『ダークフォース』(DF)とか、 あとは読み物、落書き、日記などのブログ。

DFなどのブログを始めてみました。

小説というより、かなりテキスト寄りです。
更新遅めですが、よろしくです。^^

ダークフォース 第一章 Ⅰ、Ⅱ

2009年08月04日 22時52分10秒 | ダークフォース 第一章
   <序>
 
  美しいものは、人の心を奪う。
  美しきものに、人は愛を求めてしまう。
 
  美しさとは、ヒトのモノだけではない。
  生きとし生けるもの、動物、草木、あらゆる全てが、それを強く求める。
  美しさこそ、進化の象徴。
  そして、進化の先にまた、さらなる美しさがある。
 
  世界の王と呼べる男、彼は言った。
 「この世の果てにいる異界の女神は、
   この世で最も強く、
      そして、この世で最も美しい」
 
    ― ミストレウス帝国皇帝・覇王サードラル
              『エクサーとの邂逅』より抜粋 ―



   Ⅰ

 そこは、エグラートの名で呼ばれる大地。
 古代文明の遺産群と、豊かで美しい自然とが調和し、緩やかな時を刻んでいる、
 そんな世界の物語・・・。

 世界は、八つの国家がそのエグラートの大地を八分し、皇帝を擁するノウエル叡智王国によって、国々は一つにまとめられ、人々は戦争を知ることも無く、穏やかに暮らして来た。
 だがその数百年という長い安寧の時も、大陸の国家群を八つから七つへ減らそうとした時、降りかかる戦火によって、エグラートの大地は再び、その境界線を大きく書き換えられようとしていた。

 南東の大国・フォルミ大公国が、代々、神聖不可侵とされた小国のスレク公国に侵攻したのは、大陸暦4095年の初春である。
 
「スレク公、お討死にッ!! フォルミ軍二万が怒涛の勢いにて我が方に攻めかかってきます!!」
「ば、馬鹿なッ!! 殿下は、戦士レベルが87にも達する大陸屈指の猛者であらせられるぞ。そのクラスの戦士である殿下が、二万もの大軍を集めたとはいえ、フォルミの雑兵ごときにやられるハズはないッ!!」
 石造りの荘厳なる古城の中で、騎士たち怒号が飛び交い会う。
 『ミストレウスの古塔』と呼ばれるスレク公の居城を取り囲む、二万のフォルミ軍は、堅牢な城壁を打ち破り、雪崩を打ったように、城内へと攻めかかった。
 古城の中央には、城の名の由来ともなった巨大な塔がそびえており、僅か千足らずのスレク公国兵たちは、決死の覚悟で塔への侵入を食い止めようとしている。
 古塔の上部にいるスレクの騎士たちは、階下に見える光景に唖然とさせられた。
「城門はアダマンタイト鋼で出来ておるのだぞ! どうしてこれ程にたやすく・・・」
「報告!! 敵、フォルミ軍の中に高レベルの戦士が一名確認された模様。・・・その者がおそらく、アダマンタイト鋼を引き裂いたものかと」
「フォルミ大公・レオクスが、自ら出陣しているのか!? 大陸広しといえど、殿下を凌駕するほど勇者など数限られている!!」
 そうこう慌てている間に、騎士たちはその者の姿を目の当たりにすることになる。
 素早く城兵たちを打ち負かし、騎士たちの元へと現れたのは、年の頃が15にも満たなそうな、一人の金髪の少女だった。
 金髪碧眼の少女は、騎士たちに問う。
「公女はどこにいる? エスト公女さえこちら渡せば、我らフォルミは兵を引こう」
 堂々とした少女の言葉に、騎士たちは一瞬、凍りついたように少女の方を見つめた。
 騎士たちの背筋を駆け抜けたのは、圧倒的強者に対する恐怖である。
 この金髪の少女が発する絶大なる剣気は、スレク公のそれすらも凌駕し、何度かスレクの騎士たちも謁見かなったことのある、大陸最強の剣王と名高い、ティヴァーテ剣王国・剣王バルマードのそれとも見紛うばかりの威圧感である。
 バルマードの戦士レベルは95。
 少女がそれに近い戦士であることが、スレクの騎士たちにも容易に感じ取れた。
「フォルミ大公はこれ程の戦士を配下に抱えているのか!?」
「私の実力を読めるそなたらであれば、抵抗がいかに無意味であるかも容易に理解出来よう。我が名はリシア。フォルミ大公国・大公レオクス殿下に仕える戦士。戦士レベルは94。そなたらになら、この数字の意味は説明するまでもなかろう」
 『戦士』とは、この世界にあって、超越者にのみ贈られる称号である。
 人間としての限界を遥かに超え、『ライトフォース』という自然界に存在する質量、エネルギーを自らの力として、人ならざる力を発揮する者たちの呼称である。
 戦士には、戦士レベルという強さの指標が存在し、これにより高レベルの戦士たちは互いの実力を知ることで、無用な争いを避ける傾向にある。
 戦士レベルの最高値は100とされ、人が達した最高値はティヴァーテ剣王国の剣王バルマードの、95である。
「94!? ノウエル皇帝陛下と同じ戦士レベル!! 馬鹿な、皇帝陛下は人類で二番目の戦士レベルをお持ちなのだぞ。・・・いや、しかしこの圧倒的な剣気。フォルミ、なんという大国・・・」
「公女を渡すのだ。我らとて、無用の流血は避けたい」
 そうリシアが降伏を勧告した刹那、一人のスレクの騎士が何かしらの装置のようなものに触れた。
「まだ、負けと決まったわけではない! エスト様はすでに、ティヴァーテに向かって発たれておるわッ。・・・公国の意地を思い知るがいい!!」
 美しい模様をした大理石のパネルに掘り込まれた古代文字のような文様が、虹色に輝き始めると、慌てて別の騎士がその操作を止めに入る!!
「ば、馬鹿な真似はよせッ! 殿下無きとはいえ、公国そのものを消滅させる気かッ!!」
「それは、何の装置だ?」
 リシアの問いに、その騎士は素早く答えた。
「あれは異界の扉を塔周辺に開くもの! フォルミの戦士よ、装置を破壊してくれッ!!」
「ギ、ギーガ(悪魔の総称)をこの地に召喚するつもりかッ!! スレク公国そのものが、この大陸から消滅してしまうぞッ!」

   ズドーーーンッ!!

 リシアは超人的な速さで、パネルと騎士を外壁ごと吹き飛ばし、古塔に風穴を開ける!
 が、時すでに遅し・・・。
 風穴の向こうの地平には、漆黒の闇ともいえるドス黒い亀裂が、いたる所に発生し始めていた。
「なんという巨大な亀裂・・・。一体、どれほどの数のギーガが溢れることか」
 止めに入ったスレクの騎士は、兜の音がガシッと鳴るほど額を石畳に擦り付け、リシアに向かって懇願した。
「フォルミの戦士よ、ギーガの侵入を食い止める為、我らに力を貸して欲しい! 殿下おられぬ我らに、ギーガと戦うだけの力は無い。無理は承知の上!!」
 リシアはすぐに頷く。
「承知した。ギーガと対するに、国家の境界など関係はない。・・・しかし、これ程に巨大化した闇に、私一人で対することが出来るだろうか。決死の覚悟で挑んではみるが、結果は期待しないでくれ。あと、双方の軍に我が思念波(テレパシー)を遅らせてもらうぞ」
「・・・す、すまん」
 リシアは風穴から階下の全軍が見下ろせる位置に立つと、兵たちに向かって思念を送った。
 その声は、両軍の兵たちの頭の中に、直接鳴り響く。
『我が名は、フォルミの戦士リシア。承知のように、今、ギーガが異界から溢れ出そうとしている。スレク、フォルミ全将兵に告げる! 全力を持ってギーガども対し、死力を尽くして戦うのだ!! ・・・家族を、故郷を、この地に生きるもの全てを! 漆黒の闇から守り抜くのだ!!』
 リシアはそのまま、塔の風穴から直接、最も大きい亀裂へと向かって飛び出した。
 リシアは巨大な闇の中心へと向かいつつ、心の中でこう呟いた。
「・・・任務失敗だな、もう、公女エストを追う余裕はない。生き残る為に戦い、その間にレオクス殿下への言い訳でも考えさせてもらうか」と。

   Ⅱ

 チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる、ある朝のこと。
 その豪奢な石造りの一室を照らす日の光は、角度を上げるごとに、やわらかさが眩しさへと変化し、そこに眠る愛らしい少女のまぶたを強く照らした。
 まぶたをこすりながら、ふわ~んという声を出して半身を起こすその少女は、新緑のように萌える、鮮やかな長い髪を持ち、その薄く開いた瞳は、日の光もあってか、とても澄んだ水色に見える。
 光に包まれた少女のその姿は神々しいまでに美しく、端整に整った顔立ちに、淡いピンクの唇が、よだれによって潤っていた。
 ・・・潤い過ぎていた。

  ジュルルルルーーッ!!

 顔に似合わず下品な音を立てて、少女はよだれをシルクの袖で拭き取ると、ぼーっとした表情で小さく可愛らしい置き時計に目をやった。
「じゅっ、十時半!? がはっ、寝過ごしたぁぁ!! つか、目覚ましなってねーーーっ」
 血相を変えて少女は天蓋付きのベットから飛び起きると、急いで身繕いを始めた。
 ・・・十分ほどかかりそうなので、その間に彼女の紹介等々をさせていただく。
 彼女の名は、エスト。二ヶ月前の「スレク公国の乱」で無事逃げ延び、南西の大国・ティヴァーテ剣王国に身を寄せる、元公女である。
「元を付けるなっ! 今でも公女殿下じゃわい!!」
 コホン、公女殿下である。
 ティヴァーテ剣王国は大陸でも一、二を争う強国で、その統治者・剣王バルマードは大陸最強を冠する無敵の戦士である。
 戦士の中で最上位を意味する『マスタークラス』の称号を持つ唯一の人間で、彼以外のマスタークラスは、全て人以外ということになる。
 つまりそれは、神界フォーリナの神々(セバリオス・ジラ・フェルツ)と、魔界ファールスの魔王ディナス、その魔王配下の四天王の三名(マベル・ホーネル・マイオスト)の名を指す。
 まあ、めちゃくちゃ強いのです。
「最後は、小学校の作文みたいなオチだな。まー、つええよ、バルマード様は。だから私はマクラを高くして眠れるのだよ、にしし・・・」
 ということで寝坊した公女殿下は置いといて、
「ああ、置いといてくれ。あたしゃ、身支度に忙しい。・・・まあ、しけた田舎の公国の姫で終わるより、都会でリッチでドデカい、このティヴァーテ剣王国に潜り込めただけでも、しめたもんって思っちゃいるがね。ビジョン(テレビ)なんて12チャンネルもあるのよ。ウチなんかたったの2チャンネルだったのに。しかも、スーパーハイパービジョンだし、飛び出せ! 立体映像だし・・・。3Dメガネすらいらないのよ」
 ブツブツと呟きながら忙しそうしている公女殿下は、ホントに横に置いておくとして、このティヴァーテ剣王国は、エグラート大陸全土を統べるノウエル帝とも親密な仲にあり、ノウエル帝は、ティヴァーテ・剣王バルマードの義理の父にあたる。
 次期皇帝は、このティヴァーテから輩出されるであろうと噂されるほどの、まさに超大国である。
 このティヴァーテの世継ぎでもあるウィルハルト王子は、次期皇帝候補の筆頭と言われ、また、抜群の容姿の持ち主でもあり、その姿は、絶世の美女とも見紛うばかりの美しさである。
 鮮やかな赤い薔薇色をした、艶のあるしなやかな長い髪と、魅惑的で吸い込まれそうな黒い瞳の持ち主で、性格はとても明るく、そして、万人に優しく、まさに非の打ち所のない人物である。
 時の皇帝にさえ、たった一人の孫娘を嫁がせたいと思わせるほど、ウィルハルトの王子っぷりは、まさにパーフェクトであり、どこぞの田舎公女が付け入り、玉の輿に乗ろうなど、もっての外の、論外である。
「クックックッ・・・たらし込んで、既成事実さえ作っちまえば、こっちのもんよっ!! メイクは毎朝一時間!! の精神でケバくならず、キュートで可愛い、おぼこ娘を演じきってみせるさぁ! まー、今朝は謁見まで時間ないんで、10分メイクでいくがね。王子が世間のイロハを色々わかっちまう前に、このエスト様ががっちりキャッチしてみせるぜ。うひょひょひょひょ」
 エストは鏡台で、もう一度、自分の姿をチェックする。
「さーて、準備も出来たし、いっちょ、顔でも出してくっかね」
 そう言って、顔をパンパンっと叩いて気合を入れたエストは、セレブなドレスに身を包み、颯爽と王子様の待つ王の間へと向かったのだった。
「毎日こつこつ1ポイントでも恋愛度を稼いでおかんとな、地味な積み重ねを三年もすれば、めでたく、ハッピーエンドってなもんさぁ!」

