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ダークフォース 第三章 中編 VII 下書き

2010年10月12日 20時51分29秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
   Ⅶ

 ヤマモトは、至高の女帝(エンプレス)を前に苦戦を強いられていた。

 かつて、伝説の『剣皇』として世界の頂点に君臨したヤマモト。
 『剣神』とさえ、異界の神々に言わしめた、
 その実力には、微塵の陰りすらない。

 ヤマモトは、額に汗を流しながら、
 久しく味わうその高揚感に、身を震わせていた。

 ヤマモトは、両手に握りし太刀・第六天魔王に、
 渾身の力と魂を込めて、究極とも言える必殺剣の構えを取る。

 刹那にして、終わらせる。

 それがヤマモトの心境だった。

 ヤマモトとしては幸いな事だが、
 プラチナの髪を靡かせる女帝ウィルローゼは、
 必殺剣への錬気に集中するヤマモトに、
 一切の手出しをして来ない。

 ウィルローゼは、別にヤマモトを軽んじて手出ししないのではなく、
 目の前で展開されるその美しい錬気に、
 揺らめく光がシャープな一線へと研ぎ澄まされていく幻想的な光景に、
 ただただ、うっとりとした様子だった。

 ヤマモトは、本来なら、ここまでの錬気を太刀に宿らせたりはしない。
 名高き太刀である『斬刀・第六天魔王』は、
 その、限界をも超えた超絶的威力に、耐えうる刀身を持っている。

 並みの剣などでそんなことをすれば、
 光はブラックホールの質量の闇の中へと引きずられ、
 剣ごと戦士は、漆黒の闇へと消失してしまうだろう。

 ヤマモトが、その圧倒的な『力』の制御に使っているものこそ、
 『ダークフォース』と呼ばれる力であり
 人智を超越した、闇世界に封じられし禁忌の力だ。

 ウィルローゼは、言う。

「まあ、素敵な色の光だこと。
 どんな宝石を用いたとしても、こちら側の世界で、
 その艶めきを出すことは、難しいことでしょうね。」

「お前さんが、余裕を見せて、
 『守りの壁』など使っておるから、出せる芸当じゃわい。
 限定解除下でなくては使えぬワザを、
 それを要せずに、使わせてくれるのじゃからな。」

 ヤマモトの言う『限定解除』とは、
 戦士が一定値を超えた力を発現する為に使う、
 空間そのものを、世界から切り離す技である。

 ヤマモトほどの戦士が剣を振るうには、
 この世界はあまりにも脆すぎる為、
 その世界を破壊しない為に、それを行使する必要があった。

 この限定解除は、勿論、全ての戦士が行えるものではなく、
 むしろ、ごく僅かな、
 限られた、資質と才能を持つ戦士でないと発現は出来ない。

 その能力に長けている者の名を挙げるなら、
 この世界の主神であるセバリオスあり、
 セバリオスほどの完成度を持つ限定解除は、
 このヤマモトにすら発動させることは出来ない。

 それをいとも容易く、このウィルローゼはやってのけ、
 この嫌味なほどに飾られた室内を、完璧に世界から隔離している。

 限定解除下の圧力は、鋼鉄をもへし曲げ、
 あらゆる弱者の存在を許さない。

 ヤマモトは、その完璧とも言える、ウィルローゼの守りの壁の存在により、
 太刀・第六天魔王の刃に、
 ダークフォースの漆黒の煌めきを映し出せている。

 ヤマモトは言った。

「ワシの限定解除能力じゃ、ここまで安定させた状態で、
 異界の力を使うことは出来ん。
 不完全な限定解除による欠損により、
 世界をコンマ数パーセントほど闇に没させたことじゃろうな。
 ワシは、世界の存亡になどたいした興味はないから、
 勝算の高い選択肢を選ぶだけじゃがなっ!!」

「ウフフフフ・・・。
 ヤマモトさんと、私、気が合うのかも知れませんわね。
 私としても、この場所が、愛するお父様の、
 その愛に満たされた空間などでなく、他のどうでもよい場所でしたらなら、
 幾ら滅んでも、構わないと思っていますのよ。
 滅びたものなど、また新たに創り出せばよいのです。」

「まるで、神のような言葉を吐くのぅ。」

 太刀を構えるヤマモトのその台詞に、微笑むウィルローゼ。

「私の創り出す世界は、このように慈悲で溢れてはいないと思いますわ。
 私がお父様以外に興味を持つとするならば、
 それは、星のような輝きを放つ美しい存在くらいなものでしょうね。
 でも、そんな光り物ばかりを集めた世界では、
 輝きは色褪せて見えてしまうのでしょうね。
 ですから、刹那の煌めきを見せてくれるヤマモトさんには、
 大変、期待しておりますの。
 ウフフッ・・・。」

 まるで天使のような笑みを見せる、ウィルローゼ。
 その性質は毒々しさに満ちてはいるが、彼女のその闇が深くなるほど、
 ウィルローゼは、清らかな光輝に満たされていくかようだ。

 オメガを握るウィルローゼのその姿は、
 まさに白金の髪の天使と呼ぶべき神聖な姿。
 エストは、彼女の生み出す守りの壁の外側で、
 目の前で繰り広げられる光景に圧倒されるしかなかった。

「綺麗・・・。」

 エストは一言だけそう呟いた。
 特定の何かを指してそれを口にしたのではなく、
 純粋に、戦士能力を持つエストには見える、
 孤高の戦いと呼べる戦場がそこにはあった。

 この二人の、ヤマモトとウィルローゼの姿を目の当たりにしたなら、
 どんな豪華な調度品で飾られた部屋も、色褪せたモノクロの背景にしか見えない。

 エストは、その奇跡に心奪われた。

 ヤマモトの、その人智を超えた戦士能力は、
 人生を二、三度生きたくらいで垣間見れるほど、容易いものではない。

 事実、ヤマモトがここまでの力を解放し、他者に見せたのも、
 過去を、五千年前の大戦時まで遡らなくてはならない。

 ヤマモトは、太刀・第六天魔王の練成を終える。

 太刀を両手で構えるヤマモトのその周囲から、静寂が広がる。
 耳が、キーンと耳鳴りするほどに無音の状態だ。
 壁の向こうにいるエストには、直接、音としての空気の振動は届かないが、
 そこに立つ、荘厳にして偉大なる者の姿は、
 まさに『剣神』としか、喩えようもない。

 そんなヤマモトに対して、ウィルローゼは言った。

「さすがは、私の見込んだヤマモトさん。
 もしかしたら、剣気だけならば、お父様の上を行かれているのではなくって?
 ウフッ、さすがに、全ての実力がお父様を上回るなどと、
 お世辞を言うつもりはございませんが、
 期待以上の力に、久しくこの胸の奥がザワザワと騒いでいますのよ。
 それを、ドキドキ以上にさせるワザを、
 この私に見せてくださいな。」

「フン、実力ならワシの方がまだバルマードより、ちょっと上いっとるからの!
 弟子に弱みは見せられんし、その娘なんぞに舐められてはたまらんわいっ。」

 ウィルローゼは、唇にその白く細い指先を這わせて、
 ヤマモトにこう返した。

「あらあら、
 その弟子の娘に手を出して、あわよくば妾にしようなどと考えていらっしゃる、
 渋い黒メガネのオジサマにそんなことを言われては、
 男性経験の未熟な私であっても、ワクワクと興奮させられてしまいますわよ。」

「げっ!?
 下心が読まれとる!!」

 そう言葉を交わすウィルローゼとヤマモトのやり取りは、
 壁の向こうのエストには聞こえていない。
 ウィルローゼは、その意思によってあらゆる情報を、
 大いなる戦士(天使)能力『守りの壁』により遮蔽出来る。
 彼女から、エストに与えられたのは、今のところ視覚情報だけだ。
 ウィルローゼとしては、自分の言葉を、
 エストからバルマードに耳打ちされるのは、少し困るような気がしたし、
 ヤマモトとの会話も命のやり取りも楽しみたいという思いが働いていた。
 命のやり取りという表現は、少し過ぎているのかも知れないが、
 ヤマモトにしろ、ウィルローゼにしろ、
 本気でやり合わなくてはならない次元に、互いを持っていっている。

 ヤマモトはともかく、
 ウィルローゼはヤマモトの事を本気で抹殺しても構わないとそう思っている。
 ウィルローゼの興味の対象にならない存在は、
 彼女にとっては『いらないモノ』だからだ。

 必殺の奥義を発動出来る状態のヤマモトが、
 一向に仕掛けてくる気配を見せないのに、ウィルローゼは退屈する。

「ヤマモトさん、はやく私を攻めていらっしゃって。
 タイミングや間合いを計っているなどという、いい訳などは、必要ありませんので、
 私に、その漆黒の刃が魅せる光の軌跡を見せて下さいな。
 指をくわえて待つだけならば、私の方から攻めて差し上げてもよろしくてよ。」

「当てるのが難しい奥義なんじゃから、せかすでないわい!!」

「ヤマモトさんが、その威力で私を消し去ってしまうなどと心配しているならば、
 それは無用のことです。
 例え、この私が消え去ったとしても、
 ウィルハルトの方にはダメージゼロなものですので。
 ウフフフフ・・・。」

「!? どういう意味じゃ!!」

 ウィルローゼの言葉に疑問を抱いたヤマモトは、一瞬戸惑う。
 その隙を、ウィルローゼは攻めた!!

  シュンッ!!

 ウィルローゼは、電光石火の一撃をヤマモトに繰り出すが、
 ヤマモトはそれを寸前でかわす。
 エストには、そのウィルローゼの攻撃が見えなかった。
 光とほぼ同じ速度で繰り出されたウィルローゼの一撃は、
 視覚に頼っていては、遅れて目に届く。
 エストには、その意味を体感するだけの実力はないが、
 光速を超えるような次元で戦う戦士にとっては、
 一秒という時間を、一年よりも長く身体で感じることが出来なければならない。
 ヤマモトは、立ち位置をわずかに変えてこう言った。

「先制するなら、先に言わんかいっ!!
 ワシ、装甲は紙のように薄いからして、
 どんな手ぬるい一撃とて、もらえば即、あの世行きじゃわい!!」

 ウィルローゼは、対峙するヤマモトの顔を上目遣いで見つめて、彼に言う。
 ウィルローゼの背丈は、バルマードに引けを取らぬ体躯の持ち主である、
 ヤマモトよりもかなり低い。

「あら、せっかく散り際に華を持たせてあげようと思っていましたのに、
 その華も見ることなく冥府へと送り届けるところでしたとは!?
 ヤマモトさんも、体力的に年には勝てないのですね。
 初顔合わせで、知ったような口を利いている小娘だと思われるかも知れませんが、
 私、年寄り相手でも手加減は致しませんわよ。
 ウフフ・・・。」

「脆いのは、年のせいじゃないわい。
 もう、勘付いておるじゃろうが、ワシの戦闘スタイルに防御はない。
 ひたすらにかわし続けて、攻撃のみに特化する、
 いわゆる『攻撃型』の戦士タイプじゃ。
 お前さんの親父である、バルマードも似た戦いをするが、
 オリジナルは、ワシの方じゃからのっ!!」

 ヤマモトがそう口にする間も、
 ウィルローゼは、時折、その手のオメガを振るっていた。
 エストには、二人が止まって何かを話しているようにも見えたが、
 その間にウィルローゼが行った攻撃は、計503回に達する。
 ヤマモトは、その全てを移動による回避のみで避けており、
 その手の太刀による受け流しは、一度も行っていない。
 ウィルローゼは言った。

「その太刀をオメガで叩いてみたら、どんな素敵な音がするか興味がありますのに、
 触れさせてもくれないのですね。」

「そんな事が出来るか!!
 ワシは今、この手にブラックホールすら切り裂く刃を持っておるのじゃ。
 受け流しなどして、手元が狂ったら、
 ダークフォースの漆黒の闇の中に、ワシなど消え去ってしまう。
 絶対の戦天使能力である守りの壁を、いつでも纏えるお前さんなら、
 そんな異界の闇さえ、耐え凌ぐことが出来るじゃろうがの!!」

 ヤマモトはそう返したが、本音は違った。
 受け流しは可能だったし、むしろその方がスタミナを減らさずにすむ。
 ヤマモトが恐れたのは、触れられることでその威力が計られる事にある。
 ヤマモトの想像通り、
 ウィルローゼが絶対的な戦天使能力であるその壁を操っていたのなら、
 それは魔王ディナス、いや、戦天使セリカのものと同等の力ということになるからだ。
 セリカのその力は、異界の門を封じるほどに強大である。
 いくら、ヤマモトが優れた攻撃力を持つ戦士とはいえ、
 その鉄壁の防御の前に、意味を成さない。
 ウィルローゼは、まだヤマモトの実力を見抜いてはいない。
 それ自体を、楽しんでいるからだ。
 ヤマモトの手には、必殺の秘奥義である、
 「剣皇剣・覇、第九の太刀『暗黒』」が握られている。
 その威力は、まさに次元を切り裂くほどに超絶だが、
 放てば、その余波で我が身さえも危うい。
 さらに言うと、ウィルローゼを倒してしまえば、
 この隔離された空間が消滅してしまい、奥義の威力が外へと放出されてしまう。
 エストは確実の消え去るであろうし、堅牢なドーラベルン城にさえ、甚大な被害を与えるだろう。
 ヤマモトは、これ程の大技をこちら側の世界で放ったことなど、過去に一度も無い。
 かつて、限定解除すら使えぬ戦士たちは、ギーガとの戦いで禁忌の力を用い、
 惑星エグラートの南半球を闇へと没させた。
 ヤマモトはその限定解除能力を持ってはいるが、
 皮肉にもそれを使っていないからこそ練成することの出来た奥義なのだ。
 奥義を放った瞬間、即、その能力を展開する自信はヤマモトにはなかったし、
 わずか、コンマ一秒の遅れが、大いなる破滅をもたらすのは避けようがなかった。
 ヤマモトの限定解除能力は、前にも言ったように完璧ではない。
 セバリオス級のマスタークラスの補佐があれば、遠慮無用で行けるだろうが、
 そこまでヤマモトは、エストにも世界にも無責任にはなれない。
 ウィルローゼであらば、躊躇わずにその剣を振り下ろしたであろうが。
 そんなヤマモトを見かねたように、ウィルローゼは薄ら笑って言った。

「ウフフ・・・。
 ヤマモトさんの心配など、取り越し苦労に過ぎませんわよ。
 例え、この私が消え去っても、ウィルハルトは残ると、
 そう申し上げたハズです。
 私の予測が正しければ、この空間の保護は継続され、
 他に、何ら害を及ぼすことはないと言えるでしょう。」

 ヤマモトは、そう言うウィルローゼに問う。

「そこが分からぬのじゃが、良かったら聞かせてくれぬかのう。」

 ウィルローゼは、その問いに笑顔でこう答えた。

「ヤマモトさんの迷いを解く為に、教えてあげましょう。
 でないと、この退屈がまだ暫く続くことでしょうから。
 正確に言うならば、私はウィルハルトではありません。
 ウィルハルトがこう変化したように見えるのかも知れませんが、
 私の肉体と魂は、ウィルハルトとはまた別に存在しているのです。」

「!?」

 次のウィルローゼの言葉を待たずに、ヤマモトは過去の経験から、その事に気が付く。
 確かに、ウィルローゼの言うような存在とヤマモトは逢った事がある。
 その者の名は『邪王 アトロポジカ』。
 六極神と呼ばれる異界の神々の中でも、最強クラスの神の名だ。
 邪王は、二人の姉と妹の六極神で、一つの命を二人で共有し、
 故に、最強の六極神である『美髪王 ルフィア』に次ぐ実力を備えていた。
 姉のアリスと、妹のフェノ。
 邪王とは、彼女たち二人の姉妹を指してそう呼ぶ。
 一人でも、他の六極神たちと拮抗する実力を備えるが、
 数の上で、二人は他を圧倒している。
 つまり、ウィルローゼ、
 いや、ウィルハルトは中立の性を持っていたのではなく、
 単純に、男性のウィルハルトと女性のウィルローゼが存在していた事になる。
 ヤマモトは呟いた。

「ふん、バルマードのヤツに一杯喰わされておったか。
 てっきり、ウィルちゃんは女性にもなれる『中性』と思っておったのだが、
 まさか、双子であったとはな。
 何故、個々に存在しておらぬのかまでは、わからぬがの。
 姉の方か、妹の方かは知らぬが、
 まるで絵本に出てくるような悪い魔女のようじゃの。
 はよ、魔法が解けて、可愛い王子様の方に戻ってはくれぬかのぅ?」

「ウフフ・・・。
 魔法を解くには、清らかなキスよりも、
 全てを粉砕する必殺剣の方が、黒メガネのヒゲのおじさんには、お似合いでしょう。
 私、ヤマモトさんにファーストキスをお譲りするつもりもございませんし、
 勿論、そんな単純な方法で、この悪い魔女の魔法は解けませんわよ。
 でも、仮に今、愛らしい姿をした弟のウィルハルトに戻ったとして、
 ヤマモトさんは、そのウィルハルトにどんな悪戯をしようと思っていらっしゃるのかしら。
 男でも、女でも、可愛ければ見境が無いというのは、
 私としては、少々、変態じみていて心がくすぐられますけれど。
 フフフフフッ、愛のカタチは様々ですもの。
 私がお父様を何よりも深く強く愛するというのと同じで、
 お互い歪んだ愛の思想を持つということで。」

