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番外編 「ファンタジスタ エリスさん。」 2016.6.27

2016年06月27日 15時10分01秒 | -ためぞう の ぼうけん。『番外編。』-
   番外編「ファンタジスタ エリスさん。」


 第二話の途中辺りから、

 めっきり出番をジラさんに取られてしまった、

 乙女な姿のエリスねーさん。


 ねーさんと呼ぶには、

 あまりにも愛くるしい容姿で、

 萌える草原のような、光流れる長い髪に、

 アラバスターの頬に咲く桜色の頬紅。


 湧き出す泉のように、澄んだその瞳を持つ、

 端正な顔立ちのその美少女は、


 ねーさん時の胸の豊満さは失っていますが、

 それを補って余りあり過ぎる、

 可憐さを周囲に漂わせています。


エリスさん「まな板で悪かったなッ!!!」


 と、魂のシャウトをするエリスさんは、

 ファンタジーな感じの香る、

 お花畑に立っていました。


リンカさん「貧乳は、選ばれし者のステータスですよッ!!」


 と、白いスク水姿のリンカさんが突然現れ、

 そのメッセージを熱く残して、森の方へと去っていきます。


エリスさん「おおぅ!?

      なんで、リンカちゃんが!?

      と言いたいとこだが、

      私の事、全然気付いてなかったっぽいな・・・。


      んんっ、とにかく言葉使いには気を付けよう。


      今の私は、「ねーさん」では無くなってしまったのだな、

      はぁ~~~っ。」


 っと、深いため息を付きながら、

 なんとなく、今の姿にあった会話を心がけようと思う、

 エリスさんです。


 ここは、何処? 私はだれ?


 と、言いたくなったエリスさんに、

 残酷な現実を突きつけるような、

 立て看板が、道なりに立っています。


 『ここは、ファーム。

  貴女は、エリスさん。
  

  うかうか浮かれて、

  色恋沙汰なんて止めて下さいね。
  

  先を越されるのは、不愉快ですし、

  具体的に言うと、元の世界に戻れなくなりますョ。

  
    - きゅんきゅん LOVE ME エリナより。- 』


 エリスさんは、純白のドレスを可愛く揺らしながら、

 速攻で、立て看板を引き抜くと、


エリスさん「ホォァタァァァァアア!!!」


 ぽこぽこ叩いて、

 木っ端微塵の木片へと変え、

 土へと還してあげました。


エリスさん「ぜぇぜぇ・・・。な、何なんですの。


      ・・・こんなワナ的なフラグを、

      他人に見せるわけにはいきませんっ!!」


 証拠を隠滅したエリスさんは、

 あの青い空を見上げて思います。


 穏やかに晴れわたる空は、甘酸っぱい青春をするには、

 いい日和です。


エリスさん(・・・『ファーム』って、なんだろ。


      野球的な二軍ってこと?


      まあ、私はお気に入りの選手は、

      ファームから応援しに行ってるからなぁ。


      最近は、近代的なカッコいいファームもあって、

      応援楽しいんだよな。


      そういう未来のスター選手に、

      ツバを付けるなという、警告的な意味だろうか?


      エリナ先生って、恋愛したい120%モードなのに、

      THE・BIGさん(前世の旦那)にストーカーされて、

      災難なんだよな。


      そこは、同情せんでもないが、

      私の実力では、どーにもならんギャラクシー的なパワーを誇る、

      ザ・ビックさんが相手じゃ、

      エリナ先生に加担した時点で、


      「ためぞうの冒険」は終わる・・・。)


 長いものには巻かれて生きようと、

 レディース時代の、

 あの雄雄しき気概を失ってしまった、エリスさんです。


 エリスさんは、きっと出口のない、

 このほんわか世界を、道標の示すまま、

 道なりに歩いていきます。


エリスさん(・・・なんか、待機中のまま出番のない、

      A氏、B氏やら、いろいろすれ違っている気がした。

      ここは、やっぱ一軍に上がる為の試練場なんだな。


      冒険の扉とか、

      初心者から、中級、スーパーハードモードまで、

      完備されてるぞ。


      扉は、洞穴に木の扉ってのが、

 
      胡散臭いけどなぁ。)


 しばらく歩いていると、

 通り道に、縁日の出店のような露店を一軒見付けました。


 近付くと、そこには一匹のたぬきの店員が、

 わたあめと、リンゴ飴を売っています。


たぬきさん「いらっしゃ・・・おおぅ!?


      なんで、こんな場所に、

      ナイスで素敵でエレガントなお姫様がいるのッ!!」


 ・・・その口調から、エリスさんには、

 たぬきの正体の想像が付きました。


 たぬきは、突然の出会いにヒャッホウしながら、

 チャンスだ、落ち着けと、

 深く息を吸って深呼吸をしています。


たぬきさん「おめでとうございます!


      来店一万人目の貴女には、

      このたぬき特製のわたあめとリンゴ飴を、

      豪華一年分、毎日お届けいたします!!」


 出会い一年間を押し付けてくる、たぬぞうさんです。


エリスさん「お、お気持ちだけで。」


 エリスさんは、この時、

 このたるんだ「たぬぞう」さんに、

 気合を注入するか、

 スルーして、わたあめを買って帰るかで、

 ちょっと迷っています。


エリスさん(スルーは無しだ。

      番外地でしか、ためぞうと会えないなんて、

      おねーさん、悲しすぎるぞ。


      いっちょ、気合を入れてやるかね。)


 可憐なお姫様なエリスさんは、

 たぬきさんを手招きして、店から誘い出します。


たぬきさん(どきどき・・・。)


エリスさん「おいコラ! ためぞー!!


      気合入れてやんぞーッ!!!」



   パチィーーーン!!!



 エリスさんは、たぬぞうさんの頬を激しく平手打ちです!

 ですが、その手は細くしなやかで、

 いい音のわりに、ダメージ0のほんわか感触です。


 たぬぞうさんは、もっとと、

 反対側の頬を差し出しますが、

 何か違うプレイに変化しそうなので、


 エリスさんは、たぬぞうさんの頭の上の、

 見えない葉っぱを取り上げました。



   どろ~ん。



 たぬきさんは、弟分のためぞうに戻りました。


 ただ、戻っただけなので、

 たぬきサイズのちっさい布切れが、

 大事な部分を隠しているだけです。


エリスさん「ブーーーーッ!!

      早く何か着ろよっ!」


 ためぞうは、露店の中から、メロンのプリントのシャツと、

 ジーンズに着替えて、テレながら戻って来ました。


エリスさん「てか、普通はたぬきさんが、葉っぱを乗せて、

      人に変化すんじゃねーの?


      葉っぱ乗せて、たぬきさんになるって、どうよ?」


ためぞう「・・・そういう仕様なんで、すんません。」


 素直に謝られると、対応に困るエリスさんです。

 押しは強いですが、押されると弱いのです。


エリスさん「世の中には色々ある!

      そして、ここは何でもありの番外地だ。


      現実に目を背けず、よく私を見ろっ!!」


 ためぞうは、ツンデレっぽい美少女に、

 なんだか、もじもじしています。


エリス「だから、私はためぞうの姐さんの、

    エリスだよ!


    見た目が、まあ声も全然違うが、

    とにかく現実を受け入れて、

    気合を見せろ!


    さっさと、本編で会おうや・・・。」


 何だか熱く語る可憐なお姫様姿のエリスさんに、

 ためぞうとしては、何だか勇気が持ててきました。


 何と言っても、エリスさんとためぞうは、

 血の繋がった姉弟ではなく、アネキと弟分の関係です。


 この愛らしいエリスさんでも、いいーーんですっ!

 きっと、トゥルーエンドの幸せゴールインなんです!!


ためぞう「と、いう事で、

     よろしくお願いします、

     ねーさんじゃない方のエリスさんっ!」


エリスさん「お前、サフィリアさんと、レミーアさんは、

      どーすんだよ。


      言っちゃうよ。

      世界のあちこちで、シャウトしまくっちゃうよ。」


ためぞう「うぉぉ・・・。


     どうすればいい、考えるんだオレ!


     そう、今こそとんちを使う時だ。」


 すると、その場にマッハで現れた、

 アメジストの髪の貴公子、レオクスさんが、

 ためぞうの前に現れ、こう耳打ちます。


レオクスさん「ためぞう君!