 謁見の間へと数分でたどり着いたエストは、玉座に鎮座する剣王バルマードへ向かって、深々と頭を垂れた。
「ご機嫌、麗しゅうございます、バルマード陛下」
 エストは、先ほどとはうって変わって気品ある態度で玉座の主に一礼した。
 玉座へとつながる赤い絨毯の脇に並び立つ重臣たちの顔も、猫かぶりの登場せいか幾分にこやかで、その先頭にいる完璧王子ウィルハルトも、エストと顔を合わすとニコリと微笑み返した。
 剣王バルマードは、黒く鋭い瞳に灰色の髪の人物で、立派な髭を蓄え、腰掛けた姿でもその背丈が190センチをゆうに超えるとわかる頑健な男である。
 いわば、ダンディズムとはこれであると、絵に描いたようなチョイ悪オヤジ風の風貌で、威厳も備えているが、やはり格好良いの方が先に立つ独身男である。
 早くに妻を亡くした彼は、それ以後妻をめとろうとはせず、一途に亡き妻を今でも想い続ける義に厚い男である。
 その生き方さえもサマになっているバルマードが、玉座から軽く身を乗り出すようにして、錆びの効いた声で、エストへと発した第一声はこうだった。
「うーん、エストちゃん、オジサン寂しかったよぉ。もっと早く顔を出してくれないとオジサンの一日は始まったって気がしないのよ。今日も相変わらずいい感じの美少女してるねぇ・・・。オジサンのこのドス黒いまなこも、エストちゃんのおかげで綺麗に洗われるって感じだよ」
「恐れ入ります、陛下。この様な小娘をかくまって頂き、日々感謝に絶えません」
 エストの言葉に、そんなの気にしちゃダメだよーっという素振りで、軽くウインクをするバルマード。
 実は、このバルマードは、かなり気さくな感じのするオッサンで、その寛容な性格で、猛者揃いのティヴァーテ家臣団を上手くまとめ上げている。
 非常に気の回る人物で、仮に彼が無敵の剣王でなかったとしても、彼のカリスマが今のように強固に家臣団を結束させていたに違いない。
 ティヴァーテ王室は、大陸でもトップクラスの権威と実力を備えているが、その中身が実にアットホームなのは、彼の存在抜きには語れないであろう。
 王子のウィルハルトは、その寛容な父の影響を受け、実に心優しく、芯の強い性格に育っており、国民人気も圧倒的である。
 美女顔負けの容姿に、まるで変声期を迎えていないような高く、柔らかい声色。
 寝巻き姿のウィルハルトなど見かけてしまうと、譜代の家臣でさえムラムラとしてしまいそうな、そんな究極の王子様なのです。身長は父親に比べると、頭一つ低いのもチャームポイントと言う事で。
 そのウィルハルトは、澄んだ柔らかな声でエストにこう話しかけた。
「ねえ、エスト。今日も剣術の稽古を付けて欲しいんだ。男がこんな可愛い女の子相手にそういうこと頼むのって、みっともないかもしれないけど」
 エストは、むしろ寝技を仕込んでやるわいッ! と口には出さず、上機嫌そうに、二つ返事でウィルハルトの申し出を承諾した。
「私も、ウィルハルト様との鍛錬はたのしゅうございます。こちらこそ、是非」
「うん、ありがとっ」
 エストはいい加減な性格をしているが、こうみえて実は戦士としての才覚に秀でた、バトルプリンセスなのである。
 彼女の戦士レベルは70以上で、これは各国の将軍でさえ簡単には手におえない次元の強さである。
 せっかく、容姿端麗、実力十分に生まれてきているのに、彼女の捻じ曲がった性格と根性が、それに水を差している。
 いいものは、持っているのに・・・。
「うるさいんじゃ、ボケ!!」
 エストの叫びに少し驚いたバルマードとウィルハルトらであったが、とっさにエストはその場を取り繕った。
「あはは、昨日見たビジョン番組をつい思い出してしまって。あんなに面白いお笑い番組、公国には無かったものでして、」
 と恥らうようにエストが言うと、場は一気に和やかな雰囲気になった。
 エストは白々しく横に目をやりながら小さい声でこう呟いた。
(貴様・・・ハメやがって。ボロ出たらしばくぞ、コラァ!!)
 決してハメてなどいない。
 ただ、常に墓穴だけは用意しておいてやるとだけ言っておこう。
(・・・落ちるのは私じゃない。私の覇道を邪魔する全ての女(敵)どもだよ・・・。くっくっくっ)
 エストがニシシとしたり笑いをする中、親族経営の会社の朝礼にも似た、緊張感の無いティヴァーテの午前の謁見は、何事もなく平穏無事に過ぎ去っていくのでありました。
 おわり。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ダークフォース 第一章 Ⅲ、Ⅳ

2009年08月04日 22時47分55秒 | ダークフォース 第一章
   Ⅲ

  キーーーン!

  ガキーーンッ!! 

 と激しく打ち鳴らされる金属音。
 そこは、ティヴァーテ王室の特別訓練場。
 城の地下に設置されたその50メートル四方の空間は、天井までの高さが10メートルほどあり、天井から床にいたる全ての壁が超硬質のアダマンタイト鋼で覆われた、戦士専用の特別施設である。
 そこでエストは、ウィルハルト相手に木刀を振るっていた。
 ウィルハルトが手にするのは、実戦用のアダマンの剣である。
 ハァ、ハァ、と息を切らすウィルハルト。フルプレートの鎧に身を包み、両手に握られたその剣は、僅かに刃こぼれしている。
 対するエストは木綿の動きやすい服装で、傷一つ無い木刀を片手に、ウィルハルトを圧倒していた。
「いいですか、ウィルハルト様。戦士とは力任せに剣を振るえばよいというものではなく、自然に存在する、または人工的に作られた、質量・エネルギーを、己の刃、また盾とし、周辺の物理法則を書き換えながら、それを力に戦うのです。この空間は十分な質量があり、エネルギーの粒子に満ちています。それら『ライトフォース』と呼ばれる力、剣気を刀身に集約させることで、こんな木っ端でも十分な業物となり、ウィルハルト様のアダマン装甲にすら傷を入れることが出来るようになります」
 そういうとエストは手にした木刀で、脇にあるアダマン製の支柱を、音も立てずに、磨いた鏡のように美しい切断面を残し、二つに裂いてみせた。
 刹那、
 
  ズシンッ!!
 
 と重い音を立て、鉄の数倍の重さを持つアダマンの柱の上部が、エストの足元に転がった。
「さあ、ウィルハルト様、私に向かって打ち込んでみて下さい。本気でお願いしますよ、私も本気なので手を抜かれると、ウィルハルト様にお怪我させないとは言い切れませんので。刀身にのみ集中して、剣気を高めるのです」
「うん、やってみるよ、エスト」
 そう言うとウィルハルトは、常人には目にもとまらぬスピードで間合いを詰め、風を切る速さでアダマンの剣をエストに振り下ろす!!
 ・・・しかし、接触音がない。
 じっと動かないエストに、ウィルハルトの剣は木綿の繊維すら裂くことも出来ず、その剣先は何かに押し込まれるような抵抗を受け、プルプルと震えていた。
 エストは、右肩の辺りにウィルハルトの剣を乗せたままの格好で、ウィルハルトにこう言った。
「まあ、悪くない打ち込みだとは思います。私の剣気が生み出した薄い膜のような盾が、目に見えなくても手の感覚でお分かりいただけると思います。私は今、練成した剣気を防御に振り分けているのですが、同じとは行かなくとも、私のそれに迫る剣気を練ることが出来なくては、ウィルハルト様のアダマンの剣はその耐久限界に達し、粉々に砕け散ってしまうでしょう。では、私も軽く打ち返してみますので、今度は剣気を防御に集中してみて下さい」
 エストがそう言うと、ウィルハルトは真剣な表情で、剣を構えなおす。
「では、いきます」
 エストがウィルハルトの視界から消える!

  ボンッ!!

 と大きな音を立てて青い爆煙が撒き散らされる。
 その煙の中、木刀を前に突き出したエストの姿が浮かんできたが、そこにウィルハルトの姿がない。
 
  ガハッ、ガハッ!

 と、吐血しながら咳き込むウィルハルトがいたのは、遥か20メートルは先にある壁の前だった。
 背中を壁に強く打ちつけられたウィルハルトの右手には、刀身を無くした剣の柄が握られている。青い煙の正体は、塵となって砕け散ったウィルハルトの剣であった。
「やはりウィルハルト様は飲み込みが早いですね。以前はフルプレートごと持っていかれていたというのに、破壊を刀身のみで免れるとは。とても、戦士レベル50の腕とは思えぬ技量。この調子だと、2、30程度のある私とのレベル差も、そう遠くはない日に埋まってしまうことでしょうね」
「ごほっ、ごほっ・・・。ありがとう、エスト。爺や他の家臣たちは、パパの目を気にしてこんなに激しい訓練はしてくれないから。ボクも早く強くなって、みんなの役に立ちたいから」
 にこやかにそう語るウィルハルトは、口元を流れる鮮血を金属の袖で拭いながら、ゆっくり立ち上がると、エストに向かって軽く一礼した。
「微力ながらこのエストが、いつでもお相手つかまつります」
 黒の瞳を満足そうに輝かせるウィルハルトに、エストは柔らかい表情で微笑みかえした。
(いっくら、こんだけ出来すぎな王子様でも、あんまり弱っちいのはちょっとねぇ。まあ、遺伝子がいいのか、才能は抜群みたいなんで、いくらでも鍛えて差し上げますわよ。どうせ、この超大国ティヴァーテごと私のモノにする予定だし、鍛えておいて損はないからね。・・・にっしっしっ)

