に、床へと倒れ込む白い髪のエリクの姿があった。
 血で染められた白いドレスも、至る所が破け散っており、銀雷の直撃を受けたというのが容易に見て取れた。
 セバリオスは、未だ戦天使状態にあるエリクを抱きかかえようと彼女の方に近付く。
 直撃を受けてもなお、その白く美しい姿を維持させているエリク。
 それには、セバリオスも少しだけ関心させられた。なんという守りの力と、気高さよ、と。
 すると、エリクはその表情を変えぬまま、その白い瞳でセバリオスの方を見上げると、初めて、この戦天使の姿で口を開いた。
「駄目・・・それでは、彼女が悲しむわ」
 セバリオスには、その言葉の意味が分からなかった。
 エリクは、例えその身が地面に這い蹲ろうと、二人の兄の剣を強く握って離さないでいた。
「私は約束した、彼女を守って見せると。それに矛盾を抱えているのは承知している」
 長兄であるローヴェントの剣・アイスソードから、一瞬、思念波が発せられたのに、セバリオスは気付いた。
「私たちの想いは一つ、・・・違うか?」
 次いで、次兄カルサスの剣・ファイヤーソードからも、同じような思念波が発せられる。
「その通りだ、あんたも兄貴もオレも守りたいものは変わらない。なあに、エリクに悟られなければいいだけの事さ」
 アイスソードの思念波も、同意して言う。
「心優しい妹を、うまく誤魔化してくれよ、戦天使。その辺は、任せるしかないのでな」
 エリクはセバリオスを前に徐に立ち上がると、その白い瞳に、とても強い意志の光を宿して、二振りの剣にこう応えた。
「承知した」、と。
 その言葉と同時にエリクの手を離れた、アイスソードとファイヤーソードが、中空に静止して、次の言葉を待つ。
「我、戦天使エリクは、二名の戦士と契約する。我が剣となりて、我が道を阻むモノを全て滅せよ!! 跡形もなく・・・、その塵も残さず・・・」
 光り輝くエリクの二枚の翼!!
 その輝きは、以前のものとは比べようもなく激しく、眩い。
 二つの剣が白い光の中に一度没すると、各々の剣を手にしたローヴェントとカルサスが、その光の中から姿を現した。
 セバリオスは、目の前で起こるその奇跡の光景に圧倒されながら、こう口にした。
「バカな!? 何故、死者が甦る!! あの手ごたえに間違いなどなかったッ」
 戦天使としての意識を回復した、高貴なる白き姿のエリクが、セバリオスに向かってこう答えた。
「その命を繋ぎとめ、再生させる為に我が力を費やしていただけの事。失われ行く魂を、この身を受け皿として受け止めた。・・・彼らは望んで自らの再生の道を断ち、この時間を生きることを決めた。それはとてもとても短い時間だが、彼らにとって、それは永遠にも等しい意味のあること」
 ローヴェントとカルサスを支配下に置いたことで、エリクはその真の戦天使能力を発揮する!!
 これまでとは比較にならないほど練成された剣気を、セバリオスは二人の戦士たちから、痛烈に感じずにはいられなかった。
 アイスソードとファイヤーソードの纏うこのライトフォースの煌きが、最初に感じたセバリオスの直感が的を射ていた事を証明する。
 戦天使能力を完全に回復させたエリクに、今、二つの剣が握られた。
 セバリオスとはいえ、彼女を相手に、もう余裕などない。
「ならば、その戦天使の力、この身で試してくれようぞッ!!」
 ラグナロクを強く握り締め、気を吐くセバリオス。
 そのセバリオスの戦闘能力は、人智では計り知れない。
 この世で、まさに絶対者と呼ぶに相応しいセバリオスに対し、白き貴婦人は、開花させたその戦天使の力で挑む!!
 白き髪をライトフォースの光輝に靡かせ、エリクは言う。
「進め、我が剣たちよ」
 こうして、セバリオスとの戦いは、その決着の時を迎えようとしていた。
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ダークフォース 第二章 XI