「一緒にするなーーーっ!!
 ワシ、純愛だからねっ!!
 例え女の子になれないと言われようが、
 ウィルちゃん(ウィルハルト)のことはどっぷり深く愛しとるからね!!
 ワシ、ウィルちゃんとハッピーエンドを迎えるつもりでおるから、
 ワシの後継者の方だけは、お前さんに頼むとするかのう!!」

「まあ、素敵な純愛ですこと。
 ヤマモトさんが力づくで奪ってしまわれるというのであれば、
 私はそれで、結構ですわよ。
 ウフフフフ・・・。」
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ダークフォース 第三章 中編 VIII 下書き

2010年10月12日 20時51分07秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
   Ⅷ

 この時、ヤマモトは表面では冗談じみた言葉を交わしていたが、
 その裏では、真剣にこの化け物じみた存在であるウィルローゼの事を、
 冷静に分析していた。
 まさに『女帝』の名に相応しい実力を持ち合わせているのは、
 彼女が全力を出していない今でもわかる。
 資質で言うならば、彼ヤマモトの兄である『覇王 サードラル』を、
 超えているのではないかとさえ、思わせるほどだ。
 単純に、彼ヤマモトとウィルローゼの実力を天秤にはかけられはしないが、
 ヤマモトはその膨大な経験値により、格は彼女の方が上だと考えている。
 実際に当たってみないと何とも言えないが、
 ウィルローゼのその未知なる力は、ヤマモトの測定範囲の外側にある。
 ヤマモトは、彼女ウィルローゼの実力を体感してはいるが、
 見切れてはいないというのが本音だった。
 まだ、底知れぬ何かを隠し持っているような気さえ、ヤマモト程の戦士にさせるだ。
 ちなみに、ヤマモトはマスタークラスと呼ばれる戦士の中では、
 最高クラスの実力を持っている。
 ヤマモトは、地上最強の攻撃力をその手に握りながら、
 困惑と期待と血のたぎる興奮を覚えつつも、努めて涼しい顔でいた。

 その二人のやり取りを、エストとはまた別に、見つめる傍観者がいる。
 マイオストと、バルマードの二人だ。
 彼らは、バルマードしか知らない秘密の覗き窓から、その状況を見届けていたが、
 ヤマモトとウィルローゼの会話の内容は、エストと違って聞き取れていた。
 テレパシーのような思念を読み取る能力を、マスタークラスの戦士である二人は、
 持ち合わせている。
 これは、音速を超えた戦いをする戦士にとっては、不可欠な能力でもある。
 乙女の居室を覗く変態中年の二人だが、
 先に口を開いたのは銀髪の男、マイオストだった。

「・・・見てはいけないモノを見ている気がするのですが、
 私の身の保障の方は、大丈夫ですよね?
 口封じとか、されないですよね?」

 そんなマイオストに、バルマードは豪気に言った。

「あははははっ!!
 そんなつもり、万に一つしかないからねッ!!」

「ま、万に一つはあるのですか。」

 二人の存在は、ヤマモトとウィルローゼには気付かれてはいないし、
 音漏れのない便利な壁を、ウィルローゼの方から作ってくれている。
 マイオストは、続けてこう言った。

「しかし、ウィルハルト王子に姉君がいらっしゃったとは。
 私もてっきり王子は中性だと思っていたのですが。」

 バルマードは言う。

「あはは・・・、ウィルハルト自身は中性だよ。
 かみさんが男の子と女の子の両方が欲しいっていったから、
 今みたいになってるけど、実は本当に姉妹にもなれちゃうんだね。」

「なんと!?
 それでは、オーユ様とうちのセリカみたいな関係ですなぁ。
 オーユ様は、中性に生まれ、覇王の妃となられたお方。
 あなたの師匠同様、私も、オーユ様には恋焦がれたものです。
 甘酸っぱい、マイメモリーですがね。」

 そう言ったマイオストに、少しだけ困った顔をしたバルマードは、
 彼にこう言う。

「だと良かったんだけどね。
 むしろ、君なら知っているだろう、あの『邪王 アトロポジカ』の方に近いんだよ。」

「邪王 アトロポジカ!?
 そりゃまた、大変なお方の名前が出てきましたね。
 お姉さんのアリスさんの方には、二度と合いたくないといっても過言じゃないです。
 妹さんのフェノさんがとてもお優しい方だったから、
 今も生き長らえているみたいなものですからな。」

 バルマードは、ダメ元で、マイオストにある品物が手に入らないかを尋ねてみる。

「ねぇ、マイオスト君。
 君の才能で、邪王が所持している『ジュエル オブ ライフ』みたいなお宝が、
 手に入らないものかねぇ?
 カネに糸目は付けないからさぁ。」

「ジュ、ジュエル オブ ライフですか!?
 あれは、生命すら創生出来るいわば『神器』ですよっ。
 あれさえあれば、自分の理想の女の子(男の子)だって誕生させることが出来ちゃう、
 至高のレアアイテム。
 私程度が手に入れられるものなら、とっくの昔に俺の嫁!を誕生(デビュー)させて、
 大家族の一員ですよ。
 少子高齢化に歯止めをかける馬力を見せてあげちゃうくらいです。」

 バルマードは、無茶な要求であることは理解していた為、
 マイオストに、すまないねといった感じのウィンクをした。
 そして、バルマードは言う。

「いやーね、ウィルローゼの姿を見せることで、
 君に何らかのヒントを提示出来るんじゃないかなって、そう思っただけなんだよ。
 ウィルハルトも、ウィルローゼも、
 一つの命を共有しているから、それが不憫でね。
 家族三人、仲良く肩を並べたいんだけど、表に出ていられるのはどちらか一方だけでね。
 そこは話が長くなるから、別の機会があれば話そうと思うけど、
 レイラの、妻の母体を守る為にウィルローゼがそう望んだというかね、
 意地悪そうな子に見えるけど、実はとてもいい子なんだよ、あの子は。」

 そう言って、父親の顔になるバルマードに向かって、
 マイオストは言った。

「そうですな、始めから無理と決め付けては、芸がありませんし。
 私の、ファールスの端末へのアクセス権はセリカ並みに高いですので、
 情報収集してみることにしてみますよ。
 ですが、さすがに『神器』に関わるデータですので、コソコソと嗅ぎ回ってみます。
 バルマード殿は、ウチのマベルをご存知かはわかりませんが、
 セバリオスの所のフェルツ同様に、魂の器の生成に関する情報は、
 大変デリケートなものでして。
 『ジュエル オブ ライフ』のように安定して存在する物の方が、
 むしろ、奇跡と言えますので。」

「感謝するよ、マイオスト君。
 では、見学の続きと行こうか。」

 そう言ったバルマードに、マイオストは興味本位でこう尋ねる。

「ヤマモト師匠の錬気は、凄まじいものがありますな。
 どのくらいの攻撃数値を叩き出していると思いますか?
 私の予想は『2000』ですけど。」

「ハッハッハッ、
 私や君が300~350くらいだから、
 多分、その遥か上を師匠は行っておられるだろうね。
 ここまでの技は、私にすら見せた事はないからねえ。
 1000の数値を超えてる時点で、もう人の域を超えてはいるね。
 そうだねぇ・・・、私の予想は『9000』だよ。」

「9000!?
 守りの壁の物理防御力5000を越えて、
 空間そのものを異界へと繋げるほどの威力ですか。
 伝説の剣皇は、今なお健在といった所ですなぁ。」

 そのバルマードとマイオストの視線の先で、
 未だじっと対峙し続けるウィルローゼとヤマモトの姿がある。
 ウィルローゼの方は、ちょこちょこと手を出しているのだが、
 常人の目にはまるで止まっているかのように、着衣すら乱れさせない。
 ウィルローゼは高い能力を持ってはいるが、剣術の知識が皆無な為、
 その単調な攻撃がヤマモトをかすめる事は無い。
 父親のバルマードなどにキチンと手ほどきを受けていたなら、
 とっくの前に倒されていただろうと、ヤマモトは思う。

(しかし、なんちゅー規格外のスペックを持っとるんじゃ、
 この悪い魔女さんは。
 神速を誇るこのワシと、大して変わらぬ動きをしておるぞ。
 オメガの重たさに助けられておるが、慣れるのは時間の問題じゃろうて。)

 ヤマモトの言うように、
 ウィルローゼの手にする伝説の剣・オメガは、とても重たい。
 それも、持つ者の力量に応じて重量が増す為、
 ウィルローゼは大槌よりも重たい物を振り回しているということになる。
 原因は、オメガに埋め込まれたダーククリスタルが
 使用者に反応してその力を増幅しているからなのだが、
 現在、そのオメガの重量は、
 この堅牢なる王城、ドーラベルン城の質量に匹敵するといっていい程に激しく重たい。
 鋼鉄どころか、アダマンタイトでさえ紙のように引き裂く威力を持ってはいるが、
 肝心のウィルローゼが、その剣に振り回されている。
 それでも、その速度を微塵も鈍らせないのは、やはり流石と言えた。
 ウィルローゼは、オメガの切っ先を指先で撫でながら、ヤマモトに言う。

「当たらなくては、どんな宝剣も持ち腐れですわね。
 私個人と致しましては、
 お父様の持つそのオメガと同形のこの剣を手にしているだけでも、
 十分にうっとりとしてはいるのですが、
 自己満足もほどほどに、ヤマモトさんに一撃当てるか、
 もしくは、ヤマモトさんのその奥義が咲かせる色を、見てみたいものです。
 2000回近くも空振りしている、今のこの私の技量では、
 ヤマモトさんのその安物の泥色の服さえかすめるのは、到底無理な話でしょうけど。」

「ド、ドロ色て・・・。や、安物で悪かったな!!
 そりゃ、お前さんが着ておる皇族仕様のレトレア織のドレスに比べれば、
 どんなオートクチュールの作務衣を着たとて、
 安物呼ばわりされてしまうじゃろうがの!!」

「よろしかったら、今度、ゴールドとプラチナの糸で編んだ作業着を、
 ヤマモトさんに差し上げましょうか?
 私、ウィルハルトの裁縫技能を利用することが出来ますので、
 上等な物を仕立てて差し上げましてよ。」

「そんな派手で嫌味な服、いるかぁ!!」

「あら、残念。
 そうですわね、ウィルハルトのボケが、
 もう少し剣術の腕を磨いていたなら、その技能を横取りして、
 もっと華麗に舞うことも出来たのでしょうに。
 まあ、よいでしょう。他の解決法を探せばよいだけなのですから。」

「・・・なるほどの。
 ウィルちゃんをバルマードのヤツが花嫁修業させるわけじゃて。
 こんな、悪い魔女が憑りついておるのじゃからのう。」

 ウィルローゼは、そんなヤマモトの皮肉にも満面の笑みで応える。
 その様相は、まるで絵に描いた天使の微笑みだが、
 きらめきを放つゴールドの瞳の裏には、次なる悪戯を考える悪い魔女がいる。
 ウィルローゼは、ヤマモトにこう言った。

「ヤマモトさんの必殺剣の軸線上に、エストさんが重なるようにしようかしら。
 私、一応、これでも気を遣って、
 エストさんへ害が及ばない立ち位置を取っていますのよ。
 私の守りの壁を越えて、エストさんに攻撃が当たってしまうことを考慮した上で、
 せっかく、ベストな立ち位置にいて差し上げていますのに。
 ああ、そうですわ。
 いまさらエストさんに逃げろと仰っても無駄なことですわよ。
 音声の方は遮断されておりますので。
 ジェスチャーでしたら、幾らでもして差し上げて結構ですけれど。
 ウフフフフ・・・。」

「ふん、用はさっさとかかって来いと言うわけじゃな。」

「察しがよろしいようで、助かりますわ。」

 ヤマモトはやむなしといった感じで、その奥義の体勢に入る。
 ウィルローゼとヤマモトの距離は、3,5メートル。
 太刀・第六天魔王のリーチならば、踏み込むだけで当てられる距離だ。
 ヤマモトは、その必殺剣を当てる自信は十分にあった。
 しかし、ヤマモトには別に考えがある。
 この絶世とも言える美姫であるウィルローゼを、
 出来れば無傷で手に入れたいという欲だ。
 その美しさたるや、他に類を見ないほど神々しいといってもよい。
 あれほど美しいウィルハルトの、さらに上を行く美しさだ。
 さらにその美しさは成長の過程にあり、
 ヤマモトが欲して手にすることの出来なかった、
 あの『覇王妃 オーユ』にも匹敵する強さと美を兼ね備えている。
 その類まれなる資質を持った彼女を、
 純粋に覇王を目指した者の一人として、ヤマモトは欲した。
 この好機を取り逃す術はない。
 故に、他の何者にも見せることを拒んだ究極の秘奥義すら躊躇わずに出した。
 ウィルローゼの実力は本物だと、ヤマモトの戦闘経験は告げる。
 半端な必殺剣など、第五の太刀が防がれた時点で錬気の無駄だと理解した。
 ヤマモトは、人の戦士を相手に戦った経験が極端に少ない。
 彼の相手を出来る者が、いなかったと言った方がより正しい。
 よって、ヤマモトの剣皇としての戦闘経験は、熾烈な異界の神々とのモノが大半となる。
 ヤマモトは、リミッターを解除し、圧倒的な超攻撃力を発揮する戦い方は得意だが、
 逆に加減は苦手である。
 ヤマモトが戸惑っていたのは、まさにそれで、
 ウィルローゼの持つ強大な防御力を貫いた上で、
 彼女の存在を消失させることなく打ち伏せる術を模索していた。
 歯がゆい事に、ウィルローゼは自身の身体のみに鉄壁を誇る『守りの壁』を纏わせてはいない。
 それは、第五の太刀を打ち込んだ時に、彼女が僅かに傷を追った事で証明されている。
 ウィルローゼは、自分の持つその優位性を利用する事無く、
 純粋に戦士としての能力のみで、彼ヤマモトを相手しているのだ。
 それは、誇りに満ちた気高い行為ではあるが、少々、度の過ぎた火遊びでもある。
 単純に、一戦士としての防御力には、どれほどの天賦の才があろうとも限界というものがあるからだ。
 ヤマモトは、その太刀の切っ先だけを触れさせて勝負を着ける気でいた。
 ヤマモトは叫ぶ! その秘奥義の名を!!

「剣皇剣・覇、第九の太刀『暗黒』!!!」
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ダークフォース 第三章 中編 Ⅸ 下書き

2010年10月12日 20時50分49秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
   Ⅸ

 その瞬間、ヤマモトとウィルローゼの二人を包み隠すように、黒い球体が姿を現す!!
 あまりの高威力に、攻撃力が爆縮しているのだ。
 周囲の光さえ吸い込む重力が、その黒い球体の中にはある。
 その異様な光景を目の当たりにしたマイオストは、こう呟いた。

「かつての大戦では、エグラートの防衛に回った私は、
 剣皇の奥義を目にしてはいないのですよ。
 異界では、このような大技が幾度と繰り出されていたのでしょうな。
 ウィルローゼ姫、大丈夫ですか? ヒゲのお父様。」

 黒い球体に見入るマイオストに、バルマードは余裕の表情でこう答える。

「ハハハッ、守りの壁が消失していないのが無事な証拠だよ。
 もし、ウィルローゼがやられていたなら、私たちごと、あの黒い球体の餌食だよ。」

「なるほど! ごもっともです。」

 納得した様子で、マイオストはその黒い球体の観察を続けた。
 バルマードの方は、我が子を見守るわりには余裕の表情をしている。
 このやり取りは、守りの壁の外側にいるエストにも見えていたが、
 エストには一体、何が起こっているのかは理解不能だった。
 黒い球体は十数秒にも渡って、安定して存在していた。
 中で、一体何が起こっているのかは依然、不明だったが、
 禁忌である『ダークフォース』をこの地上にて用いた行為にしては、
 静か過ぎるほど状態が安定していると言えた。
 通常ならば、即メルトダウンを引き起こし、
 半径数百キロメートルの範囲を異界の闇へと没させたことだろう。
 世界は、要塞ファールス(エグラートの月)の防御シールドによって覆われている為、
 それ以上の被害は、月に眠る天使セリカの『守りの壁』によって保護、修復されるであろうが、
 威力でいうなら、星一つを消失させるに十分なほどに高威力だ。
 ヤマモトの叩き出した攻撃力数値は『9000』。
 物理攻撃力の限界である『9999』に、届こうかという威力である。
 攻撃力がその限界数値9999を超えると、物理法則は崩壊する。
 攻撃力『10000』は、この宇宙には存在しない。
 その存在が確認されていないだけか、
 かつて存在した形跡が、歴史から消し去られているだけなのかも知れないが。

(以下の『』内の記述は、削除される予定だったものです。
 読み飛ばして下さい。ややこしい解説です。)

『あくまで、要塞ファールスの演算能力による推定(予測値)であるが、
 こちら側の世界であれ、
 異界と呼ばれる禁忌の世界であれ、
 『攻撃力10000』の物理攻撃が行われた時点で、
 一つの宇宙(サーヴァ)そのものが消失するというデータがある。

