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ダークフォース 第二章 XVI

2009年09月29日 15時35分41秒 | ダークフォース 第二章 後編
    ⅩⅣ
 
  ドォゴォォォォーーーーーンッ!!!
 
 突如、響いた爆音の方へと、セバリオスが振り返る!!
 そこには外側から隔壁を破壊した一人の戦士の姿があった。
 深緑の髪を爆風になびかせる女戦士のその姿に、セバリオスは声を大にしてこう叫んだ!!
「ジラか!?」
 そう呼ばれた女戦士の背後から、さらに、その身を闇にも似た外套に包んだ一人の戦士が現れ、猛スピードでセバリオスの元へと駆け出す!!
「覇王剣・第五の剣『光雷』!!」
 いきなり現れた外套の戦士は、セバリオスの奥義と同じ名の奥義を、暴走するラグナロクに向かって繰り出した!!

  カァァァァーーーーーンッ!!!

 セバリオスの手元から、中空へと弾き飛ばされたラグナロク。
 ガラン、ガランッと音を立てて床に転がったラグナロクを、ジラと呼ばれた女戦士が拾うと、ビロードの外套の戦士はその片刃の剣を鞘に収めて、セバリオスの方へと振り返る。
「何故だ、何故に我が奥義と同じ名を持つ剣技が使える!? しかも、その威力を相殺しただと。どういうことだ、ジラ!!」
 ガクンと膝を折り、吐血しながら問いかけるセバリオスに、ジラと呼ばれた女戦士が肩を貸す。
 すると、『光雷』を放ったその外套の戦士は、気を失ったエリクへと徐に近付き、その身体を優しく抱きかかえ、壁に寄りかかるハイゼンの元へと連れて行った。
「答えろ、ジラ」
 セバリオスの問いに、やれやれと言った感じで、深緑の長い髪を持つ美女・ジラはこう答えた。
「あんたの独断専行の尻拭いの助っ人だよ。あたし程度の実力じゃ、極限まで力を出し合った、あんたと戦天使の間に割って入っても、即座に返り討ちだからね。・・・まったく、誰が戦っていいなんて言ったのさ。フェルツは、あんたの生死になんて興味もないから当てにならないし。だから確実に止める為の助っ人を、ここに連れてきたのさ。タイミングもバッチリだっただろ?」
 セバリオスを抱え起こすジラに、セバリオスは外套の戦士の名を問うと、ジラは彼の耳元でこう呟いた。
「いいから、帰るよ。・・・地上に、セバリオスとジラの二人が揃って居る事を、他の者たちに探知されるのはさすがにまずい。エリク姫の事は、暫く地上の連中に預けておくことだね。あの外套の戦士の方も、すこぶる腕は立つが、実は彼女が戦天使であることには全く気付いちゃいない。物分りの悪いあんたにだって、痛いほど分かっただろう? 戦天使能力は見るものじゃなく、触れて初めて分かるものだって事がさ。まあ、ハイゼン候が彼に事の一切を喋れば話は別だろうけど、ね。きっとハイゼン候は、エリク姫を争いに巻き込みたくはないと思うことだろうさ。・・・姫の事は、いずれ、手に入れればいいだけの話だから、さ」
「・・・承知した」
 セバリオスが頷くと、ジラは神界フォーリナへ戻る為の転送を開始する。
 ジラの周囲に光の輪が形成され、その輪が幾重にもジラへと集束すると、二人の姿は音もなくこの場所から消え去った。
 外套の戦士は、エリクの身体をそっと敷物の上に寝かせると、ハイゼンの方を見て、何も言わずに右膝を付き、その手のひらに、球状の光の塊を生み出した。
 その球体から発せられた光は、緩やかな波動となってハイゼンの身体をゆっくりと覆ってゆく。
 外套の戦士は、高度に錬成させたライトフォースをハイゼンの治癒に使い、彼を止血すると共に、その傷をも易々と再生させる。
 難なくそれをやってみせる外套の戦士だが、これにはかなりの技術を必要とする。
 先ほどの『光雷』を操った技量といい、この戦士の実力は、神であるあのセバリオスに迫るほどのものだといっていい。
 ハイゼンにはそのクラスの戦士の名など、剣王バルマードくらいしか思い当たらなかったが、明らかに剣王とは体格が違い、細く、華奢である。
 ハイゼンが意識をハッキリと回復させる頃には、その治癒の光の影響で、エリクもその意識を徐々に回復していった。
 まだ、瞳を開けるには瞼が重い。指先さえ、ピクリとも動かせない。
 そんなエリクだったが、外套の戦士がハイゼンに向かって口を開くと、その声だけは耳に届いた。
「名も名乗らずに、失礼しました。まずは、ハイゼン候の治癒をと思い、勝手ながらそうさせてもらっています」
 その声は、高く澄んでいる。まるで女性のようだ。
 そう口にした外套の戦士が、深々と被ったそのフードを下ろすと、ハイゼンはその素顔に言葉を失った。
 肩までかかる、紫色をした細くしなやかな髪。
 その端整な顔立ちに、光を満たしたルビーの瞳が妖艶に輝いている。
 肌は、雪のように白く、その美貌はエリクのそれさえ上回る。
 美しい・・・その一言では、とても比喩できないほどに、神々しいほどまでに美しい顔立ちをしている。
 その美しさは、性さえ超越しており、これほどに完成された美しい人を、ハイゼンは未だかつて目にしたことすらなかった。
 瞳を閉じたエリクには、その戦士の顔を知る術はなかったが、ハイゼンの強い動揺はエリクにも伝わってきた。
 美しき外套の戦士は、言う。
「私の名は、レオクス。旧知の仲であるエリス殿・・・いや、ジラ神に、この危機を知らされ、参上いたしました。フォルミ大公として、幾度かハイゼン候には公式の場でお会いする機会を得ていましたが、この顔をさらしたのは今回が初めて、ですね」
 ハイゼンはフォルミ大公が、これほどの人物であったことに驚愕させられた。
 このレオクスという人物の実力は、底が知れない。
 ハイゼンは聞いたことがある。戦士レベルは人の進化の指標の一つでもあり、その人物の限界値によって、その容姿も大きく左右されることがあると。
 遥かなる昔、その絶世の美を誇ったという覇王妃オーユも、彼女の妹である戦天使セリカも、その戦士レベルは100だという。
 レオクスのそれは、まさにその彼女たちにも引けを取らぬのではないかという程に、気品に満ちて、気高く、美しい。
 エリクは、フォルミという国など知らない。ただ、自分たちを救ってくれた、レオクスと人いう名前だけは、しっかりと記憶した。
 礼の一つも言いたいが、エリクは今、言葉を口に出来る状態ではない。
 レオクスは徐に立ち上がり、そのビロードの外套のフードを深々と被った。
 レオクスの手のひらから放たれる癒しの光が途切れると、エリクは次第に意識が朦朧としてくる。
 この後、ハイゼンとレオクスが何度か言葉を交わして、レオクスが立ち去るのはわかったが、そこで完全に意識を失ってしまう。