 エストたちが鍛錬に励む、ちょうどその時刻。
 バルマードは、謁見の間の少し奥にある王の居室に、めずらしい客人を招き、趣味で入れた自家栽培のコーヒーを振舞っていた。
「剣王陛下、ミルクと砂糖も欲しいんですが」
 客の銀髪の男は、そう言ってバルマードの方をみると、ニヤリとしてバルマードはこう返す。
「ダメだよ~、コーヒーは豆を楽しまないと。あと、ケーキとかも出ないからね。おかわりなら、何杯でもOKだけど」
 挽きたて珈琲のとてもいい香りが立ち込める一室。
 室内は、割合フランクな感じの造りで、一国の王の部屋という感じはまるでない。
 部屋にはギターやら、油絵用のイーゼルなど、雑多なものが置かれ、古い木彫のラジオからは、小気味良いジャズが流れている。雑誌などもラックに置かれており、さながら小さな珈琲店といった様子だ。
「剣王陛下、」
「ああ、そういう呼び方は遠慮してくれないかな。二人きりなんだし、気楽にバルマードでいいよ。あと、マスターとかでもいいなぁ。いやね、身分的にお店とか開けないんで、そう呼ばれてはみたいと思っちゃいるんだよ」
 バルマードはにこやかに銀髪の男にそう言うと、男はさすがに剣王をマスターってのは、といった感じで頭を掻きながら、とりあえずバルマード殿と呼ぶことにした。
 銀髪の男は、バルマードより少し背丈が小さいが、それでも180センチは超えている。体格もよく、腕利きの傭兵といった雰囲気を持っている。
 顔の方は、中の上といったくらいで、さすがに華のあるウィルハルトなどと比べると、ごく普通といった言葉しか出てこない。歳は30半ば、口元が少しニヤついた感じのする男だが、なんとなく憎めないオーラは漂っている。
 その銀髪の青年に、バルマードは自慢のコーヒーを勧めながら、彼にこう尋ねた。
「ところで、エストちゃんを我が国の国境に運んできたが、スレク公国の騎士ではなく、なんで君だったのかな? 確かにスレク公国に大規模な厄災が降りかかったのは知っているし、フォルミの戦士がそれを鎮圧したのには正直驚いた。私も発生を知り、ギーガ討伐に出向く準備をしていたところだったからね」
 バルマードの問いに、銀髪の男は少しだけ間を置くと、一口、コーヒーを口に運んでこう答えた。
「まあ、隠しても見抜かれてしまうでしょうし、ぶっちゃけて話しますけど、私が公女様を見つけた時には騎士隊は全滅。公女様ただお一人が、ギーガの群れ相手に剣を振るって奮戦していた所を、たまたま助太刀したわけです。さすがにあれ程のギーガを放置しておけば、大陸に大きな爪痕が残りますし、我が主はそれをお望みではない。と、スレク公国に向かっていたら、フォルミの戦士のお陰で出番なしです。いやぁ、私もかなりの驚きでしたよ、私やバルマード殿クラスの戦士がフォルミにいたことがです」
 銀髪の言うことに、バルマードはうむと頷いた。
「そうだねぇ、私や君のようなマスタークラス級の戦士がフォルミにいるとなると、大陸の勢力バランスは大きく塗り変わることになるねぇ。エストちゃんには悪いが、いくらかの公国が神聖不可侵だったとはいえ、国を追われる類の話は今も昔もよくある話だから、私も大して気にしてもいなかったのだよ。そして、ティヴァーテを出た私の目の前に現れたのが、魔王四天王筆頭の君で、それでフォルミの戦士の話でしょ。フォルミ大公国の戦力評価の見直しも必要なワケで、もしかすると、平和ボケした我が国もフォルミの軍門に下る日が来るかも知れないから、ネ」
 まさかティヴァーテが、フォルミ程度に負けるハズも無いと、銀髪の男は軽く首を横に振ってみせる。
 一呼吸おいた後、銀髪の男はコーヒーカップを受け皿に置いて、バルマードにこう言った。
「我が主、魔王ディナス陛下におかれましても、大陸の平穏を望んでいらっしゃるわけですし、その為にも我ら魔王軍は人間たちの結束を強める仮想敵として存在しているのですから。ギーガも魔物と悪魔か言われて、私らが送り込んでるみたいになってますけど、その程度の汚名で、母なる大陸が安定するなら、何言われても構いはしないんですがネ。一応、私としても出来るだけ正確な各国の戦力比を調べておきたいんで、今後はちょこちょこ、ティヴァーテにも寄らせていただきますんで、私の事は是非、ご内密に」
 そう言って、人差し指を唇に当ててウインクした銀髪の男に対し、バルマードは笑いながら笑顔でこう答えた。
「ハッハッハッ、さすがに四天王筆頭のマイオスト卿がこの辺をうろついているのを知られたら、大騒ぎ確定だろうからね。まあ、うっかり屋の私だが、口が滑らないように気を付けておくとするよ」

   Ⅳ

 訓練でいい汗を流したエストとウィルハルトの二人は、普段の格好に着替え、午後のティータイムでも楽しむべく、城内のテラスの方へとおしゃべりをしながら歩いていた。
 二人はお似合いのカップルというよりは、男装の麗人と白いドレスの美少女といった感じで、殺風景な城の石畳の回廊も、麗しい二人の姿で華やいで見える。
 歌劇団のトップスターと女性花形を見るような感じで、メイドや兵士たちも彼らの姿に目を奪われている、そんな感じだ。
 そんな二人が城のテラスに着いた時、すでに先客の銀髪男が一人、ケーキやらパフェやら甘い物をこれでもかと言うくらい円形のテーブルに広げ、口の中にむしゃむしゃと頬張っていた。
「!?」
 エストはその銀髪の男に気付いて、ハッとした表情で少し固まった。
 ウィルハルトに場所を変えようとエストが声をかけようとしたその時、エストは銀髪の男、マイオストと目が合ってしまう。
「これはこれは、公女様に、あと、そちらはウィルハルト王子かな?」
 表情がこわばるエストに、マイオストはニヤリと一瞬ほくそえんだ後、一緒に食べようとばかりにウィルハルトに向かって手招きをする。
「誘っていただいてるみたいだし、ご一緒しようか、エスト」
 天使の微笑みを見せるウィルハルトに、エストは流されるように半強制でマイオストの待つ席に着かされた。
 マイオストはウェイトレスに向かって二人分のオーダーを追加すると、じっくりとウィルハルトの顔を眺め、その後、ちらっとエストを見て、また視線をウィルハルトの方へ戻し、こう話し始めた。
「いやー、王子はほんとに美形だね。エスト姫と比較しちゃ悪いが、姫が普通の子に見えて仕方がないくらいの美人さんだ。王子は100%、母親の遺伝子を受け継いだって感じだ。いや、それ以上かもしれないなあ」
「母さまの事をご存知なのですか?」
 母親の記憶の薄いウィルハルトにとって、それはとても気になる話であった。知っているのであれば是非、聞かせてもらいたいと、黒い瞳を輝かせて訴えるウィルハルトに、それを察したマイオストは、思い出すようにしてこう答えた。
「うーん、君のお母上はノウエルの薔薇姫とも呼ばれる絶世の美女でね、ノウエル皇帝の養女だったんだが、バルマード王に強く憧れてて。・・・あ、話、少し長くなるけどいい?」
「お、お願いします!」
 興味津々でその身を乗り出すウィルハルトに、エストはしょうがないといった感じで付き合うことにした。ウィルハルトの母親のことも知っておいて損はないと考えたのか、なるだけマイオストと目を合わさないような姿勢で、話の先を聞くことにした。
「お母上は性格も良く、やや内気なとこもあって、そこがまた凄く可愛らしい方だったんだけど、運の悪いっていうのかなぁ。当時、ノウエル王家にはもう一人、プラチナの髪を持つ美姫がいて、スーパーな美人さんなのに、気取ったとこがなくて、すごく気さくで明るい、まるで太陽のようなお姫様だったねぇ」
 乗り出した身をじりじりとマイオストの方へ寄せるウィルハルトの姿を見て、マイオストは話を続ける。
「太陽のように明るいその姫様は、名をノルンと言ってね、そのあまりの眩さにノウエルの女神とさえ称されていた。ノルン姫はバルマード王の初恋の相手でね、その彼女には他にも大国のガルトラント王や他の諸侯たちも恋焦がれていたねぇ。内気なお母上は、若き剣王・バルマード王に声すらかけることが出来ず、まあ、ノルン姫とお母上のレイラ姫とは血は繋がってはいなかったものの、とても仲良しでありまして。ノルン姫が結局、バルマード王とお母上を強引にくっつけたというか、ノルン姫がバルマード王にゾウを卒倒させる程強力な睡眠薬を仕込んで、爆睡してる彼を、ノルン姫は肩に軽々担いでレイラ姫の寝所にブン投げて。後は、根性のないレイラ姫の首筋に、ノルン姫がチョップを入れて気絶させると、あら、朝、目が覚めると二人は床を同じにしてました!? ・・・みたいなシチュエーションにして。責任感の強いバルマード王は、即座にレイラ姫に求婚して、めでたし、めでたし。・・・めでたしだよね?」
 エストはテーブルの脇のほうで、その手もあるかといった具合でメモを取り出した。
 ウィルハルトは父がその話をしてくれなかった理由を知ってか、クスクスと笑っていた。
 割とおしゃべりな感のあるマイオストは、今度はエストでもいじってやるかと、急に話題を変え、矢先をエストへと向けた。
「そういえば、エスト姫も随分と、しおらしくなられたというか、前と別人だよね?」
 エストは、「始まったか!!」、といった感じでとっさに身構える。
 この男は、エストの本性を知っている、いわば天敵である。
 語らせてなるものかと、エストまた、話題を変えようと急に切り出した。
「そういえば、紹介がまだでしたね。この人は、私の命の恩人で、その名を「マスオスト」さんという、住所不定の風来坊さんです。「マスオさん」の愛称で、人々から親しまれる、とぉーーーっても、いい人です」
「マ、マスオさん!?」
 いきなり名前を改名させられたマイオストの耳元で、エストはすかさず囁いた。
(ちょっとあんた、ここでマイオストって名乗れる訳ないでしょ、あんた自分で、私は魔王の四天王ですよって触れ回る気? あんたならやりかねないし、四天王なんて迫力もまるでないけど、高レベルの戦士には、本気で見抜かれるから、私の付けたあげた名前に感謝しなさい!!! 元の名前に似てるから、違和感なく使えるでしょうが)
 マスオストさんとなってしまったマイオストは、複雑な面持ちで目の前のスウィーツ類を眺めていた。
 そのマスオストさんに向かって、ウィルハルトは満面の笑みでこう感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます、マスオさん! 母さまのお話が聞けて、とても嬉しかったです。ここのお代はボクが全部持ちますので、遠慮せずにどんどん食べてくださいね。おねーさん! マスオさんにパフェ盛デラックスを一つ! あと、それとボクは小倉パンケーキをくださーい!」
「かしこまりましたー!!」
 人気スウィーツショップ『モンブランシェ・ティヴァーテ城支店』のウェイトレスが、快活な返事で厨房へと入ると、ものの数分で特大パフェとパンケーキがテーブルへと運ばれてきた。
「いつもご利用いただきありがとうございます、王子。パンケーキの、抹茶アイスもプラスしておきました」
「ありがとーっ」
 にこにこしながら好物のパンケーキに、ナイフとフォークを入れるウィルハルト。そのウィルハルトの目の前には、顔が隠れてしまいそうな巨大なパフェが置かれる。
「マスオ様。こちら、特製パフェ盛デラックスになりますー!」
 目の前に置かれた巨大な塔を呆然と見上げるマイオスト。
 店側のサービスなのか、その頂きのチョコには、「マスオさんへ、王子より」とご丁寧に描かれていた。
 マイオストは、そのチョコに描かれた自分の名前の部分だけ先に舐め取ると、黙々とエストの方を見ながら、スプーンを手に、塔の解体作業を始めた。
 そのあまりの美味さのせいか、マイオストの頬を一筋の光が伝った。
「へぇー、泣くほど美味いんだ」
 にやけたエストの一言に、マイオストはモグモグと倍速で口を動かし、こう返した。
「美味いよ!! めちゃくちゃ美味いからね。あげないからね、絶対あげないからね!!」