 サーヴァとは、
 ゼリオスの名で呼ばれる大銀河を、
 数千個に分割して構成している宇宙の単位で、
 一つ一つのサーヴァの形状は、大小の差こそあるが、
 ハニカム構造体(蜂の巣のような六角形)を形成して、
 ゼリオス銀河全体を覆っている。

 単純に正六角形ではないが、
 一つのサーヴァが、六つのサーヴァと隣接するように繋がれており、
 有事の際には、その周囲を取り囲む六つのサーヴァが、
 崩壊したサーヴァを銀河から隔離(内包)し、
 ゼリオス銀河全体への影響を防いでいる。

 簡単に言うと、蜂の巣の穴の一つを、
 マジックで黒く塗りつぶす感じだ。
 このハニカム構造の防御システムは、
 『サーヴァナンバー01 アリスアリサ』によって、
 構築されたものだと言われている。

 銀河の地図全体には、黒で塗りつぶされた幾つものサーヴァがあり、
 それは、銀河の辺境の地である、
 『サーヴァナンバー05 アークシオン』の周囲に多く在るとされる。
 サーヴァ05エリア付近は、ゼリオス銀河でも最大の激戦区である事が、
 太古より知られており、ゼリオス銀河の『絶対防衛線』とも呼ばれている。
 かの地には、銀河最強と呼ばれる戦士団が存在すると言われ、
 12名からなるその戦士団は、名を『グランドクロス』という。
 遠い遠い、遥か向こうの神話の存在である。

 そのグランドクロスのリーダーである、戦士アークシオンから、
 強力な思念波により、数多の星々の戦士たちへ向け発せられた言葉(メッセージ)がある。

「我が名は、アークシオン。
 辺境の地にて、『敵』と戦う戦士たちの、その一人。
 この声が届いたならば、その呼びかけに応えて欲しい。
 我々は、多くの戦士を必要としている。
 我が名を冠するサーヴァの陥落は、一宇宙の消滅に留まらず、
 ゼリオスの銀河に、かつて無い最悪を招き入れるだろう。
 我が想いはただ一つ、
 愛する姉上が創造せしこのユニバースを、
 冥界(カオスフォース)より、守り抜くこと。
 繰り返す、
 我が名は、アークシオン・・・。」

 この、メッセージの内容を知る者は、
 『サーヴァナンバー1725 エルザーディア』の宇宙の中では、
 要塞ファールスの建造者である、『覇王サードラル』と、
 その彼から、要塞ファールス最深部へのアクセスキーを託された戦士、
 四天王筆頭の『マイオスト=ガイヤート』のみである。
 要塞ファールスの演算結果が示すように、
 限界を超えた力が齎すものは、崩壊、そして破滅である。

 攻撃力9000という数値は、
 要塞ファールスの誇る512億ビットの演算能力を超えるものではないが、
 その破壊力に耐えうる異界(ダークフォース世界)ではなく、
 守る事が必然とされるこの脆弱な通常空間では、
 安易に発動の許される『力』ではない。』

 その圧力の中を、二人は耐えているということになる。
 守りの壁の健在が、自身の身の安全を保障するものではないと、
 ウィルローゼはヤマモトに言っていたが、
 バルマードの黒く鋭いその瞳には、
 壁の存在がウィルローゼの健在ぶりを示すものだと映っていた。
 見た目は薄皮一枚よりも薄く、透明な存在だが、
 バルマードは感じる壁の厚みで、それがウィルローゼのものだと確信する。
 高度な錬気能力を持つバルマードには、
 対象の防御力を読み取る術に長けている。
 バルマードの目には、その壁の物理防御力が、
 いまだに5000以上を誇っているのが容易に見て取れた。
 バルマードは、攻撃のみに特化した戦士、『剣王』である。
 相手の装甲の厚みを読み取れなければ、必殺の一撃を放てはしない。
 逆にもう一方のマイオストにとっては、
 壁の存在はわかっていても、見分けまでは付かないといった感じだ。
 実はマイオストは、戦士としての能力がそれほど高くはない。
 彼の戦士LVは、バルマードと同じ『95』である。
 その高い戦士LVの割には、高い攻撃力を持つというわけでもなく、
 一級の防御力を備えているというわけでもなく、彼の能力は凡庸と言えた。
 このクラスの戦士になると、何らかの才に秀でているものであるが、
 彼には、その片鱗も無いように見える。
 マイオストは、いわゆる『天才肌』の戦士ではないものの、
 だからこそ見える風景も違っていたし、
 彼の物事を見つめる角度には、誰もが認めるセンスがあった。
 多少、おっちょこちょいな面は否めないが。
 師であるヤマモトの安否は不明だが、
 バルマードは、そちらには興味が無いといった感じで口元をニヤニヤとさせていた。

「我が師、ヤマモトよ。お見事な最期でした。
 心より、ご冥福をお祈りしています。」

 マイオストは、バルマードのその言葉に驚いたように振り返った。

「えっ!?
 お師匠さん、マジで殉職したんすかっ!!」

「ああ、えーーっと、
 希望的観測に満ち満ちております。
 何せ、いくら我が師とはいえ、
 相手は愛する我が子に手を出そうとする変態ヒゲメガネ。
 ウィルハルトに、ウィルローゼにとその見境の無さが、
 父であるヒゲパパこと私を、非情にさせたとでも言っておこうかね。
 師匠に、アレを耐えるだけの防御力はないでしょ。
 生命力高めなマイオスト君だって、ギリギリなんじゃないの?」

「あはは・・・、確かに。
 セリカの加護無しだと、ほとんど、いや完璧に無理でしょうね。
 ヤマモトサン、サヨウナラ。
 いい技見せてくれて、ありがとう!!」

 次の瞬間、その黒い球体に異変が起こる。
 何か、鋭い斬撃のような一閃が、その球体を真っ二つに引き裂いたのだ。
 引き裂かれた半球体の黒い物質は、
 吸い込まれるように球体の中心があった、元の場所へと消えていった。
 その中から現れた影は一つ。
 影の主は、その莫大なエネルギーを文字通り吸い尽くして、その姿を現したのだ。
 マイオストはその光景に唖然とさせられ、言葉も出なかった。
 それは、とても一人で吸収出来るような質量ではなかったし、
 一定量の世界を消失してもやむを得ないといった視線で、
 マイオストは、成り行きを見つめていたからだ。
 マイオストが、バルマードに連れられて来たその理由を、
 いち早く、その消失座標をファールスに眠るセリカに伝えられるのが、
 自分であるからだと、確信していたからであった。
 バルマードの思惑も、まさに彼の読み通りで、万が一の保険として、
 絶対防御力への伝達者である彼、マイオストを同行させていた。
 だが、その結末に、バルマードは一瞬、苦虫を噛み潰したような顔になる。
 静まり返ったその場所に姿を現したのは、
 絶大なる攻撃力を宿したままの太刀、第六天魔王を手にした、
 無傷のウィルローゼであった。

「ウフフ・・・、素敵でしたわよ、ヤマモトさん。」

 ウィルローゼは、右手に握られたオメガを地面に突き立てると、
 まるでその漆黒の刃に魅せられたように、満足気に太刀・第六天魔王を見つめていた。
 ダークフォースの闇の煌めきの波紋を映す太刀を見ながら、
 ウィルローゼはこう呟いた。

「フフッ、これほどの力があれば、
 私は、この『ウィルローゼ』で在る状態を、
 ある程度は安定させて継続することが出来るかも知れませんわネ。
 ウィルハルトという呪縛から解き放たれたいという願望は、
 私にとっては、比較的重要度の高い項目ですので。
 ウフッ・・・、別に、ウィルハルトに消えてもらおうだなって、
 そんな酷い事までは思いませんが、
 適当な依代(うつわ)を見つけるまでの間、
 私がこの状態で長くこの世界に在れるというのは、
 とても素敵なことだと思いますの。
 ウィルハルトの中に潜在した状態でも、
 ワタクシ、この太刀の煌めきを留めたままでいる自信はございますし、
 むしろ、何かを手玉に取るのは得意な方と心得ていますので、ウフッ。
 だって、甲斐性なしの弟のウィルハルトに任せていたなら、
 何十年、何百年先に、この私だけの命の器を手に入れられるか、
 わかったものではありませんから。」

 そう言うウィルローゼを、バルマードは押し黙って見つめていた。
 バルマードにしろ、マイオストにしろ、
 あのヤマモトが敗れるなど、想定外の展開であったからだ。
 だが、現実として、二人はヤマモトの存在を、その痕跡さえ探知出来ないでいる。
 ヤマモトの存在自体が、完全に消失してしまっているのだ。
 バルマードは一呼吸置いて、マイオストに神妙な面持ちをしてこう言った。

「マイオスト君、困ったことに緊急事態、発生だよ。
 まさか、この私も、師匠が敗れるだなんて本気で思ってもみなかったから、
 ウィルローゼのその高く伸びた鼻っ柱を、
 へし折ってもらおうくらいに考えていたのだよ。
 多少、師匠にも痛い目を見てもらってね。
 ・・・だが、結果は見ての通りだ。」

「バルマード殿、
 確かに、長くあの剣皇陛下の実力を見せつけられてきた三下の私にしても、
 驚きを禁じえない状況だと言えます。
 正直、洒落ではすまない非常事態だということは、私にもわかりますよ。
 背筋が凍りつきそうなくらい、お強い娘さんをお持ちで。
 羨ましいやら、大変そうやら・・・。」

 バルマードは、言う。
 かつて無いような、真剣な面持ちで。

「残念だけど、私の実力は師匠より格下だ。
 情けないことに、我が娘(こ)を止めるほどの力は、この私にはないのだよ。」

 そんな『お父様』の様子に、慌ててマイオストは、こう返す。

「だ、だからと言って、
 私が協力したくらいで何とかなるものではないですよッ!!
 まさか、いまさら、
 その為に私を同行させただなんて、言わないで下さいね。
 止められないですからねっ!!
 あの、無敵の変態ヒゲメガネを退治してしまうほどの化け物、もとい、お嬢様なんて。
 私、人生の目標である『長生き』の記録を、
 これからもずっと更新し続けて行きたいですから。」

「でもねぇ・・・、
 師匠ほど馬鹿デカい戦士の存在が消えたともなると、
 私らが見つかるのも、もう時間の問題だと思うよ。
 逃げようとしたら、逆に挑発してしまうことだろうねぇ・・・。」

「そ、そんなぁ・・・。」
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ダークフォース 第三章 中編 Ⅹ 下書き(途中です^^:)

2010年10月12日 20時49分02秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
   Ⅹ

 確かにバルマードの言うとおり、
 ウィルローゼはヤマモトという大きな目隠しが消えたおかげで、
 二人の存在をすでに知り得ていた。
 ウィルローゼは、そんな二人に聞こえるくらいの大きさの言葉で、
 彼らに向かってこう囁いた。

「ねずみさんが二匹、迷い込んでいますわね。
 それも、なかなか強そうな感じがいたしますワ。
 私がこの、麗しく気高いウィルローゼの姿で在れる時間は、
 この太刀の力で多少ばかり延長されているみたいですので、
 魔法のようなこの奇跡の力を操る練習の相手には、
 ちょうど良い感じが致しますの。
 「逃がしませんわよ、」っと、一言そう言えば、
 私は本当に、悪い魔女さんのように映るのかしらね。
 あいにく、魔法の杖は持ち合わせてはおりませんけど、
 雰囲気をかもす為に、今度、金やプラチナを無駄に使った、
 重たいだけの杖を用意しておいても良いかも知れませんわね。
 ウフフフフ・・・。」

 この時、獲物を狙う猛禽のような目をした
 ウィルローゼのそのゴールドの眼差しに、
 バルマードとマイオストの二人は、背筋がゾクッとさせられた。
 今の、悦に入ったウィルローゼなら、
 愛する父であるハズのバルマードさえ練習代に選ぶであろうことを、
 バルマードは否定出来なかった。
 ウィルローゼは、好奇心に満ち溢れたアクティブな性格の持ち主で、
 遊び心には、満ち満ちている。
 ウィルローゼの隠し持つ『秘密の魔法』の力さえ使えば、
 バルマードと興じてみるのも、彼女にとっては可能だからだ。
 ただ、手加減は下手くそなのを、自分では気が付いてもいないウィルローゼの事を思えば、バルマードは決死の覚悟を決める必要があった。
 バルマードは、名乗り出るには少々、タイミングを逸した感が拭えない。
 覗かれることすら、悦楽に感じるウィルローゼを、
 今、名乗り出たりすれば、より一層、興奮させてやるだけの話だ。
 何より、バルマードは、勝負事に負けるのが嫌いだったし、
 まして、我が娘相手に負けるなど、お父様のそのプライドは許さなかった。
 バルマードは、蛇に睨まれたカエルのように、
 ヒソヒソとした声で、マイオストに耳打ちした。

「いいかね、マイオスト君。
 これから先見るであろうことは、一切内密に願うよ。
 我が師にさえ秘密にしていたことだからね。」

「・・・承知しました。
 この危機が乗り切れるのであれば、正直、耳栓つけて安眠マスクで、
 見ざる、聞かざるで、行ってもいいくらいですので。」

「そこまでしなくてもいいんだけど、
 まあ、ウチの、剣王家の四天王を紹介するよ。
 『凛花(リンカ)』、出番だよ!!」

 するとバルマードの声に応ずるかのように、
 一人の少女が姿を現した。
 ショートカットのその黒髪の美少女は、年の頃は14~5歳といった感じで、
 東方に住まうという、オリエンタルな雰囲気漂う、倭人の少女ようだ。
 マイオストは、旅がてら、東方の大国である『天帝国』を訪れたことがある為、
 すぐに彼女がかの国の出身であることが分かった。
 天帝国の女性は、嫁にしたい国の女性の中でも、
 北のレムローズ王国(北欧系で美女が多い)と並んでトップに入るので、
 そういうことに関しては、マイオストはやけに詳しかったりする。
 凛花と呼ばれたその少女は、武者鎧に長い太刀という出立ちだ。
 その武者姿の凛々しい凛花に向かって、バルマードは言う。

「内容はわかるね。よろしく頼むよ。」

 すると凛花と呼ばれた少女は、頼られるのが嬉しそうな様子で、
「頑張りますっ!!」っと、元気よく答えた。

 ウィルローゼと、バルマードたちの間には、
 見えない壁が存在しているが、
 凛花と呼ばれたその少女は、手にした太刀でいとも容易くその壁に風穴を開け、
 ウィルローゼの元へと近付いていった。
 マイオストは、その光景に衝撃を受け、思わず声を上げる。

「物理防御力5000オーバーの守りの壁を、
 こうも簡単に貫くとは!!
 何者なんですか、あの黒髪の美少女女子中学生はっ!?」

 バルマードは、その問いにこう答えた。

「こう呼べば、君なら、彼女のことが判るだろう。
 『黒髪のルフィア』だ、よ。」

「ル、ルフィア!!
 マジですか・・・、あの最強のルフィアがこの世界に実在していたとは。
 確かに、ある程度の情報は、ファールスにいればこの耳に入ってはきますが、
 よもや、ルフィアの姿を目の当たりに出来るなんて、
 感動で手がプルプル震えていますよ。
 一体、あなたは、どれ程のものを隠し持っているんですか。
 バルマード殿。」

「まあ、内密に願うよ、マイオスト君。」

「か、軽々しく言える訳ないでしょっ!?
 世界が混乱しますよ、大陸最強の剣王が、
 あのルフィアを従えているだなんて。
 かつて、異界の神々全てを敵に回しても、
 その髪の一本すら散らすことは出来ないだろうと云われた、
 六極神中最高位の、第一位の神格を持つ、
 『美髪王 ルフィア』・・・。
 姿かたちは、私の知る情報とはかなり食い違ってはいますが。
 現物を見るのは今回が初ですので、そういうものかも知れないのですね。」

「まあ、私は、『黒髪の』と付けて言ったからね。
 後の想像は、君に任せるとするよ、マイオスト君。」

 バルマードとマイオストの二人が見つめる中、
 ウィルローゼは、立ちはだかる武者姿の凛花に向かってこう言った。

「あら、こんばんは。『貧乳』の凛花さん。」

「!?」

 その一言は、凛花に大きな衝撃を走らせた。
 主君バルマードの前で、コンプレックスとしているデリケートな部分を、
 バッサリと斬られたからだ。
 鎧のせいで判り難くはあるが、確かにお世辞にも膨らんでいるとは言えない。
 対するウィルローゼは、爆乳と言って良いほど立派なものが付いており、
 まるで重力に逆らうかのように、微塵も垂れたりなどしていないし、
 形もバツグンだ。
 ドレスの上から計れば、メートルという単位を口にしなければならない程、
 立派に育っており、凛花の事を引き合いに出すには、
 あまりにお気の毒な相手だった。
 凛花は、一度、呼吸を整えて、ウィルローゼに言う。

「相手が姫様とて、その事に関しては、譲れないものがありますよ。
 たかが一部位の大小で、女性としての優劣が決まるわけではありませんから!!」

 凛花の言葉には、熱がこもっている。
 とてもとても、それを意識しているのが見ていてバレバレだ。
 そんな必死な彼女に向かって、ウィルローゼは言った。

「別に、ワタクシ、
 凛花さんの事をけなして言っているわけではありませんのよ。
 正直なこの悪い口が、これまた正直に、私の思いを正直に述べているだけの事です。
 凛花さんの事は、清純で、とても愛らしい女性(ひと)だと思っていますのよ。
 胸の方は、どうしようもなく、ぺったんこですけれど。」