 エリクはその意識を失うと同時に、自身の中に押し込めた白き姿の戦天使と、明暗のはっきりとしない深層心理の奥深くで、対面する。
 その様子はまるで鏡の前に立っている自分の姿を見ているようだ。
 違うのは髪と瞳の色くらいで、姿形は同じである。
 白い髪をした方のエリク、戦天使は言う。
「これがあなたの望みなら、私はあなたから、戦天使としての記憶と能力を奪い、この小さな世界で時を待とう。だけど悲しみだけは、消すことは出来ない。それは私が、あなただからでもある。ヒトは心に嘘はつけない。記憶は操作出来ても、想いを変えることは出来ないだろう。故に、二人の兄君のことは、あなたの心に大きな傷跡を残すことになるだろう。眠り行く私はそれで良いかも知れない。・・・しかし、あなたは、これから今を生きるのだ」
 それを聞いて、赤い髪をしたエリクはこう言った。
「やはり、間に合わなかったのですね・・・。私が、夢の中で現を抜かしていた為に、大切な人たちを、守れなかった。失われていくものに、最期の瞬間まで気付けなかった」
 エリクは俯くように、その赤く長い髪を前に垂らし、顔を隠すようにして、その瞳に銀光を満たした。
 溢れる雫は、足元の闇色の床に吸い込まれるように、銀色の線を描く。
 戦天使はそれを見ても、表情一つ変えずに、話を続ける。
「私には、僅かにだが、『大いなるモノ』の力が宿っている。それは、命の潮流と呼ぶべき、この世界の理(ことわり)。あなたの二人の兄君たちが、散らせた命の欠片。それを再構成させることが私に出来たなら、今、まだ微かにこの身に残る彼らの存在を頼りに、それらを再生し、同じ時を取り戻すことが出来るかも知れない。これは、大いなるモノの意思に反する行為だと私は認識しているが、あなたが望むなら、・・・あなたの四分の一の存在である私は、あなたの意識の奥底で、誰に悟られることなくそれを行おう」
 その言葉に、エリクは堪らず戦天使の方を見上げた。
 その瞬間、初めて、戦天使が人間らしい表情で微笑んだ。
「了承したと取ってよさそうだな。私にも感情くらいある。それは、何度も言うが、私とあなたが二人で一つの存在だからだ。ただ、ここでのやり取りは、あなたの記憶には一切残さない。どれほどの時を有する作業なのか、また、それ成功させる保証も自信すらない。私は、自らの意思によって、あなたの殻の中に閉じこもろう。これから私たちがやろうとすることを、大いなるモノに知られてはならない。拒絶が一番恐ろしい。・・・記憶を残さないあなただけに、大いなるモノの名を告げておこう。その名を『エクサー』という。この「エルザーディア」の名で呼ばれる宇宙の、その中心である存在」