2009年09月29日 15時44分47秒 | ダークフォース 第二章 後編
   ⅩⅠ

 戦いが始まって、すでに数刻。
 エリクの戦天使能力は、セバリオスの想像を遥かに凌駕するものだった。
「これが、真の戦天使の力。欲しい・・・これほどまでに圧倒的とは、な」
 セバリオス自身、彼がこれほど苦戦を強いられるとは、思いもよらぬ事であった。
 エリクに守護されし二つの剣は、神速のセバリオスに迫るスピードで、彼を襲う。
「我が神速の剣にこうも喰い付くとは・・・。なるほど、伝説の剣皇トレイメアスが、かつて異界の神どもを恐れもさせたのも頷ける。並の戦士が戦天使の加護を受けるだけで、こうも鋭い刃となるのだからな」
 長物であるラグナロクを操る分だけ、セバリオスは不利とも言えた。セバリオスは、自身の高速剣とほぼ同等の速さの二つの剣風を、一手に相手させられている。
 セバリオスがどんなにローヴェントとカルサスを強打しようとも、一切の攻撃が戦天使エリクの守りの壁に阻まれてしまう為、セバリオスは次第に、攻撃よりも防御の手数が増えてしまう。
 セバリオスに十分な錬気の隙を与えないほどに、二人の戦士の攻撃は素早い!
 だが、セバリオスは、その攻撃を弾かれながらも、緻密にエリクの光の羽衣が生み出すその防御力を計算していた。
「ラグナロクで第四の剣以降の奥義を錬成できなければ、戦士たちに付与した守りの壁すら、貫くことも出来ぬであろうな。本体のエリク姫の防壁は、さらにその上を行くだろう。・・・しかし、それを錬気するとならば、同時に我が身を守る壁も完全に消失することになる」
 アイスソードとファイヤーソードから、連続して放たれる絶対零度の凍気と、灼熱の烈波導をこのまま喰らい続けていては、いかに堅牢なるセバリオスのシールドを以ってしても、ダメージの蓄積は避けられない。
「どれを喰らい、どれを避けるか。むず痒いものだな」
 始めから全ての攻撃を受けきれるなどとは思っていないセバリオスは、致命的な一撃は全て防いではいるものの、強引に振らなければラグナロクが追いつけないような一撃は、それを軽微と判断した場合、無視して次の攻撃に備え、ラグナロクを最短距離で振り返していた。そうしなければ、速度でローヴェントとカルサスに追いつけない。
 セバリオスがその身が受けたダメージ量は、彼の身体に幾つも描かれた、血の一閃が明らかにしていた。
 そう、セバリオスは押されている。
 彼にとってそれは、初めての経験である。
 セバリオスは今、ジラやフェルツの救援を必要としていた。
 どちらかの一方の援護を得られれば、戦況は一転させられる。
 しかし、彼のプライドはそれを許さない。
 また、仮にそれを実行するにも、妨害を受けるのは目に見えており、ジラやフェルツに自らの危機を伝えるには、まず、王子たちが先に閉ざした隔壁に穴を開ける必要がある。
 普段のセバリオスなら、隔壁を破るなど容易いことなのだろうが、今のセバリオスに、眼前の敵を放って、古代遺産の超硬度の隔壁を打ち抜く為の奥義を発動するヒマなどない。『銀雷』程度の威力では、隔壁の表面に傷を付けるのが限界であろう。
 その異様とも言える神と戦天使との戦いの光景を、少し離れた位置から目の当たりにする男の影があった。
 血の染み出たフルプレートの甲冑に、その身を重く縛られながらも、かろうじて意識を回復させたエリクや二人の王子たちの師、ハイゼンである。
 ハイゼンはエリクや二人の王子たちの為に、戦列に加わりたかったが、その身は指先一つ、満足に動かせないだけの傷を負っていた。
 戦天使は始めからハイゼンの生存には気付いていた様子で、彼の方へとセバリオスの攻撃の余波が向かぬように、セバリオスとの距離を気にしている様子だった。
 また、ハイゼンの方も彼女の行動の意味を、これまで培われた戦闘経験により、即座に理解出来た。
 だが、ハイゼンは何故、エリクがこんな姿になって、あのセバリオスを相手に戦っているのかはわからなかった。
 エリクのその姿は気高く、まるで穢れ無き純白の貴婦人のようであり、その指先から髪の毛の繊維に至る全てが、煌めく光によって満たされている。
 背中から天に突くように伸びる、光輝を集めた二つの翼に目が行った時、ハイゼンにはそれが、地上に舞い降りた天使に見えた。
 これが、セバリオスがエリクを欲した理由だというならば、ハイゼンはそれを十分に頷けた。その名しか聞いたことのない伝説の存在、『戦天使』を、今、目の当たりにさせられているのだから。
 ハイゼンは、足手まといの自分が無理を通して参戦するより、ただじっとその場で壁を背に倒れ込んでいる方が、よほど彼女にとって、戦天使であるエリクにとってはやり易いのだと直感する。
 戦いの次元が違いすぎる。
 万全の状態で参戦したとしても、おそらく自身の実力ではどうにもならないレベルの戦いが繰り広げられていることをハイゼンは感じたのだ。
 それは、歯痒い事だが仕方なかった。
 エリクは、手にしたその二つの剣と戦天使能力により、あの絶対的だったセバリオスを圧倒している。
 
