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ダークフォース 第二章 XII

2009年09月29日 15時41分46秒 | ダークフォース 第二章 後編
   ⅩⅡ

 激しい戦闘か繰り広げられる中、
 赤い髪をした方のエリクは、白き戦天使の造りし心の檻の中で、ずっと夢を見せられ続けていた。
 それは、とても楽しく、やさしい、平和な夢。
 身も心も幼き子供の日へと帰り、起きるのを嫌だと思わせるくらい、甘い夢の中。
 そんな素敵なものたちで満たされた、とてもとても広い場所に、幼く姿を変えたエリクは、深く誘われていた。
 赤毛の愛らしい、その幼き少女は、ルビーの瞳をいっぱいに輝かせながら、地平の見えない夢の世界で、花冠を作りながら遊んでいた。
 エリクはこんなに広い場所で遊んだことなどないし、どこまでも続く大地なんて見たこともなかった。
 目にするもの全てが発見に満ちており、決して飽きることなどない、そんな、造られた楽園。
 行き交う人々は、皆、誰もが笑顔で満ち溢れており、こちらに手を振り、話しかけてくれる。
 お花畑の真ん中に立っている、赤毛の幼き少女、エリク。彼女は、こんなにたくさんの人たちとお話ししたのは、生まれて初めてのことだった。
 それは、とても嬉しいことで、素敵なことであった。
 この世界に深く入り込めば入り込むほど、エリクはその姿を、その心を幼く回帰していく。
 白き姿の戦天使は、こうしてエリクから、理性や判断力を奪い去り、思考する力を持たせないように仕向けた。
 檻はより頑丈なものに変えられ、外界の情報の一切を遮断する。
 より幼い姿へと変化してゆくエリクのその小さな手で、この頑丈な檻を壊すのは無理だと言えたし、また赤毛の幼き少女にその気すら持たせないよう、楽しさで溢れる、夢のメリーゴーランドを彼女に与えた。
 こうして、エリクの心を完全に封じ込めた戦天使だったが、ふとしたことをキッカケに、檻の中の幼い少女は、少し不安になってしまう。

「きょうは、カルサスおにいちゃんはこないのかな」

 幼き少女のその言葉に、楽園を管理する戦天使は驚いた様子だった。
 それもそのはず。今のこのエリクは、「カルサス」という人物を知らない。
 彼女の心を、想いを高ぶらせる者の記憶は、全て奪い去っているというのに。
「あ、ローヴェントのおにいちゃんだ」
 今度はそう言うと、その幼き少女は赤毛の髪を揺らして、ローヴェントの元へと駆け寄り、一生懸命作った花冠をローヴェントの頭の上に被せてやった。
 すると、ローヴェントは軽く一礼して、エリクに言う。
「ありがとう、この花畑の王様になった気分だよ」
 そう言って、エリクの赤い髪を優しく撫でるローヴェントに、エリクは溢れんばかりの笑顔で応えた。
 在り得ない!!
 戦天使の造り出したこの世界に、ローヴェントは存在しない。
 しかし、エリクはちゃんとカルサスの分の花冠まで用意して、カルサスが来るのを待っている。
「エリクちゃん、カルサスにまで冠をあげたら、この花畑は王様が二人になってしまうよ」
 ローヴェントは、そんなちょっとイジワルな質問を幼い少女にした。
「いいんだもん!! ねえ、おうさまって、ひとりじゃないといけないものなの?」
 すると、その問いの答えにちょっと困ってしまったローヴェントが、辺りにちらちらと目をやると、向こうの方を指差して、エリクに言った。
「ほら、カルサスが来たよ」
「あ、カルサスおにいちゃんだ!!」
 戦天使は、自分の造り出した世界を乱す、この二人の兄の存在をすぐさま消し去った。今のこの幼き赤毛の少女に、彼らは必要ない。
 するとエリクは何事もなかったかのように、花畑の方へと戻っていった。
 花畑は、四季を無視して、色とりどりの鮮やかな花々を咲き乱れさせている。
 
 次の瞬間、エリクは貴賓室を思わせる贅沢な造りの一室で、ハンカチのレース編みをしていた。この世界では、エリクは思えば何処にでも行ける。
 ただ、そのエリクの姿は花畑に居たときよりも明らかに成長しており、幼女から可憐な少女へとその姿を変えていた。
 そして、ここにもまた、二人の兄の片割れであるカルサスが、無神経に現れた。
「よう、エリク! 何だそのハンカチは。オレにくれるのか!?」
「もう、カルサス兄様ったら。これは、私のです」
「なあ、エリク。オレ、ハンカチ無くして困ってるんだけど。出来れば今すぐ欲しいんだけどな、何とかならないか?」
 エリクはクスクスと笑いながら、膝の辺りにある引き出しを開けて、金の刺繍の入った上等なハンカチを取り出そうとした。
 カルサスはエリクのその手を止めて、こう言った。
「ほら、エリクが今、その、なんだ、縫ってるこの白いハンカチがいいんだ。イニシャルはKで入れてくれると、なお嬉しいぞッ」
「こんな普通のでいいんですか? カルサス兄様がそれでよいのでしたら、私は別に構いませんが」
「ああ、それがいいんだ。何より、兄貴が持ってなくて、オレが持ってるのがいいんだよ。兄貴には内緒にしておいてくれよ」
 ウィンクしてそう言うと、その正面にある鏡台には、自分の姿の他にも、長兄ローヴェントの姿が映りこんでいることに、カルサスは気が付いた。
「では、私の分はもっとレース編みを増やしたものにしてもらおうかな。ついでに、エリクのEと私のRも縫い込んでいてもらおうかな」
「ウフフ・・・、お二人ともなんか子供っぽいですよ。こんなのでよかったら、いつでも縫いますので、言ってくださいね」
 この夢の世界を管理する、戦天使は戸惑った。
 何故、自分の造ったこの世界に、これほど鮮明に、ローヴェントとカルサスが存在しているのか?
 そして、何故、この二人がいるというのに、エリクにとってかけがえのない存在である、もう一人の男が存在していないのだと。
 父親代わりとも言えるあのハイゼン候の事を、赤毛の少女は何故、まったく覚えていないのだ!?

 エリクはまた場所を変えて、今度は編み物をしている。
 その姿は、もう、今に引けを取らぬほどの美姫へと成長しており、その表情にはゆとりや落ち着きさえ感じられる。
 ただ、この時、エリクはどうして自分が人にあげる為の手袋を、三人分も用意しているのだろうかと疑問を持っていた。
 二人分はすぐに分かる。でも、あとの一人がまったく思い出せない。
 計算を間違えて、三人分の毛糸を用意したのかとも思うエリクだったが、箱庭の管理者である戦天使はこの事により、隔離世界で起こった異変に、ようやく気付くことが出来た。
「何ということか・・・これが、人の想いの強さなのか」
 戦天使はこの事態に、もはや何の打つ手も持たない事を思い知らされる。
 エリクが見ているこの改竄(かいざん)された世界が、現実へと融合してゆく。
 戦天使は感じ取る。
 砕け散るその命と魂が見せる煌めきを、ローヴェントとカルサスのエリクへの想いを。
 そして、エリクが白いレトレア織のドレスにその身を包む次の冬の季節に、二人の戦士がこの世界から完全に消え去るということを、戦天使は悟る。
 エリクの最も幸せだった、大切なものたちと過ごしたその時間。
 彼らがいれば、そこは彼女にとって、心安らげる楽園だった。
 その小さな楽園を、彼女の戦天使能力は崩壊させていく・・・。

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