       目移りはダメだよ、悲しいよ。


       エリスさんは、

       私とセバリオスさんの甘酸っぱい青春なんだよ。


       ちなみにサフィリアさんは、ためぞう君も含む、

       争奪戦の対象です。


       最近、エリナ先生の素晴らしさにも、

       ようやく気付き始めましたが、

       父がご迷惑をおかけしている最中なので、

       私は自重しようかと思っています。


       わかるかい、ためぞう君!


       私たちは、強い絆で結ばれた仲間なんだよ。

       抜け駆けは、ダメなんだからネ。」


 と、久しぶりに熱く語った充足感に浸る、レオクスさん。


 振り返ったレオクスさんは、あの時のエリスさんの姿に、

 感涙しています。


レオクスさん「セバリオスさんしか知らないキラメキを、

       私は今、この瞳で見つめているんだね・・・。


       ああ、今ようやく分かったよ、

       セバリオスさん。


       (これが、未来の私かセバリオスさんの娘さんの姿なんだね。)」


 何だか、ハンカチで涙を拭ってるレオクスさんに、

 エリスさんも、照れています。


 そんな風に見られているのを、知らずにいれば、

 幸せな事でしょう。


 憧れのレオクス王子様に、ちょっぴり浮かれてしまう、

 エリスさんです。


エリスさん「さすが、レオクスさんですね。


      私の事をわかってくれるんですね!」


レオクスさん「もちろんですとも!


       いやー、いい想い出も出来たので、

       一旦、本編に戻っておきますね。」


 帰る時は、光の速さのレオクスさんです。

 いいメモリーをゲットして、

 ためぞうと、エリスさんを残して、

 番外地を去って行きました。


エリスさん「ハァ・・・いつになったら、

      戻してくれるんだろうな、エリナ先生。


      もうすぐ夏だぞ。

      デパート行って、田中さんに水着選んでもらわないと

      いけないのに、


      トレンドから置いて行かれるなぁ~。


      有給は、一年分くらい溜まってたから、

      しばらくは大丈夫なんだが、

      余裕ぶっこいてる場合じゃないぞ。


      エリナ先生に、なんだかポジション持っていかれそうだゾ!!」


ためぞう「・・・オレも早く復帰したいんだが、

     当分、無理っぽいな。」


エリスさん「気合だよ、気合ッ!!

      ためぞうにも、あんだろ、


      熱い魂(ソウル)を届けたいって気持ちが。」


 何とも愛くるしい美少女姿のエリスさんに諭されても、

 うんうん、とほがらかに微笑んでしまう、

 ためぞうでした。


エリスさん「ほら、行くぞためぞー!

      もう冒険の資金は露店でしっかり稼いでるんだろ。


      早く帰ろうぜ、私たちのあの家になぁ。」


ためぞう「付いていくよ、ねーさん。」



        エリスさんの放浪記は、まだまだ続きそうです。
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外伝 X 「エリスさん、今のはボールと主審に抗議。」(九回の裏 35-0 ノーアウト満塁。)

2016年06月18日 17時34分41秒 | ためぞうの冒険・外伝(仮+試しなど。)
 外伝 X



 - これは、はるか昔の、

   人々の記憶の中の、おはなしです。


   その、とおい過去の世界では、

   たくさんの人たちが、

   いろいろな形の船で、


   夜空にかがやく、きれいな星々を、

   自由に旅していました。


   時には、けんかをしたり、

   仲直りをしては、


   あのソラのいっぱいにまで、

   その足あとを、広げていったのです。


   そして人々に、

   大きな不幸が、ふりかかったのは、


   ある小さな、わずかな人々がくらす、

   その星が、

   夜空から消えてしまった、

   その時に、はじまります。

   
   たくさんの人々は、

   見上げるソラの、

   一つのきらめきが消えたことに、

   ぜんぜん、気が付きませんでした。


   ですが、次々とあかりが消えていってしまい、

   その半分の明かりしかみえない、

   あの夜空を、見上げたときのことです。


   音もなく、近寄ってくる、

   みえない敵。


   たくさんの人々が、

   明かりが消えていくのといっしょに、

   いなくなってしまいます。


   のこされた人々は、

   みんなの力をあわせて、


   必死に、その敵に立ちむかいました。


   それでも人々は、たくさん星空とともに

   消えていきました。


   その後、

   最後の青く輝く星をのこして、

   ようやく、その敵をおいはらうことが、

   できました。


   そのあと、しばらくして、

   たった一匹のその敵が、やってきた場所が、

   わかりました。


   どこまでも広がるソラの果てに、

   小さな、虫くいのような穴があいていたのです。

   
   その小さな穴は、ふさぐことができなかったので、

   大きなフタをするように、


   十二個もの大きな星たちを、

   たてとよこにならべたのです。


   人は、その星々のくさりを、

   『グランドクロス』と名付けます。


   そして・・・、

   その穴の先につながる、

   おそろしい世界のことを、


   混沌の『ハイデス』と呼びました。


   グランドクロスでの、

   ハイデスとの戦いは、


   いまでもずっと、

   続いています・・・。


   その記憶を、たくさんの人々が、

   忘れ去ったしまいました。



   でも、そこを守る人々は、

   今でも、戦いつづけているのです。
   

   この瞬間も、ずっと・・・。 



             『ある少年が、残した手記。』より。 -




   X 『変革を求めて。』



 まるで、時が止まってしまったように見える、

 夕焼けに照らし出された中原の大地。


 そこには、茜色に照らされた城塞都市を守ろうと、

 命がけで戦った数万人もの兵士たちがいます。


 実際には、ほんの僅かにですが、

 時は流れてはいるのですが、


 彼らとって、この僅かな時の流れを感じるのは、

 とても難しい事でした。


 聖王バルエリナスたちのいる、

 その小さな隔離世界では、

 今でも当たり前のように、時は経過しています。


 空間そのものを、元の世界から、

 時間軸ごと切り抜いたこの戦闘領域は、


 この日の沈む景色に立つ、多くの人々を、

 傷付けない為に造られた、目には見えない壁です。


 そして、この戦闘領域にいる戦士たちの、

 暗黙のルールが通用しない、

 招かれざる客が、姿を現します。


聖王バルエリナス「・・・みなさん、直ちに抜刀して下さい。


         あれが、これから私たちが、

         相手をしなければならないのは、

         歴史の裏に、ひた隠しにされ続けてきた、


         何ものをも崩壊させる、

         真の『敵』です。」


 聖王は、そう発して、

 上空、僅か10mほどの高さに現れた人影を、

 厳しい表情で見上げます。


 剣聖アレスティルも、邪王フェノ、

 桜色の髪をした乙女、ルフィアも同じように、

 その空を見つめます。


 ジラの手をグッと握る、姉の邪王アリス。

 そのジラも、銀髪の少年も、

 未だ、まったくとして動く気配はありません。


 聖王は、その強大な防御力によって、

 空に立つ来訪者を、

 この隔離された世界を、

 縦方向に広げるようにして、

 包み込みます。


 この時、剣聖アレスティルの生み出した防壁は、

 すでに消え去り、


 防御を聖王に託した彼は、

 手にした聖剣・エルザードに、

 全力でその力を注ぎ込んでいます。


影の主「ほほう・・・、


    やはり、グランドクロスの者たちは、

    我らに対しての備えに、

    それなりの自信があるようだな。


    不意を突いてやったつもりが、

    はめられたのは、この私の方だったか。」


 周囲の光を強引に屈折させ、

 己の姿を人型以上に悟らせない、

 その影の主の言葉に、


 聖王バルエリナスは、一瞬戸惑います。


影の主「この私が、姿を識別させないのが、

    そんなに不自然な事か?