 セバリオスが倒されることなど、あってはならない事だ。
 
 彼はこのエグラート世界の主神であり、彼を中心に四千年間もの間、この世界の秩序は維持されてきた。
 セバリオスの存在を抜きにして、今の、この世界の繁栄は成り立たない。
 全ての厄災の源である、異界の敵『ギーガ』に対し、今も世界は二つの備えでそれに対抗している。
 一つは、先に話した異界の門を封じる、戦天使セリカの守りの壁。
 その力によって、ほとんどの異界の敵の侵攻は阻まれてはいるが、世界に絶対などなく、常にその例外を起こすモノたちの存在がある。
 それは、『テーラ』と呼ばれる異界の神々『六極神』や、その僕(しもべ)である『魔神』たち。
 それ等に対抗し得る、現在、唯一の機動戦力が、神界フォーリナの神々『セバリオス・ジラ・フェルツ』の三神である。
 これまで、主神セバリオスを中心に、神の剣であるジラと、神の盾であるフェルツが、異界の門以外から、時空を喰い破って侵攻して来る『魔神』たちを数多、退けてきた。
 そう、世界はこのセバリオスの存在によって、幾度もの危機から守られて来たのだ。
 その戦いの常に先頭にいるセバリオスを失えば、世界は魔神等の侵入を許し、内側から異界への門をこじ開けられかねない。
 もし、異界の門が開かれれば、この世界の秩序は崩壊する。
 全ては『ダークフォース』の深淵なる闇へと没することになるだろう。
 セバリオスは、自身の敗北の意味を理解していた。
 そう、セバリオスは「敗北」の二文字を意識し始めている。
 セバリオスが始めからこの状況を想定出来ていたのなら、彼はエリクたちを圧倒する戦力を投入して、難なく勝敗を決していただろう。
 彼の過去に、戦天使との戦闘経験が一度でもあれば、単独での勝利も可能だった。
 しかし、その為に必要な剣が彼の手元にはない。今、必要なのは、二人の王子の攻撃をさらに上回る速度。その自らの神速を最大限に生かす、もう一つのラグナロク。
 直刀の細身のサーベルである『ラグナロク弐式・片刃』である。
 それが王子たちの隔壁により遮蔽され、手元へと転送出来ないとは、それは二人の王子たちの意図した範囲外であった。
 故に、セバリオスは今その手ある、長物の『ラグナロク壱式・両刃』のみで決戦するしかなかった。
 本来なら、長物とはいえ、このセバリオスのラグナロクの速度に付いてこれる者など、数限られている。それに長物の方が破壊力では格段に上だ。
 まさか地上に、彼の神速に並ぶ者が剣王バルマード以外にいるとは、セバリオスにも思いも寄らぬことであった。しかも、通常の錬気のラグナロクでは、その長物の破壊力を以ってしても、戦天使の守りの壁に対して傷すら入れられないとは。
 正確にはセバリオスの出すダメージ以上の速度で、守りの壁の耐久が回復されている。その回復量は凄まじく、削り合いの勝負をしては確実に負ける。
 だが、セバリオスにも戦士としての、意地がある。
 まして、彼は戦士の中でも最強の、「マスタークラス」の頂点に立つ男だ。
 端から、自身の勝敗を武器のせいになどする気はない。
 長物には、もう一つ、長物なりの強みがある。それは、強固な戦天使の守りの壁を貫いた時に出来る、そのリーチの差だ。
 勝つ為に選べる手段はもう僅かだ。
 それは、光の渦の中心にいる戦天使エリクに肉薄し、彼女の守りの壁を貫く最強の一撃を放つ事だ。
 その為に、セバリオスは自身の守りを完全に捨て去り、エリクのその背中に伸びる光輝の翼を、戦天使能力の源を、渾身の一撃で撃ち抜かなければならない。
 光に近付けば近付くほど、ライトフォースの防壁はその厚みを増す。
 光輝の翼は、このセバリオスを以ってしても計り知ることの出来ない、強大なシールドの奥にある。
 勿論、その一撃を二人の王子が、ローヴェントとカルサスが、黙って許すハズもない。
 ローヴェントも、カルサスも、二人とも己の身体が、風化していくように徐々に砕け散っているのを感じていた。
 決着の時まで持てばいい、それが二人の王子たちにとっての、ただ一つの願いだった。
 カルサスは言う。
「もう少し、戦っていたい気分だ。雰囲気はすっかり変わっちまってるが、あそこにいるのは、オレ達のエリクに間違いねえんだからなッ!」
 ローヴェントも、カルサスのその言葉に頷いた。
「エリクと共に戦おう、それが、私たちが戦士として生まれて来たことの意味だ!!」
 直後、眩き光で満たされた白金の瞳を、エリクは大きく見開くと、その戦天使能力を最大開放する!!

 白き姿の戦天使は、その高貴なる翼を高らかに舞い広げ、エグラートの主神を狩る為に駆ける!!
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ダークフォース 第二章 XII

2009年09月29日 15時41分46秒 | ダークフォース 第二章 後編
   ⅩⅡ

 激しい戦闘か繰り広げられる中、
 赤い髪をした方のエリクは、白き戦天使の造りし心の檻の中で、ずっと夢を見せられ続けていた。
 それは、とても楽しく、やさしい、平和な夢。
 身も心も幼き子供の日へと帰り、起きるのを嫌だと思わせるくらい、甘い夢の中。
 そんな素敵なものたちで満たされた、とてもとても広い場所に、幼く姿を変えたエリクは、深く誘われていた。
 赤毛の愛らしい、その幼き少女は、ルビーの瞳をいっぱいに輝かせながら、地平の見えない夢の世界で、花冠を作りながら遊んでいた。
 エリクはこんなに広い場所で遊んだことなどないし、どこまでも続く大地なんて見たこともなかった。
 目にするもの全てが発見に満ちており、決して飽きることなどない、そんな、造られた楽園。
 行き交う人々は、皆、誰もが笑顔で満ち溢れており、こちらに手を振り、話しかけてくれる。
 お花畑の真ん中に立っている、赤毛の幼き少女、エリク。彼女は、こんなにたくさんの人たちとお話ししたのは、生まれて初めてのことだった。
 それは、とても嬉しいことで、素敵なことであった。
 この世界に深く入り込めば入り込むほど、エリクはその姿を、その心を幼く回帰していく。
 白き姿の戦天使は、こうしてエリクから、理性や判断力を奪い去り、思考する力を持たせないように仕向けた。
 檻はより頑丈なものに変えられ、外界の情報の一切を遮断する。
 より幼い姿へと変化してゆくエリクのその小さな手で、この頑丈な檻を壊すのは無理だと言えたし、また赤毛の幼き少女にその気すら持たせないよう、楽しさで溢れる、夢のメリーゴーランドを彼女に与えた。
 こうして、エリクの心を完全に封じ込めた戦天使だったが、ふとしたことをキッカケに、檻の中の幼い少女は、少し不安になってしまう。