 午後のティータイムを終えたエストは、そこでウィルハルトと別れ、マイオストを人気のない、城の武器庫へと連れ込んだ。
 有事には慌ただしくなるこの部屋だが、普段はエストが戦士用の剣などを取りに来るくらいで、割と広い縦長の室内には兵士用の長銃や槍などが立てかけられてある。
 声は響くが、外には漏れにくいこの部屋で、エストは石壁にマイオストを追い詰め、右手をズンッ! と強く突き出すと、ドスのきいた声で、ああん? とガンくれながら、マイオストににじり寄った。
「んで、何で魔王四天王ともあろうマスオさんがぁ・・・、人気の多いティヴァーテなんかをうろついているのですかー? そんなにヒマなわけ? 魔王軍の四天王って」
 まあまあ、落ち着いてといった感じで、エストをなだめるマイオストだが、自分の素をバラしかねない軽口のこの男に、エストは眉間にしわを寄せ、釘を刺そうとマイオストの耳元で冷たい声で囁く。
「言ったらコロス」
「ちょ、直球だなぁ。・・・言わないって、信じて。誰もエストちゃんが腹黒で、守銭奴で、カオスな性格で、人を踏み台にしてまで頂点を目指そうとする悪女だなんて。私の記憶の中でも、史上稀に見る悪どさで、越後屋やお代官様なんてあんなのチョイ悪にしか見えない、本物の悪の権化だなんて。そんなの言えるわけないじゃないか。(・・・どこかに書き込んでやったら、面白いかな。口で言うわけでもないし)」
 エストが無言で左手を勢い良く突き出すと、マイオストの首の後ろの石壁に直径30センチほどのひび割れが出来た。
 まるで砂でも握り潰すように、エストの左拳に握られた石の塊をバンッと粉砕すると、さすがのマイオストも冷や汗が出た。
「よくもまあ、ペラペラと・・・」
「まま、落ち着いて。必要なら誓約書でも何でも書くから。・・・まだ人生やり残したことだらけだし、君も魔王の四天王の私なんか倒して勇者様になったりしたら、嫁の貰い手もなくなっちゃうよ。それはゴツ過ぎるでしょ、ねっ?」
「フン、あんたをヤる時は、偽名を使うか」
 エストも、まあこれくらいシメておけばいいかと、脇にある木箱に腰を下ろし、足を組んだ。
 マイオストもホッとした表情で胸をなでおろすと、書き込みの方もやめておこうと心に誓った。
 マイオストほどの実力者になると、彼女をブチ切れるほど本気にさせたら、命がいくつあっても足らないと、そう直感したのも理由にあった。
「昔の君は、まるで天使のように気高い乙女で、クリスタルのように澄み切った心の持ち主だったけど、人ってのは、時で変わるもんだねぇ・・・」
「ハァ? あんたと出会ったのは、ほんの二ヶ月前でしょ。たった二ヶ月で私はそこまで落ちたとでも言いたいの!?」
 ジロッと睨みつけるエストに、マイオストは慌てて、違う違うと手を振る。
「あ、いや、気にしないで。時々、妄想癖があって、だったらいいなって。うん、独り言だよ、うんうん」
「まあ、あんたみたいなアホと本気で付き合ったらキリがないから、そんなのどーでもいいけど。それにしてもあんたら四天王ってそんなにヒマなの? あのどアホっぽいの、『ためぞう』だったっけ? あんた以外の四天王も、うろちょろしてるし」
「ああ、四天王のエルランゼのことね、確かに彼の本名は、ためぞうだけど。彼は特別かなぁ・・・。世界のいい女を数多、自分のモノにして、モテまくってやるっていつも息巻いてて、自分で穴を掘っては落ちるという。世話役のリリス君もいい迷惑だろうねぇ」
 マイオストの言う、リリスという名前の人物がエストには心当たりがあったようで、エストはマイオストにこう問い返した。
「ああ、あのバカのためぞうの後ろにいた、青いショートヘアのクールビューティね。すんごい美人で驚いたけど、あの人もアホなの?」
「あ、いやいや。彼女は幸薄いっていうか、エルランゼ(ためぞう)の親父さんに息子の世話任されてるっぽくて、いろいろ振り回されているというか、凄く律儀な人で、エルランゼと違って、実はモテモテで求婚されまくりなんだけど、全てお断りしてるっていうか。役目に忠実というか。それが災って、不幸のスパイラルから抜け出せない人みたいな」
「ふーん」
 エストは、自分の栄達への障害となる人物を潰していくタイプの人間なので、ウィルハルトが誘惑されそうな美女は一人でも多く排除しておきたいという考えで、ためぞうとは別の意味でいい女リストを頭の中に作っている。
 その中からリリスのページに『無害』というハンコが押された。
「まあ、私の野望に直接関係ない女は、生かしておいてあげるわ。手当たり次第に相手してたら、年齢的にオバサンになってしまうし、そんな時間の浪費も避けたいところよね。んで、一応、天下の四天王で、男のあんたに聞いておきたいんだけど、ウィルハルト王子を落とすにはどうしたらいいと思う? あの人、ほわ~んてしてるっていうか、つかみ所がないっていうか」
「そうだねぇ、あれだけ自分が美形だと、美しさとかにはあんま興味ないかもね。言っちゃ悪いが君より遥かに美人さんだし、王子の美形はメヂィアで天下に知れ渡っている(私もグッズとか持ってるし)。うーん、そっちの方で頑張るより、ずーっと王子に張り付いてて、そして当たり前の存在になって、それは空気のようで、でも温度はある。そして、フッと、いなくなった時に君の存在の大きさを感じるというか。そのあまりの喪失感が、失うことを怖がらせるというか。だいたいそういうもんでしょ? うんと、「恋」ってのは、その人の特徴、顔とかスタイルとか楽しさとか、いわゆる雰囲気が好きなわけで、それはいずれ飽きが来る。でも、「愛」っていうのは、さっきも言ったように、その人を普段は空気のように自然に感じていて、だけど突然、それを失った時、初めて存在の大きさを知るというか、心に大きな穴が開くというか。だから、必死になるんじゃないかな。愛を失いかけたその時に」
 エストは、なるほどといった感じでメモを取っている。
 無駄に長く生きてないわねと、マイオストにちょっとだけ関心するエストだった。
「んで、マスオさん。マスオさんには、彼女とかいるの?」
「ハッハッハッ、いるわけないじゃないか。だから私は、ヤマモト・マリアンヌ氏の恋愛マンガや小説で日々、勉強中なわけだよ」
「ハァ、・・・人の言葉を借りて話したわけね。」
 エストは肩を落として、ため息を付きつつも、マイオストにその本を全巻貸せと要求するのだった。
「OK,そのうち500冊ばっか、持ってくるよ」
「そ、そんなにあんの!?」
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ダークフォース 第一章 Ⅴ

2009年08月04日 22時44分59秒 | ダークフォース 第一章
   Ⅴ

 フォルミ大公国。
 大陸の南東に位置する商業盛んな国家で、ティヴァーテ剣王国やレムローズ王国、ガルトラントといった列強に迫るほどの国力の増強を、現大公レオクス・フォルミは一代で成し遂げた。
 レオクス公は謎の多い人物で、普段はビロードの外套で全身を包み、顔すら見せないほど深々とフードをかぶっている。
 年齢不詳。
 大公家の騎士たちですら、その顔を知らぬ秘密主義者で、普段、彼のいる「大公の間」には、重臣たちでさえ滅多に立ち入ることを許さない。
 薄暗く蝋燭の灯りで照らされたその室内に、今日もビロードの外套の男はいた。
 室内は、他の王室の謁見の間にも負けぬ豪奢な飾りが施されており、かなりの空間が広がっていることがわかる。
 ただ、外界からの明かりは、ほぼ完全に遮断されており、そのおかげでこの広間では時の流れを感じることも出来ない。
 室内には、他に二人の人影がある。
 殻に閉じこもったように孤独を好むレオクスの、その脇に立つ一人の赤い髪の女性。
 見た目は二十歳前後で、切なげな表情をしているが、類まれな容姿の持ち主であることが、この薄暗い部屋の明かりでも十分にわかる。
 もう一方の人物は、スレク公国に現れた金髪の戦士リシアである。
 長椅子に肘を付いて横たわる、大公レオクス。
 その階下の縦に伸びた赤い絨毯の上で、深く頭を垂れるリシアに向かって、レオクスはこう言った。
「スレク公国の件をあまり気に病むでない。むしろ、あれほどのギーガを相手にし、闇の門を封じた事、見事ではないか」
「しかし、殿下。・・・私は当初の目的も果たせず、エスト様を殿下の元にお連れすることも出来ぬばかりか、かのティヴァーテに姫を渡してしまう有様」
 リシアは苦虫を噛み潰したような表情で、顔も上げることなくレオクスにそう答えた。
 レオクスは言う。
「バルマード剣王が出てきたのでは、そちには荷が勝ちすぎるというもの。それに、四天王筆頭のマイオスト。二人ものマスタークラスを相手に立ち合える者など、大陸広しといえど、誰もおるまい。それが出来れば、それは神の業だ」
「殿下・・・」
 レオクスはおもむろに立ち上がり、手を後ろに組んでこう言った。
「時間はある。急いては事を仕損じるばかりか、道さえ見失いかねない。神聖不可侵の誓いを破り、皇帝を敵に回したとて、それは当初の予定通り。・・・むしろ、スレク公国の民の安寧を、いち早く取り戻さなければならぬ。支援物資や食糧は足りておるのか? 足らぬならばいくらでも国庫を使って構わぬ。周辺地域の治安を守らせ、守備兵が足らぬなら我が国の治安軍を派遣せよ。知らぬ事とはいえ、古塔にあのような仕掛けがあったとは・・・。人々の命を脅かしたのは間違いなく私に責任がある。大軍と、強戦士リシアを以って一気に降伏を促す策であったが、禁忌を持ちいらせるはめになるとは、な。我が身の未熟さよ」
 レオクスの脇に立つ赤い髪の美女が、切なげな表情を微笑みに変え、そっとレオクスに声をかけた。
「レオクス様はお優しい。かつての私が貴方様に救われたように、皆が貴方様の事を誇りに、愛しく思えるようになる日が、一日も早く訪れる事を心より願っております」
「エリク殿、私は貴女が思うほど気高い人物でもなく、姉の力を頼りにしようとする軟弱者です。そんな私に付いてきてくれる貴女の存在には、大きく救われるところです」
 そう言ってレオクスは、エリクと呼ばれた女性に一礼した。
 エリクの名で呼ばれた彼女こそ、ティヴァーテ剣王国と並び称されるほどの大陸北東の大国、レムローズ王国の女王、エリク=レムローズその人である。
 レムローズ家の稀代の才女である彼女は、知勇兼備にして、その戦士レベルも95と非常に高い。
 マスタークラスと対等に渡り合えるほどの戦士にして、絶世の美姫。しかし、彼女はその実力をひた隠し、国の一切を名将と名高いハイゼン候に一任し、レオクスの元に単身、身を寄せていた。
 それは数年前に起こったある事件がきっかけであるが、その件については後に詳しく触れる事になる。
 リシアには、壇上の上の二人が眩しくて仕方なかった。
 物心付いた頃には、ギーガ戦による戦火で家や家族、そして自分の名前すらもショックから失ってしまった自分を、その両腕に抱きかかえ、フードの下からのぞく口元で微笑みかけてくれたレオクス。
 自分に「リシア」という、北の空の女神の名を与え、この紫水晶の館(通称、アメジストガーデンと呼ばれる大公の居城)に居場所をくれた、まさにリシアにとって太陽とも呼べる孤高の君主。
 彼女にとって、レオクスは世界の全てである。
 その彼の脇に、エリク女王のように並び立つことが出来たならば、どんなに素晴らしい事だろう。別にエリクに嫉妬などしているわけではない。自分が全ての面において、レムローズの薔薇姫と謳われる彼女に劣っているのも十分に理解していた。
 ただ一つ、誰にも負けぬと言えることがあるとすれは、それは絶対の忠誠心。
 レオクスはリシアに、戦士としての険しき道も、自身に対する対価としての忠誠も、何一つ求めてはいない。
 むしろ、一人の少女として平穏にこのフォルミで暮らしてゆけばいいと、今もそう願っている。
 リシアはそんなレオクスの心遣いが、痛いほど胸に響いていた。
 胸に響けば響くほど、余計に彼の役に立ちたいと、何者から畏怖されようとも彼の為ならば戦場を駆ける鬼神となれた。
「レオクス様・・・」
 レオクスに聞こえないほど小さな声で、リシアはそっと呟いた。これが、今の彼女に出来る、精一杯の愛情表現であった。