    安易に、姿を露わにするなど有り得ぬし、

    名を知られる事さえ、出来れば避けたいものだ。


    私はそこまで、

    自己顕示欲の固まりというわけではないし、

    特に、飛び抜けて強いというわけでもない。


    争う者としての、

    最低限のルールを守っているだけなのだが。」


 その影の主は、地上で待ち構える、

 聖王たちの下に、降りてきます。


 どんなに近付いても、その像はぼやけていて、

 まるで陽炎を見せられているような感じです。


影の主「己の正体を知られる事が、

    その秘めたる力まで、知らせてしまうという、


    いわば、手の内の切り札(カード)を晒すような、

    そんな愚かな真似を、

    好き好んでするはずもあるまい。

    だがお前たちの姿は、堂々としたものだな。


    これが、グランドクロスの仕掛けた罠だとすれば、

    その自信ゆえに、

    姿を現しているのだろうと思いもしたが、

    少し理解し難いものがある。


    何故、戦いの場を貴重な地上空間などにしているのか。

    それと、どうして先制を仕掛けてこなかったのかだ。


    そこに在るは、確かに、

    十二戦士の中でも上位格に入る、

    『NO,3 無限の色彩のルフィア』ではないか。」


 その問いにまず反応したのは、

 当の本人である、ルフィアです。


ルフィア「・・・何の事を言っている。」


 ルフィアとの間合いを、その一撃の及ぶ5m手前まで、

 距離を詰める、影の主。


影の主「ああ、

    あの驚異的な強さを誇る、

    NO,3の剣姫ルフィアに、

    間違いない。


    私の、魔王としての血が教える、

    この身を退けし者の脈動。


    フフッ、なんと運のない事か、

    十数名もの魔王らが連なり、一斉に侵攻した中、

    私は運よく、内側に入れたとは思ったが。


    ・・・あのNO,12の『絶対者』に、

    当たった者たちの事を、哀れには思うが、


    そこに、絶対者の右腕とも言える、

    ルフィアが待ち構えていたとはな。


    相打ちとなるくらいであらば、

    ここは、無理せず引くのも、

    手かも知れんが・・・。


    ・・・いや、またと無い好機だ、

    無駄にするのは惜しい。


    ルフィアの様子が違う以上、

    一度、当たってみるのもいいだろう。」


 影の主のその言葉を、理解出来たのは、

 聖王バルエリナス、ただ一人でした。


 聖王は、あえて他の者たちと同じように、

 状況が分からないような様子を見せています。


 もうすでに、

 『ハイデスの魔王』との賭け合いは、

 始まっているのです。


 今は、その影の主の周囲を、

 圧倒的な、この世界には無い『力』が支配しています。


影の主「やはり、

    この世界・エルザードに辿り着けた以上、

    手ぶらで帰る気になどなれんな。


    そこにあるフォーリナでも、満足に足る品ではある。


    だが、あれには技術者(エンジニア)がいなければ、

    我らが宇宙へと持ち帰る事は困難だ。


    それは、もう少しこの世界の進化を待ってやってもいい。


    さて、君らを全て消し去って、

    何か、代わりとなる品でも、探すとしよう。」


 影の主が、

 何やら得物のようなモノを取り出すと、


 いよいよ、混沌(カオス)より来たりし者との、

 戦いが幕を開けます。


 ハイデスの魔王は、聖王の造りし、

 その防壁をたやすく破壊し、


 あらゆる生命や大地を、

 滅びの力と変えて、

 際限なく喰らい尽くすでしょう。


 影の主が、得物を振り上げた、

 まさにその時ですッ!


 この隔離世界にいる者全てが、

 見知らぬ場所へと転移させられます。


聖王バルエリナス「・・・ここは!?」


 そこは、堅牢な石材で作られた円形の闘技場(コロッセオ)。


 直径150mほどのその、錆びた銅のような色をした、

 タイルの床の敷き詰められた場所に、

 彼らは、一瞬にして飛ばされたのです。


影の主「・・・懐かしいな、

    ドーラベルンの闘技場とは。


    当然の処置か、フフッ・・・。」


 青白い光に満たされたこの場所は、

 争うのに、戦士の防御力による隔離世界を必要としない、


 戦士と魔王の決戦場、『ドーラベルンの要塞』でした。


 その空には、フォーリナが月として存在しています。

 フォーリナは、満月となり、

 闘技場の戦士たちを照らし出します。


聖王バルエリナス(・・・ここが、あのドーラベルンの闘技場。


         フォーリナに備えられた防御システムが、

         私たちをこの地へといざなったのか、


         あるいは、・・・この戦いに干渉する、

         別の何者かの仕業か。)


 沈黙する聖王の代わりに、

 影の主が、その問いに答えた。


影の主「久しいな、炎将のマイオストよ。」


 その声に答えるように、

 ルフィアと影の主の間に分け入った、

 黒衣を纏う仮面の男。


マイオスト「いやぁー、

      この程度の変装では、

      やはり無理でしたかな、はははっ・・・。


      まあ、私としても、

      あなたの正体を知る手がかりとしては、

      十分なヒントを頂きましたがね。」


影の主「フハハハハッ、

    また、はめられたという訳か。


    いやはや、

    その自身の愚かさが笑えるぞ。」


マイオスト「ええ、


      私は、そうそう何人もの、

      ハイデスの魔王を知りませんからね。


      その口振りからして、

      我々とは、そう険悪という仲ではない、


      『スァ・・』」



   ドゴォォーーンッ!!!



 刹那、ハイデスの魔王の一撃が、

 激槌の爆煙を巻き上げ、

 黒衣の男を、叩き潰します!!


 その一遍すら残さずに、

 振り下ろされた得物へと吸収された、仮面の男マイオスト。


 凄惨なる現実を目前に、

 切れそうなほどに張られた緊張の糸が、

 聖王たちの間に、動揺を招きます。


聖王バルエリナス(・・・見えなかった。

         クッ、なんという速さだ。)


 そんな中、

 ルフィアだけは、ハイデスの魔王の速度に対応し、

 つるぎを素早く、受け流しの構えへと移しています。


聖王バルエリナス(私に、力の一部を預けておきながらも、

         ルフィアは、あの悪魔とも言うべき敵に、

         対応出来るのですか・・・。


         ・・・ここは、全ての力をルフィアに戻し、

         フォーリナの力のみで、この身を維持し、

         対処した方が良さそうです。)


 そんなバルエリナスに、

 ルフィアは軽く、首を横に振る仕草を見せます。


ルフィア「それには及びません、主よ。


     貴女様の抑制の力があってこそ、

     私は本来の力を発揮出来るのです。」


影の主「なるほど、

    その『無限』の能力は、

    己自身では、ブレーキが掛けられない物だったな。」


 かのハイデスの魔王とも、

 引けをとらずに、立ち向かえる、

 そのルフィアという強大な存在に、


 アレスティルも、フェノも、

 ただの一戦士として、

 己が無力さを、痛感せずにはいられませんでした。


ルフィア「それに、マイオスト候も、

     健在です。


     早く出てきては、いかがですか?」


影の主「・・・フフッ、いやはや。」


 見上げる空に浮かぶ、フォーリナの月から、

 再び、黒衣の仮面の男が、

 地上へと姿を現します。


 その仮面とマントは、別物になっていますが、

 背格好は同じです。


マイオスト「いやぁ・・・、

      しばらくは、高みの見物とでもと、

      行きたかったのですが、


      ルフィアさんがいたのでは、

      そりゃ・・・、無理ですよね。


      いい加減、戻って来て、

      あのバカ覇王の嫁の座に、収まってもらえると、


      私としても、フィオーラ=ハインウィンドさんとの、

      円満生活に戻れるんですがねぇ。」


ルフィア「ご冗談を、


     あと、ハインさんからはすでにもう、

     逃げられちゃってるではありませんか。


     あれで結婚とか言えるのですか?