 こうして、エリクは白き戦天使との、その邂逅の時を終える。
 再びエリクが目覚めた時、レムローズ王国は全てが変わっていた。
 王国は二人の英雄である王子を、突然の病で失い、間もなく王も崩御した。
 ハイゼン候はこの混乱を収める為、自らが王国の執政の座に就き、まだ国民にその存在を知られていないエリク姫の身を、フォルミ大公レオクスに託すことに決めた。
 エリク姫の存在を今、知られれば、エリクは女王としてこの国の王に担ぎ上げられ、過大な国民の期待と、これから王国が直面する苦境を一手に背負わされてしまう。
 ハイゼンには、自身がこのレムローズ王国をその手に完全掌握するだけの時間が必要だった。
 そうすれば、エリクの身を安全に、この国の女王として迎え入れることも可能だった。
 心無い民衆たちは、二人の王子の急死をハイゼンの陰謀だと囁いた。
 ハイゼンはそんな言葉など一気に跳ね除けると、国内外にその実力を示し、一年と経たずにレムローズ王国全土をその支配下に置いた。
 ハイゼンはこうして、エリクの帰る場所を確保し、その維持に努めることになる。
 エリクが長年暮らしたあの場所も、その当時のままに保たれ、時折、給仕たちは、自らの手で、痛んだ場所の修理を熱心に行う、ハイゼン候の姿を見かけた。

 エリクはこの時より、フォルミ大公国にその身を寄せる事となり、当時、まだ幼かった金髪の少女リシアと出会い、彼女を妹のように可愛がった。
 アメジストガーデンに用意されたエリクの個室には、五年という歳月が経過した今でも、大事に飾られた二つの剣がある。
 リシアがその剣に触ろうとすると、エリクはそれを拒み、誰にも触れさせようとはしなかった。
 エリクは、時々、その部屋でじっとその二つの剣を眺めていることがある。
 エリクは、今でもその剣にこの身が守られているのだと感じると、心が温かくなった。
 テーブルの上にはレムローズ王国のワックスシールの押された手紙が置かれている。
 差出人はレムローズ王国執政のハイゼン候である。
 彼は、まるで娘の一人暮らしを心配する父親のように、公文書に紛れさせては、よくエリクへの手紙を送り付けてきた。
 内容はごく平凡なもので、むしろエリクの返信の方が目当てである。
 馴れない手紙を無理に書き上げているハイゼンの姿が目に浮かぶと、エリクにはそれが滑稽で、クスクスとその表情に笑みを誘った。
 エリクは手紙の返事を書き終えると、その手紙に季節の押し花を付けてハイゼンの元に送っていた。
 エリクがその個室を後にすると、待ってましたとばかりに現れたリシアが、エリクの手をギュッと掴んだ。
 リシアはエリクを引っ張るように、アメジストガーデンを駆け回る。
「ちょっとまって、リシアさん。そんなに引っ張られると、ヒールが脱げてしまうわ」
「ダメですよ~、今日は私にとことん付き合ってもらうんですから!!」
「もう、リシアさんったら」
 そんな二人の笑顔を、陰から見守る者の姿がある。
 ビロードの外套にその身を包んだフォルミ大公、レオクスである。
 そのレオクスに気付いたのか、リシアがペコリとお辞儀すると、エリクも揃って、にこやかにお辞儀をした。
 レオクスがその対応に少し困っていると、脇からスッと現れた大男のバルマードが、レオクスに向かってこう言った。
「手でも振っておあげなさいな、いい子たちじゃないですか」
「ああ、・・・そうだね」
 そう言われてレオクスが小さく手を振ると、二人は揃って大きく手を振り返してきた。
 バルマードがそれに負けじとさらに大きく手を振り返すと、今度は、リシアは両手をめいっぱい広げて手を振り、何だかわからない勝負に発展していった。
 エリクは気恥ずかしさで、それ以上ついてはいけなかったが、今、ここに見える風景に、今、ここに立っていられる事の奇跡を、エリクは心より感謝をせずにはいられなかった。
「ありがとう」の言葉を伝えたい。
 妹のようなリシアに。
 元気をくれるバルマードに。
 いつも自分を気遣ってくれるレオクスに。
 祖国で、いつでも自分の帰る場所を用意してくれているハイゼンに。

 そして、
   この世で最も愛した二人の兄、
        ローヴェントと、カルサスに。


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