「ぺ、ぺったんこ言わないで!!
 少しはあるのです! ほんの少しですが、ちゃんとあるのです!!」

 話がいきなり変な方向へと流れていってしまったことに、
 世紀の大決戦を期待していたマイオストは、
 気の抜けたような微妙な顔をして、バルマードの方を見る。

「あ、いやいや、
 娘(ローゼ)と凛花のやり取りは、いつもこんな感じだから。
 個人的には、どっちもアリだと思うんだけど、
 乙女心ってのは、オジサンには理解し難いところがあるねぇ。
 あははははっ。」

「どっちもアリなのには、激しく同意しますが、
 正直、聞いていて、こっちまで恥ずかしくなって来るような会話ですな。
 もちろん、バルマード殿同様に、オジサン的カテゴリーに入るであろう、
 この私にも、その繊細な乙女心は理解出来てはおりませんが。」

 覗き魔の二匹のねずみの事など、どうでもよくなったウィルローゼは、
 凛花に対し、口撃を繰り出す。

「ウフフッ、
 悪い魔女さん的立場の私と致しましては、
 そのピュアが、ピュアを重ねたくらい純粋な凛花さんの事が、
 時々、羨ましくなってしまう事もありましてよ。
 どうせ、私など、ただのゴージャスバディの持ち主ですので、
 身体の方ばかりに目が行ってしまい、肝心のココロの方は、
 見てはもらえませんことよ。
 その点、薄っぺらいベニヤ板のような可憐な姿の凛花さんは、
 しっかりと、その澄んだ天使のような心を見てもらえるのでしょうね。
 ウフフフフ・・・、そのように誰かさんに強く想われてみたいものですワ。」

「べ、ベニヤ板って何ですか!!
 ちゃんと有りますからね!
 私にとっての希望の丘の存在を、全否定するような発言はしないで下さい!!」

「まあ、これは失言でしたわ。
 では、その凛花さんの言われる希望の丘とやらを、
 直接、この手で計って差し上げますわ。
 ねずみさんは、後でこの私がちゃんと処分しておいてあげますので、
 ご遠慮なさらず、そのゴツゴツとした鎧をお脱ぎになって。
 優しく計ってあげましてよ、ウフッ・・・。」

「ちょ、ちょっと待って下さい、姫様!!」

 バルマードに見られている前で、
 乙女な上半身をさらす訳にはいかない凛花だが、
 それこそ、いやらしい腰付きと手付きで、ウィルローゼはじわじわと迫って来る!!
 ウィルローゼは、覗き間の一人が愛する父、
 バルマードであることに気付いていない様子だが、
 乙女の純情を抱える凛花にとって、
 その想い人であるバルマードの前で、そんな醜態を演じるなど許せるはずもない。
 凛花の気持ちなど露知らず、
 オジサン二人は、目の前で起ころうとしている、ドキドキな展開に、
 頬を僅かばかり赤く染めて、その成り行きを見守っていた。
 もう、どうしようもない、ただの覗き魔だ。
 余談だが、エストのことは皆がすっかり忘れている。
 ウィルローゼは、凛花に言う。

「人目が気になるようでしたら、部屋の奥にある私の、
 バラ色のベットルームで確かめてもよろしくってよ。
 天蓋付きのフワフワのベットの上、世代を同じくする者同士、
 まるでパジャマ会議のように、和やかに、お互いのホクロの位置など、
 確かめ合ってみるのも一興だと思いますの。
 幸い、どこかのオジサマのおかげで、
 私、この姿であることが、多少、延長されておりますので。
 二人して、夜明けのコーヒーを飲むのもまた、
 格別な思い出になったりするかも、知れなくてよ?
 ウフフフフ・・・。」

「そ、そんな思い出は悪夢です!!
 確かに、私も姫様も平成生まれ(天帝国の暦)の同年代ですけれども、
 姫様の言い回しは、いかがわしさに溢れまくっているのです!!
 ・・・思ってみれば、これだけ歳が近いのに、
 どうして、これ程の差が生まれたのでしょう。
 外国人さんである姫様は、発育が特別なのでしょうか。」

「まあ、凛花さん。
 むしろ、外国人さんは、異境からこちらへと渡られて来た、
 あなたの方ではなくって?
 さらに、言わせて頂くならば、私の所有する便利な魔法の本によれば、
 凛花さんは、天帝国の同世代の女性の平均値を大きく下回っていますわよ。」

「お、『大きく』は、余計ですッ!!」
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ダークフォース 第三章 中編 Ⅰ

2010年08月09日 20時36分07秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
   Ⅰ

 ティヴァーテ剣王国には、
 『花』のように可憐で、美しい王子がいる。

 レトレアの薔薇姫と謳われた、
 その母さえ凌ぐ美貌を持ち、
 剣王国の人々は、彼のことを愛した。

  『ウィルハルト=マクスミルザー王子』である。

 彼、ウィルハルト王子は、
 現在、エグラート大陸の『皇帝』の座にある
 ノウエル叡智王(ノウエル帝)と、
 父王である、
 バルマード王との間で交わされた約束により、
 その身を『人質』として、
 皇都レトレアに置く必要があった。

 神聖不可侵とされたスレク公国を、
 フォルミ大公国が攻め滅ぼした、

  『スレク公国の乱』。

 そのフォルミに対する制裁措置を論議していた、
 御前会議の最中、
 断罪されるべきフォルミと、
 その国の戦士である『リシア』を擁護するような発言を、
 大国の王である、
 バルマード王が口にした事にそれは起因する。

 会議はその後、
 ウィルハルト王子の身を無事、
 この皇都へと送り届ける手段と、
 その期日について話し合われたが、

 王子の護衛を、
 剣王国から直に出させれたでは、
 他の諸侯たちが納得はしない為、
 会議は一時、紛糾した。

 大陸最強の名を冠するティヴァーテ剣王国の、
 その王国の至宝とも呼べる、
 ウィルハルト王子の警護の任である。

 バルマード王は柔軟で穏健だが、
 その配下の将軍たちは、皆が勇猛で、豪気だ。
 『人質』という言葉に息巻いた将軍たちが、
 警護という名目の下、
 どれ程の精鋭部隊を送り込んで来ることか、
 想像するだけでも、諸侯たちはゾッとさせられた。

 ティヴァーテ剣王国は、剣王バルマードは勿論だが、
 各々の将軍たちの実力も驚異的であり、
 万人隊長格(戦士LV85以上)の強者たちで、
 玉座の周りは固められている。

 剣王国に発言など許せば、
 おそらく、その将軍たちの命により、
 戦術級の戦士(千人隊長格 戦士LV80相当)が、
 百名近くは派遣されるであろうし、
 兵の列だけでも、ゆうに万は越えて来るだろう。
 国の二つ、三つ、
 いつでもなぎ払える大戦力である。

 そんな大部隊を、
 皇都レトレアに招き入れたりしては、
 大陸の情勢など一夜にして決してしまう。

 そこで、法王国の女教皇・アセリエスの名が出てくる。
 女教皇の治める、セバリオス法王国は、
 王子のいるティヴァーテ剣王国と、
 この皇都レトレアを結ぶ、その中間に位置する。
 多数の諸侯が列席し、少し慌しさを見せ始めた、
 御前会議のその中、

 セバリオス法王国の女教皇、アセリエスは、
 その純白の美しい法衣姿で徐に立ち上がると、
 慇懃無礼なまでに、丁寧な言葉を選んで、
 「皇都レトレアまでの道中、
  大事なる御身をお守り申し上げたい。」
 と、皇帝と剣王の双方に向かって、やんわり話を持ちかけた。

 ノウエル帝としては、
 いずれは孫娘のエルザ姫を、ウィルハルト王子の妃に、との願いから、
 王子の心象を少しでも良くしたいという考えがある。
 護衛を派遣するなら、女教皇の法王国からなどではなく、
 この皇都レトレアから直接、叡智王家の精鋭たちを送りたいというのが本音だ。

 彼、ノウエル帝の、
 ウィルハルト王子に対する好意は紛れも無いものだ。
 何しろ、かの王子は、
 我が娘同然に愛し育てたレイラ姫の、その忘れ形見である。

 しかし、単に政治目的で、ウィルハルト王子に姫を差し出し、
 強大なる剣王家の後ろ盾を得たいという諸侯は、少なくはない。
 二心なきを示したいバルマード王が、
 即座に、女教皇の申し出に快諾した為、
 王子を護衛する衛士は、法王国が派遣するという運びになった。

 また、各国の諸侯たちもそれで納得した。
 理由は簡単だった。
 「現皇帝の叡智王家と、大陸最強の剣王家が結ぶくらいなら、
  かの麗しき女教皇様に、
  その間を掻き回してもらった方がやり易い。」、と。
 アセリエスとしても、しっかりと掻き回してやるつもりで、
 いつもの如く、場を取り繕っただけのだけの微笑みを、
 列席する諸侯たちへと向け、「フフフッ」、と浮かべていた。

 こうして、ウィルハルト王子が、
 生まれ育った祖国を後にするその期限が、
 この女教皇の手に握られたのだが、
 彼女は、特に急ぐ様子もなく淡々と準備を進め、
 王子には十分な時間を与えてやった。

 結局、この後、アセリエスがその護衛の使節を剣王国へと派遣するのは、
 スレク公国が滅んで一年もの月日が経った、
 大陸暦4096年の、初夏となる。

 皇都レトレアでの会議を終えたアセリエスは、
 その帰途、実に満足気な表情であった。

 会議に先立って行われた、
 ガルトラント王を相手とした御前試合を、
 見事に引き分けて見せたことにより、
 ガルトラント王の面目を保ちつつ、
 屈強なる彼、ガルトラント王と一対一で渡り合える、
 優秀な駒を擁することを、
 諸侯たちの間に宣伝し、
 その発言力を増すことに成功した。

 その時、アセリエスは、
 口にこそ出しはしなかったが、
 この程度の駒なら、
 幾らでも用意出来るといった、
 余裕の表情を見せていた。
 彼女は意図的にそう微笑んだのではなく、
 諸侯たちが勝手にそう、
 思い込んだだけなのだが。

 法王国の人材の豊かさを示す、
 その結果を出せたことに加え、
 麗しいとされる、
 かの、ウィルハルト王子に、
 公然と関わる権利も獲得出来た。

 これは、彼女にとっては嬉しい手土産となった。
 本当ならば、会議を掻き乱して、
 無理矢理開戦へと追い込んでやっても良かったのだが、
 それよりも、遥かに面白い事を彼女は手に入れた。

 彼女は、美しいものを何より好む。
 異様なほどに、彼女の美への執着心は高い。

 誰も見ていて気付きはしなかったが、
 彼女はとても高揚し、ざわめく興奮が、
 その細く美しい指先から零れそうなほど、
 愉快な気持ちでいた。

 彼女はその異なる、ルビーとエメラルドの瞳を、
 まるでオモチャを手に入れた子供のように、
 無邪気に、そして恍惚と艶めかせていた。

 その僅かな機微を気付けるだけの繊細さを、
 レーナが持ち合わせていたならば、
 彼女に対して、こうも後手後手に回ることもなかったであろう。

 道中、アセリエスは、
 教団の戦士の実力を示した功労者であるレーナに、
 護衛の一件を、一切語らずにいた。
 彼女なりに言わせれば、
 「聞かれたならば答えた。」
 といった方が、より正しいが。

 アセリエスは、法王国の聖都へと辿り着いたその足で、
 真っ先に、セバリオス大神殿の中層部へと向かい、
 深緑の髪のエリスの姿を探した。

 アセリエスは、大衆の目など気にもせず、
 白という色があまりにも眩しい、
 目立ち過ぎる純白の法衣姿で、
 エリスの前へと姿を現したのだ。

 エリスはその事をまず驚いたのだが、
 次の瞬間、

「エリス様、お話しがございます。」

 と、アセリエスは声に出して、
 エリスの名を『様』付けでそう呼んだ。

 不意を付かれたエリスだが、
 これはさらに彼女を慌てさせた。
 アセリエスの言葉に、
 周囲の誰もが不思議そうな視線を、エリスの方へと向ける。

 たとえ大神殿内とはいえ、
 上層部に比べれば華もない中層部などに、
 無数の薔薇で満たされた、
 絢爛豪華な白亜の園の主である女教皇様が、
 のこのこと単身、お供の列も従えずに現れている。

 それだけでも、十分、奇妙な光景であったが、
 その彼女は今、動き回るのには、
 やや不便な格好をしている。

 公務の時にしか用いない、
 レトレア織の重たい法衣を着用しているのだ。

 彼女は、皇都から戻るその旅路では、
 数頭の馬に引かせた立派な馬車の中で、
 動きやすく肩の凝らない、仕立ての良いドレスを着ていた。

 聖都に入って、
 その厳(いか)つい法衣に着替えたものと思われるが、
 もっと動きやすいシンプルなものもある。

 アセリエスは、時折、見え透いた奉仕活動も行うが、
 その時も大抵は、略装の軽い衣である。

 それだけでも、アセリエスのこの立ち姿は、
 辺りの目を引いているのだが、
 何故、そのような格好をしているかの理由は、
 彼女にしかわからない。

 さらには、その尊大な女教皇様に正装させ、
 敬語を使わせる相手など、
 この地上にあっては、
 『皇帝』以外には考えられない。

 多くの者は、空耳かも知れないと思っただろうが、
 アセリエスは、エリスと呼ばれるその女性を、
 確かに、『様』付けで呼んだ。

 たとえ相手が、大国の王であろうとも、
 彼女が、その尊大な態度を変えることなどないという事を、
 誰もが知っている。

 アセリエスは、象徴(シンボル)としての、
 『神』や『皇帝』には、
 礼節を重んじるような姿勢を見せるが、
 それ以外の者に対しては、至って冷ややかな態度を取る。

 今、そのアセリエスが、
 エリスよりも一段低いその位置で、
 礼節に適った美しい立ち姿勢を保っている。

 女教皇のその姿は、
 厳かで気品に満ちており、神々しくもある。

 アセリエスは、周囲の視線など、
 まるで気にしていない様子だ。
 彼女にとって、意味を成さない人々の存在など、
 空気と何ら変わりはないのだから。

 だが、さすがに、周りの視線を辛く感じたエリスは、
 アセリエスを人気のない路地裏へと、
 強引に引っ張り込んだ!!

 周囲の人々には、
 突然二人の姿が消えたようにも映ったが、
 あの女教皇様の事なので、
 不思議がるような者も特にはいなかった。

「あんた、あたしをからかって、面白がってるだろッ!!
 人前であんたに、『様』付けされて呼ばれた日にゃ、
 ここでのあたしの立場ってもんが、
 なくなっちまうだろーがッ!!!」

 アセリエスは、
 顔色一つ変えずに、フフフッと笑う。

「笑ってんじゃないよッ!!
 まったく、・・・こっちゃー、息が切れそうだよ。」

 ぜいぜいと息を乱すエリスに向かって、
 アセリエスは言う。

「私(わたくし)、ジラ様とお話しをしていると、
 とても自然に、言葉を話せる気がするのです。」

「『ジラ』とも呼ぶなーーーッ!!
 ますます、タチが悪いわっ。
 ・・・頼むから、
 せめていつも通りに「エリスさん」くらいで頼む。
 ていうか、何で今日に限って、
 格好が『ロゼリアちゃん』じゃないわけよッ!?」

「これは、私としたことが、
 変装する事も忘れていたとワ。」

「ワ、じゃねーよっ!!
 あんた、絶対、ワザとやってんだろうがッ!!!」

「ウフフフフ・・・、
 確かに、冗談でございます。」

 熱くなっていくエリスの姿を、
 ただ、じっと観察するように眺めるアセリエス。

 ロゼリアの格好をしていないアセリエスは、
 感情の起伏を表に現さない為、
 エリスとしても、少々やりにくそうだ。

「ったく、もう。・・・お喋りがしたいんなら、
 一回、出直しておいで。
 あたしゃね、そーやって、
 からかわれるのは大嫌いなんだ。
 あんたはね、あたしの数少ない、
 まともな話し相手の一人なんだよ。
 頼むから、あたしの妹が苦労させられてる、
 どっかの馬鹿息子や、
 マスオなマスオストさんと話してるような、
 空気にしないでおくれよっ。」

 アセリエスはフフッと、笑う。
 嫌味なほどに、
 ワンパターンの表情しか彼女は作らない。

「まったく、・・・何考えてるのか、わかりにくい子だよっ。」

「ウフフ・・・、
 私としても敬愛するエリス様のその想いを、
 是非にも受け入れたいのですけれど、
 残念ながら、今の私では、
 こうする事しか出来ないのです。」