     式の最中に、花嫁がドロンですよね。」


マイオスト「・・・ハァ、

      そうなんだよねぇ。


      なんで、アイツも私も、

      こうも女運がありませんかね・・・。」


 ハイデスの魔王を目前に、

 どうでもいい会話を交わす、ルフィアとマイオスト。

 その馬鹿げたやり取りは、

 聖王たちを、その張り詰めた空気から、

 解放するに十分でした。


 無理に緊張していては、その動きも鈍るという、

 ルフィアなりの配慮です。


影の主「フハハァ、

    やはり、お前たちは変わらぬな。


    我らの世界にも、そういうものがあれば良いと、

    私も思わんではないが、


    無い故に、奪うしかないという、

    その定めは、変えられぬ。」


マイオスト「もう一度、叩きのめしてみますか?」


影の主「替え玉を幾ら破壊しても、

    私は無駄に踊らされているに過ぎぬ。


    そんなくだらぬ事で、

    己の戦闘力を落としていくのは、

    道化のやる事だ。」


 そう言うと、ハイデスの魔王は、

 後へと引き、その間合いを、

 一定の距離まで広げます。


マイオスト「持ち込んだ力には、使用制限がありますからな。


      では、そろそろ始めるとしますか。

      Xで始まる -ハイデスの魔王- の名を持つ、

      『サ(スァ)リア』殿。」


 そう言うと、マイオストは、

 黒いマントの奥から、

 炎を纏う刃『フレイムタン』を抜きます。


 ハイデスの魔王とは、

 彼らの住まう、混沌の世界で、

 その強さのランクが『10』に達した者の総称です。


 故に、X(=10)という文字が、

 その名に用いられます。


 マイオストのランクは、せいぜい『5』です。

 地の利を生かして、彼はハイデスの魔王と対峙しています。


 ハイデスの魔王・サリアから見た、

 ルフィアのランクは『9(+1)』。


 しかし、その僅か1の差に、

 依然、ハイデスの魔王が優勢なのは変わりません。


 影の主は、背中の赤いマントの一部を僅かに残して、

 その姿を露わにします。


 手のひらの内を見せるワケは無いという、

 その駆け引きの一つでしょう。


 決戦のコロッセオに顕現するは、

 肩まで延ばした灰色の髪に、

 美しい顔立ちのスレンダーな女騎士。


 白きプレートアーマーを纏う、

 その雄々しき立ち姿は、

 『魔王』と呼ぶには、あまりにもかけ離れた、

 まるで、その魔王を狩る聖騎士のような姿です。


 巨大な鉄塊を先端に付けた槌を、

 瞬時に、両刃の剣と盾に変化させ、

 その手にする、魔王のサリア。


 サリアは、マイオストにこう語りかけます。


サリア「私も、

    私たちの世界と、こちらの世界の言語が、

    あなたに会う事で、同じ共通点があると気付かされた時、

    その衝撃に、感動すら覚えたものです。


    『ナンバー X‐1250』で呼ばれていた私に、

    『白騎士のサリア』という名が有るのだと、

    教えてくれたのも、あなたでしたね。


    新参者を除く、

    全ての魔王級の名を記した、

    そんなリストが実在していた上に、


    それを無償で、我らの世界に、

    マイオスト殿が提供してくれた事により、


    ハイデス世界には、革命とも呼べる、

    『自我』への意識の目覚めが、

    瞬く間に、拡散したものです。


    それからのハイデス世界では、

    ただの掃滅戦だった魔王級による争いが、

    特別な上位者、六名を除く、

    次なる地位への争いという形で、


    その果てしない破滅のスパイラルが、

    わずかな『期待』へと変わったのですから。


    フフフッ・・・、

    私は、この世界に侵攻をしておきながら、

    都合のいい事を言っていますね。」


 先ほどとは、がらりと雰囲気が変わり、

 凛々しき白騎士の姿となった、魔王のサリア。


サリア「先ほどの一撃は、

    あなたが、私を試しているような気がしたからですよ。


    あなたとの出会いには、

    本当に感謝しているのです。


    ですが、かといって、

    手加減など出来ないのが、

    残念でなりません。


    私たちが、異なる世界の住人である、

    あなたたちと、分かり合えるのは、


    もっと、遠い未来となるでしょう。


    争わなければ、その存在が失われてしまう、

    リミッターの壊れてしまった、


    私たちの住まう、

    その混沌の世界が、続く限り・・・。」


 マイオストは、戦士としては二流ですが、

 その博識においては、

 ゼリオス銀河の創造主とも呼ばれる、

 アリスアリサに次ぐ程の、

 情報を知り得ています。


 その膨大なデータベースを、フォーリナなどの、

 様々な端末に隠蔽する事で、

 自身では抱えきれない情報量を、

 自在に調整しています。


 彼の存在自体が、

 その宇宙に匹敵する知識への鍵(キー)ともなっているのです。


マイオスト「故に、強大になり過ぎた、

      自己の崩壊を、食い止める為に、


      我らの世界が持つ、『エクサー』に代表されるような、

      レベル管理機構(システム)の奪取を狙って、

      侵攻して来るわけですな。」


サリア「それが、私たちの世界にあれば、

    争いは、もっと小さなものになるでしょう。

    我らの世界に残る、

    その役割を果たす、大いなる遺産群は、

    六名の上位者によって、独占されていますので。


    ですが、この世界に存在する、

    全てのエクサーを奪ったとしても、


    ・・・圧倒的な巨大さを持つ、

    混沌として、無秩序なハイデス世界では、

    一握りの安らぎの地を得るに過ぎませんが。


    それに、多くの者たちは、

    対話になど興味はありません。


    それは、この私も、

    結果的には、同じと言えます。


    もたらす害悪は、他の者と変わらぬのです。」


 サリアのような、話が通じる魔王は、

 とても稀有な存在です。


 ですが、ハイデス世界の支配者たちは、

 そういう者たちを、異物として排除します。


 成り立ちの違う世界同士が、

 繋がってしまったが故に、


 理解は出来ても、

 生き残るために、彼らは非情に徹するしかないのです。


 ハイデスの六人の支配者たちが、

 永遠の存在であり続ける為に、

 生み出した、その破滅と再生のサイクル。


 かの混沌の世界に生まれし者たちは、

 その事実を知らされる事なく、


 襲い来る者たちから、

 ひたすらに己の全てを賭け、決死で戦い、

 その淘汰の中、生存競争に勝ち残る内に、

 ついには自らの限界をも、超えてしまいます。


 ・・・それが、魔王の誕生です。


 『ハイデスの魔王』となった瞬間、

 己自身では、抑えきれない量の膨大な力が、

 両刃となって、自身にも襲いかかるという、

 その真実を知るのです。


 限界を超えた力は、爆発的に増大していき、

 その制御不能の禁忌の力に蝕まれ、

 魔王は自身のその力によって、滅びるという、

 定めにあります。


 破滅のサイクルを食い止めなければ、

 ただ、虚しく消え行くだけです。


 滅びから逃れるには、

 際限なく失われゆく自身の命の対価を、

 ひたすら他者から、補い続ける事するしかありません。


 そうして、結局、彼らには、

 「奪う」という選択しか残らないのです。


 そして、ついに見つけた、

 呪われた輪廻を止めるその手段。


 それが、この世界に無数に存在していた、

 古のファーストの遺産にも匹敵する、

 レベル管理機構と呼ばれる、

 『エクサー』でした。


サリア「エクサーのようなものを造り出す、

    超高度な文明など、

    ハイデス世界には、存在しません。


    あの蒼い月、フォーリナの下ですら、

    ハイデスの魔王の幾人かの、

    忌むべき定めを変える事が出来るでしょう。」


マイオスト「このプロト・フォーリナは、

      量産型の数十倍もの、

      出力と抑制力を秘めていますからなぁ。


      まあ、機動性に関しても、

      まだまだ伸びしろがありますが、

      実装させるには、時期尚早ですし、


      持ち帰るにしても、

      その次元の違う世界同士を超える機動力が、

      使えるようになってから、ですかね。」


サリア「帰る場所(座標)は、知っています。


    この身の最大防御で、その受け皿となれば、

    強引にワープさせる事も可能かも知れない。」


マイオスト「まあ、受け皿さえあれば、

      エクサー級ですら、飛ばす事も出来ますからな。


      ですが、失礼ながら肝心の受け皿が、

      魔王級の騎士の防御力とはいえ、


      それに耐えられるのは、

      小型の衛星クラスのフォーリナでも、

      せいぜい2~30%。


      太陽ほどの大きさのエクサー級に関しては、

      100億分の1以下にも満たないしょう。」


サリア「僅かな希望にも縋らなければならない時、

    人はそれでも、確立で未来を語りますか?」


マイオスト「ですなぁ・・・、


      我らもかつては、同じ手段のような事を、

      行った歴史がありますからな。」


 サリアは、マイオストの向かって、

 そのアクアマリンの瞳の輝く、

 美しく端正な表情に、微かな笑みを浮かべます。


サリア「我らハイデス世界の支配者の一人に、

    アリスアリサのような存在がいてくれたなら、


    こうも、私たちの関係が難しいものに、

    ならずに済んだとは、思いますよ。


    あくまで、夢物語の域を超えないのが、

    残念な事です。


    フフフッ・・・。」


 サリアはそう言って、

 未だ動く気配のない、ジラと、

 銀髪の少年に目をやります。


サリア「彼らが何と出会っているのか、

    戦う前に、教えていただけませんか?」


マイオスト「さあ、一人の女性は親しい仲ですが、

      少年の方は、知りませんね。


      はて、何と邂逅しておられるのやら、

      出来れば、教えてもらいたいのは、

      私としても、同じですなぁ。」


 その問いに対する答えを、

 マイオストは持ち合わせていませんでした。


 唯一、その答えを知る、

 聖王バルエリナスは、


 とても貴重なカードである、その秘密を、

 ここで切るか、判断をしています。


聖王バルエリナス(問題は、マイオストと、ハイデスの魔王サリアが、

         信頼に足り得るかという事です。


         この秘密を共有するには、

         相当な対価を求める必要があります。


         何しろ、この私の存在さえ、

         危うくさせかねない、

         危険性を伴っているのですから。)