 アメジストガーデンと呼ばれる大公の館の外観は、その大公の間の暗いイメージとはかけ離れた、非常に優雅な造りで、美しき庭には鮮やかに花々が咲き乱れ、アメジストの彫像や壁一面に施された細工は、大公家の隆盛を象徴するかのように豪華で絢爛である。
 夢に描かれたような風景をまさにそのまま切り取ったようなこの庭は、休日ともなれば一般市民にも開放される為、フォルミ国民の憩いと安らぎの場としても人気があった。
 大公レオクスは、国民の前にこそさほど姿を現さないが、規律と自由を両立させる抜群の政治手腕の持ち主で、治安も良好。
 寛大な性格で、飢えた者には食事と仕事を与え、国立のあらゆる施設を市民に開放し、国と民との距離感を大きく縮める事を成功させていた。
 大公の為なら誰もがその手に剣を握り、国の為に戦う。
 それほど、レオクスの人気は絶大であった。
 そのレオクスをひたむきに想い続ける一人の少女の姿が、アメジストガーデンの脇の方にある大理石で出来た噴水の傍らに、身をかがめるような姿で見て取れた。
 先ほどの金髪の少女、リシアである。
 平日はこの庭も、警備の衛兵や庭師くらいの姿がポツリと見えるくらいで、人気はほとんどない。
 リシアは、その中でも少々寂しいとも言える場所で、大理石の窪みを利用して作られた、水鏡に映る自分の顔に、ハァ・・・っとため息を吹きかけていた。
 そのリシアから、かなり離れた位置の茂みの中で、ガサガサッという音と共に、携帯型の望遠鏡が突き出された。
「うひょ~~~~っ、美少女おぼこ娘発見!!」
 そう叫んだ、黒マントに金髪の冴えない顔をした男は、胸のポケットの奥から何やら『酒池肉林絶倫計画書』と記されたメモ帳に、いそいそとペンを走らせ、やや興奮気味に金髪の美少女、リシアの特徴を入念に書き込んでいた。
 その覗き魔の後ろに、やはり茂みに隠れるようにして身をかがめる、青いショートヘアのクールビューティは、ため息混じりに男にこう呟いた。
「ねえ、エルランゼ。早く帰ろう・・・。開放日でもない今日、衛兵に見つかるとまた面倒なことになるわよ」
「何を言う、リリス。だいたいオレはお前に付いて来いなんて、一言もいっちゃいねーぞ。帰るなら、一人で帰れ、行き遅れ」
「誰が行き遅れですってぇ~~~!! シメるわよ、ためぞう!!!」
 リリスと呼ばれた女性は痛いところを付かれたのか、逆上してそう食いかかった。
「ああもう、うるさいなぁ・・・。お前のせいで衛兵に見つかりそうではないか。ほれ、ほっかむりやるから、それでも被って大人しくしてろ。てか、嫌なら帰れ」
 と、懐に手を突っ込んで黒いほっかむりを取り出すこの男こそ、魔王四天王にして、唯一、マスタークラスに到達していないダメ四天王、「ためぞう」である。
「実名言うなっつーの、つか、エルランゼだからね! 弱くないからね、戦士レベルも93と割と強いからね!!」
 親から貰った大切な名前を無理やり偽名で覆い隠し、四天王でありながら必殺技も持たず、腰に差す剣も名刀とは程遠い「銅のつるぎ」。
 普段から覗きが趣味で、その黒のマントも威厳を示すというよりは、女湯を覗くのに都合のいい感じに仕上がっているといった様子だ。
 まあ、あまり彼の事に触れなくとも、すぐに勇者か警察官辺りに討伐されてしまいそうなので、この辺で説明は終える。
「終えんなよ、つか、オレは天下統一するまで止まらねえよッ!」
「そんな、田舎のヤンキーみたいなこと言ってる時点で先が見えるわよ、ためぞう」
「やあ、二人とも、相変わらずだねえ。夫婦漫才、もっと続ける?」
 そう言って、のそっと現れたのは、銀髪の四天王マイオストだった。彼もためぞうよろしく、覗き用の望遠鏡を持参している。
「エルランゼ(ためぞう)もリリス君も、毎度、ご苦労な事だねえ。まあ、私も人のことは言えないが」
 マイオストはそう言うと、まるで獲物を狙う鷹のような鋭い眼光で、カスタム望遠鏡を覗き込み、照準を絞って口元をニヤリとさせた。
「私も覗き魔見たく言わないでよ。まったく、マイオストも」
 否定するリリスを無視して、覗き談義に花を咲かせるためぞうとマイオスト。もう、勝手にしてと、リリスはそっぽを向いてしまう。
「つか、マイオスト。お前の望遠鏡、すげーな。なあ、オレにも貸してくれよ。もしくは、オレのをカスタムしてくれよ」
「ああ、いいよ。今度、ファールス帰ったらしてあげるよ。ていうか、いいねぇ、リシアちゃん。木綿のドレスと服装は地味だけど、ちょっと頑張ってみましたって感じのスカートの裾のレース編みの解れ具合が、いかにもお手製って感じで、萌えるねえ・・・」
「さすがマイオスト! ふけえこと言うなあ。オレなんかチラリと垣間見る美脚に目を取られて、そんな細けぇとこまで見ちゃいねえ。つーか、糸の解れまでバッチリ見えんのかよ」
 魔王軍四天王が二人も雁首並べてこのザマに、リリスは現実から目を背けるようにして、鼻歌を歌いながら、晴れ晴れとした空の彼方を見上げていた。
「いやー、若いっていいねぇ・・・。水も弾くその肌のキメ細やかさに、オジサン、感動しています」
「ああ、その通りだぜ、マイオストのとっつあん。若さ最高! ピチッピチ最高ッ!!」
 若さ、若さと、当て付けるように連呼するバカ二人に、さすがにかかと落としくらい入れてやりたい気分になったリリスであったが、それはイコール、負けを認める行為なのがシャクに障るのか、拳を震わせ、身を震わせ、空の彼方にある天空の城・ファールスを、何事もないような表情で鼻歌混じりに探すリリスであった。
 ためぞうは、望遠鏡をたたんでサッと懐奥に忍ばせると、徐に立ち上がり、胸を張ってこうほざいた。
「うひょひょ、世界の主人公であるこのオレこそ、えっと、リシアちゃんだっけ? 北の空の女神を手に入れる資格があるってなもんよ!! と、オレはそういう事で、彼女にアタックしてみようと思うわけだ。いきなりゲットは無理でも、フラグ(恋愛対象のポイントスタンプみたいな感じの意味)の一本くらいは立ててみせるさッ!」
 リリスはそうやって息巻くためぞうに、頭をカサカサと掻きながらこう言ってみせる。
「なに言ってんすか、やられる側の分際で!! 主人公というのはですね、古来より伝説の剣を携え、勇者と称えられ、絶賛されていい気分で全てを手にするヒーローの事を言うんですよ。質屋に質草取られまくって、お父様のくれた「名刀・備前オサフネ」まで質流れさせといて、銅のつるぎ一本で魔王の四天王を名乗ってるあなたが、恐れ多くも自分が世界の中心みたいなこと言っちゃって。プププのプですよ。(リリスはややネタが古い人)」
 聞く耳持たないためぞうは、胸に手を当て、オペラ歌手のような口調で、愛の歌を謳う。
「その娘の愛が得られるならば、私は喜んで悪にもなろう! ララ~、その娘の笑顔に出来るのなら、私は進んで道化(バカ)にもなろう!」
 リリスが耳をほじりながら、その指先をフゥっと吹くと、冷めた視線でためぞうに言った。
「何ですかソレ。悪たれで、バカちんなのは、そのまんまですから否定はしませんが。もう少し現実に目を向けていただけると、世話役の私も少しは救われるんですがネ」
「うひょひょ、有言実行! 漢なら当たって砕けてなんぼのもんよ!!」
 そう残してバカは、可憐な少女のいる方に一目散に駆け出していったが、案の定、衛兵に見つかり、・・・お縄に付いた。
「リリス君も大変だねぇ・・・彼のような上司を持って」
 同情を禁じえないマイオストの言葉に、ホロリと涙の浮かぶリリス。
「助けなくていいの?」
 マイオストの問いに、リリスは清々しい笑顔でこう答える。
「そこまでの人だったということで。ああ、これで子守りから開放され、私の第二の青春が幕を開けるのね・・・」
 苦労に苦労を重ねた苦労人のリリスに、それ以上かける言葉をマイオストは持ち合わせてはいなかった。
 マイオストとしても、ためぞうが欠けたところで魔王軍のダメージはゼロなので、自業自得と割り切ることにする。
 すると、ここで意外な展開が起こる。
 美少女リシアが、ためぞうの元に近寄り、衛兵たちに縄を解かせたのだ!!
 茂みに隠れる二人は、この成り行きを、しばらく見届けるようにした。
「だめですよ、今日はアメジストガーデンの開放日ではありませんから」
 なんとも優しい言葉がリシアの口から発せられた。
 リシアはためぞうの出で立ちから不審者であることは確信していたが、笑顔で衛兵たちを仕事に戻し、ためぞうに出口の方を指差してやった。
 普段、人から優しくしてもらったことのないためぞうは、リシアの言葉にいたく感激し、何とかこの場所に踏み止まる為のセリフを、無い知恵をオーバードライブモードに回転させ、リシアにこう答えたのだった。
「ユー、ミーと茶でも飲まない? 茶ッ」
 茂みの二人はよじれる腹を抱えながら沸きあがるものを必死に堪えていた。今、ここで爆笑したら続きが見れない。
 リシアは一瞬あっけに取られた顔をしたが、すぐに笑顔に戻って、クスクスと笑ってみせた。
「フフフッ、面白い方。あ、名も名乗らず笑うなんて、失礼しました。私、リシアと申します。名前負けしていますけど、宜しくお願いしますね」
「エ、エルランゼと言います!!」
 生まれて初めて女の子に優しくされたためぞうは、すっかり固まってしまっている。
 それも仕方が無い。リシアは本当に美しい少女なのだ。ミスコンだって10連覇くらい平気でやってしまいそうなくらい、国民的美少女である。
「まあ、魔王四天王と同じ名前なのですね」
「ハッハッハッ! 名前は同じでも中身は『勇者』ですから。ほら、銅のつるぎだってあるでしょ? 最初はコイツと100ドル、王様に貰って、まあ主に今はスライムなどをハントして生計を立てておりますぞ、リシア姫」
 リシアはためぞうを気に入ったのかニコニコと笑みを返し、姫なんてだいそれていると両手を可愛く振ってみせた。
 その光景の目の当たりにしたマイオストが、望遠鏡の奥に輝く銀の瞳を、さらにピキーン! と輝かせる。
「フ、フラグ立ったかッ!!!」
「えーーーーっ!!」
 ニヤつくマイオストと、つまらなそうな顔のリリス。
 マイオストから望遠鏡を奪い取ると、リリスは思わずこう口走った。
「あんただけ幸せになろうなんて、絶対許せない!!」
 そんな僻みはさておき、リシアは本気でためぞうにお茶をよばれる気になっていた。
 この展開に戸惑うためぞう。
 未経験ゾーンに突入した後のことなど、過去のフラレ経験から考えてもいなかった。
 お茶なんて、一体、何処で振舞えばいいのだ! フォルミの観光ガイドマップくらい頭に入れておくべきだったと、後悔ばかりが先を走る。
 すると、リシアの方から、行きつけの店でよければという誘いが来たではないか。
 ・・・話がうま過ぎる。こんな展開がいまかつてあっただろうか。いや、あるハズない。あったら今までの0勝1000敗の人生は一体なんだったのだ! と、心では思ってみるものの、やっぱりうまい話に流されたいためぞうであった。
「よ、ヨロシクお願いします!!」
「こちらこそ」
 陽光に照らされるリシアの笑顔が、ためぞうには天使のように眩しかった。
 アメジストガーデンの奥に、手を引かれるように誘われるためぞう。
 ためぞうが地獄に落ちることを期待(願い)しつつ、マイオストとリリスの追跡が、今、幕を開ける。
「あんたも地獄に落ちるのよ・・・」
「まあまあ、リリス君。殺気抑えて・・・」
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ダークフォース 第一章 Ⅵ