「だから、何だっていうんだい。
 ハッキリしなッ!!」

 特に怒っているわけでもないのだが、
 エリスの言葉遣いは激しい。

 逆に、アセリエスの口調は、
 棒読みとまではいかないが、
 淡々と台詞を読み上げるように語り掛けてくる為、
 この日の二人の姿は、
 いつになく対照的に見える。

 と、アセリエスは、次の言葉を述べる前に、
 エリスに深々と一礼した。

 この、自尊心の塊のような存在の女教皇様が、
 他者に対して頭を垂れるなど姿は、
 そう滅多に見られるものではない。

 アセリエスのその慎ましやかな姿を見て、
 さすがのエリスも少し時間(とき)が止まった。

 アセリエスは、言う。

「私は、エリス様の事を心より尊敬致しております。
 たとえ、信仰の対象で無かったとしても、
 貴女様へのその想いが、
 変わることなどございません。
 故に、礼を欠くのを承知で、
 このような言葉を口の端に上らせることを、
 お許しいただきたいのです。」

 アセリエスはそう言うと、
 一呼吸置くように、その胸を撫で下ろす。
 彼女が、そんな仕草をみせるのは、
 とても珍しい。

 エリスはただ、アセリエスの言葉を待った。

「この身の想いを、
 『アセリエス』として、
 この口から、直接、
 エリス様にお伝えしたく、
 最低限の礼節ではありますが、
 せめて、衣だけでもと思い、
 この姿にて、参じた次第にございます。」

 エリスを前に、そう述べた彼女は、
 凛として、他に並ぶものの無き、
 その女教皇の、品位と風格を漂わせていた。

 そして、
 次に彼女の口から発せられた言葉を、
 エリスは受け止めた。


 初めて、彼女から、
  アセリエスから、
    頼られたような気がしたからだ。


 後に、エリスは、
 ティヴァーテ剣王国へと派遣されるという、
 その一団に加わる事になる。

 
 そして、
   時はその大陸暦4096年の初夏へと移る。
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ダークフォース 第三章 中編 Ⅱ

2010年08月09日 20時35分27秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
  Ⅱ

 ティヴァーテ剣王国は、
 他国に比べ南方に位置する為、
 春が過ぎれば、一気に澄み切った青空が広がり、
 その日差しも長く、白くて眩しい。

 地平には夏雲の姿も見え、
 そのスカイブルーと雲の綿菓子のコントラストが、
 鮮やかである。
 土地も肥沃であり、
 その気候は温暖である。

 時は、大陸歴4096年の初夏。

 王城『ドーラベルン』を中心に栄える、
 百万都市、
 剣王国・王都『モーリアン』。
(王城を含め、単にドーラベルンと呼ばれる事も多い。)

 その周囲には、
 華やかなる王都を、涼しく取り囲むように、
 豊かな森と水源が存在しており、
 まさに、水の都と呼ぶに相応しい様相である。

 王都には荷車も行き交うが、
 都中に整備された水路により、
 船による交易も盛んだ。

 水路は、運河によって
 海にも開けているので、
 洋上には大型船の姿も、
 チラホラと見ることができる。

 王城防衛の為、
 都の中心へと向かうように水路は細くなり、
 大型船が停泊出来る港へは、
 幾つもの水門を超えていく必要がある。

 夏の期間は長いが、
 水気を十分に含んだ南風と、
 木々の恵みのおかげで、
 極端に暑くなるような日は少なく、
 その暮らしは快適である。

 剣王国は、広大な領土と資源を保有する為、
 その国力は他の国を圧倒している。

 故に人口も多く、民の生活も豊かだが、
 それだけに『大国意識』も根深い。

 剣王国民に圧倒的に支持を受けている
 『ウィルハルト王子』を、
 幾ら相手が皇帝とはいえ、
 何故差し出さねばならないのか!

 という声が、
 この王都の中では、
 いや剣王国中に渦巻いていた。

 戦争回避の為のバルマード王の英断に、
 彼らは、一応の納得はしていたが、
 王子を取られる事が、
 ひいては剣王国の未来を奪われるような思いがした。

 その時期が近づくにつれ、
 国民の不満の声は募り、
 ついには一戦交えて、
 我が剣王国の強大さを見せ付け、
 「皇帝にすら侭ならぬ事があるのだと
 思い知らせてやればよい。」
 などといった、
 強行的な意見を口にする者たちも、
 現れるようになる。

 バルマード王は、
 そんな彼らを納得させるのに
 余計な労力を費やされていた。
 「皆の言うことの分からぬではないが、
  一番辛いのは、
  最愛の我が子を差し出さなければならない、
  私なのだよ。」、と。

 それは、強力な軍団を幾つも所有する、
 剣王国ならばこその悩みといえた。

 ティヴァーテ剣王国は強い。

 大陸最強の名は、
 まさにこの国の為にあるといっていい。
 第一線級の精鋭戦士の数が千人を超え、
 十万もの兵を
 幾年にも渡って、運用出来るだけの国力がある。

 バルマードとしても、
 皆の言葉が愛国心から来るものだけに、
 なるだけ慎重に言葉を選び、
 また他国を刺激しないようにも努めた。

 
 そして、微妙に疲れた顔をしたバルマードが、
 癒しを求めて訪れたのは、
 最愛の我が子の待つ、
 家庭菜園(強引に城の一角に造園した)だった。

「あ、パパッ!!」

 照りつける白い日差しが、
 菜園の果実をみずみずしい緑や赤に照らす中、
 あきれるほどに美しい王子様、
 ウィルハルトは、菜園の中、
 父王である、バルマードのその姿を見つける。

 麦わら帽子に、
 白のドレス姿のウィルハルト。

 肩から背へと流れる、
 そのしなやかで美しい長い髪を、
 陽射しの下、赤や、ピンクへと艶めかせ、
 ドレス仕立ての作業着の裾を揺らしながら、
 冷えた麦茶の入ったボトルを手に、
 ヒゲパパの元へと駆け寄っていった。

 ヒゲパパの趣味で着せられているワンピースは、
 確かにとてもよく似合っているが、
 そのヒゲパパの意図には、
 当の本人はまったく気付いてはいない。

 ウィルハルトは、疑うことを知らず、
 あまり社会常識がある方ではない
 『箱入り息子』な為、
 農業の格好など知らないし、
 農作業用の袴である『もんぺ』の存在すら知らない。

 知っていれば、
 好んで、もんぺとゴムの長靴を履いて、
 土と戯れたウィルハルトであったろうが、
 バルマードの趣味に、
 知らず知らずの内に押し切られている。

 麦茶がステンレスボトルなのも、
 ヒゲパパのせいだ。
 これで奥義『回し飲み』という名の、
 間接キスが出来るのだ!!

 何処からどう見ても、
 完成された美少女である
 その可憐な立ち姿に、
 エストなどは、
 バルマードに「グッジョブ!!」
 と親指を立てただろう。

 彼女、もとい彼、ウィルハルトならば、
 シックなもんぺ姿だろうが、
 何だろうが、きっと似合ってしまうに違いなかった。

 健気な姿で、ウィルハルトは、
 ボトルのフタの部分に麦茶を注ぐと、
 切り株の上に腰を下ろす、
 灰色の髪のヒゲパパにそれを手渡した。

 バルマードは頑健な大男である為、
 座ったその姿でも、
 視線の高さがウィルハルトと、
 あまり変わらないようにも感じられる。

 実際は、切り株の高さを微妙に調整して、
 ベストショットが拝めるようにと、
 このバカ親が仕組んでいたのだが。

「ありがとう、ウィルハルト。
 そういえば、エストちゃんはいないのかい?」

 バルマードはそう言いながら、
 遠い目をして、そのほどよく冷えた麦茶を、
 ゴクリと飲み干す。

 お昼過ぎの直射日光は、
 そのヒゲパパの至福の表情を眩しく照らし出した。

 バルマードは、プハーッ!と一息ついて、
 可憐な我が子を見てこう思う。

(別に、あの娘さんがいなくてもいいや。
 むしろ、たまには居ない方がいいや。)、と。

 そんなヒゲパパのバルマードに、
 ウィルハルトは、にっこりとこう言った。

「エストは、ヤマモトのオジサマと
 ちょっと買出しに出かけたよ。
 いつ、戻るのかはわからないけど、
 ちゃんとパパの分も
 おやつ買ってきてねって言ってあるから。」

 その天使のような微笑みに、
 バルマードは心癒されるが、
 今日は、アホ娘の他に、
 あのグラサン師匠もこの菜園に来ているのかと思うと、
 内心、ちょっとガッカリした。

 ・・・勿論、口には出せないが。

 ウィルハルトが、
 その空になったコップ代わりのフタを受け取ろうとすると、

 その麦わら帽子がバルマードの髪の辺りに、
 コツン! 
 と当たって小さな日陰を作る。

「あ、ごめんなさいっ!?」

 と、そう頬を赤らめて謝るその姿は、
 まるで遠い日の初恋のあの娘(妄想)のようだ。

 間近にすると、これはもうどう見ても、
 まさに、天上から舞い降りた天使のようにしか見えない。

 咲き誇る薔薇よりも艶やかな赤をした、
 そのシルクのように光流れる髪に、
 きめ細かな白い肌の上には、
 桜色に潤った唇と、わずかに朱に染まる頬。

 上目遣いで彼を見つめるその黒の瞳は、
 吸い込まれるほど魅惑的で、

 同じ黒とはいえ、バルマードの瞳とは、
 その階調が違うのがハッキリとわかる。

 バルマードは、フッと想う。
 この最愛なる我が子と、
 しばらく離れ離れにはなるが、
 こうしてその別れを惜しむ時間を、
 十分に与えてくれた女教皇には感謝している。

 ノウエル帝ならば、一昨年の会議の後、
 即座に使節を送ってきただろうし、
 まず、一年近くも大事な決め事を、
 放置しておくハズもない。

 そしてバルマードは、
 灰色の髪の頭を掻きながら、
 同時にこうも思った。

(若い頃には、
 私も随分と可愛がられた(からかわれた)ものだが、
 あのいやらしい性格をした
 アセリエスのお姉さんは、
 きっと、私の国の民たちにも考える時間を与え、
 皇帝陛下と、剣王国との仲が、
 こうやって時と共に、ギクシャクするのも、
 織り込み済みで、
 こうも焦らしてくるのだろうねぇ。)、と。

 そんなことを考えて、
 少し苦笑うバルマードを見て、
 ウィルハルトは、
 吐息のかかるそんな距離で、
 心配そうな顔をして言った。

「難しい顔をして、どうかしたの?」

 可愛い我が子のその問いかけに、
 バルマードは、理性など投げ捨てて、
 はぐはぐしてあげたいなどとも思ったが、
 それだけ別れが辛くなると思い留まり、

 フハハハッっと笑って、
 麦わら帽子の上から、
 ウィルハルトの頭を撫でた。

「なーに、これから植える果物や野菜を、
 一緒に食べれんのが残念だと思ってなぁ。」

 バルマードがスッと立ち上がって、
 切り株の横にある鍬を手に取る。

 すると、その影にウィルハルトが
 すっぽりと隠れてしまう程、
 二人の体格が違うのがわかる。

 バルマードは言った。

「さて、まだ時間はあることだし、
 一緒に土いじりでもしようか。
 ところで、今日のオススメは何かな?」

 バルマードのその問いに答えるように、
 ウィルハルトは、
 菜園の隅の方にみずみずしく育った
 キュウリを指差し、こう言った。

「スイカはまだ早いし、キュウリの方がいいかな。
 形は不ぞろいだけど、
 いま食べたらきっと美味しいよ。
 もろみ味噌も、ちゃんとあるよ。」

「では、皆の分も合わせて取るとしようか。
 家臣たちにも、
 お前の作る果物や野菜は評判がいい。
 というより、
 ひとり占めは妬まれるだろうし、なぁ。
 私は、キュウリの浅漬けも大好きだぞ。」

 ウィルハルトは、
 手さげサイズの竹製のかごを
 奥の方から持ってくると、
 バルマードにこう言った。

「そうだね、
 みんなの分もかごに取っておいて、
 ボクたちはここで頂こうよ。
 やっぱり、野菜も果実も、
 もぎ立ては格別だからね。
 あと、浅漬けも作るから、
 いっぱい食べてね。」

 こうして、
 二人が畑仕事に取り掛かろうとすると、

 案の定、お邪魔虫の二人が
 買い物袋をぶら下げて帰って来た。

 バルマードは、
 我が子を執拗に付け狙うグラサンの師匠と、
 その腹黒さを、
 笑顔の下に隠し持った小娘に向かって、

(我が子の旅立ちの日も
 間近に迫ってるんだから、
 親子水入らずなこの雰囲気を、
 もっと楽しませてネ。)

 と、言ってやりたくなった。

 が、その最愛の我が子は、
 屈託の無い笑みを浮かべて、
 元気良く二人に向かって手を振る。

 バルマードとしては、
 やはり愛しき我が子の笑顔がなの一番だから、
 こういうベタな展開も仕方ないといった感じで、
 二人に向かって、
 ニヤッと愛想笑ってやった。

 もちろん、その二人からも、
 バルマードに対し、
 ニヤーッとした笑みが返ってくる。


 抜け駆けなんか許さない、

 遅れるヤツは置いて行け! の精神で。
 

 そんな平和な日々が、
 今日も当たり前のように流れている、

 ティヴァーテ剣王国、
 王城、ドーラベルンであった。
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ダークフォース 第三章 中編 Ⅲ

2010年08月09日 20時34分59秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
  Ⅲ

 法王国からの使節が、
 このドーラベルンに入るには、
 まだ、少しだけ残された時間がある。

 確かに女教皇は、
 大神殿から精鋭を選りすぐり、
 使節を派遣したが、
 その動きが鈍いのだ。

 バルマードとしては、
 一国の王として、
 出来るだけ早い時期に、
 彼らを受け入れたいとも思ってはいたが、

 本音から言えば、
 最愛の我が子との別れが惜しい
 といった感じではあった。

 バルマードは、王として、
 あまりに人間味溢れる性格というか、

 政治の駆け引きよりも、
 人々の絆を優先するような、
 優しい性格であった為、
 義に厚く、
 同時に不器用な人間であった。

 そんな性格の彼が、
 『王』として、
 その座に君臨していられるのも、

 このティヴァーテ剣王国が、
 『最強』である
 からの一言に尽きる。

 もし彼が、小国の王であれば、
 彼のその甘さは、
 国を危うくし、
 民に災いをもたらしたであろう。

 剣王国の家臣たちには、
 バルマード王の、
 「ウィルハルト王子に対する
  教育が甘い。」
 と声にする者も、
 決して、少なくは無かった。

 武を以って成る
 『剣王家』の、
 その、ただ一人の王子である、
 ウィルハルトが、

 将軍どころか、
 百人隊長程度の戦士より、
 武芸にて劣るというのは、
 誰もが、不安に思うところであろう。

 ティヴァーテ剣王国には、
 万人隊長格(将軍クラス)の戦士が
 十名以上もおり、
 その軍団数は、十二である。

 軍団数の上では、
 他国のそれと大差ないが、

 軍団長全員が、
 将軍クラス(内、一名がマスタークラス。)
 の戦士であり、 
 質の上で、他国を圧倒している。

 第一軍、『ダイアモンド』の軍は、
 バルマード王の直轄であるが、
 その兵数は、700と少ない。

 そして、
 第二軍から、第五軍までが、
 剣王国の軍団中、最恐と恐れられる、
 『四天王』の軍となる。

 各、四天王が所有する兵力はともかく、
 彼らの、その戦士LVは、
 公(おおやけ)にはされていない。

 その実力が、
 あまりに高すぎる故に、だ。


 第二軍 『ガーネット』の軍

     忠義候 グライト将軍 

     戦士LV 91

     兵数 30000

 第三軍 『アレキサンドライト』の軍

     優美候 ハインウィンド将軍

     戦士LV 94

     兵数 25000

 第四軍 『サファイア』の軍

     慈愛候 凛花(リンカ)将軍

     戦士LV 98

     兵数 20000

 第五軍 『ルビー』の軍

     威厳候 メビウス将軍

     戦士LV 96

     兵数 18000

 の以上が、四天王の軍勢である。

 各々の軍団が、
 一国の軍隊と対等に渡り合える
 もしくは、
 それ以上の戦力を有している。

 四天王の各々は、
 剣王の意に従順であるが、
 その四天王たちの実力すら
 知らされていない、他の将軍たちは、
 やはり、気が気ではない。

 その苦言も、
 臣下として国を思えばこそのものである。

「皆の言うように、
 私はきっと我が子に対して
 甘いのだろうね。」

 と、バルマードは家臣たちを前に言う。
 そんな真っ直ぐな彼の姿勢は、
 家臣たちにそれ以上の言葉を言うのを躊躇わせた。

 バルマード王自身は、
 確かに人望も厚く、
 何より、偉大なる
 『大陸最強の剣王』と称される人物である。

 しかし、その名が偉大すぎる故に、
 それを継ぐウィルハルト王子には、
 結果、多大なる負荷がかかる。

 家臣たちはそう口にしたかったのだろうと、
 バルマード自身も頭では理解はしていた。


 王城ドーラベルンの謁見の間を
 少し奥に行くと在る、王の居室に、
 バルマードと、
 彼の師であるヤマモトはいた。

「バルマードよ、
 お前さんは物事を少し難しく
 考えすぎとるんじゃないのかい?」

 バルマードの入れた
 香り高いコーヒーを口にしながら、
 ゆったりとした感じで、
 革張りのベンチシートに腰を下ろすヤマモト。

 ヤマモトは、
 少しは気を抜いたらどうだ?
 といった表情で、
 彼に向かって、そう言ってやった。

「確かに、
 師匠の仰る通りであると、
 私自身も感じては、おります。」

「最高の剣士、
 最高の師にはならずと、そういう事かの。
 まあ、ワシ自身、
 お前さんにも他の弟子たちにも、
 良い師であったかは分からんがの。」

 バルマードの趣味趣向で固められた室内は、
 荘厳なる王城ドーラベルンの
 その王の個室にしては、
 やや緊張感に欠ける作りというか、
 一見、アンティークを基調した
 古き良き、喫茶店のような雰囲気である。