 押し黙る聖王に、

 マイオストとサリアは、共に何かを感じたように、

 その視線が向かいます。


 次の瞬間、

 ルフィアの、彼らを見つめる青い瞳が、

 一瞬で厳しいものへと変わります。


マイオスト「ご、誤解しないで下さいね、ルフィアさん。


      やめろって言うんでしたら、

      素直に後ろを向きますから。」


 ルフィアの壮絶な一撃は、

 防御型(ナイトタイプ)の魔王である、

 サリアにとっても脅威です。


 そうして稼いだ時間は、

 バルエリナスに一定の結論を出させるのに、

 十分でした。


 聖王バルエリナスは、想います。


 彼女が、何故この過去の時代に、

 現れる事にしたかという、

 その意味を。


 《 エリスさんは、『ジラ』として、

   この世界に存在しています。

   その事実は、アリスアリサであっても、

   変える事は出来ません。


   ですが、この私の存在は、

   今のままでは、アリスアリサの思いによっては、

   世界から消し去る事が出来てしまうでしょう。


   この私が、バルエリナスとして、

   その彼女にさえ悟らせずに、


   ・・・あの座に存在する事態が、

   彼女のその意思に、反する事なのですから。


   何故ならば、

   この私、バルエリナスこそ、


   1725番目に造られし世界の中心である、

   意思を持つエクサー、


    -『エルザーディア』-


   その物なのですから・・・。 》



 次の瞬間、

 聖王バルエリナスの言葉が、テレパスのように、

 マイオストとサリアに届きます。


 聖王バルエリナス(お二人とも、

          少し時間をよろしいですか?


          ・・・このお話をするには、

          何よりも信頼が重要です。


          これは、私にとっても、

          非常に大きなリスクを伴います。


          世界が変わるような内容を含む話です。

          無論、強制などは致しません。


          私の提案が気に入らなければ、

          直ちに、その刃を交えるだけです。



          それとも、僅かな望みを信じて、

          私と血の盟約を結んでいただけますか?


          対価は、『破滅。』


          この私を含め、三人全てが、

          だれか一人が、その約束を違えた時点で、


          二度と甦る事もない、

          無へと還ります。


          それを承知して頂ける方だけ、

          こちらへと、いらして下さい。)



 マイオストとサリアは、

 互いの様子を伺いながらも、


 その難しい判断に躊躇する事なく、聖王の方を見て、

 同意と、頷きます。


 聖王のその姿の後には、

 光の道によって示された、何かの到達点のようなものが、

 二人には見えました。


 恐れる事無く、前へと二人は足を踏み出します。


 と、刹那、

 マイオストとサリアは、


 これまで、誰も見たことのないような、

 宙に浮いた純白の扉を目にします。


 どうやら、瞬時に何処かへ飛ばされてしまったようです。


 そして、二人がその場所を知らないのも、

 無理はありません。


 何故ならそこは、

 あらゆる全てを超越せし者のみが、

 見る事の出来る風景・・・。


 エクサーとの対話の間へと繋がるものでした。


 この広大な宇宙、

 ゼリオス銀河のその160億年の歴史上の中、


 唯一、その場所に立てたのは、

 あのグランドクロスのNO,12の戦士、

 『絶対者 アリス』

 ただ、一人しかいないのです。


 辺りは灰色の闇に包まれ始め、

 その二人の背後には、この場所を離れる為の、

 戻り道が、光で照らされています。


 とても不思議な空間でした。


 その身体はまるで、物質をもたない魂のように、

 軽く感じられます。


 ですが、その姿は、

 通常のものと、変わらないように映っています。


 物に触れることは出来ません、

 まるで、自分の身体そのものが、

 映像にでもなってしまったように、

 白と黒と灰色に覆われた、空間のスクリーンに、


 あの、戻り道から照らされるレンズの光によって、

 映し出されているかのようです。


 それは、夢の中で想いが巡るような感じです。


 この時改めて、

 進むか、戻るか、


 その選択の前に、マイオストとサリアの二人は、

 立たされていました。


マイオスト「いやぁ~、あのアリス・・・おっと失礼。


      (ここは、


       彼女の端末が、

       教えてくれなかった、


       星々の間に散りばめられし、

       伝承の知識の庭の事ですな。


       その存在が、架空の物として、

       秘匿されているのだと、、

       私は確信はしていましたが、


       ライエンやリカディ、ミルザといった、

       研究仲間たちからは、

       この光景に立つ事自体が、


       さぞ、うらやましがられる事でしょう・・・。)


      ええ、

      もちろん、行かせていただきますとも!


      (何せ、私の実力で、

       三つの限界の全てを超えるのは、

       まず不可能ですからな。)」


サリア「アリス・・・。


    ハイデスの魔王の中に、

    その名はありません・・・。


    もしや、ファーストの最期の遺産とも云われる、

    伝承の六人の乙女の一人。


    永遠のアリス!?」


マイオスト「ほほう・・・。」


 照らすレンズの光が、

 徐々に弱いものになっていきます。


 ここまま何もしなければ、

 強制的に、この場所から退出されられるでしょう。


サリア「・・・行かせて下さいッ!!


    私は、かの乙女に憧れることで、

    強く、生き残る事が出来たのですから。」 



 そして二人は、白い扉を開きます・・・。



    - 時の境界・管理者の間 -



   『この世界で流れた時間は、
    通常世界に加算される事は無い。』


 通されたその場所は、

 一つの横長のテーブルと、その手前に長椅子が一つ、

 奥に一つの椅子が置かれた、

 とても簡素な、狭い一室です。


 四角形の立方体の形をした室内は、

 その床は黒の混じった灰色で、

 壁が薄暗い水のような不思議な壁に覆われ、


 その天井から差し込む、淡い光によって、

 一定の明るさが保たれています。


 この四角い部屋には、入り口も出口も無く、

 何より、そこには、

 マイオストとサリア以外、

 他の何者もいないのです。


マイオスト「まあ、座って待ちますか。」


 この時のマイオストの姿は、

 灰色に近い銀の髪をした、

 三十代後半ぐらいの、ごく普通の男性の姿です。


 特に目立つ特徴もない、冴えない感じの男です。


 それに対して、

 一方の重厚な鎧を脱いだサリアは、

 麗しきレトレア織りの、白のドレス姿で、


 灰色の髪を腰まで長く伸ばした、

 北欧系の絶世の美少女です。


 年の頃は18才くらいで、

 まるで絵画に描かれたお姫様のような、

 その可憐な美しさに、


 世の殿方たちは、

 惹き付けられずにはいられないといった感じです。


サリア「そうですね。」


 と、長椅子に腰を下ろす、

 グレーの髪の美少女。


 マイオストは、チラ見しながら、

 何とか平常心を保っています。


マイオスト(これだけ、間近に彼女を見る機会など、

      なかったわけですが・・・。


      これまた、とんでもない美少女さんじゃありませんか!!


      状況が状況なら、

      立場を考えろと自分に言いたいですが、


      ・・・私の結婚への残されたチャンスは、

      定期購読の婚活雑誌、

      『Happy40セコンズ。』調べでは、

      わずか2%ですぞッ!!


      ・・・出会いなど皆無のこの私に、

      チャンスはいきなりやって来たッーー!!!


      互いの世界など超える愛で、

      最初は、お友達からとかで、

      何とかスタート出来ないものですかねッ!?


      ・・・その時は、ごめんよぉ、

      行方知れずの、ハインさん・・・。)


 閉ざされた密室で、二人っきりの、

 麗しき若い娘さんと、ただのモテないおっさん。


 そのおっさんのマイオストは、

 この緊張感バリバリのシチュエーションに、


 沸々と、アクション映画の1シーンのような、

 急に、二人の仲が、

 深まっちゃったりしないかなぁ~と、


 ついつい妄想してしてしまいます。


 スナック通いだけがオアシスだった、

 マイオストのおっさんにとって、


 こんな奇跡のツーショットが、

 そのだらだらと、無為に過ぎた人生の中で、

 果たしてあったでしょうか。


 いいえ、ないのですッ!!!