2009年08月04日 22時42分05秒 | ダークフォース 第一章
  Ⅵ

 フォルミ市街へとためぞうを連れ出したリシアが向かった先は、『モンブランシェ・フォルミ本店』と書かれた看板の、かなりの規模のスウィーツ&カフェの店だった。
 顔なじみなのか、リシアが来店すると同時に店の支配人と思しきジェントルメンが現れ、明らかにVIPルームであろう豪華な個室へと案内される。リシアは着席すると同時に、支配人風の男にいつものをと頼み、ためぞうに好みのものを聞いてきた。
「エルランゼ様は何になさいます? オススメはパティシエ特製の虹色ケーキとか、レトレアンティーなどがありますが、他にもドーラベルンコーヒーや、あと100種類ほどスイーツがございますが、甘いものが苦手な方用に、カツ丼とかカレーなんかもありますよ」
「・・・では、カツ丼と水で」
 リシアはコクリと頷くと、支配人風の男に「国産ブランド黒豚使用のカツ丼と、ガルトラント山脈の雪解け水の湧き水(150年物)」をと注文を伝えた。
 オーダーを取った彼が部屋を退室すると、リシアとためぞうは個室に二人っきりとなる。
 豪華過ぎる室内に、その雰囲気に慣れた感じの金髪の美少女と向き合って座ることになった、ためぞう。
 ためぞうにこの手の経験値などない。微笑むリシアに、何から話していいやらサッパリわからず、その空気の重さにためぞうは酸欠になりそうだった。
一秒がこうも長く感じられる瞬間など、そうあるものではない。
 ためぞうは必死に何か言わなければと、出来の悪いオツムを加熱させて言葉を捜す。
(いいか、落ち着けオレ。こんなチャンスをピンチにして、どーするんだ。マイオストのオッサンじゃこんな場合の対処法など知らんだろうし、リリスに至っては論外だ。誰に、オレの超高性能な思念波を送って、答えを貰えばいいんだ。100ドルやるから誰か、気の聞いたセリフの一つでも教えてくれぃ・・・。うっ! コテッ)
 ためぞうは、・・・倒れた。
 しかし、今日のためぞうは一日で一生分の運を使い果たしているのか、ウルトラ大吉なのか、なんと金髪の美少女の方から話を振ってきたのだ。
「私、男の方とこのお店に来たのって、実は初めてなんです。普段は館とメイドさんたちと来たりするんで、エルランゼ様とお話しが合わなかったらごめんなさいね」
 と、軽く両手を合わせてウインクするリシア。可愛さ120%のリシアの姿に、ためぞうはもうどうとでもなれ! っと割り切って玉砕覚悟で喋りだした。
「ハッハッハッ、オレなんか若白髪の中年や、行き遅れの三十路女なんかと、おでん屋や焼き鳥屋に呑みに行くくらいなんで、オレこそ若い子に話を合わせられるか自信はないっす」
「うふふっ・・・気持ちは同じだったんですね」
 とリシアに笑顔で振られたためぞうは、一気に緊張から開放され、その反動の大きさからか、リシアとの会話が楽しくて仕方なくなってきた。
 ためぞうは饒舌になって、世界がどうだの、金融危機がどうだの、競馬やパチスロがどうこうと、明らかに的外れな言葉をリシアに浴びせかけたが、リシアはしっかり話題についてくる頭のいい子だった。ちゃんとした意見を返してくるし、冗談も時折混ぜてくるし、そうこうしている間に、テーブルはオーダーしたスウィーツや飲み物、高級カツ丼などで華やかに彩られた。
「なるほど、それが虹色ケーキなわけね」
 七種類の異なる味わいと繊細な色使いが見事なケーキを、アメ細工が美しくアーチを架けるという手の込んだ作りで、見るだけで美味そうなのがためぞうにも容易に理解できた。
 レトレアンティーの上質な香りに満たされた室内に、ためぞうはカツ丼の蓋を開ける。
「う、うめーーーーーーっ」
 それはためぞうが、生まれて初めて口にした至高の一品だった。
 それまで、うまか棒くらいしか美味いものを知らなかったためぞうには、まさに目からウロコである。ガツガツとカツ丼をほお張るためぞうを、ほお杖ついて楽しそうに見つめるリシア。
「気に入ってもらえてよかったです」
「うん、美味い! なんかお冷もすんごい滑らかな口当たりで美味しいんだけど。やっぱ、フォルミ(都会)は違うねぇ・・・」
「私も、こんなに楽しいティータイムは、ほんと久しぶりです」
 無邪気に笑いながら、上品にスウィーツを口にするリシア姫と、カツ丼のおかわりを頼むためぞう。支払い額を心配しなくていいのかと突っ込んでやりたくもなるが、運のいいことにリシアの飲食代は同席者を含め、全てが大公の払いとなっていたりする。
 それが面白くないのは、二つ穴の開けられた障子の向こうにいる、銀髪中年と三十路女だった。店の調度品に穴を開けるマナー知らずの二人。
 歯軋り音を立てながら、リリスはマイオストに言った。
「なんで、なんであのバカが、よりにもよってあんなにもいい思いをしているわけ!? つか、あの子、何? 天使? どれだけ人がいいのよ! まったく、ためぞうなんかにあんなにサービスしちゃって、もう」
「わかるよ、リリス君。私も今まで、無意識の内に、自分より不幸なヤツがいるから、これまで自分は頑張ってこれたんだなって思っていたところだから」
「そう! 私を不幸にしている元凶が、あんなにもハッピーでだらしない顔をして、天使の微笑を受けているなんて、ヤツの転落を願って仕方ないくらいイラついてるわよ!!」
 二人はためぞうを尾行するために、見栄を張ってリシアたちの隣の部屋を取り、ついでに頼み方もわからないオーダーを、リシアの口真似の如く同じもの注文した為、後にとんでもない請求書を受け取ることになる。
 ついでに障子の穴も見つかって、最高級東方和紙の張替え代まで加算されるいう地獄を見る。それは、マイオストとリリスの給料三か月分という、何とも耐え難い出費であった。
 一方、紙一枚向こうの世界では、和やかな談笑が続いていた。
「私、エルランゼ様をお誘いして、ほんとに良かったと思っています。小さな事で悩んでいた私が、本当に人として小さかったんだなって、そう思えるんです。女の子同士の会話だと言えないことも、なにかこう気楽に話せてしまうというか。今日のケーキはいつもより、美味しく感じるんです」
「ああ、うまいねーーっ! オレなんかもうカツ丼四杯目にいっちゃいそうだよ。いやー、うまか棒しか美味いものを、行き遅れのヤツが教えてくれなかったもんで、カツ丼がこんなにも美味いなんて。オレ、取調べを受けないとカツ丼喰えないって思い込んじゃってたから、大分、人生損してるよなあ」
 そういいながらも豪快に食べまくるためぞうの姿に、リシアは本当に心が救われていた。
 レオクスの期待に応えようと過度の重圧を自分にかけていた事。叶わない場所にいるエリク女王に、嫉妬していたのだと気付かされた時、涙と笑いが両方出る感じに、奇妙な安らぎを感じていた。
 この、一見、無責任な黒マントの男に、人としての行き方の多彩さを教わるような気持ちだった。
 レオクスは、常に自分にこう声をかけていてくれたではないか。
 焦らなくていい、人のためを想うその行為こそ美しいのであって、結果は所詮結果でしかない。人を思うその行為の過程にこそ、清き心が宿るのであって、目的への到達はさらなる目的への始点でしかないのだ、と。
 リシアはおおよそレオクスとは対極に位置するこの男だからこそ、自分の求めていた答えの一つを自分にくれたのではないだろうかと、彼との出会いに感謝し、好意的な想いで目の前の一人の男を見つめることが出来た。
 作り笑いではない、本当の笑顔。
 この笑顔をレオクスに、いや、エリクや他の人たちにも自然に出せたらどんなにか素晴らしいことだろうと、常に自然体のこの男を目の当たりにして、そう思い至ることができた。
「エルランゼ様、口元におべんと付いてますよ」
 そう言ってリシアは、ためぞうの口元についたご飯粒を、人差し指で優しく取って、ぺロッと口の中に運んで、はにかんで見せた。
「うひょひょ、萌えますのう!! 今度は直接口でペロッてやってくれない?」
「えっ!? あ・・・それはちょっと」
 カーーーッ、と顔が朱色に染まるリシアを見て、ためぞうはたいそうご満悦な様子だった。
 その紙一枚向こうでうごめく、ドス黒い嫉妬心の渦に気付くことも無く、ためぞうはリシアとすっかり打ち解けて、うひょうひょ笑っている。
「あーー、マイオストさん。私、あのバカをす巻きにして、グレートフォールの滝の奥底に叩き込んでやりたい気分ですわ・・・ハハハ」
「うーん、エルランゼには悪いけど、その時はリリス君に協力するよ。ハハハハハ・・・」

 アメジストガーデンが、淡いオレンジの光に照らされる時刻。庭は昼間とはまた違った美しさを放ち、見る者に安らぎを与える優しい色で、その場にいる者たちを等しく包み込んでいた。
 リシアはこの庭に帰って来た時、その時間流れた時の速さに少し驚いていた。
 彼女にとって、そんな経験は戦場を駆ける時くらいしか体感できないものだったからである。
 リシアは自分の生まれた月日を覚えてはいないが、おそらく十四、五歳の年齢である彼女には、年頃の娘が経験するであろう、淡い青春めいたものもなく、ただ国家の安全とレオクスの為を想い、身を粉にしてギーガ討伐や戦争に関わってきた記憶しかない。
 きっかけは小さかったかも知れないが、ごまかしでない自由というものを僅かでも感じ取れたこの数時間というものが、リシアにアメジストガーデンをこんなにも美しく、華やいだものに感じさせていた。
「また来てくれると嬉しいな。魔王軍四天王、エルランゼ殿下」
 リシアは始めから、ためぞうの正体など見抜いていた。
 リシアほどの戦士であれば、相手が実力を隠していたとしようが、実戦の勘が彼女にそれを告げるのだ。リシアはためぞうの戦士レベルが93である事も、他の怪しい二人が、マスタークラスの戦士一名と、レベル89の戦士である事にも気付いていた。
 レオクスをこの命に賭けて守りたいというリシアの強い想いが、彼女の探知能力を極限にまで磨き上げていたと言っていいかも知れない。
 リシアは戦士として心構えは、かの偉大なる剣王バルマードにすら引けを取らないほど、優秀で凛としていると言えた。
 ただ、彼女に戦士としての弱点があるとすれば、それは純粋すぎるが故の優しさかも知れない。
 先のスレク公国の戦乱でも彼女がその手にかけたのは、たったの二人。歴史的過ちを犯したスレク公(彼の大罪を知るものはレオクスなど、ごく限られた人物のみ。後にそれは公のものとなるが)と、禁忌を使用した騎士のみである。
 味方の盾となり、攻撃を一身に集める彼女の戦い方は、バルマードらに言わせれば実力の浪費である。自分が倒れることが、味方により多くの、壊滅的な打撃を与えるのだという事を理解できれば、彼女の戦い方の無茶ぶりも、若さや甘さといった言葉で軽く切り捨てられる。
 将軍としてのリシアは、そういう意味では未熟であった。
 レオクスはそんな彼女を諭すような真似はせず、ただじっと彼女を見守り、出来れば戦士としての道よりも、一人の少女として、穏やかな日々を送って欲しいと願っていた。
 リシアがアメジストガーデンの階段に腰掛けて庭の方を見つめていると、突然、冷たい感覚が頬を襲った。
「はい、リシアさん」
 そう言って、虚を付かれたリシアに向かって、雫の滴るほどに冷えたラムネを手渡したのは、かのレムローズ王国の女王、エリクであった。
「エ、エリク様!?」
 リシアは特別、油断などしていたわけではない。
 リシアにその気配すら気付かせないエリクの方が、彼女を更に上回る実力者なのだ。
 エリクはリシアを時々こうやって驚かせることがある。
 エリクはそうやって、悩んで蹲るリシアの気を紛らわせ、励ましていたのだが、今日は思いのほか元気そうなリシアを見て、安心したように夕焼け色の階段に腰を下ろし、その手に持ったラムネをゴクンと飲んでリシアに笑いかけた。
「いいことあったみたいな顔しちゃって、ほらほら、お姉さんに話してみなさいよ」
 エリクは大陸でおそらく1,2を争うほどの絶世の美姫でありながら、大陸有数の名門レムローズ家出身の王女でもあるのに、こと、リシアに対しては気取ったところがまったくなかった。
 エリクは数年前にリシアと出会ってからというもの、まるで妹のように彼女を可愛がっている。
「え、いいことですか!? あはは・・・。そうですね、えっとある殿方とちょっと午後のお茶をしたと申しましょうか、ほんと、それだけなんですけど」
「お、男!? リシアさん、詳しくお姉さんに話してごらんなさい。お姉さんそういう話、大好きな方だから!」
「え、えーーーっ!?」
 モジモジしながら下を向くリシアに、にじり寄るようにして顔を近づけるエリク。
 話を話そうにも、ネタがカツ丼から始まるような話を、リシアはどう話していいものやらわからず、一口、ラムネを飲んだ後、エリクとよく一緒に行くお店で、いつものものを注文したとだけリシアは告げた。
「ちゅ、チューーゥ!?」
「注文ですって! ちゅーもん! 無理やり間違わないでくださいよ、エリク様」
「個室に、男、誘っといて、チューの一つもしてないなんて言わせないわよ、リシアさん。何処までいったか、お姉さんは知る義務があります。まさか!? モフモフとか、ニャンニャンとか、人に言えないような・・・」
「何ですか!? モフモフとかニャンニャンって!!」
 意味不明の言葉を必死に否定するリシア。そのリシアの肩をエリクはガッツリ抱き寄せると、有無を言わさずたたみ掛ける。
「否定は、肯定の証。やってないといえば、やったと決まっているわ。・・・もう、このおマセさんったら。さっそく、レオクス様に報告しなくては」
「そ、それだけは勘弁してください!!!」
「まあ、男を二股にかける気かしら、この子ったら。・・・でも、お姉さん、ちょっと嬉しいわ。ようやくリシアさんが、女の悦びに目覚めてくれたなんて」
「ああもう! エリク様の言い方が卑猥すぎるんですよ!!」

  ジュルルルルル~~~ッ!!