「きょうは、カルサスおにいちゃんはこないのかな」

 幼き少女のその言葉に、楽園を管理する戦天使は驚いた様子だった。
 それもそのはず。今のこのエリクは、「カルサス」という人物を知らない。
 彼女の心を、想いを高ぶらせる者の記憶は、全て奪い去っているというのに。
「あ、ローヴェントのおにいちゃんだ」
 今度はそう言うと、その幼き少女は赤毛の髪を揺らして、ローヴェントの元へと駆け寄り、一生懸命作った花冠をローヴェントの頭の上に被せてやった。
 すると、ローヴェントは軽く一礼して、エリクに言う。
「ありがとう、この花畑の王様になった気分だよ」
 そう言って、エリクの赤い髪を優しく撫でるローヴェントに、エリクは溢れんばかりの笑顔で応えた。
 在り得ない!!
 戦天使の造り出したこの世界に、ローヴェントは存在しない。
 しかし、エリクはちゃんとカルサスの分の花冠まで用意して、カルサスが来るのを待っている。
「エリクちゃん、カルサスにまで冠をあげたら、この花畑は王様が二人になってしまうよ」
 ローヴェントは、そんなちょっとイジワルな質問を幼い少女にした。
「いいんだもん!! ねえ、おうさまって、ひとりじゃないといけないものなの?」
 すると、その問いの答えにちょっと困ってしまったローヴェントが、辺りにちらちらと目をやると、向こうの方を指差して、エリクに言った。
「ほら、カルサスが来たよ」
「あ、カルサスおにいちゃんだ!!」
 戦天使は、自分の造り出した世界を乱す、この二人の兄の存在をすぐさま消し去った。今のこの幼き赤毛の少女に、彼らは必要ない。
 するとエリクは何事もなかったかのように、花畑の方へと戻っていった。
 花畑は、四季を無視して、色とりどりの鮮やかな花々を咲き乱れさせている。
 
 次の瞬間、エリクは貴賓室を思わせる贅沢な造りの一室で、ハンカチのレース編みをしていた。この世界では、エリクは思えば何処にでも行ける。
 ただ、そのエリクの姿は花畑に居たときよりも明らかに成長しており、幼女から可憐な少女へとその姿を変えていた。
 そして、ここにもまた、二人の兄の片割れであるカルサスが、無神経に現れた。
「よう、エリク! 何だそのハンカチは。オレにくれるのか!?」
「もう、カルサス兄様ったら。これは、私のです」
「なあ、エリク。オレ、ハンカチ無くして困ってるんだけど。出来れば今すぐ欲しいんだけどな、何とかならないか?」
 エリクはクスクスと笑いながら、膝の辺りにある引き出しを開けて、金の刺繍の入った上等なハンカチを取り出そうとした。
 カルサスはエリクのその手を止めて、こう言った。
「ほら、エリクが今、その、なんだ、縫ってるこの白いハンカチがいいんだ。イニシャルはKで入れてくれると、なお嬉しいぞッ」
「こんな普通のでいいんですか? カルサス兄様がそれでよいのでしたら、私は別に構いませんが」
「ああ、それがいいんだ。何より、兄貴が持ってなくて、オレが持ってるのがいいんだよ。兄貴には内緒にしておいてくれよ」
 ウィンクしてそう言うと、その正面にある鏡台には、自分の姿の他にも、長兄ローヴェントの姿が映りこんでいることに、カルサスは気が付いた。
「では、私の分はもっとレース編みを増やしたものにしてもらおうかな。ついでに、エリクのEと私のRも縫い込んでいてもらおうかな」
「ウフフ・・・、お二人ともなんか子供っぽいですよ。こんなのでよかったら、いつでも縫いますので、言ってくださいね」
 この夢の世界を管理する、戦天使は戸惑った。
 何故、自分の造ったこの世界に、これほど鮮明に、ローヴェントとカルサスが存在しているのか?
 そして、何故、この二人がいるというのに、エリクにとってかけがえのない存在である、もう一人の男が存在していないのだと。
 父親代わりとも言えるあのハイゼン候の事を、赤毛の少女は何故、まったく覚えていないのだ!?

 エリクはまた場所を変えて、今度は編み物をしている。
 その姿は、もう、今に引けを取らぬほどの美姫へと成長しており、その表情にはゆとりや落ち着きさえ感じられる。
 ただ、この時、エリクはどうして自分が人にあげる為の手袋を、三人分も用意しているのだろうかと疑問を持っていた。
 二人分はすぐに分かる。でも、あとの一人がまったく思い出せない。
 計算を間違えて、三人分の毛糸を用意したのかとも思うエリクだったが、箱庭の管理者である戦天使はこの事により、隔離世界で起こった異変に、ようやく気付くことが出来た。
「何ということか・・・これが、人の想いの強さなのか」
 戦天使はこの事態に、もはや何の打つ手も持たない事を思い知らされる。
 エリクが見ているこの改竄(かいざん)された世界が、現実へと融合してゆく。
 戦天使は感じ取る。
 砕け散るその命と魂が見せる煌めきを、ローヴェントとカルサスのエリクへの想いを。
 そして、エリクが白いレトレア織のドレスにその身を包む次の冬の季節に、二人の戦士がこの世界から完全に消え去るということを、戦天使は悟る。
 エリクの最も幸せだった、大切なものたちと過ごしたその時間。
 彼らがいれば、そこは彼女にとって、心安らげる楽園だった。
 その小さな楽園を、彼女の戦天使能力は崩壊させていく・・・。
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ダークフォース 第二章 XIII