サリアさん「あの、私の顔に何か付いていますか?」


 その願望にも近い熱い視線を、

 ひしひしと感じたサリアは、

 くすんだ銀髪のおっさんに、そう問い返します。
 

マイオスト「あ、いえ。


      物凄いべっぴんさんなので、

      ついつい見惚れております。」


サリア「私が、ですか?」


マイオスト「そうですよっ!


      これはもう、1万年に一人の美少女と言っても、

      過言ではない、

      実にグットな感じです!!」


 何とか、会話に繋げようと、

 割と必死なおっさんです。


 サリアは自分が、

 褒められているということ自体は、

 理解出来ましたが、


 そういう経験は、これまで一度もないので、

 その答えに迷っている感じです。


サリア「あの、ありがとうございます。


    でも、それは褒め過ぎとして、

    その事に何の意味があるのかが、

    良く分かりません。


    こちらの世界では、それは重要な事ですか?」


マイオスト「ずばり、『きらめき』ですッ!

      意味MAXですッ!!


      甘酸っぱい青春と申しましょうか、

      それだけの美貌をお持ちなら、

      言い寄る男も数多といた事でしょうに。」



サリア「えっと、・・・分からないのですが、

    何故、男性が私に言い寄って来るのですか?


    やはり、住まう世界が違うと、

    その慣習も、こうも違ったりするものなのですね。」


 彼女のハイデス世界には、

 恋愛感情など存在しません。


 中には例外はあるかも知れませんが、


 いつ、何処で自分が生まれたかも知らされず、

 ただ生き残るという、

 目的しか与えられないその世界では、

 そもそも性別自体に、意味は無くなっています。


 『魔王』という領域に達した者でも、

 その混沌の世界を、少しも俯瞰する事さえ出来ず、


 ただただ、互いに滅びを擦り付けあって、

 生き残る道を探すだけです。


 どこまでも広がる、

 光さえ、歪んでしか届かない世界の中で、


 もし与えられた希望があるとすれば、


 それは、自分という存在に、

 『名』があったという、その事実です。


 ハイデス世界に名の情報を、

 このマイオストが与えた事を知る、

 サリアにとって、


 彼は、ある意味、

 特別な存在ではありました。


 そして、混沌の世界の中で、

 サリアの中に、一つの明確な目標が生まれます。


 その始まりは、名を知らされた後に、

 ある碑文を偶然にも、

 読み解く事が出来てしまった事に始まります。


 それは、生まれた時より、

 記憶の奥底に、ぼんやりと像のようにあった、

 ある乙女への憧れ。


 そのおぼろげな彼女の姿を鮮明にさせる、


   『六人の戦乙女の物語。』


 サリアは、その至る所が欠け落ちた、

 碑文を読み解く内に、


 『永遠のアリス』という名の乙女が、

 自分の追い求めていたその少女だと、

 心に感じたのです。


 彼女は、六人の乙女の中で、

 誰よりも勇敢でした。


 自らを盾とし、

 その身を犠牲に、恐れすら抱かず、

 ただ、前へ前へと誰より先に進み、

 続く者の道となって、


 多くのものを守る為に、

 滅びの定めへと立ち向かったという、

 とても悲しくて、美しいお話です。


 誰もが出来る事ではありませんが、

 そんな彼女に、無意識のうちに憧れ続けていた事が、

 自分を、盾を持つ者へと成長させたのだと、


 サリアは、そう信じたのです。


 サリアとマイオストの間に、

 何とも言えない長い沈黙が訪れます。


 密室の独特の空気感に、

 続かない会話。


 サリアの方は、そういう事に慣れているのか、

 平然としていて、何時間でも待ちそうな感じです。


 一方のマイオストは、

 このシチュエーションが、夜の街の中で輝く、

 観覧車の頂上だったらいいなとか、


 平日の人気のない公園の白いベンチで、

 教師と生徒が人生相談している夕焼けの光景など、


 様々な雑念と妄想を駆使して、

 とても長く感じられる時間をやり過ごしてはいましたが、


 今ひとつ、現実の会話に持ち込めないでいる、

 シャイでチェリーなおっさんになっています。


マイオスト(チェリーかどうかは、回答しかねますが、


      完全温室で育てられた華のような、

      サリア嬢に、通じる話題が想い付かないのです。


      おぼこ娘確定は、大変嬉しいのですが、

      あまりに世離れしすぎていて、

      カラオケとか、ファッションとか、

      バラエティーやトレンドなどを語っても、

      すべてホワイ? で解説展開なのですょ。


      どんなに口で語っても、

      体験出来なければ、実感など伝えられず、


      何と言っても、男女の仲の意味そのものから、

      説明するのに、どうやったものやらと、


      あれこれしている内に、

      無常にも、つまらない人と思われているのやら、

      空気と等価扱いなのか・・・。


      何故、こんなチャンスに限って、

      ためぞーを召還できないんだ!


      ためぞーは、ルフィアさんとでも話してもらって、

      ダブルデートへと持ち込めれば、

      きらめきフラグが立つんじゃないかと思いますが。


      ・・・現実は、選択肢とか出ないので、

      恋愛ゲームよりも、次元が違う難易度だと思い知る、

      アラフォーな、マイオストです。)


 そんな時、サリアはマイオストに、

 こう話しかけて来ました。


サリア「マイオスト殿は、・・・あの、

    伝承の乙女、永遠のアリスをご存知なのでしょうか?」


 その純粋に見つめる水色の瞳に、

 吸い込まれそうになりながら、

 マイオストは、その問いに即答が出来ないでいました。


 サリアのその、魅惑に潤ったピンク色の唇は、

 どんな想いで、その言葉を紡いだ事でしょう。


 ねえ? マイオストさん。


マイオスト(うっ!

      緊急警報、トラップ発動ゥ!!



        ウゥゥ~~~ン!!!



      あのですね・・・。

      それは、

      第一級の禁則事項に当たるので、


      アリスアリサ殿の許しがなければ、

      申し上げられないのです。


      言ったら、私、

      消されちゃいますので・・・。


      大変、残念でなりませんが、

      これが、ハイデス世界に伝われば、

      このゼリオス全体が滅びかねない重要事項なので。


      無理ッ! だけと、大チャンスですッ!!

      どうする!? 漢・マイオストよォォオ!!!)


 マイオストは、一切の邪念を取り払って、

 とんちの境地へと至ります。


 考えては負けです。

 ようは、上手くやればよいのです。


 マイオストは、お友達の管理職の、

 綺麗な黒髪のおねーさん。


 アセリエスさんのその囁きが、

 耳元に聞こえてくるような気がします。


妄想のアセリエスさん(いいですか、マイオスト卿。


           とんちとか、曖昧なもので、

           このワタクシを呼び出せるのは、

           ためぞうさんと、アナタくらいなものです。)


妄想中のマイオスト(おお、何かひらめいたのですか?

          いつも助かります~。)


 妄想のアセリエスさんは、言います。


妄想のアセリエスさん(いいですか、マイオスト卿。


           そこは一体何処でしょう?

           部屋の注意書きは、ちゃんと確認していますか。


           通常の世界には、加算されないとありますワよね。

           ようはそこに、

           他の何者も介入は出来ない上に、


           元の世界にも、二人の秘密以外は、

           その事実すら残らないのです。


           つまりは、殿方の腕力に物を言わせて、

           彼女を手に入れてしまえば、


           アナタは念願の「何か」を無事、卒業することも出来る事でしょう。


           アナタさえ大切に思えば、

           後は時間が解決しますし、

           月日を重ねれば、それだけ情もわくというモノです。


           勿論、ワタクシは妄想の産物という事なので、

           その件は、知らない事にしておいてあげましょう。


           仮に、仲が上手くいかなかったとしても、

           そこは、ワタクシがいくらでも誤解を解いてあげますので。


           それに見合うお気持ちを、

           心付けとして、エリス様のお宅にでも届けていただければ、

           期間延長のサポート対象といたしましょう。


           では、この辺で妄想の世界からは、失礼致します。


           ごきげんよう・・・。)



    チャリーーーンッ!!!



 ◇ マイオストに、とんち+98(+10)の効果が付きました!


   お心付けを忘れてはいけませんョ。



マイオスト(閃いたーーーッ!!!


      ・・・ぽい気がする。

      勇気が持てました。)


 素に戻ったマイオストは、

 その自信に満ち満ちた表情で、

 サリアに、すぐさまその顔を突き付けます。


 それもあと1cmという、なかなか強引な距離で、

 彼女の甘い吐息が、

 素敵な気分で、マイオストの顔を潤します。


マイオスト「では、行きますよッ!」


サリア「あっ、

    は、はいっ!」


 色恋沙汰を、全く理解出来ていないサリアでも、

 ここまで急に、異性に迫られると、

 いくら相手が冴えないおっさんでも、

 本能的に、照れた感じになってきます。


サリア「で、では、

    教えていただけるのですね。」


マイオスト「はいですともッ!!!