「!?」
 すると突然、エリクはリシアの唇を奪い、ジュルジュル音を立てながらリシアのラムネ味の唾液を執拗に吸い上げた!!
「プハーーーーッ!! ごちそうさんッ!!」
「エ、エリク様・・・」
 唖然とするリシア。したり顔のエリクは、シルクの袖でジュルリを口元を拭った後、リシアに向かってこう放つ。
「ああ、これが乙女の味なのね。クセになりそうですワ・・・。っていうか、先にいい思いをした野郎を探し出して、焼入れとかんと、な」
 再度、リシアの唇を奪いにかかるエリクを、リシアは神速でかわし続け、心の中でこう自分を勇気付けた。
 (・・・今のは、ファーストキスなんかじゃない。単なる不意打ちよ。・・・絶対、カウントしないで。お願い、心の中のわたし・・・)、と。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ダークフォース 第一章 Ⅶ

2009年08月04日 22時39分47秒 | ダークフォース 第一章

   Ⅶ

 魔界と呼ばれるファールスは、エグラートの遥か彼方、約120万キロ先にある、月ほどの大きさを持つ天体である。
 以前、ファールスはもっとエグラートに近い位置(約38万キロ)に存在していたと大陸史前に記されたレリーフにはそう記されてあったが、何故、およそ三倍も距離が離れてしまったのかについては、続きに書かれたより複雑な古代文字の記号のせいで、エグラートの地に住まう人類は、いまだにそれを知り得てはいなかった。
 エグラートの大地でよく耳にする『ギーガ』という魔物のことであるが、有史以来、人々を苦しめてきたその厄災は、実はこの月型の天体ファールスにも被害をもたらし続けている。
 しかも、どちらかと言えばエグラートより、このファールスはより大規模なギーガによる侵攻を受け続けており、魔王ディナスおよび、その四天王たちの働きで、そのギーガどもの攻撃を耐え抜いていた。
 つまり、このファールスこそが、古代の人々の造りし、対ギーガ用の防衛要塞そのものなのである。
 かつてエグラートの月だったと思われるこの天体は、鋼鉄の衣でその身を纏い、クレーターのように見える大きな陥没も、それは数多のギーガ戦が残した戦いの爪跡である。
 エグラートの人々はその事実を知らされる事も無く、ファールスを魔界などと蔑み、比較的、平穏な日々を現在に至るまで送り続けている。
「いや~、なんか久しぶり帰って来たという感じがするよ」
 そう、第一声を発したのは、銀髪の四天王・マイオストである。
 彼はなにやら転送装置のような青銅色のサークルから、よっこいしょと出てくると、続いて現れた、唐草模様の大きな包みを担ぎ上げ、近くにいた一人の青い髪の長身の男の前に、ドシンとそれを差し出した。
「ご苦労なことだな、毎度毎度」
 青い髪の男はそう言うと、先にためぞうやリリスが帰って来ていることをマイオストに告げた。
 古代装置の塊の様な姿のこの空間は、青白い光に満たされ、天井も高く、それなりの広さがあった。
 構造上のものなのか、少しだけ音が響きやすいこの室内には、青い髪を持つ長身の男とマイオスト以外の姿はない。
「まあ、とりあえずただいま、ホーネル」
 そう呼ばれたこの男こそ、魔王軍四天王屈指の武闘派で知られる猛将ホーネルである。
 ホーネルはスラッとした長身に、長く青い艶のある髪と、甘いマスクを持ち主で、澄んだエメラルドグリーンの瞳の美しい美青年である。
 一見、彼がそのような猛将であるとは思えないほどに優美な男で、気品も感じられる。
 表舞台に出てくることの少ない彼だが、それは彼の背負う任務の重さにあった。
 ホーネルは、その戦士レベルが96にも達する、マスタークラスの戦士である。
 神界ファールスの三神に最も近い存在の人間とされ、現在は、対ギーガ戦闘部隊の総指揮を握る司令官である。
 彼の功績があればこそ、エグラートのギーガ被害は最小のもので済んでいる。
 先ほど、ホーネルを人間と言ったが、実はこの魔界と呼ばれるファールスに暮らす人々のほとんどは、元はエグラートから移住した人間であり、このファールスにおいてその例外となる人物は、後に登場する事になる、戦士レベル最高値の100に達した無敵の魔王ディナスと、四天王最強の戦士レベル97、マベルの二人だけである。
 つまり、マイオストもリリスもためぞうも、戦士としての才能を持つ、ただの人間である。
 ホーネルはマイオストに、不可解な顔をしてこう尋ねた。
 それは、ドシンと目の前に置かれた包みの中身の方ではなく、先に帰って来た、二人の事であった。
「ちょっと聞いておきたいんだが、あの二人の表情の落差は一体、何なのだ? エルランゼ(ためぞう)は異常なテンションで、うひょうひょとウルサイ上、珍しく私に土産など持ってくる始末。しかし、一方、リリスさんは血の気の引いた顔で、絶望感に打ちひしがれている様子にも見えた。・・・リリスさんが、心配だ」
 その問いに、マイオストは口元をニヤリとさせ、ホーネルに掻い摘んで、事のいきさつを伝えてやった。
 マイオストとしても、どちらかといえば愛想笑いより苦笑いの方が多い。
「ば、バカなっ!! ためぞうがまるで天使のように愛らしい美少女にモテたうえ、デートだと!? ありえん、・・・オレ達、三人の野郎四天王の中で、最後まで独身を通す予定のためぞうが、ためぞうの分際で、そんなに可愛いおにゃの子と、一流スウィーツショップでデートだなんて。・・・さ、最悪だ、土産のカツ丼を、チョーうめぇとか思いながら食ったオレが、途端に虚しくなってきたぞ!!! ああ、可愛そうなリリスさん。あんなに美人でしっかり屋さんなのに、バカに使役させられ、微妙に先を越されてしまうとは・・・。貴女の悔しさ、このホーネルも気持ちは同じですぞッ。なあ、マイオスト!」
「私に振られてもねぇ・・・、キャラ、壊れてるよ、ホーネル」
 マイオストは、ホーネルを慰めるようにポンポンっと肩を叩くと、目の前に置かれた唐草模様の大きな包みを開けた。
「おお・・・さすが、マイオスト! 仕事の出来るヤツだ」
 ホーネルは包みの中の物をパッと見て、少しだけ機嫌をよくしたのか、鋭い眼光で中身を物色し始める。
 マイオストは言う。
「探し回るのに、結構骨が折れたけど、私としては合格点だと思っているが。どう?」
「ああ、120点だ!! 一体、どうやってこれだけの物を集められるのか、本気で関心している所だ」
 そう言ってホーネルは、色んなディスクの入ったケースやアイドル風の女の子の写った下敷きなどを手に取り、ニンマリと笑顔を浮かべている。
 他にも精巧に作られた一品物の魔女っ子フィギュアや、手作り風のコピー雑誌の山などが包み一杯に詰められており、ホーネルは子供のように瞳を輝かせていた。
 おまけ付き駄菓子のカードも完璧にコンプリートされており、痒いところにも手が届く、マイオストのお土産だった。
 ホーネルはそれらをさっそく端末に入力しながらリスト化し、荷物の整理し始める。
「いやー、ホーネル。カードのコンプとかは、特に大変だったよ。限定5枚のレインボーカードとか出すのに、どれだけ、スナック菓子を主食にして活動したから」
「だろうな。これ一枚でもオークションに出たら、100万近く行くんじゃないのか? 立体映像処理までされて、クロノス様(魔女っ子アニメの敵役の女幹部)の黒のオーバーニーソの絶対領域が、横に、斜めにと実に魅惑的に再現されている。退色防止加工もされていて、いやー、ロッチ(お菓子メーカー)は相変わらずいい仕事するなぁ」
「まあ、人の趣味にどうこう言う気はないけど、登場していきなりキャラが崩壊寸前だから、その辺にしといた方がいいよ、ホーネル。かっこいいんだから・・・さ」
 マイオストはそう言うが、ホーネルは夢中になってカードの裏の解説とかを読みあさっている。
 マイオストの方も、過酷な任務のストレス発散だと、ホーネルを温かく見つめて、心の中で「よかったね」と呟いた。
 この青白い空間は、四天王を除いては、他に魔王ディナスとリリスくらいしか入室出来ない特別な場所であり、彼のその手の趣味も他に見られることもないだろうと思い、マイオストはこの場を立ち去り、魔王ディナスの居室へと向かうことにした。
「ありがとう、マイオスト!!」
「また、その内、集めといてあげるよ」