2009年09月29日 15時39分23秒 | ダークフォース 第二章 後編
   ⅩⅢ

 セバリオスは、二人の戦士の猛攻を浴び続けながら、ラグナロクへの錬気を高め続けていく。
 その身を包む神の鎧は粉々に砕け散り、セバリオスは満身創痍の中、ラグナロクの刀身が支えきれる限界に近い量のライトフォースを練成していた。
 この状態なら、隔壁どころか一気に壁そのものを撃ち貫いて、退くことも可能だった。
 だが、神を名乗る身に「敗走」など有り得ない。
 セバリオスは、あくまで決着する事に固執していた。
 セバリオスがジラほど賢明ならば、間違えなく即座に引いて、態勢を立て直したことだろう。
 勝負は勝てばよいのだ。
 ジラは、帰還の遅いセバリオスを案じて、すでに神界フォーリナを発っていた。
 セバリオスがそのラグナロクに宿らせし最高の奥義を、発動、命中させられるかどうかは、彼の残り僅かな体力と、その気力にかかっている。
 ローヴェントとカルサスの猛攻を耐え続けたその肉体に、もう二撃を放つ余力はない。
 確実に決めなればならない一撃のその重圧(プレッシャー)に、セバリオスは柄を握る両手に汗を滲ませ、その集中力に銀眼をギラつかせた。
 次の瞬間、
 セバリオスがエリクとの間合い詰めようと突撃する!!
 
  カァァァァァーーーーーンッッ!!!
 
 と、二人の王子が連携して、見事にそれを受け止めた!
 セバリオスの長剣ラグナロクと激しい鍔迫り合いを演じる、ローヴェントとカルサス。
 錬気十分のラグナロクに、彼らのアイスソードとファイヤーソードはまったく引けを取らず、激しい爆炎と凍気を撒き散らしながら、それに拮抗する。
 セバリオスも、ローヴェントも、カルサスも、口を利ける余裕はない。
 互いに、命の火花を強烈に弾けさせながら、ただひたすらに力で押し合う!!
 戦天使は、このセバリオスの行動を事前に見抜いていた。
 二つの剣となったローヴェントとカルサスを操るその技量も、時の経過と共に精度は格段に増していた。
 白く長い髪をライトフォースの光輝に靡かせた白金の瞳のエリクは、王子二人が最期の力でセバリオスを足止めしているその隙に、右手に光の槍を形成させている。
 それで二人の王子ごとセバリオスを貫き、戦いに終止符を打とうとしていた。
 セバリオスは、もう引くことは出来ない!!
 彼が勝つ為には、その光の槍がエリクの手から放たれる前に、渾身の奥義にて戦天使の守りの壁を、その奥にある光輝の翼を撃ち貫かなければならない。
 エリクの持つ光の槍が具現化する!!!
 
  ・・・セバリオスはその瞬間、敗北を悟った。
 
 セバリオスはここで、自身の究極奥義である「ラグナロク・第五の剣『光雷』」を暴発させることにより、この空間ごと全てを無に帰し、相打ちを狙うことも出来た。
 だが、その行為に自己満足以外の意味は無い。
 それどころか、このエグラート世界は、その主神である自らを失うだけでなく、異界の敵に対抗し得る存在、『戦天使』を失うことになってしまう。
 セバリオスはそこまで、この世界に無責任ではなかった。
 一人の戦士として戦い、その敗北を受け入れる。
 セバリオスはそう決断したのだ。
 彼の練成せし究極奥義・『光雷』は、もう自身にも止めることは出来ない程の、絶大な威力を誇る。
 つまり、仮にセバリオスにその意思があったとしても、もはや剣を収めることも出来ないのだ。
 唯一、『光雷』を暴発させずに消滅させる方法は、エリクの光の槍にその身を貫かれること。
 依代であるその身が息絶えれば、ラグナロクの耐久限界まで収束された膨大なライトフォースも、自身と共に消滅する。
 セバリオスがその瞳をゆっくりと閉じる。
『光雷』がラグナロクの耐久限界を超えない為の制御の為である。
 そして、エリクの手から光の槍が放たれようとした刹那、突如としてエリクの戦天使能力が消失した!!