 バルマードは、
 王としての誇りや権威に
 固執する性格ではないが、

 独り身の生活が長く続くと、
 部屋の方も趣味の方も、
 段々と、埋め尽くされていくようだ。

 雑多な物が色々と置いてはあるが、
 部屋自体はキチンと片付いている。
 ウィルハルトが、
 まめに掃除に来てくれるせいだろう。

 ヤマモトは、その室内で
 ウィルハルトが焼いたという
 色んな形のクッキーを口にしながら、
 彼、バルマードに向かって
 こう言った。

「嫁としては、
 完璧な教育は出来ておるな。
 まあ、仮にウィルちゃんが、
 次期王として相応しくなくとも、
 お前さんが長生きして、
 次の代まで守り抜けばいいだけじゃからの。」

「恐れ入ります。
 しかし、それでは
 あまりに無責任と言いましょうか、
 やはり、可愛い子には
 旅をさせろというのが、
 親としての選択でありましょうか。
 私も、早く子離れをしなくてはいけないと、
 反省はしているのですが。
 ・・・なかなか、いや。」

「無理じゃね?
 ぶっちゃけ、あんだけ可愛いと、
 ワシ、お前さんより、
 親バカになる自信があるぞい。
 とゆーかの、全ての国を打ち滅ぼしてでも、
 愛するウィルちゃんの為の
 王国を作ってやるがの。」

 話しがウィルハルトの事となると、
 やや熱を帯びてくるヤマモトだが、
 そういえば、今日は一日、
 その麗しき『王子様』を見ていない事に気が付き、
 ヤマモトは、おヒゲのパパに
 それを尋ねてみる事にした。

「ところで、バルマードよ。
 ウィルちゃん、何処?」

 その問いにバルマードは、
 いれたてのコーヒーを、
 まったりと口にしながら、こう答えた。

「まあ、昨日焼いたものではありますが、
 お菓子の在庫は十分ありますので、
 どうか、ご心配なく。」

 そう言って、バルマードは微笑んだが、
 正直、ヒゲパパのスマイルなど
 どうでもいいヤマモトは、
 別にお菓子の事を聞いているわけではないと、
 バルマードに言った。

 それを知ってか、バルマードは、
 あえて話を逸らそうとする。

「そういえば、師匠。
 何処かに良い、スイカの苗がありませんか?
 三日くらいで育つと、
 個人的に嬉しいのですが。」

「三日で育つスイカなど、
 知るかーーッ!!
 ワシの事、からかっておるのが
 見え見えじゃわい。」

 グラサンの奥の瞳をギラつかせて、
 身を乗り出すヤマモトに、
 まあまあ、抑えてといった感じでバルマードは、
 にこやかに微笑んだ。

 この時、バルマードは、
 扉の奥で聞き耳を立てている
 エストの存在に気が付いていた。

 玉の輿狙いの小娘にしろ、
 我が子を付け狙う困った師匠にしろ、
 いくら、ウィルハルトの旅立ちが
 間近に迫っているとはいえ、
 功を焦るように、こうも食い付かれると、
 さすがに、

(私だって、最愛なる我が子との
 残された時間は、
 一秒だって、惜しいのですヨ。)

 と、口にも出したくなる。
 とはいえ、その温厚な人柄からか
 そう強くも言えない、バルマードだった。

 バルマード本人としては、
 こんな欲まみれの二人などより、

 むしろ、純粋な気持ちで、
 憧れの『王子様』である、
 我が子ウィルハルトを、
 一目見てみたいと言う、

 エリクとリシアの二人にこそ、
 その貴重な時間を分けてあげたいと思っていた。

 しかし、
 執拗に我が子を追い回す二人に、
 下手な嘘などついて、誤魔化しても、
 余計にたちが悪くなられるのも困ると、
 そう感じたバルマードは、

 それとなく、
 その理由について話してやる事にした。

 確かに、この日、
 ドーラベルンの中でウィルハルトを見かけたものは、
 誰一人としていなかった。

 バルマードの部屋の窓から差し込む
 オレンジ色の陽の光から、
 今の時刻が夕方であることが分かる。

 ウィルハルトには、
 こうしてほぼ丸一日を
 誰とも会わずに過ごす日があるのを、
 居候の身であるエストは知っていた。
 知ってはいたが、不思議に思ったことはない。

 不定期に訪れ、
 その事を知らないヤマモトだからこそ、
 変化に気が付けたし、
 それに強い関心も抱けた。

 また、その変化に気が付くほど、
 最近のヤマモトはドーラベルンに入り浸っており、
 彼の滞在期間は、一月の間にも及んでいた。

 ひょこひょこと、
 聖域たる、菜園にも現れるようにもなった。

 それほど長期の滞在は、
 バルマードとしても経験がなかったし、
 いい歳こいて、
 思い出作りに必死なのもよく分かった。

 バルマードは、言う。それとなく、言う。

「いやーー、しかし、
 法王国の使節が来るのが、
 『女の子』の日ではなくて、
 本当に良かったです。」

「んっ!?
 何かの!? それは!!!」

 ヤマモトは、そのバルマードの
 意味深な発言に食いついた。
 扉の奥に張り付き、
 聞き耳を立てるエスト。

 その言葉に二人が敏感に反応したのを
 確認したバルマードは、
 話しの先を、白々しく続けた。

「あ、いえ、
 何でもありません。」

「何でもないことないじゃろうッ!!
 いいから、ワシだけには話せ、バルマード。
 長い付き合いじゃろう・・・のう。」

 そう言って、おねだりするヤマモト。
 扉が微かに軋む音から、
 エストも、うんうん頷いているのがすぐに想像出来た。

 仕方ないといった顔をして、
 バルマードはヤマモトに言った。

「いいですか、他言無用ですからね。
 ウィルハルトは月に一度ほど、
 この城の北側にある神殿で、
 お月見をする日があるのです。
 それは、とても神聖な儀式らしく、
 邪魔をしないようにと、
 この私でさえ、気を遣って
 近付かないようにしているのです。」

 ほうほう、北の神殿と言うとあの建物かと、
 ヤマモトは軽く頷いた。
 その場所は、エストも知っているが、
 信仰になど興味はなかったので、
 行った事はない。

 バルマードは、
 慈愛に満ちた瞳をして、こう語る。

「誰も居ない月夜の神殿にて、
 祭儀用の衣を纏いて神に祈るその姿たるや、
 まさに月光の女神のよう。
 皆の心やすらかなる日々を、
 一心に願うとは、
 我が子ながら、良く出来た子なのです。」

バルマードは、言う。念を押すように、言う。

「なので、
 邪魔してはいけません。
 絶対、近付いてはいけません。」

 その話しに、
 妄想全開の顔をして聞き入る
 ヤマモトさんと、エストさん。

 バルマードは、さらに、
 もう一度だけ、念を押す。

「絶対に、邪魔したり、
 近付いたりしてはダメですよ。」、と。

 ブンブンと首を縦に振るヤマモト(と、エスト)。

 バルマードは、後ろに振り返るふりをして、
 その様子を横目で伺う。

 そわそわとし始めた彼の師、ヤマモト。
 扉の向こうの小娘の落ち着きのない姿も、
 目に映るようである。

 ヤマモトは、少し上擦った声で言った。

「んっ、バルマードよ。
 ワシ、ちょっと急用を思い出しての。
 今日は、親戚の法事があっての、
 行って来なければならん。
 お菓子、美味しかったよと、
 ウィルちゃんに伝えといてくれ。」

「コーヒーは、普通でしたか?」

「いや、コーヒーも美味かったぞ。
 残して、すまんのッ!!
 何しろ、急な用じゃて。
 で、では、バルマードよ、
 またの!!」

「了解です。
 師匠、では、お気をつけて。」

 慌てて席を立つヤマモトを、
 バルマードは引き止める事無く
 笑顔で見送った。

 挨拶をしない分だけ、
 話しを盗み聞いた小娘は、
 スタートダッシュで彼、ヤマモトに勝る!!!

 バルマードは、静かになった室内で、
 コーヒーの良い香りを楽しみながら、
 こう囁いた。


「少しは、
 静かになったかな。」、と。
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ダークフォース 第三章 中編 Ⅳ

2010年08月09日 20時34分28秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
   Ⅳ

 ティヴァーテ剣王国・王城ドーラベルンには、
 北の神殿と呼ばれる場所がある。

 それは、ドーラベルンの城郭の一部を
 改修して作られたのだが、
 剣王国の民は、神に対する信仰よりは、
 王者の誇りにこそ信念を感じる者が多い。

 だからと言って、
 むやみに神仏を粗末にしているわけではないのだが、

 熱心に『神』を信仰しているわけでもなく、
 どちらかといえば、
 そこは人気の寂しい場所になる。

 歴代の剣王が常に強者であり、
 また剣王国が『大国』で在り続けた為に、

 皆が、列強の脅威などにも怯える事無く、
 暮らしてきたせいもあるのだろう。

 ちなみに、北の神殿に祭られているのは、
 その、セバリオス教の
 『主神・セバリオス』ではなく、

 『戦いの女神・ジラ神』である。

 剣王国の民は、
 戦の女神にこそ惹かれるが、
 故に、祈りを捧げるのも
 戦時である事が多い為、

 平時の今は、そこを訪れる影もまばらである。

 しかし、王子のウィルハルトだけは、
 その場所をよく訪れていた為、
 重臣たちは、戦いの女神を奉ずる
 王子の姿勢には感心していたし、

 だからこそ、それを公にすることも避けてきた。

 もし、事が知れれば、
 信仰目的などではなく、
 単に王子目当ての輩が、
 神聖なる神殿内を踏み荒らすことであろうし、

 密かに重臣たちの間で、
『アホ姫』様の愛称で親しみ始められたエストも、
 その頭数に数えられていたことになっただろう。

 今宵は、ファールスの月の満月。

 月明かりに照らされた神殿は、
 人気こそないが、
 その泉には、月の銀光が満たされ、
 揺らめき反射する光は、
 大理石の神殿に美しい波紋の陰影を描き出した。

 北の神殿に至る道筋には、
 数箇所の門と衛兵が配置されているが、

 何者かによって門は破られ、
 また、そこにいた衛士たちも、
 気絶させられていた。

 手口の鮮やかさに、
 侵入者がかなりの手錬であることは窺い知れたが、

 その者たちも、
 それを遠巻きに見つめる、
 一人の男の存在には気が付いていないらしい。

「ほんと、分かりやすい人たちだねぇ・・・。」

 少し困った顔をしてそう呟いたのは、
 灰色の髪の大男、バルマードであった。

 バルマードは完璧に気配を殺している。
 その師である、ヤマモトが気付けない程に、だ。
 (半分、欲に目が眩んでいたとも言えるが。)

 だが、その彼の脇に、
 ふと現れた人物がいた。
 それは、銀髪の男。『マイオスト』である。

「何かの、イベントですか~?」

「ふふふっ、君はいつもいきなり現れるね。
 私の姿に気が付くとは、さすがというか、
 むしろ、修行が足らないのは私の方かねぇ。」

 バルマードはそう言って、
 そのぼさぼさの髪を掻いた。

 やはり並んで立つと、マイオストの方が一回り小さい。

「あー、いえ、バルマード殿。
 重臣方にお尋ねしたら、
 ここだとお聞きしたもので。」

「あー、なるほど。
 まあ、でも、いくら場所が分かっていたとはいえ、
 こうもあっさり見つけられてしまうとはね。
 さすが、マスオスト君だ。」

「一応、言っておきますが、マイオストです。
 それで、一体、
 何を見物なさっていらっしゃるので?」

 バルマードは、そう言うマイオストの肩をポンッと叩くと、
 彼の耳元で、こう囁いた。

「それでは、一緒に見物しようか。
 気配の消し方は君の方が上手だろうし、
 見つかることもないだろうから、ネ。」

 その言葉が引っかかったマイオストは、
 あえて、こう問い返してみた。

「見つかると、何かマズいのでしょうか?」

 マイオストの肩に置かれたバルマードの手に、力がこもる。
 石ころなら、軽く、木端微塵の力だ。

 バルマードは、
 マイオストにウィンクしながら、こう答える。

「ああ、かなりマズいと思うよ。
 ・・・フフフッ。」、と。

 北の神殿の入り口は東西南北に幾つか存在し、
 そのどれもが細長い通路になっている。

 その神殿内の通路には、
 四角いタイルが白と灰色のモノトーン調に敷き詰められており、
 階調の違いで、模様のようなモノも描かれている。
 石材の種類は様々なようだ。

 通路の両脇には、踵が浸かる程度の水路があり、
 その澄んだ水の流れ方から、
 僅かにこの水路が中央に延びて傾斜しているのが分かる。

 水の流れを辿ると、
 神殿中央部にある泉へと辿り着くという造りだ。

 その間、道は何本かに分かれてはいるものの、
 水の流れてくる方向に向かえば、迷うことは無い。

 中央部にある円形の泉は、
 直径が五メートルほどで、
 そこには天窓から注ぐ月の光が溢れており、
 神殿内部を明るく照らしている。

 湧き出る水量も十分で、
 水浴びするのにもちょうどよい深さだ。

 光の屈折を利用した天井の造りから
、中央部には何倍もの明るさが、集められており、
 立ち並ぶ神々の像を厳かに照らし出している。

 神殿内には照明もあるが、
 中央は自然光で満たされ、美しく静かである。
 だが、あまりにも静か過ぎる。

 神殿内には、一人の姿も無い。

 司祭もいない、
 僧侶もいない。誰の姿も見られない。

 その静けさがあまりにも不気味であることに、
 侵入者たちは堪えきれなくなり、
 ついに、お互いの姿を現すことになる。

 神殿内でその顔を付き合わせたのは、
 闇に紛れる黒の作務衣姿の黒メガネのおっさんと、

 淡い緑色の髪を隠すようにフードを被り、
 その身を麻の外套で覆った、
 底浅い悪知恵を持つ小娘であった。

 どちらも、みえみえの扮装で、
 目立たないように努力しているのは分かるが、

 そんな小細工をしている二人が顔を合わせただけに、
 そのやり取りは、当然ぎこちない。

 まず、声をかけたのはマント娘のエストだった。

「あら、奇遇ですね。
 そんな目立たない格好をして、
 一体どうしたのですか?
 『ヤマモト・マリアンヌ』先生!!」

「そんな、いきなりペンネームで呼ばんでくれんかの、
 『ストロング天婦羅』さんよぉ!!」

 エストとヤマモトは、
 にじり寄るように間合いを詰めると、
 今回ばかりは、互いの揚げ足取りをしていても仕方ないと、
 一時の和平協定を結ぶ事とした。

 エストは言う。

「では、お互い、
 抜け駆けはなしで、ネッ!!
 ヤマモト師匠!!!」

「うむ。
 弟子にしたつもりもないが、
 今は、取りあえず手を組んでおこうかの、若いの。」

 こうして、エスト・ヤマモト同盟は、
 神殿中央部の探索を開始する。

 本来なら、もっと早くにやれたハズなのだが、
 互いの気配に気が付いていた二人が、
 牽制し合う形で、にらめっこしていた為、
 その貴重な時間を無駄にしていた。

 二人とも、こうやって北の神殿内を歩くことは初めてなのだが、
 その構造は、思ったよりも複雑だ。

 中央部に繋がる通路は、
互いが入ってきた道以外にあと五つ。

 ヤマモトの推理では、
 水の流れを辿ればこの場所へと至るため、
 他の通路を進んでも、
 神殿の入り口方向へと戻ってしまう事になる。

 その通路が、水の流れで道を示しているならば、
 流れを変えてやるのが手っ取り早いと、ヤマモトは考えた。

 水は高い場所から、低い場所へと流れる。
 何処かに水量を調整する為の装置があり、
 それはこの中央の広間の中で、
 僅かに高い位置にあるだろうと、ヤマモトは言う。

 エストは、むやみにあちこち動き回って
 何か変わりがないかを調べるが、

 喉が渇いたので、
 泉の湧き水を飲んで彼女なりの調査は終了した。

 ヤマモトは、小娘の知恵など初めから当てにはしていない為、
 泉の近くに置いてあった、
 底の平たい柄杓に水を張ると、
 それを床に置いて、傾きのある場所を調べた。

 神殿の壁には、石像を挟んで、
 幾つかのタペストリーが飾ってある。
 ヤマモトがその傾斜の先にあるタペストリーの方に向かうと、

 エストが功を横取りしようと一気に駆け出し、
 その怪しい布切れをめくる!!