      手取り、足取り、色々とご教授させて頂きます。」


 マイオストは、サリアの耳に温かい息をフゥっと吹きかけると、

 その耳元で囁き始めます。


 何だか、マイオストが輝いています!


マイオスト「いいですか、サリアさん・・・。」


サリア「は、はいっ!」


 サリアは状況を良く理解出来ないまま、

 マイオストにリードされていきます。


 マイオストは、その手の経験は薄いですが、

 彼は、膨大な読書(主に、美少女マンガ)と、

 DVDと恋愛ゲームで、知識だけは満載です。


 あとは、それを上手いこと、

 甘酸っぱい経験に変えるだけです。


マイオスト(とんち、

      効果ハンパねぇYOーーーッ!!!)


 お友達の、妄想世界の黒髪のおねーさんに、

 思いっきり貢がなければいけないなぁーとか思う、

 マイオストです。

 その勢いと勇気が止まりませんッ!


 と、次の瞬間です。

 密室にもう一つの影が現れます。


マイオスト「なっ!?」


 そこに現れたのは、

 華麗な戦装束に身を包み、神槍ブリューナクを携えた、

 戦乙女のジラさんです。


ジラ「お、お取り込み中でしたか・・・。


   すぐ出て行きますね。」


 何処で道を間違えたのかは分かりませんが、

 ジラは、気まずそうにその部屋を後にしようとします。


サリア「お、お待ち下さいっ。」


 美しく優美で、気品漂う、

 ジラのその姿が、

 サリアの瞳には、伝承の戦乙女に見えてしまったのです。


 マイオストから、とんちの効果が消え失せた・・・。


マイオスト(な、何でですかぁ!!)


妄想のアセリエスさん(あら、ジラ(エリス)様が、

           アナタと等価であるとでも、お思いでしょうか?


           という理由です。

           お心付けは、必要ありませんので・・・。)


 床に手を着いて落胆する、マイオストの様子に、

 さすがのジラも、彼をこのまま放置する事も出来ず、

 マイオストのそばに来て、

 こう耳打ちます。


ジラ(・・・空気読めなくて、ゴメンなさい!!


   後で出来たら、ちゃんと埋め合わせはするから、

   ごめんなさいね・・・、マイオスト。)


 クレリスの想いを受け、勇んで戦場へ向かうも、

 良く分からないままに、引き止められ、


 しぶしぶと、灰色の髪の美少女の座る、

 長椅子の横へと、腰を下ろすジラでした。


ジラ(先を急いでいるのですが・・・、


   まず、この場を取り繕って、

   行かないと、気分が悪いですね。


   ハインさんに逃げられた、

   マイオストに、

   ようやく春が来たのなら、

   友人として、祝福しないわけには行きません。


   この部屋で流れる時間は、

   元の世界に加算されることはないのですから・・・。)


 本質は「エリスねーさん」な、ジラとしては、

 こういう色恋沙汰にも、

 円満に解決してやりたいという気持ちが、

 沸いてきて仕方ありません。


 このジラの面倒見の良さを、

 マイオストも、よく理解しています。


 ジラさえ味方に付ければ、

 彼の妄想の中のアセリエスさんも、

 なんだか助けてくれそうです。


妄想のアセリエスさん(はい、もちろんですとも。


           何と申しましょうか、

           ワタクシを再臨させるだけの、

           妄想力をお持ちなのは、


           このあらゆる世界の中でおいて、

           アナタくらいなものでしょう。


           まさか・・・、

           アナタは貴重な、『マスタークラス』の能力を、

           『妄想』などという、くだらないモノに、

           費やしたわけでは、ありませんワよね?)



 妄想のアセリエスさんの言った、

 マスタークラスの能力という言葉の意味とは、


 戦士となった者が、

 その戦闘経験の過程などで得る事の出来る、

 いわば、一般的に言う「必殺技」や、

 「力以外の追加能力」といったようなものです。


 総称して『戦士能力』と呼ばれます。


 一度しか、その恩恵を受ける機会はなく、

 しかも、その能力の発動は、

 極めて稀有なものとして、


 それは『称号』のように扱われ、

 一流の戦士を志す者たちから、称えられています。


 己の力を、純粋に二倍化にしたり、

 周囲の者たちの力を、大いに高める加護であったり、

 堅牢な盾のように、強力な力を跳ね返すものなどと、


 手にした者の想像力と、能力獲得への覚悟で、

 あらゆるモノへと変幻させる事の出来る、

 いわば、戦士の願いを一つだけ叶える、

 「奇跡の発現」でもあります。


 そんなチャンスを、

 ラッキーにも手に入れているマイオストですが、

 妄想のアセリエスさんの言葉に、

 冷や冷やものです。


マイオスト(あはは・・・、


      まさかそんな事に、

      貴重な力を使うわけがないじゃありませんか。)


 ほぼ、的を打ち抜かれたような気分のマイオストです。 

 彼は実際に、それに良く似た能力を獲得しています。


 それは、他の誰もが想像もしないような、

 ある意味、呆れた能力ですが、


 その力を秘めていた為に、

 創世主アリスアリサに一目置かれ、

 彼女の一定の信頼を得ています。


 戦士として、能力に目覚めた者は、

 出来るだけそれを他者に悟られないように心掛けます。


 それが、戦いにおいて、

 大きなカード(切り札)と成り得るからです。


 さらに、

 その別格というべき、世界の常識さえ変える、


 上位版の戦士能力のようなモノまでも、

 開放した者が、


 160億年もの歴史を持つ、

 この広大なゼリオス銀河に、

 たった一人だけ存在しました。


 それが、ハイデスの魔王さえも恐れさせる、

 グランドクロス戦士団・NO,12と呼ばれる


   - 『絶対者アリス』 -


 です。


 その要求に対する対価さえ支払えば、

 求めるモノに制限が存在しないという、

 危うさを秘めた、

 畏怖すべき『力』です。


 過去に、

 その場所に達しながらも、

 それを放棄したもう一人の戦士が、

 今、この場所にいます。


 それが、戦女神ジラです。


 彼女は、その禁断の領域に達しながも、

 あえてそれを求めず、


 ただ、平穏で静かにありたいと願いました。


 それこそが、

 伝承の乙女の一人である、

 クレリスのその心を、開かせる要因にもなりましたし、


 表には現さない、

 ジラの優しさようなものでもあるのです。


 だからこそ、

 サリアのそのアクアマリンの瞳には、

 彼女の凛とした立ち姿が、伝承の乙女の像と、

 重なって映ったのかも知れません。


 とても心地よい抱擁感を、

 ジラは本質的に秘めていました。


サリア「・・・。」


 サリアは、自分の隣に座ってくれたジラに、

 ただただ見惚れて、ぼんやりとしています。


 ジラは、対面にある椅子の主を知っていたので、

 二人の座る長椅子の方を選んだだけでした。


 それに、マイオストの隣だと、

 彼の想いを水に流して仕舞いかねないという、

 配慮もあり、サリアの隣を選んだのです。


マイオスト(グッジョブッ!

      ジラの姐さんっ!!)


妄想のアセリエスさん(さすがは、ワタクシのお慕いする、

           エリス様ですワ。


           このように、

           憐れで取り柄の無い中年男にまで、

           そのお心を配られるのですのね・・・。)


 マイオストが、

 独り言のようにうんうんと頷くその様子を、

 ただ首を傾げるように見て、

 ちょっとだけ奇妙に思うジラでした。


 そして、暫しの沈黙が訪れます。


 何やら、気まずそうな表情を、

 時折見せるジラに、

 彼女を照れたように見つめるサリア。


 マイオストは、放置です。


マイオスト(とんち、早く下さいよッ!!)


妄想のアセリエスさん(あら、

           ワタクシとしたことが、


           気高きジラ様の麗しきお姿に、

           うっかり、見惚れてしまっていましたワ。


           もう少し、見惚れててもよろしくて?