 地面にカーーンッ! と高い金属音を響かせ転がる、二人の戦士の剣、「アイスソード」と「ファイヤーソード」。

 セバリオスがその音に銀色の瞳を開くと、そこに激戦を演じたローヴェントとカルサスの姿はなく、エリクの姿も普段の赤毛のものに戻っていた。
 エリクの心が、戦天使能力を拒絶したのである。
 赤い髪をしたエリクはセバリオスに言う、縋るような瞳をして。
「お願いです・・・、私はどうなっても構いません。戦いを、やめてください」
 自分の中で砕け行く、兄たちとの記憶、兄たちへの想いを守る為、エリクはその戦天使能力を強い意志によって、強引にねじ伏せたのだ。
 セバリオスは叫ぶ!!!
「バカなッ!! 今すぐ戦天使能力を復活させろ! そして、この場から出来得る限り遠くへと離れ、守りの壁でその身を守れ」
 エリクはセバリオスの言葉に、軽く横に首を振ると、その背中に再び光輝なる翼を広げる。しかし、それは戦天使が広げたものより、明らかに小さい。
「逃げることは出来ません。ハイゼン候を置いて、そして私を守る為に、必死にその剣の力押さえつける貴方を置いて」
 エリクはそう言ってセバリオスの元に寄ると、その小さな光の翼で彼の傷付いた身体をそっと包んだ。
「無駄だ、この程度の力では、我が剣を抑えることなど出来ぬ。これは、その守りの壁の最大防御を貫く力なのだ。こんな出来損ないの翼で、受け止めることなど出来ぬわッ!!」
 セバリオスはエリクを振り払おうとするが、今の彼にはそのエリクを突き放す力さえ残されてはいない。
 エリクは言った。
「守れないのであれば、この翼に意味はありません」、と。
 そして、セバリオスに寄りかかるようにして、エリクは気を失った。

 セバリオスはこの時、初めて人肌から伝わる『ヒト』の想いを感じた。
 
 彼は常に最強の神であり、そして、孤高だった。
 その身をかけて守り続けてきた世界のその価値を、今、初めて知らされた。
 自らの胸の中で気を失う、この美しき薔薇姫を前に、セバリオスは救われた思いがした。
 守りの翼はラグナロクの圧力に耐え切れず、徐々に崩壊してゆく。
 なればこそ、彼女をこんな場所で散らせる訳にはいかない。
 セバリオスに迷いはなかった。
 もう、翼の形すら維持できていない光のカケラ。
 セバリオスはその首筋にラグナロクを当て、
 自らに決着を付けようとする!!
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ダークフォース 第二章 XVI

2009年09月29日 15時35分41秒 | ダークフォース 第二章 後編
    ⅩⅣ
 
  ドォゴォォォォーーーーーンッ!!!
 
 突如、響いた爆音の方へと、セバリオスが振り返る!!
 そこには外側から隔壁を破壊した一人の戦士の姿があった。
 深緑の髪を爆風になびかせる女戦士のその姿に、セバリオスは声を大にしてこう叫んだ!!
「ジラか!?」
 そう呼ばれた女戦士の背後から、さらに、その身を闇にも似た外套に包んだ一人の戦士が現れ、猛スピードでセバリオスの元へと駆け出す!!
「覇王剣・第五の剣『光雷』!!」
 いきなり現れた外套の戦士は、セバリオスの奥義と同じ名の奥義を、暴走するラグナロクに向かって繰り出した!!

  カァァァァーーーーーンッ!!!