「あ、あーーーーっ!?」

 すると、その裏には壁と同じ模様のタイルがあった。

 エストは、ガッカリした様子でそのタイルにケリを入れると、
 ガツッ! と音を立て、
 タイルが少し奥へとずれ込んだ。

 ヤマモトは、
 「同盟など当てにならんのぅ。」とエストの耳元で囁くと、

 そのタイルの底に、擦ったような傷があるのを見つけ、
 タイルをもう少し奥へと押し込んで、横へとずらしてみる。

 そこには、泉の水量を調整するバルブがあった。

 ヤマモトは、バルブをキュキュっと、閉めてみる。

 それによって泉への水の供給が絶たれると、
 円形の泉から各通路に流れ出していた、
 水の流れも次第に止まる。

 その中で、一つだけ水の流れ続ける通路があった。

 ヤマモトは、「なるほどのぅ。」と言った。

 エストにその意味は分からなかったが、同盟の名の下、
 仕方がないので、エストに理由を説明してやった。

「いいかの、若いの。
 この通路だけは、泉の水だけではなく、
 別の場所からも水が流れておるのじゃ。
 円形の泉から湧き出る水と、この通路自体に直接注がれておる水。

 水の出所は、一つとは限らんからの。

 こうして片方の水の手を止めてやればわかる。
 泉の水位を下げると、
 もう一つの水源の水位の方が高くなり、
 この通路へと流れ出す仕組みのようじゃのぅ。

 円形の泉に溢れんばかりに満たされた水は、
 普段はもう一方の水を流さぬよう、
 フタの役割をしておるのじゃ。

 常に両方流しておっては、
 この通路の流れだけが不自然になるからのぅ。

 つまりは、
 この通路だけが水の流れが止まらぬように作られておるのじゃな。」

 ヤマモトの言葉に、
 エストはますます混乱の色を深めたが、
 元は、一国の『公女殿下様』であったアホ姫エストに、
 ヤマモトは、こう続けてやった。

「このティヴァーテ剣王国とて、
 無敵でもなければ、難攻不落でもない。
 力無き、女、子供を逃がす為には複雑な通路と、
 敵に悟られぬ道しるべがいる。

 この神殿も、その王族用の逃げ道じゃろう。
 あえて信仰の薄いティヴァーテが、
 こんな神殿を作ったのも、フェイクなのかの。

 目立たな過ぎて、ワシでも来た事ないくらいじゃし。
 人気が少ない理由も、まあ、わからんではない。

 そして、ここに残った戦士が水位を戻して、敵と戦うのじゃ。
 残る戦士は、さぞかし忠義の士であろうのう」

 そこまで言われて、
 エストは初めて意味を理解した。

 スレク公国で、
 同じように自分を逃がす為に、我が身を盾とした者たち。

 エストは、スレク公国での記憶が曖昧なのだが、
 決死の覚悟で自分を逃がしてくれた数名の騎士たちの顔は、
 今でも、忘れられない。

 彼らのエストに向けた最期の顔は、
 慈愛と笑顔で溢れていたのだから。

 マイオストという無敵の戦士と出会うまで、どれほど心細かった事か。
 そして、彼に出会ったとき、
 エストは堪えきれずにマイオストの腕の中で泣いた。

 ヤマモトは、エストの頭を麻のフードの上から撫でてやると、
 その彼女に、口元を緩めてこう言った。

「ほれ、感傷に浸っておる場合ではないじゃろっ。
 玉の輿に乗って、大国ティヴァーテを切り取って、
 祖国奪還が、お前さんの野望じゃろうが。

 生半可な気合なら、ここに置いて行ってしまうが、
 どうするのじゃ?」

 そのヤマモトの言葉に、
 エストは、まさに清水ように淡く澄んだ瞳を輝かせて、
 こう返す!!

「さあ、行きますよッ! 師匠!!」、と。

   Ⅳ

 ヤマモトたちが去った後、
 泉の在る神殿中央部に訪れたのは、
 バルマードとマイオストの二人だった。

 仕掛けは作動した状態になっており、
 月明かりの注ぐ円形の泉は、
 底が浅くなったせいで、前とは違った光の模様を描き出し、
 それを覗き込んだバルマードの姿を照らし出した。

 マイオストは、バルマードに言う。

「随分と、枯れた泉ですねぇ。
 一箇所、通路へと水が流れ出てるんですが、
 これは私が口を挟んではいけないような、
 王室の秘密とかに当たります?」

 バルマードは顔を上げて、マイオストに言った。

「あー、いやいや。こんなの秘密でもなんでもないよ。
 ・・・むしろ、ワナかな。
 アハハハハッ。」

 彼は笑いながらそう言うと、
 壁側の石像の間にあるタペストリーを捲り、
 その裏にあるバルブをキュッ、キュと回して、
 泉の水位を元に戻した。

 バルマードは振り返って、マイオストに言った。

「いいかい。私に付いて来るのは構わないけど、
 私より前を歩かない事を強く勧めるよ。」

「では、気を付けます。」

 そう返事したマイオストだったが、
 理由はよくわからなかった。

 おそらくは、罠を避けて進むとか、そういう意味だろうと理解した。

 先行するヤマモトたちは、
 サワサワという音の心地よい、涼しい感じのする道しるべに沿って、
 かなり奥の方まで進んでいた。

 通路の分岐点では、やはり違う道には水が流れていない。
 一定量の水が流れないと、
 一段高くなっている方の他の通路には、
 流れ込まない仕組みのようだ。

 それも、言われないと分からないくらいの落差で
 巧妙に調整されている。

 途中、特に罠らしい罠も無く、
 変化といえば、
 自然光より人工の照明の方が強くなってきたくらいの感じである。

 そして、通路の行き止まるその場所には、
 上へと延びる一本の階段があった。

 水の流れがここで止まっていることから、この先は道が一つになっている。

 階段は石造りだが、光を取り込むような窓は設けられてはおらず、
 丸い形に埋め込まれた、白い光を放つ照明が道を照らしている。

 少し、暗い感じのする階段をヤマモトたちが上っていくと、
 その先には頑丈に出来た扉があった。

 ヤマモトは、その扉を見て少し戸惑う。

「おかしいのう、
 どうして外側から閂(かんぬき)が掛けてあるのじゃ。」

 確かにその扉には、外側から閂がしてあり、
 それも鋼鉄よりも硬いアダマンタイト鋼で出来ている。

 するとエストは、ヤマモトが悩んでいる間に、
 その閂を、躊躇わずに外してしまった。

「ちょ、ちょっ。」

 少しは考えろと言いかけたヤマモトを、
 置いて行くぞと言わんばかりに、
 エストはその頑丈な扉を体を当てて押し開く。

「特攻あるのみよッ!!」

「と、特攻って、お前さん・・・。」

 勢い任せで先に進もうとするエストに、
 折れた感じでヤマモトはその後を追う。

 暗い階段のイメージとは一転して、
 そこには、赤い絨毯が中央に敷かれた、
 華やかさで満ち満ちた、
 眩いばかりの総大理石の空間が広がっていた。

 壁には彫刻が施され、
 その室内を照らすのは地味な照明ではなく、
 鮮やかな色をしたステンドグラスの天窓を抜けてくる満月の光と、
 金の細工が見事な、クリスタルが星屑の様に煌めくシャンデリア。

 そこは、神を祭る神殿というより、
 贅の限りを凝らして作った、
 王の為に用意された謁見の間のようである。

 赤い絨毯の左右には、騎士の甲冑が立ち並んでおり、
 その先には、部屋の主の為と思しき絢爛豪華な玉座がある。
 その椅子は、バルマード王のものより遥かに立派だ。

「何じゃ、この部屋は!?」

 ヤマモトの第一声は、それだった。
 光り物の大好きなエストは、
 その装飾に目を奪われ、言葉も無かったが、

 ヤマモトはエストに、
「別に、宝探しに来たわけではないぞ。」と言う。

 とはいえ、広さこそ及ばないが、
 この場所は剣王の謁見の間より、
 造りは遥かに上等だ。

 よく見ると、これまた嫌味なほど贅沢な調度品があちらこちらにある。

 エストはヤマモトの声など届いていない様子で、
 その、あちらこちら室内を物色する。

 緑の生地の張られた椅子が気に入ったのか、
 エストはその上で飛び跳ねている。

 ヤマモトは、ここまで来て人の気配が無いことが気にかかり、
 一度、入ってきた扉の方へと戻ろうとした。

 だが、その時、開いていたハズの扉が閉まっている事に気が付いた。

 さらに目の前で、内側からガチッ、と
 鍵がかかっていく光景を目の当たりにする。

 閉じ込められた!?

 ヤマモトがそう感じて玉座の方へと振り返った時には、
 すでにもう遅かった。

 その美しい細工のなされた玉座の上に、腰を下ろす人影がある。

 赤いドレスにその身を包み、
 プラチナの長い髪を肩に垂らした女性がそこにいた。

 その女性の「ウフフッ」、という薄ら笑いに気が付いて、
 エストも玉座の方を見る。

 とても端整な顔立ちで、その瞳は金色に輝いている。

 ゴールドの瞳とプラチナの髪を持つ、
 彼女のその容姿を形容する言葉が二人には思いつかない。

 それ程までに、彼女のその姿は美しい。

 彼女は、
 その細い指を絡ませるように腕を膝の上に組んで、
 玉座の上からこう言った。

「あなたたちの探している、ウィルハルトではなくてごめんなさい。

 フフフ・・・。
 私の名前は、『ウィルローゼ』。

 この身体の、本当の持ち主よ。」、と。
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ダークフォース 第三章 中編 Ⅴ

2010年08月09日 20時33分59秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
    Ⅴ

 ヤマモトは、ウィルローゼと名乗る女性が着ている、
 その赤いドレスに見覚えがあった。

 それは、レトレアの薔薇姫と謳われたバルマードの妃、
レイラ王妃の物である。

 彼女、ウィルローゼの姿を見て、さすがのヤマモトも困惑した。
 確かにウィルハルトと同一の人物なのだろうが、
 その姿はまったくの別人である。

 顔立ちも、髪も、瞳の色も、そして背格好もまるで違う。

 彼女が『ウィルハルト』の名前を出さなかったら、
 本当に区別がつかなかったろう。

 そのウィルローゼは、玉座の上から二人の侵入者の様子を伺っている。
 まるで品定めでもするような、尊大でいやらしい目付きだ。

 ヤマモトは、問う。

「ほ、本当にウィルちゃんなのか?」

 ウィルローゼは軽く頷くと、
 ちょっと考えるような仕草を見せて、ヤマモトにこう答えた。

「そう言えば、確かに私も『ウィル』ちゃんで間違いないわね。
 但し、私はウィルハルトを厄介に思っているから、
 そう呼ばれるのは、あまり好まないわ。

 どうして、お父様は私に別の名前をつけてくれなかったのかしら。
 『ローゼ』は良いのだけれど、
 『ウィル』まではいらない気がするわ。」

 ウィルローゼはそう言うと、玉座の腕木に頬杖を付いた。

 今度はウィルローゼが質問する。

「ところで、あなたたちはここに何をしに来たの?
 どうせ、ウィルハルトの知り合いか何かなのでしょうけど。

 とりあえず、聞いてみてるだけだから、
 まあ、答えなくても別に構わないわ。」

 エストは彼女が、
 あのウィルハルトであることが信じられなかった。
 だが、状況から見て、そうである事は間違いなさそうだ。

 エストは、彼女に向かって言った。

「わ、私は、エストです。
 別に、やましい気持ちでここに来たわけではありません。
 そこのオッサンは、やましいですが!!

 ・・・まさか『女の子』の日って、
 本当に女の子になってるだなんて。

 あ、いえ、何でもないです!!」

「ウフフ・・・、
 正直で良さそうな娘だこと。
 なるほど、ではそちらの黒メガネのおじさんが、
 やましい人、というわけね。」

「やましくなんかあるかーーーーッ!!」

 ヤマモトは絶叫して、エストの頭をバシッっと叩いた!!

 エストもヤマモトを叩き返してやろうとするが、
 ヤマモトはそれを素早くかわす。

 ウィルローゼは、クスクスと笑いながら二人にこう言った。

「大体、経緯はわかったわ。
 ウフフ、・・・女の子の、日ね。

 つまり、あなたたちは、私の前で漫才をやりに来たわけね。
 エストさんと、やましい人。」

「ワシの名は、ヤマモトじゃい!!
 やましい人とか言われると、微妙に傷付く年頃じゃからの、
 せめて、名前で呼んでおくれ。」

 そこは譲れないといった感じのヤマモトであった。
 この時、ヤマモトは、
 玉座の上で女王を気取るウィルローゼの、
 その力を冷静に分析していた。

 エストは気付いてもいないが、
 そのプラチナの髪を持つ絶世の美姫は、
 このヤマモトにすら気取られる事無く、
 そこに姿を現したのだ。

 多少、ヤマモトが油断をしていたからといって、
 まんまと部屋に閉じ込められ、
 ここまで後れを取るとはまずあり得ない。

 ヤマモトが強くそれを意識したことは、彼女にも伝わったようで、
 ウィルローゼの次の言葉に、ヤマモトは愕然とする。

「あら、怖い。
 そんなに身構えなくても、よろしいのに。」

 その一言で、ヤマモトは激しくそれを理解する。

 目の前に居るのは、ただ華やかに咲く花などではない。
 身震いするほど底知れぬ実力を持つ、真の王者なのだと。

 彼女は、強い。

 ヤマモトがそれを計りきれない程に!!

 丸腰のヤマモトが今、
 彼女、ウィルローゼに本気になられたら、
 まず、勝ち目は無い。

 ヤマモトは、何故、バルマードが彼女ウィルローゼを封じ込め、
 ウィルハルトとしての人生を選ばせようとしたのか、ようやく理解した。

 制御し得ない力は、暴走しているのと同じである。

 彼女、ウィルローゼはその生まれ持った力を、
 おそらく御しえていない。

 故に、月に一度程度しかその姿を顕現出来ないのだ。

 これを常時、維持出来るように彼女が成長すれば、
 その神の如き美貌と強さを併せ持つ存在になれるであろう。

 ヤマモトは、正直、そこにはそそられた。

 しかし、今の状態では、
 彼女の暴走はヤマモトでも止められない。
 彼は、二本の伝家の宝刀を持ち合わせてはいないのだ。

(オメガと第六天魔王があれば、というのは言い訳じゃな。
 『守りの壁』の発動を感じる・・・。
 転送したくとも、
 これではまず阻止されるからのう。)

 ヤマモトはその美しき、
 『天使』とも呼べる彼女に対する興味を一層強めたが、

 触らぬ神に祟りなしの方向で、
 長いものには巻かれる戦法を決め込んだ。

 ウィルローゼは、
 そのヤマモトを見て、残念そうにこう言った。

「とぉーーーっても強い戦士、
 ヤマモトさんと戦ってみたいと思っていたけれど、

 それじゃ、エストさんが可愛そうだからやめておくわ。
 エストさんじゃ、ここにいるだけで消えてしまいそうだから。」

「え、消えるって!?」

 エストには、ウィルローゼの言葉の意味が理解できなかった。

 ヤマモトは苦笑いをしながら、エストの頭を撫でると、
 知らないほうがいい事もあると教えた。

 確かにそれを知るには、エストは実力不足だ。

「しかし、ウィルローゼよ。
 それだけの力があれば、外の閂など意味はないじゃろうし、
 何故、ここでおとなしくなっておるのかのぅ?」

 そう問うヤマモトに、
 ウィルローゼは口元を少しだけ緩ませてこう答えた。

「それは、ひとえに、
 お父様への愛の成せることですわ。」

「何やら、えらくバルマードの事を、
 高く買っとるよーな口ぶりじゃの。」

 話がバルマードの事に及ぶと
、ウィルローゼは何やら楽しげな素振りだ。

 高飛車だった態度も、少しだけ柔らかくなった感じに見て取れる。

「それはもう、世界の何よりも
 お父様を愛しております。

 私の力が及ばぬばかりに、
 長く、ウィルローゼであることが叶わず、

 ヘラヘラとお父様の側にいるウィルハルトなど、
 いっそ消し去ってやりたいのですが、

 お父様の愛は深いのです。
 お父様を悲しませる事になるのなら、
 ウィルハルトの存在を認める事など、大した痛みではありませんわ。」

「そ、そんなに、バルマードが良いの、かの?」

 熱く語り始めたウィルローゼに、
 ヤマモトもやや押され気味だ。

「将来の夢という言葉があるのは、ご存知?
 私にとってのそれは、

 お父様の『お嫁さん』になることなのです。

 一言で言えば、后ですが、
 別に、正室であることにこだわりなどありません。

 お父様の愛を得られるのならば、順位など無意味です。」

 その言葉には、
 ヤマモトだけでなく、エストも困惑する。

 神々しいまでに美しい人(実の娘)が、堂々とそれを言う。
 さらには、エストに向かってこうも言った。

「あなたもそれを望むなら、私と共に尽くしましょう。」、と。

 エストは、
 早くウィルハルト王子に戻ってくださいと言ってやりたかったが、
 ヤマモトはエストの口を手で塞いで、その言葉を止めた。

 ウィルローゼは、
 娘を持つ父親が聞いたら泣いて喜びそうな(?)事を口にしているが、
 怒ると怖い人でもあるので、ヤマモトもそこは気を遣った。

 ヤマモトの彼女を見つめる視線は、
 いずれは『俺の嫁!!』であったが。

 そうこうしている内に、話はこの部屋の事にまで及んだ。

 ウィルローゼは、言った。
 ここは、確かに以前から存在していた通路であったが、
 それをバルマードが手を加え、美しく改修したのだという。

 母である王妃レイラを追っ手から逃がす目的で、
 現在の部屋が作られたのだが、
 そのレイラが、水の道しるべを必要としないでいいように、
 バルマードは、彼女をよくこの部屋へと連れて来ていた。

 そのレイラ自身は、
 この場所が王族用の逃げ道と知らずに部屋を訪れていたのだが、
 それは、バルマードなりの気遣いであった。

 バルマードは、その言い訳に、

「この部屋は、私の秘密の作戦会議の場所でね、
 だから、謁見の間を模して作らせたんだよ。」、と言うのだ。

 バルマードの言うように、
 確かに、この部屋には時折、
 屈強な戦士たちが出入りをしていたが、
 彼等は、その王妃を守る為に選ばれた、精鋭の戦士たちであった。

 だが、母の王妃レイラが他界した時から、
 この部屋はその意味をなくしたという。

 その追っ手こそ、
 主神『セバリオス』であり、
 バルマードは、全てをかけて王妃レイラを守り抜く覚悟であった。


 だからこそ、
 この部屋には父王バルマードの愛が注がれており、

 気に入っているのだと、
 ウィルローゼは言った。
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ダークフォース 第三章 中編 Ⅵ

2010年08月09日 20時33分28秒 | ダークフォース 第三章 中編(仮)
  Ⅵ

 豪華な飾りのほとんどは、
 後にウィルローゼによって施されたもので、
 部屋中が、贅沢に使われた金銀で煌めいている。

 その中にあって、玉座の主を気取るウィルローゼは、
 まさに、この部屋の太陽とも呼べるほどに、
 神々しいオーラと輝きを放っている。

 少し眩しいくらい煌めいているので、
 グラサン越しに見るのがちょうど良いくらいだ。

 エストは、目をパチパチと瞬きさせながら、
 ウィルローゼの姿に見惚れている。

 この時、ヤマモトは変化に気が付いた。

 部屋に入って初めて見た時よりも、
 彼女、ウィルローゼのその姿がより眩しいことに。

 察しの良いヤマモトに、ウィルローゼは微笑んで見せると、
 徐に、その玉座から立ち上がった。

 ボサッとその場に立っているエストに向かって、ヤマモトはこう放つ!