 マイオストは、古代文字で転送の間と記された部屋を後にすると、移動式の床に乗って、魔王の部屋を目指した。
 特別、礼服などに着替えるわけでもなく、普段着の木綿の長袖に麻布のズボン。対油加工のされた、少し蒸れそうな茶色の長靴に、腰には、武器屋で一番高かった剣『フレイムタン』を差し、宇宙船の船内でも思わせるようなこの通路とは、明らかに場違いな格好をしたマイオストである。
 クルー(宇宙船ぽいのでそう呼ぶ)たちは、きちんと正装していて、宇宙空間に出てもヘルメット一つで何とかなるような装備をしている。
 腰には光線銃のようなものと、ビームサーベルっぽいものがコンパクトに収まっていて、どうもここが宇宙映画の撮影現場で、マイオストはその裏方さんのようにも見えた。
 しかし、通り過ぎるクルーたちは、田舎のにーちゃんみたいな格好のマイオストにこぞって敬礼し、マイオストの事を尊敬でもするかのように、口を揃えて「閣下」と呼ぶ。
 マイオストは、任務ご苦労さんといった感じで気さくに手を振り、笑顔をみせるが、その人影も奥に進むほどまばらになり、魔王の居室らしき部屋の扉の前では、さっぱり誰の姿も見ることが出来なかった。
「まあ、四天王の中でも諜報活動メインの私が、いかにも四天王ですって格好もアレでしょ」
 と、独り言を呟いたマイオストは、扉の右側にあるパネルらしきものを、ちょちょいと操作して扉を開けた。
 中に入ると、いかにも魔王ですといわんばかりのごっつい甲冑が正面に飾ってはあるが、マイオスト以外の人影はない。
 室内もそれほど広いというほどもなく、青白い内装の室内には白いランプが数箇所灯っており、壁を覆うのは、先ほどの転送の間で見た金属質の石のようなものであった。
 よく見ると、魔王の甲冑の前には、人一人が入るのに十分な大きさのケースがあり、そのケースは美しい金の刺繍の施された白い絹のシーツで覆われていた。
 中は確認する事は出来ないが、シーツの隙間からガラスのようなケースの蓋部分が覗き、確かにその中には誰かが眠っているようだ。
 マイオストは壁に置いてある、折りたたみのパイプ椅子をケースの前で開くと、よっこいしょっと椅子に腰を下ろした。この椅子はマイオストが部屋に持ち込んだもので、元々この部屋の備品ではない。
 マイオストは、ケースの前に鎮座する魔王の甲冑に向かって、頭を掻きながらこう話しかける。
「あー、起きてますか? あなたの愛人(ラマン)、マイオストでーす」
 すると、甲冑の目が光り、その口元のマイクから音声が出た。
 どうも、このケースの中の人物の意思を伝えるインターフェイス的、置物のようだ。
「まったく、誰がラマンですか、もう」
 音声はマシンボイスだが、口調はどうも女性っぽい。
 アホっぽいやりとりに見えるかも知れないが、このケースの中の人物こそ、神界フォーリナの主神セバリオスとも拮抗する力を持つ、正真正銘の魔王ディナスその人である。
「いい加減、ケースから出たらどうですか、魔王様」
「私だって、出れたら苦労はしませんよ。知ってて言っているのでしょうけど。あと、魔王様って呼び方もやめてくれません? いかにも悪役っぽいですし、だいたい、幼馴染みのあなたからそう呼ばれると、ワザと言っているとしか思えませんし、少々、不愉快です。普通に名前で呼んで下さいよ」
「了解っす、ディナス陛下」
「・・・もう、好きにして」
 魔王ディナスがこのケースの中で、スリープ状態になっているのはそれなりの理由があった。
 意識はあるのだが、身体は眠っている。正しくは、ある装置を動かすための動力源となる為にその力を使っていると言ったほうがいい。
「まあ、平たく言えば、乾電池ですな」
「誰が乾電池ですかっ!!」
 ディナスをからかうマイオストであったが、意味合いからすれば似たようなものだった。ただ、その出力は、マンガンやアルカリ、いやオキシライドすら上回る大出力で、しかも人力なのでエコである。
「乾電池から離れなさいよ!!」
「まあまあ、魔王様。そんなこと、どうだっていいじゃないですか。ほら、頼まれてた、お笑いライブ4095のディスクもちゃんと買ってきたし、スカペーのお笑い専門チャンネルの代金もちゃんと振り込んでおきましたから」
 ディナスが少し落ち着いた様子が、甲冑の目の光り方でなんとなくわかった。
 そして、甲冑の右腕が動き出し、人差し指がある場所を示す。
「ディスクは後で、あっちのDドライブに入れといて」
「うい」
「それで、マイオスト。エグラートはどんな感じなの?」
 ディナスがそう問うと、マイオストは少しの間だけ難しい顔をして、懐から取り出した手帳を手に、こう語り始めた。
「そうですなあ、今のところはまずまず平穏といったところでしょうが、スレク公国の一件以来、フォルミの動きが気になる所ですかねぇ。フォルミ軍の侵攻も、私らから言わせれば、むしろ正当な行為ですし、問題はそれを今の大公レオクスが、知っていたかどうかと言う事でして。私の勘では知っていたと思いますが」
 マイオストの言葉に、ディナスは暫しの沈黙をおいてこう言った。
「私利私欲の為に、偉大なる『覇王姫・エストレミル』皇女殿下の眠りを妨げたスレクの痴れ者の行為は、万死に値すると言っていいでしょう。フォルミ大公が手を下さずとも、私が直接、マベルかホーネル辺りを差し向け、断罪した事でしょうし。おろおろ、・・・お可愛そうに、中途半端の覚醒のせいで、記憶も曖昧で、性格も捻くれて、ティヴァーテに身を寄せて、自らの正体も知らずに玉の輿など狙っているとは、笑える話ですが、ンンッ、・・・もとい、気の毒でなりません」
「それはもう、バカ盆のパパ君よりも酷い有り様で、比類なき麗しのレジェンドなプリンセスが、ずるくて小汚い田舎小娘へと堕ちて行くといった、いわばシンデレラストーリーを逆に進んだと申しましょうか。ド転落ぶりに涙が止まらず、腹がよじれそうです」
 魔王の甲冑とマイオストは互いを見つめ合い、少し間を置いて、阿吽の呼吸でコクリと頷くと、マイオストは、ニヤつく口元を無理やり直して、話の先を続けた。
「まー、正直言って、今のエグラートの戦力は、先の大戦(大戦の子細については後に触れる事となる)前、覇王サードラル陛下が、エグラートの地に在られた頃に比べれば10分の1以下といった所でしょうな。覇王サードラル軍の、たかが後詰めの一部隊に過ぎなかった我ら現魔王軍でさえ、今のエグラートにとっては脅威足りうるのですから」
 マイオストの言った『サードラル』という言葉に、言葉が詰まるディナス。
 マイオストは、即座に自分の失言に気付いた。ディナスの前で、その言葉は禁句だったのだ。
 沈黙が言葉の重さを物語る。
「セリカ・・・」
 マイオストは銀色の瞳で切なげに、ケースの中の人物を想うようにそう呟いた。
 刹那、ゴホンと咳払いをして、その「セリカ」という言葉をごまかすように、マイオストは少し慌てた様子で捲くし立てた。
「まあ、アホのためぞうを面白いからという理由だけで四天王に取り立ててしまう魔王様ですから、それだけ我が軍にも余裕があるというものですよ。切羽詰っていたら、バルマード剣王辺りの人物を即座に登用しなきゃいけないでしょうし、ホーネルがいれば、ギーガ級共の敵など、脅威とは呼べません。後詰めには、四天王最強のマベルもいますし」
 身振り手振りで、あれこれ安心感をアピールするマイオストだった。
 が、ディナスはマイオストに、絹地のシーツを少しめくるように指示する。
「ごめんな、うっかりしてた・・・」
 マイオストは神妙な面持ちとなって、まるで割れ物でも扱うかのように、シーツの端を持ってゆっくりと丁寧と、徐にそれをめくった。
 すると、ケースの中にはなんと、『天使』としか形容出来ない程に神々しくも美しい、一人の少女が横たわっていた。
 プラチナの髪に、白磁のような肌。
 絹の羽衣を纏うその背中には、まさに天使と呼ぶに相応しい一対の光の翼が、ケースの中を飾り立てるかのように、絢爛な姿で収まっている。
 見慣れたはずのマイオストでさえ、言葉を失うほどに美しいその少女の容姿。
 ・・・そう、彼女は『人間』ではない。
 伝説の覇王、サードラルの言葉にこうある。
 「それは、この世界に残された唯一の希望。
 紛れも無い、世界にたった一つだけの存在。」
 そう残した彼、サードラルは、敬意を込めて彼女の事をこう呼んだ。
 我が愛すべきエグラートの大地を守護する天空の翼、
  『戦天使・セリカ=エルシィ』と。
 魔王ディナスの声が、マシンボイスから、直接心に響く思念波へと変わる。
 特殊な加工がなされた絹地のシーツは、彼女の光が漏れ出すのを防ぐ役割を果たしていた様子で、何らかの機械へと接続された彼女の二枚の翼から送られる、波紋のような高貴な光も、今、この瞬間、微かにだが弱くなっているように見えた。
 胸に届く彼女の声は、どこまでも柔らかく、そして温かい。
「フフフッ、たまには自分の為に少しくらい力を使ってもいいでしょ、マイオスト。だからあなたも、昔みたく、私のことをセリカと呼びなさい。愛しのサードラル様を思い出させるものだから、少し、変な気分になっちゃったじゃないの」
 マイオストはそんな、魔王ディナスのとしての仮面を脱いだセリカに、不覚にも少し和ませられていた。
 マイオストは恥ずかしさを隠すように、セリカに向かって、口の減らない様子でこう返す。
「まったく、セリカにはかなわないな。しかし、いい加減、諦めないと前に進めないよ。だいたい、覇王陛下の嫁さんはアナタのお姉様で、その姉の旦那を好きとかいってたら、ドロドロの昼メロになっちゃうじゃないか。いい加減、乙女っぽいとこ卒業して、私の嫁くらいで手を打っとけよな、セリカ。でないと、シャイなホーネルは別として、ためぞうのバカに寝込みを襲われるぞ」
 ケース内のセリカは、瞳を閉じて無表情だが、そのセリカの楽しげな感情は、思念波によってマイオストの心の奥に届いた。
「ためぞうさんは、しょっちゅう、私のスリープ解除キーを捜しに来ますね。ケースをどんなにやっても壊せないものだから」
「ためぞうらしいなぁ。・・・まあ、無害だから放置しておいてもいいんだが。だがなぁ、セリカよ。私もセリカも、独り身続けて五千年以上経つでしょ? そろそろ婚活考えてもいいんじゃない?」
「私はマイオストと違って、急いでないですし、どうせ結婚するならオーユ姉さまみたいに玉の輿に乗りたいですし。トレイメアス様クラスでしたら、喜んでこの身を捧げますけど、ネ」
「理想たけーーよ、オイッ! ・・・行き遅れ確定のサインを自分で書いてどーするんだよ、セリカ!(その名を出されちゃ、誰もおめーと結ばれねぇ)」
 そのトレイメアス氏について少し語ると、彼は覇王サードラルの実弟で、『孤高の剣皇』としても知られる人物である。
 先の大戦の後、サードラルの後を次いで、次期覇王となる事を期待された人物であった。が、現在、その行方は知れず。
 しかし、その実力は、歴代戦士中最強であるとも言われ、大戦時、異界の神々である『六極神』(ギーガを統べる者として知られる古の神々)とも互角に渡り合い、その驚異的戦士能力で『剣神・グランハルト=トレイメアス』とも称えられた。
 平たく言うと戦士レベル500相当の異界の神々たちと、本気でガチった漢で、レジェンドな英雄なのです。
 その彼の前にして引けを取らない男を連れて来いというセリカの要求に、マイオストは、素でビンタの一発でも入れてやりたくもなったが、さすがに超超硬度を誇るトレニチウム製クリスタルガラスの上からは手が出らず、仕方なく、口を出すことにした。
「セリカ、現実を見ろ。出会いもない、理想は高い、おまけに悪の大魔王。そんなお前が、いっぱしにときめいても、どーにもならんだろ。地に足を付けろ、お前の背中の羽は、空を舞う為のモノじゃない、エコな電池だ。どうせ、このまま電池生活やってても、これから先にも出会いは無い。諦めて、身近な恋に生きれ」
「うん、ならホーネルにする」
「結局、顔かよッ!!」
 ムキになるマイオストに、クスクスと笑うセリカ。
 セリカは、ふと想う。
 こんなに、素の自分で何かを話したのは、一体、いつ以来だろうと。
 普段から明るく振舞う彼女だが、ファールスの魔王としての仮面を付けたときから、その目映いばかりの光の翼は、古代機械の鎖に繋がれ、エグラートの平和との対価に、彼女は自身の自由を失った。
 セリカは想う。
 そんな状態になっても、マイオストのように自らを励まし、寄り添ってくれる者たちがいるから、頑張っていられるのだと。
 支えられているのを感じる事が出来るからこそ、今の自分が笑顔でいられるのだと。
 だからこそ、五千年もの長きに渡り、呪いのように自らを縛り付けるこの運命にさえ、彼女は真正面から向かい合うことが出来た。
 セリカがいくらその身が天使であるとはいえ、心は一人の少女である。
 自分が愛したものがあるからこそ、
 自分の愛するものが生きているからこそ、彼女はその、小さな心を強く持てた。
 彼女が真に、自由をその身に取り戻す時、それは世界の破滅を意味しているのかも知れない。
 かつて、『ルナ』という名で存在していた、惑星エグラートの月。
 そのルナという衛星を科学という鋼鉄で覆い、エグラートから三倍もの距離へと移動させた古代文明。
 ルナに新しい名前が付けられたのは、ルナが要塞化して現在の軌道に乗せられてからである。
 その名は、ファールス。
 古代、神聖ミストレウス帝国の言葉で『封印』を意味するこの星は、常に軌道修正を行いながら、エグラートの軌道を約一週間かけて周回している。
 そのファールスが封印するモノこそ、異界への門であり、そのファールスの封印機能の中核を担っているのが、セリカのみが持つ特殊な力、戦天使能力・『守りの翼』である。
 絶対的防御力を誇る戦天使セリカのその力によって、異界への門は封じられ、五千年もの時が流れた。
 セリカは願う。
「たとえ、何千、何万年の月日が流れようとも構わない。この翼で世界を守ることが出来るのなら、私はあの生まれ育った蒼い星の存在を、いつまでもこの身に感じていたいから」、と。
 
 - セリカの光の翼を繋ぐ鎖が砕け散り、ファールスが彼女を自由にしたその時、
     異界の門から来る、漆黒の闇、『ダークフォース』は開放され、
      人々は、再び、光と闇の大戦へと巻き込まれるだろう。 -
コメント
この記事をはてなブックマークに追加