 セバリオスの手元から、中空へと弾き飛ばされたラグナロク。
 ガラン、ガランッと音を立てて床に転がったラグナロクを、ジラと呼ばれた女戦士が拾うと、ビロードの外套の戦士はその片刃の剣を鞘に収めて、セバリオスの方へと振り返る。
「何故だ、何故に我が奥義と同じ名を持つ剣技が使える!? しかも、その威力を相殺しただと。どういうことだ、ジラ!!」
 ガクンと膝を折り、吐血しながら問いかけるセバリオスに、ジラと呼ばれた女戦士が肩を貸す。
 すると、『光雷』を放ったその外套の戦士は、気を失ったエリクへと徐に近付き、その身体を優しく抱きかかえ、壁に寄りかかるハイゼンの元へと連れて行った。
「答えろ、ジラ」
 セバリオスの問いに、やれやれと言った感じで、深緑の長い髪を持つ美女・ジラはこう答えた。
「あんたの独断専行の尻拭いの助っ人だよ。あたし程度の実力じゃ、極限まで力を出し合った、あんたと戦天使の間に割って入っても、即座に返り討ちだからね。・・・まったく、誰が戦っていいなんて言ったのさ。フェルツは、あんたの生死になんて興味もないから当てにならないし。だから確実に止める為の助っ人を、ここに連れてきたのさ。タイミングもバッチリだっただろ?」
 セバリオスを抱え起こすジラに、セバリオスは外套の戦士の名を問うと、ジラは彼の耳元でこう呟いた。
「いいから、帰るよ。・・・地上に、セバリオスとジラの二人が揃って居る事を、他の者たちに探知されるのはさすがにまずい。エリク姫の事は、暫く地上の連中に預けておくことだね。あの外套の戦士の方も、すこぶる腕は立つが、実は彼女が戦天使であることには全く気付いちゃいない。物分りの悪いあんたにだって、痛いほど分かっただろう? 戦天使能力は見るものじゃなく、触れて初めて分かるものだって事がさ。まあ、ハイゼン候が彼に事の一切を喋れば話は別だろうけど、ね。きっとハイゼン候は、エリク姫を争いに巻き込みたくはないと思うことだろうさ。・・・姫の事は、いずれ、手に入れればいいだけの話だから、さ」
「・・・承知した」
 セバリオスが頷くと、ジラは神界フォーリナへ戻る為の転送を開始する。
 ジラの周囲に光の輪が形成され、その輪が幾重にもジラへと集束すると、二人の姿は音もなくこの場所から消え去った。
 外套の戦士は、エリクの身体をそっと敷物の上に寝かせると、ハイゼンの方を見て、何も言わずに右膝を付き、その手のひらに、球状の光の塊を生み出した。
 その球体から発せられた光は、緩やかな波動となってハイゼンの身体をゆっくりと覆ってゆく。
 外套の戦士は、高度に錬成させたライトフォースをハイゼンの治癒に使い、彼を止血すると共に、その傷をも易々と再生させる。
 難なくそれをやってみせる外套の戦士だが、これにはかなりの技術を必要とする。
 先ほどの『光雷』を操った技量といい、この戦士の実力は、神であるあのセバリオスに迫るほどのものだといっていい。
 ハイゼンにはそのクラスの戦士の名など、剣王バルマードくらいしか思い当たらなかったが、明らかに剣王とは体格が違い、細く、華奢である。
 ハイゼンが意識をハッキリと回復させる頃には、その治癒の光の影響で、エリクもその意識を徐々に回復していった。
 まだ、瞳を開けるには瞼が重い。指先さえ、ピクリとも動かせない。
 そんなエリクだったが、外套の戦士がハイゼンに向かって口を開くと、その声だけは耳に届いた。
「名も名乗らずに、失礼しました。まずは、ハイゼン候の治癒をと思い、勝手ながらそうさせてもらっています」
 その声は、高く澄んでいる。まるで女性のようだ。
 そう口にした外套の戦士が、深々と被ったそのフードを下ろすと、ハイゼンはその素顔に言葉を失った。
 肩までかかる、紫色をした細くしなやかな髪。
 その端整な顔立ちに、光を満たしたルビーの瞳が妖艶に輝いている。
 肌は、雪のように白く、その美貌はエリクのそれさえ上回る。
 美しい・・・その一言では、とても比喩できないほどに、神々しいほどまでに美しい顔立ちをしている。
 その美しさは、性さえ超越しており、これほどに完成された美しい人を、ハイゼンは未だかつて目にしたことすらなかった。
 瞳を閉じたエリクには、その戦士の顔を知る術はなかったが、ハイゼンの強い動揺はエリクにも伝わってきた。
 美しき外套の戦士は、言う。
「私の名は、レオクス。旧知の仲であるエリス殿・・・いや、ジラ神に、この危機を知らされ、参上いたしました。フォルミ大公として、幾度かハイゼン候には公式の場でお会いする機会を得ていましたが、この顔をさらしたのは今回が初めて、ですね」
 ハイゼンはフォルミ大公が、これほどの人物であったことに驚愕させられた。
 このレオクスという人物の実力は、底が知れない。
 ハイゼンは聞いたことがある。戦士レベルは人の進化の指標の一つでもあり、その人物の限界値によって、その容姿も大きく左右されることがあると。
 遥かなる昔、その絶世の美を誇ったという覇王妃オーユも、彼女の妹である戦天使セリカも、その戦士レベルは100だという。
 レオクスのそれは、まさにその彼女たちにも引けを取らぬのではないかという程に、気品に満ちて、気高く、美しい。
 エリクは、フォルミという国など知らない。ただ、自分たちを救ってくれた、レオクスと人いう名前だけは、しっかりと記憶した。
 礼の一つも言いたいが、エリクは今、言葉を口に出来る状態ではない。
 レオクスは徐に立ち上がり、そのビロードの外套のフードを深々と被った。
 レオクスの手のひらから放たれる癒しの光が途切れると、エリクは次第に意識が朦朧としてくる。
 この後、ハイゼンとレオクスが何度か言葉を交わして、レオクスが立ち去るのはわかったが、そこで完全に意識を失ってしまう。

 エリクはその意識を失うと同時に、自身の中に押し込めた白き姿の戦天使と、明暗のはっきりとしない深層心理の奥深くで、対面する。
 その様子はまるで鏡の前に立っている自分の姿を見ているようだ。
 違うのは髪と瞳の色くらいで、姿形は同じである。
 白い髪をした方のエリク、戦天使は言う。
「これがあなたの望みなら、私はあなたから、戦天使としての記憶と能力を奪い、この小さな世界で時を待とう。だけど悲しみだけは、消すことは出来ない。それは私が、あなただからでもある。ヒトは心に嘘はつけない。記憶は操作出来ても、想いを変えることは出来ないだろう。故に、二人の兄君のことは、あなたの心に大きな傷跡を残すことになるだろう。眠り行く私はそれで良いかも知れない。・・・しかし、あなたは、これから今を生きるのだ」
 それを聞いて、赤い髪をしたエリクはこう言った。
「やはり、間に合わなかったのですね・・・。私が、夢の中で現を抜かしていた為に、大切な人たちを、守れなかった。失われていくものに、最期の瞬間まで気付けなかった」
 エリクは俯くように、その赤く長い髪を前に垂らし、顔を隠すようにして、その瞳に銀光を満たした。
 溢れる雫は、足元の闇色の床に吸い込まれるように、銀色の線を描く。
 戦天使はそれを見ても、表情一つ変えずに、話を続ける。
「私には、僅かにだが、『大いなるモノ』の力が宿っている。それは、命の潮流と呼ぶべき、この世界の理(ことわり)。あなたの二人の兄君たちが、散らせた命の欠片。それを再構成させることが私に出来たなら、今、まだ微かにこの身に残る彼らの存在を頼りに、それらを再生し、同じ時を取り戻すことが出来るかも知れない。これは、大いなるモノの意思に反する行為だと私は認識しているが、あなたが望むなら、・・・あなたの四分の一の存在である私は、あなたの意識の奥底で、誰に悟られることなくそれを行おう」
 その言葉に、エリクは堪らず戦天使の方を見上げた。
 その瞬間、初めて、戦天使が人間らしい表情で微笑んだ。
「了承したと取ってよさそうだな。私にも感情くらいある。それは、何度も言うが、私とあなたが二人で一つの存在だからだ。ただ、ここでのやり取りは、あなたの記憶には一切残さない。どれほどの時を有する作業なのか、また、それ成功させる保証も自信すらない。私は、自らの意思によって、あなたの殻の中に閉じこもろう。これから私たちがやろうとすることを、大いなるモノに知られてはならない。拒絶が一番恐ろしい。・・・記憶を残さないあなただけに、大いなるモノの名を告げておこう。その名を『エクサー』という。この「エルザーディア」の名で呼ばれる宇宙の、その中心である存在」