「やばいぞ、エスト嬢ちゃん!
 出せる全力で、己が身を守るのじゃ!!」

 エストは、ヤマモトの言葉の意味が分からなかったが、
 珍しく動揺する仕草を見せた彼のその姿に、
 さすがのエストも我に返ると、ヤマモトの指示に従った。

 その直後、エストはその意味を理解する。

 ウィルローゼは、言う。

「エストさんは、良い師をお持ちなようね。
 私は、その師匠さんが何者かは知らないのだけれど、
 とても強い人だとはわかっちゃうの。

 もしかしたら、お父様よりも強いのかしら、ね。」

 刹那、
 ウィルローゼの背後に二本の光の柱が、交差するように伸びた。

 光の柱は一瞬で消えたが、
 直後、ウィルローゼ自体が、神秘の光で包まれていく。

 それはエストが、かつて感じたこともないような、強大で圧倒的な力。

 ウィルローゼの表情は、
 次第に緩やかに、優しい表情へと変化していく。

「どうも、レイラお母様の話をしていたら、
 感傷的な気分になってしまったわ。

 そうね、お父様は、お母様のことが忘れられるわけ、ないわよね。

 このドレスを着ていたら、
 お父様が喜んでくれるとばかり、思っていたのだけれど、

 もしかすると、お母様の事を思い出させて、
 辛い思いをさせてしまっていたのかも知れない。

 だとしたら、私はとてもいけない子だわ。」

 ウィルローゼは、笑顔だ。慈愛に満ちた美しい顔をしている。

 しかし、その表情と反するように、彼女から黒いオーラが滲み出して来る。

 エストは、ウィルローゼから発せられる絶対的な圧力の前に、
 今にも潰されてしまいそうだった。

 戦士としての実力も高いエストが、
 床に膝を折ってしまうくらいの強力な圧力がかかっているにも関わらず、

 部屋の中の壁や、床、あらゆる調度品は、
 微かに揺れる事も無く、その場に平然と存在している。

 本来ならば、それらが木っ端微塵に吹き飛んでしまう程の、
 凄まじい力が室内には満ち満ちているというのに。

 ヤマモトは横目でエストの様子を見ると、
 ウィルローゼに向かってこう言った。

「なあ、ウィルローゼよ。
 ワシは、構わんのだが、エスト嬢ちゃんも、
 その守りの壁の中に入れてやってはくれんかのぅ。」

 ウィルローゼは、少しハッとした表情を見せると、
 天使のような微笑みを浮かべながら、ヤマモトにこう答えた。

「あら、私としたことが、
 エストさんを死なせてしまうところでしたわ。

 別に、それでも構わないような気もしますけど、
 それが、お父様を困らせることだとしたら、
 気をつけなくてはいけないことだわ。」

 次の瞬間、エストはその圧倒的な圧力から開放される。

 ガハ、ガハッ、と咳き込んで、エストは石畳の床に手を付いた。

 エストに、ダメージはない。

 それどころか、体中に活力さえみなぎって来る感じだ。

 エストはすぐに立ち上がった。
 あまりに心地の良い空気に我が身が包まれてゆくのを、
 エストは不思議な感覚で味わっていた。

 ウィルローゼが、一段高い場所にある玉座から、
 赤い絨毯の上を降りてくる。

 ウィルローゼの身長は、
 ウィルハルトより握り拳一つ分くらい低い。

 エストと、そこまでは変わらないくらいの背丈だ。

 ゆったりとある赤いドレスを着ている為、その体形は分かりにくいが、
 身体の線は細そうだ。
 胸元は窮屈そうな感じがする。

 立ち姿を見ると、
 まさにウィルハルトとは別人であることがハッキリとわかる。

 ヤマモトは、何食わぬ顔をしてウィルローゼと対峙しているが、
 視線を逸らすゆとりまでないというのが本音だった。

「バルマードが、お前さんを、
 とはいっても『ウィルハルト』の方じゃが、
 鍛えようともせん理由がわかったわい。

 まさか、これ程の力を秘めておるとはのぅ。
 使いこなせているかどうかは、別としてじゃが。」

「そうね、使った事はあまりないから、
 私も良くはわからないの。
 せっかくお父様から頂いた力ですもの。
 上手く使いこなせるとよいのだけれど。」

 ウィルローゼは、そう言ってヤマモトに微笑み返した。

 みえみえの愛想笑いだが、それは余裕の現れでもあると、
 ヤマモトは素直にそう感じた。

(手元に、得物が無いのはさすがに辛いのぅ。
 超が付くほど攻撃に特化したワシやバルマードが、
 いかに丸腰では非力ということかの現れじゃの。
 守るのは、苦手じゃからして・・・困ったものじゃわい。)

 ヤマモトが困っているのは、ウィルローゼにはわかっていた。
 人を困らせるのを楽しむ性格を、彼女がしているからだ。

 ウィルローゼのその金色に輝く瞳は飾りではない。
 ヤマモトのその実力と性質を見極めた上で、そのやり取りを楽しんでいる。

 簡単に言えば、ヤマモトが困るのが分かったから、戦いたくなった。
 おそらく、自分の予想を超える何かを見せてくれるであろうヤマモトに、
 ウィルローゼは、少しだけ背中がゾクゾクとしたのだ。

「前言撤回で、ごめんなさいね。
 私は、ヤマモトさんと少し遊んでみたくなったの。

 でも、これではとても公平とは言えないわね。
 木の枝さえ鋼の刃へと変えることが出来るヤマモトさんでも、

 今は、それすら持ちえてはいないのですから。」

 そう言うウィルローゼに、少し苦い顔をさせられるヤマモト。

 ウィルローゼは、オブジェとして立っている騎士の甲冑が手にする剣を見て、
 ヤマモトにこう言った。

「ウフフフフ・・・、
 ヤマモトさんに、こんな安物の剣を使えというのは失礼な気がしますわ。

 私だって、そんなヤマモトさんと一手交えても、
 つまらないと思いますし。

 では、これでどうでしょう?」

 ヤマモトは、次の瞬間、唖然とさせられる。

 ウィルローゼはその手に、長さの違う二本の剣を取り出したのだ。

「ヤマモトさんが欲しいのは、この立派な太刀かしら。
 それとも、お父様の剣にそっくりな、こちらの剣かしら?」

 それは、ヤマモトの剣、
 『斬刀・第六天魔王』と、『剣皇剣・オメガ』であった。

 さすがにこれには、ヤマモトも驚きを隠せなかった。
 自分しか持ち出せないハズの剣を、その手に差し出されたのだ。

 瞬間、ヤマモトは悟る。
 気を読まれ、その転送法則さえ容易に知られてしまったのだと。

 あり得ないことだが、事実としてそれを突きつけられては、
 もはや納得せざるを得ない。

 ウィルローゼは、楽しげに言った。

「それとも、両方かしら?」、と。

 やられっぱなしでは面白くないヤマモトは、
 堂々とこう放つ!!

「どうせ、お前さん、
 ワシに両方渡して、自分はその安物の剣を使うつもりじゃろう!

 ならば、一本貸してやるから、好きな方を選ぶといいぞぃ。」

 ウィルローゼは、
 ヤマモトに向かって、太刀の第六天魔王の方を放ると、
 彼女はウットリとした様子で、オメガの方を抜いた。

 ヤマモトは、第六天魔王を鞘から抜くと、
 左手に鞘を持ち、右手で第六天魔王を構える。

 ここは、ヤマモトの読み通りだ。

 父バルマードが持つその剣と瓜二つであるオメガを、
 ウィルローゼが選ぶ確立は高い。

 ヤマモトとしては、自分の戦闘スタイルをより生かす為には、
 攻撃的な太刀、第六天魔王の方が扱い易い。

 双方の剣を手にした方が、
 二刀流の達人であるヤマモトには当然有利だが、
 それは、ヤマモトの意地が許さない。

 ヤマモトとウィルローゼの間の距離は、およそ五メートル。

 リーチの長いヤマモトにとっては、この間合いはベストと言えた。

 ヤマモトは、居合いも得意としているが、
 剣への錬気を読まれぬよう、あえて刀身はさらけ出した。

「さて、ではやってみるかの。」

 抜刀直後に、一撃必殺の威力の剣気の錬成を終えたヤマモトは、
 ウィルローゼを挑発するように、
 鞘を持つ左手を真っ直ぐに突き出すと、
 背中の影になるように、太刀の剣先を後ろに構えた。

 ヤマモトは、超が付くほど攻撃的な戦士であるが、
 『ライトフォース』の名で呼ばれる、
 剣へと気を練るその術に、恐ろしく長けている。

 彼の、目にも留まらぬ高速攻撃は、
 その錬気の速さを無くしては成立しない。

 ヤマモトは、突き出したその鞘の長さで一撃の間合いを計っている。
 鞘と太刀の長さの差は、握りの部分の差程度だ。

 後ろに向かって太刀の切っ先を構えるのは、
 その僅かなリーチの差を知られない為である。

 両手持ちに適した太刀・第六天魔王は、握りの部分が長めに取ってある。
 ヤマモトは、その握りの最も下の部分を強く握り締めている。

 ウィルローゼは、只々、流れるように美しい刀身を持つオメガに、
 惚れ惚れとしている様子だ。

 角度によっては、白金にもクリスタルのようにも見える片刃のその芸術品に、
 ウィルローゼは、目を奪われている。

 その様子は、とても戦う姿勢には見えないし、隙だらけだ。

 そんなウィルローゼは、その金色の瞳にオメガの銀光の波紋を映しながら、
 ヤマモトにこう言った。

「まだ、打ち込んでこないのかしら?
 見ていて飽きない剣だから、
 私は別に構わないのだけど。
 ギャラリーのエストさんは、退屈かも知れなくてよ。」

 そう言われて、動かぬわけにはいかないヤマモト。
 次の瞬間、エストの視界からヤマモトが消える!!

 音もなく現れたその刹那、

 大きく太刀を振り下ろしたヤマモトと、
 その太刀・第六天魔王をオメガで軽く受け止める、
 ウィルローゼの姿があった。

 その間、光に迫る速さでヤマモトは、必殺剣と呼ぶべき、

「剣皇剣・覇、第五の太刀『常闇』」

 を繰り出していたのだが、
 打ち込んだその姿勢のまま、二人の姿は制止している。

 ヤマモトは、戦士の最高格である
 『マスタークラス』にこそ、名を連ねてはいないが、

 それは、彼の正体である『剣皇・トレイメアス』が、
 失踪しているという理由に過ぎない。

 ヤマモトの攻撃力は、そのマスタークラスの中、最強である。

 彼の攻撃力を数字に置き換えるなら、その威力は『1000』相当。

 『神剣・ラグナロク』を持つセバリオスですら、
 それが『550』であることから、
 もはや、その破壊力は人智を超えた数字だと言っていい。

 通常、この数字は、
 『1』以上を出せた時点で、
 『戦士』としての称号を得る事の出来るものだ。

 (『1』攻撃力単位は、十万ライトフォースに相当する。
  その破壊力は、百トン程度の岩石なら一撃で粉砕する。)

 ヤマモトは単に中空で止まっているようにも見えるが、
 さらに同じ威力の攻撃を、
 ウィルローゼに向かって放っている!!!

 ヤマモトを中心にノイズが発生し、
 僅かにその姿が歪んで見える。

 これはヤマモトの錬成した力、
 ライトフォースが安定できずに波打っているせいであった。

 その高威力の斬撃は、ウィルローゼのオメガの前に止められている。

 ヤマモトの第二撃のせいで、ウィルローゼのオメガを握る右手に、
 赤い一筋の線が流れる。

 ウィルローゼの肉体にダメージを与えているのは、間違いない。
 しかし、その赤いドレスの袖には傷一つ入っていない。

 これが何を意味するのかを理解したヤマモトは、
 その体勢のまま、先ほどと同じ距離まで飛び退くと、
 今度は鞘を捨て、太刀の切っ先を突き出すようにして両手持ちに構え直す。

 ウィルローゼは、右手に流れる鮮血をペロリと舐めると、
 嬉しそうに微笑んで、
 そのプラチナの長く煌めく髪を左手で掻き揚げた。

「思ったより、ずっと素晴らしい攻撃でしたわ。
 別に、ヤマモトさんのことを軽んじていたわけでは、ありませんのよ。

 ついつい、この剣の出来の素晴らしさに、
 心を奪われていただけで、
 先ほどは、いたずら心で、軽く挑発して差し上げただけです。

 これでも、すでに私が本気を出していたのをご理解していただいているなら、
 面白い駆け引きが出来そうですわ、ね。」

 そう言って、ウィルローゼはオメガを構える。
 その姿は、まるで戦い方を知らないお姫様が、
 無理矢理、剣を取って構えたような滑稽な様だが、

 彼女が誰からも剣術の指南を受けていないであろうことを考えれば、
 彼女なりに真面目に戦おうという姿勢なのは伝わった。

 ヤマモトはこの時、手加減無用の凄まじい剣気を、
 太刀・第六天魔王に送り込んでいた。

 ヤマモトは久しく全力で、その力・ライトフォースの純度を磨き上げている。
 ヤマモトは、苦虫を噛み潰したような顔をして、
 ウィルローゼの姿を見つめていた。

 もう、目を離すゆとりすら無い。

 ヤマモトは思う。

(・・・暴発する所か、
 完全にその力を制御しておるではないか。

 衣に傷が残らんというのは、
 それさえ完璧に守り抜いておるということじゃ。

 というのに、自らにはその強大な盾ともいえる『守りの壁』を纏わせてはおらん。

 その理由は分からぬが、
 つまりは実力でワシの斬撃を受け止めたということじゃ。

 このウィルローゼは間違いなく『天使能力』を持っておる。
 それも相当に完成された、
 ・・・身震いするほどの、『力』をのぅ。)

 ヤマモトの戦闘経験は、現在のエグラートの戦士の中、最高と呼べる。
 そのヤマモトをして、これ程、その戦士の血を騒がせる相手が、
 このエグラートの歴史に存在したであろうか。

 かつてヤマモトを、そこまで本気にさせた相手など、
 その手にある第六天魔王の持ち主でもあった、
 異界の神々、『六極神』くらいなものであろう。

 伝説の六極神に比べれは、ウィルローゼの力など、
 その最下位に在る『破王・ザーベル』にも遠く及ばないが、

 ヤマモトとて、単独の力では、
 そのザーベルにさえ敵わないのは同じであった。

 しかし、それとはまた、異質の強さを持つウィルローゼを相手に、
 太刀・第六天魔王を握るヤマモトの両の手にも力がこもる。

 ヤマモトは、バルマードのさえ見せたことのない、
 超絶なる練気を行う最中で、
 ふと、ある事を思い出していた。

(・・・なるほどのぅ。
 何故、あれ程の遺産を兄者がこの世界に残したのか、
 理由がわかる気がするのぅ。

 こんな、『女帝(エンプレス)』とも呼べる、
 化け物がこの世に生まれ来るとはな。

 ワシとて立場が同じじゃったら、
 そんな気にもなったかも知れんな。)



(覇王の遺産、
    ・・・『最強のルフィア』、か。)
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