           マスオストさん。)


マスオスト(・・・。

      はい、大人しく待ってます。)


 妄想とはいえ、

 彼女に逆らうことが、どれほど恐ろしい事なのかを、

 よく理解してる、マスオさんでした。


マスオさん(・・・お願い、略さないで。

      脱線の予感が感じられてなりませんので。)


 と、変化は突然訪れました。


 この密室の主が現れたのです。


聖王バルエリナス「おやまあ、

         ジラさんまで、待っていてくれたのですか。


         お待たせして、ごめんなさいね。」


 白いローブ姿で現れた聖王は、

 ジラに軽く微笑むと、

 対面側の椅子に座ります。


ジラ「あの、

   今、ちょっと急いでおりまして、


   良かったら、エリナさんの方で、

   この二人の仲を何とかお願い出来ないでしょうか。」


マイオスト(いいよ、姐さんッ!

      ヨッ、その調子!!)


 ジラはエリスの記憶を共有しているので、

 聖王の正体を知っています。


 そんな彼女に、

 バルエリナスは、こう尋ねます。


聖王バルエリナス「何をそんなに、急がれているのですか?


         この場所での時間は、

         通常世界とは別扱いなので、

         何時間とは言わず、


         何十年でも、いて下さって結構ですよ。」


 やはり、戦女神ジラとなった今でも、

 この百戦錬磨の聖王さんには、

 敵わないとあきらめる、ジラでした。


 ですが、彼女にも意地はあります。

 勇気を持って、その問いにだけは答える事にしました。


ジラ「今、エルザーディアの大地に、

   大いなる脅威が迫っているのです。」


聖王バルエリナス「それは、

         ハイデスの魔王さんの事でしょうか?」


ジラ「やはり、ご存知でしたか。」


 というジラの隣に、

 そのハイデスの魔王さんは座っているのです。


サリア「・・・。」


 ウフフッ、と微笑む聖王に、

 マイオストは、とんちの後押しを信じて、

 チャンスを取り逃がさないように、こう言うのです。


マイオスト「えー、

      ジラ姐さんのお隣にいらっしゃるのが、

      その魔王さんなのですが、


      話の分かる方だと、私は思いますよ。


      うん、間違いなくです!」


 マイオストの助け舟に、

 サリアは、ジラに向かって、

 ペコリと頭を下げて見せます。


ジラ「え、えぇぇーーーッ!?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするジラに、

 サリアは、うんうんと首を立てに振ります。


聖王バルエリナス「まあ、ジラさん。


         ここは、これからの対策を、

         この場で少し語って行かれてはいかがでしょう。

         サリアさんが、そんなに悪い方に見えますか?


         私がそんな方を、この特別な場所に、

         招き入れるとお思いでしょうか。」


ジラ「いえ!

   エリナさんは、そんな方ではないと、

   私が主である、サードラル様に誓って申し上げます。」


聖王バルエリナス「・・・あの男の名を、

         よかったらこの耳が聞こえる範囲で、

         言葉になさらないで下さると助かります。


         前世の私に執着して、

         とてもしつこくされて、

         困っておりますので。」


 あのジラが、こんなにも緊張する姿を見せられて、

 サリアは、この桜色の髪のローブ姿の女性が、

 それほどに偉大なお方なのだと、

 恐縮してしまいます。


聖王バルエリナス「あらやだ、

         サリアさんも、そんなに固くならないで下さいな。


         例え貴女に、大いなる稲妻が落ちようとも、

         そこの冴えない中年さんが、

         変わって、避雷針になって下さいますから。」


 そう言われて、

 なんとなく、マイオストの方を見て

 頼りにしてしまう、サリアでした。


マイオスト「もちろんですともッ!!


      例え、どんな雷撃を食らおうとも、

      この身を掛けて、お守りいたしますぞッ!!!」


 なんだか、

 いい風が吹いてきたんじゃないかなぁ~っと、

 期待してしまう、マイオストでした。


聖王バルエリナス「それでは、互いの持つカードを広げて、

         語り合うとしましょう。」


 すると、手始めに聖王は、

 自らのカードをそのテーブルに、すっと置きます。


 一瞬で、言葉を失う一同・・・。



 そこに置かれたのは、

 『世界』を意味する、とてつもない、

 一枚のカードでした。



         そのX‐2 に続きます。
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書き込み。 2016・6・11

2016年06月11日 23時49分19秒 | 日記
 こんばんは、井上です。


 エリスさんの~第二話が、

 えらいこと長くなりまして。


 毎度の事ながら、脱線しております。^^:


 当初のプロットがこんな感じで、

 今では、様変わりしているので、

 この線は、なぞっていません。


 いつも、こうなっちゃうんですが、

 とりあえず、初期の下書きがこんなんです・・・。



 ◇  ・ (少年剣士は、戦いの中、

       雷撃を操ることが出来るスキルが発生します。

  
       そして、オメガ・レプカは変貌を遂げ・・・。
  
       その光景を見守る、剣聖と邪王。
  

       この時、すでに、

       彼らの背後には、ピンクの髪の乙女、
 
       ルフィアを想像させる、

       エリナ先生がいます。)
  

    ・ (若いセバリオスに会います。

       まだ、名前がありません。

       エリスは、勇者選択と間違えます。・・・いちおう女神なので。

       敵だらけの中、少年は、見たこともない美しい女性↑を、

       守っています。
  

       貸し衣装の純白のウエディングドレスを、

       うかつにも着たまま、コタツでうたた寝しかけていた、

       エリスねーさんです。
  

       貸衣装なので、汚すわけにはいきません。

       エリスは、とても強いのですが、

       そういった諸事情で、おとなしくしています。


       現地の人たちは、最新のウエディングドレスを理解できず、

       女神の装束と勘違いしています。

  
       どうやら敵は、

       そのエリスねーさんを姫辺りと勘違いして、

       奪いにきたようです。

  
       ちょっと、久しぶりにキュンとしてしまう、

       エリスねーさんですが、(姉御から、姫、女神辺りの扱いなので。)
  

       その彼を、『伝説の勇者』にするわけにもいかず、

       無難に「セバリオス」と名付けて帰ってくる、お話になります。
  

       選択肢とか、結構出す予定です。)



 といった物でしたが、

 まったくの別方向にいってしまい、

 ついに10節目を向かえ・・・。


 後で、番外編とかに直して、

 ごまかしてみようかなぁ・・・とか、思いつつ、


 成り行きで書いています。


 筋がおかしな事になってるかもとか、気にして、

 それでも無視して、思い付くままに続けています。


 その10節が、これまた延長戦に入って、

 もう第三話にしてしまおうかというくらいに、

 終わりが見えてないです。



 この第二話なのですが、

 ずっと先に出すはずの、ハイデス世界(カオスフォース)の話題に、

 進んでしまって、

 分かりにくくなってたら、申し訳ないです。


 ランク10の戦士(LV600~700付近。)の、

 このためぞーの、ゼリオス世界では成り立たない強さの敵が、

 やってきます。


 DF1=ランク1 ~ DF5=ランク5なので、


 DF10に相当する戦士になりますが、


 こちらの世界は、混沌世界に比べて、

 密度が薄いため、


 そのLVを599まで制限されて、

 やって来る感じです。


 LV601~を出す為の、変換物質が足りないから、

 という事に、裏設定ではなっています。



 『戦士ランク』については、

 ストーリーの中盤で、戦士の強さを、

 そういう呼び方をする者たちがいた、

 という感じで、出てくる予定でした。


 ゼリオス銀河の戦士が、そのランク10に達した時点で、

 ハイデス世界の侵攻が可能になる感じです。

 単位は、(読み テン)(表記 X)になります。


 現在の戦士がランク9までの、

 第二世代の戦士であることに対して、


 ランク10からは、第三世代の戦士扱いという風な位置付けです。


 ゼリオスにも、ランク10の戦士はいますが、


   ・ セバリオスさん。


   ・ ジラ(エリスねーさん)。


   ・ アリス会長さん(アリスアリサ)。


   ・ サードラルさん。


   ・ ルフィアさん。


 と、向こうの世界に対して、圧倒的に少数です。

 ハイデス世界には、わんさかいる感じです。


 ということで、

 まだ、防戦一方で、


 シオン君たちが、グランドクロス要塞で、

 頑張って、ハイデス世界からの進入を何とか防いでいる、


 という事になっています。


 適当ですいません。^^:



 まだ10が書き終わってないので、

 毎度、遅れてしまって、

 この書き込みに至ります。



 季節がすっかり、夏っぽくなってきましたね。


 梅雨感、あんまりないです。

 熱中症とか気をつけて下さいね。


 温度差もあるので、

 夏かぜとかにも、お気を付け下さい。


 ではでは、またですー。 ^-^
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