 こうして、エリクは白き戦天使との、その邂逅の時を終える。
 再びエリクが目覚めた時、レムローズ王国は全てが変わっていた。
 王国は二人の英雄である王子を、突然の病で失い、間もなく王も崩御した。
 ハイゼン候はこの混乱を収める為、自らが王国の執政の座に就き、まだ国民にその存在を知られていないエリク姫の身を、フォルミ大公レオクスに託すことに決めた。
 エリク姫の存在を今、知られれば、エリクは女王としてこの国の王に担ぎ上げられ、過大な国民の期待と、これから王国が直面する苦境を一手に背負わされてしまう。
 ハイゼンには、自身がこのレムローズ王国をその手に完全掌握するだけの時間が必要だった。
 そうすれば、エリクの身を安全に、この国の女王として迎え入れることも可能だった。
 心無い民衆たちは、二人の王子の急死をハイゼンの陰謀だと囁いた。
 ハイゼンはそんな言葉など一気に跳ね除けると、国内外にその実力を示し、一年と経たずにレムローズ王国全土をその支配下に置いた。
 ハイゼンはこうして、エリクの帰る場所を確保し、その維持に努めることになる。
 エリクが長年暮らしたあの場所も、その当時のままに保たれ、時折、給仕たちは、自らの手で、痛んだ場所の修理を熱心に行う、ハイゼン候の姿を見かけた。

 エリクはこの時より、フォルミ大公国にその身を寄せる事となり、当時、まだ幼かった金髪の少女リシアと出会い、彼女を妹のように可愛がった。
 アメジストガーデンに用意されたエリクの個室には、五年という歳月が経過した今でも、大事に飾られた二つの剣がある。
 リシアがその剣に触ろうとすると、エリクはそれを拒み、誰にも触れさせようとはしなかった。
 エリクは、時々、その部屋でじっとその二つの剣を眺めていることがある。
 エリクは、今でもその剣にこの身が守られているのだと感じると、心が温かくなった。
 テーブルの上にはレムローズ王国のワックスシールの押された手紙が置かれている。
 差出人はレムローズ王国執政のハイゼン候である。
 彼は、まるで娘の一人暮らしを心配する父親のように、公文書に紛れさせては、よくエリクへの手紙を送り付けてきた。
 内容はごく平凡なもので、むしろエリクの返信の方が目当てである。
 馴れない手紙を無理に書き上げているハイゼンの姿が目に浮かぶと、エリクにはそれが滑稽で、クスクスとその表情に笑みを誘った。
 エリクは手紙の返事を書き終えると、その手紙に季節の押し花を付けてハイゼンの元に送っていた。
 エリクがその個室を後にすると、待ってましたとばかりに現れたリシアが、エリクの手をギュッと掴んだ。
 リシアはエリクを引っ張るように、アメジストガーデンを駆け回る。
「ちょっとまって、リシアさん。そんなに引っ張られると、ヒールが脱げてしまうわ」
「ダメですよ~、今日は私にとことん付き合ってもらうんですから!!」
「もう、リシアさんったら」
 そんな二人の笑顔を、陰から見守る者の姿がある。
 ビロードの外套にその身を包んだフォルミ大公、レオクスである。
 そのレオクスに気付いたのか、リシアがペコリとお辞儀すると、エリクも揃って、にこやかにお辞儀をした。
 レオクスがその対応に少し困っていると、脇からスッと現れた大男のバルマードが、レオクスに向かってこう言った。
「手でも振っておあげなさいな、いい子たちじゃないですか」
「ああ、・・・そうだね」
 そう言われてレオクスが小さく手を振ると、二人は揃って大きく手を振り返してきた。
 バルマードがそれに負けじとさらに大きく手を振り返すと、今度は、リシアは両手をめいっぱい広げて手を振り、何だかわからない勝負に発展していった。
 エリクは気恥ずかしさで、それ以上ついてはいけなかったが、今、ここに見える風景に、今、ここに立っていられる事の奇跡を、エリクは心より感謝をせずにはいられなかった。
「ありがとう」の言葉を伝えたい。
 妹のようなリシアに。
 元気をくれるバルマードに。
 いつも自分を気遣ってくれるレオクスに。
 祖国で、いつでも自分の帰る場所を用意してくれているハイゼンに。

 そして、
   この世で最も愛した二人の兄、
        ローヴェントと、カルサスに。
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