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ダークフォース 第二章 IX

2009年09月29日 15時51分41秒 | ダークフォース 第二章 後編
   Ⅸ

 謁見の間の正面の、その扉が開かれる。
 内側から掛けられていたアダマンタイト鋼の分厚い閂(かんぬき)はまるで小枝でも折るかのようにバキッと折れた。
 ズシンと、重厚な音を立てて崩れ落ちた、真っ二つの閂。
 徐に謁見の間へと入ってきた、その肩にかかる銀髪に銀光の瞳を持つ男は、手も触れずに扉を閉じると、白いドレスにその身を包んだエリクに向かい、こう言った。
「お初にお目にかかる、エリク姫。我が名は、セバリオス。貴女を神界フォーリナへとお連れ致そう」
 セバリオスと名乗ったその男は、エリクのその純白のドレス姿の麗しさに関心してか、こう続ける。
「このセバリオスを迎えるのに、このような場所を選んでくれたことを、姫に感謝する。素晴らしい仕立てのドレスも、姫のその姿をより一層高貴なものに見せてくれる。さすがに美しい、レムローズの薔薇姫よ」
 エリクは二人の兄とハイゼンの方を怯えるような瞳で見つめた。
 セバリオスには、エリク以外には眼中に無いようで、他の三人が剣を構えているにも関わらず、それをまるで意に介す事も無く、エリクのいる場所へと繋がる赤く一直線に伸びた絨毯の上を、ゆっくりと歩いていた。
 カルサスは言う。
「エリク、後ろに下がっていろ。ハイゼン候、エリクの事を宜しく頼む!!」
「承知!」
 そう言うとハイゼンはエリクの手を引き、この広間の奥の方にある、身を隠すにはちょうど良い窪みへとエリクを導いた。
 と、同時にローヴェントが何かのスイッチを入れると、この広間へと繋がる扉が、次々と青銅色の隔壁によって閉ざされていった。
 セバリオスは言う。
「これは、何の趣向かな?」と。
 ローヴェントとカルサスは、このレムローズ王宮内にあって、最高の強度を誇る外壁に覆われた、この広間を決戦場に選んだ。
 華美な装飾は後に施されたものであり、元々ここは、古代文明の超硬度の外壁で一面を覆われた、いわば逃げることも出来ない古の時代の闘技場のようなものである。ドーラベルンの地下深くにある、あの闘技場をやや小さくした感じだ。
 二人の王子たちは、ここでセバリオスを取り逃がすわけにはいかなかった。
 エリクには悪いが、二人はエリクを、セバリオスをここへ誘き寄せる餌として使い、セバリオスをこの鋼鉄のかごの中へと閉じ込めた。
 未知数の強さを誇るセバリオスに対して、エリクを守り抜くには、彼を自由にさせるわけにはいかなかった。
 戦う場所を選ばせては、三人とも各々に倒され、あっという間に幕切れとなる。
 単身で戦うことなど不可能な相手だからこそ、このような小細工も必要であった。
 ハイゼンの戦士レベルは87、ローヴェントは92、カルサスは94にも至る。
 およそ、この地上で組める最強の編成で、セバリオスに対するわけだが、戦士としての極みにあるレベル100のセバリオスに対しては、当たってみるまで分からないというのが、彼等の本音であった。
 ここに、かの剣王バルマードを加えれば、三人は勝利に確信を持てたかも知れないが。仮想敵国の王である彼の協力など、今の彼等には望めるべくもなかった。
 セバリオスは、薄ら笑うように彼らに言う。
「フフフッ・・・、僅か戦士三人で、この身に挑もうというのか。さて、我が名も四千年もの永い時を経ると、こうも侮られるものか」
 セバリオスは、ローヴェントとカルサスに挟まれるような位置に立っているが、一向に戦うような素振りも見せず、その背中にある長剣を抜こうとさえしない。
 ローヴェントとカルサスの二人は、セバリオスがこちらを侮っている間に、まずは一撃入れて、彼との実力差を図りたかった。
 不意打ちで勝てる相手でないことくらい、彼のその威圧的なまでの存在感が簡単に示してくれる。
 次の瞬間、二人の王子の姿が消える!!!

  カァァァァーーーンッ!!

 二人の息の合った同時攻撃も、セバリオスにはまるで通じていない。
 セバリオスは何もしていない。
 自身の周りに防御の壁を広げるでもなく、ただじっとその攻撃を受けた。
 圧倒的な実力差を知らしめれば、王子たちにも、抵抗がいかに無駄であるかを示せるからだ。
 確かに二人の王子たちは、すぐさま体勢を立て直すと、その驚異的とも言えるセバリオスの力に圧倒させられた。
 それは想定以上の実力差だったと言っていい。ローヴェントもカルサスも、その手に握る剣先が微かに震える。
 セバリオスはその王子たちを銀色の瞳で見ると、涼しい顔をしてこう言った。
「抵抗は無意味だ。地上で幾ら勇猛を誇ろうが、それは閉ざされた場所での事しかない。確かにその実力は認めるが、完成された強さとは程遠い。この私と対等に戦える者が在るとするならば、それはファールスの魔王・ディナスをおいて他にないだろう」
 刹那、セバリオスの背後から、ハイゼンが現れる!!

  シュンッ!!

 ハイゼンの一撃がセバリオスの肩口に、一線の傷を付けた。
 セバリオスが彼の方を振り返ると、ハイゼンはセバリオスにこう言う。
「我は、レムローズ王国のハイゼンと申す!! 神界の主であられるセバリオス神には、取るに足らぬ一戦士でありましょうが」
「フハハハハッ、さすがに若い王子たちより戦い慣れているな。瞬時に剣気の流れを読み、この私に傷を負わせるとは、見事な事よ」
 ハイゼンはエリクを安全な場所に移すと、素早く戻ってその一撃を加えた。
 エリクを守る盾の役目も大事であったが、二人の王子が倒れては、結果として彼女を守りきれない。
 ハイゼンが、続けて二撃、三撃とセバリオスに斬りかかると、ローヴェントとカルサスは、剣気を練るのに十分な時間を彼から貰った。
 ローヴェントはその剣・アイスソードに十分な剣気を宿らせ、奥義を発動する!!
「凍結剣・絶対零度ッ!!」
 ハイゼンに足止めされたセバリオスに、マイナス273度の凍て付く凍気が襲い掛かる!!
 その絶対零度とクロスするように、カルサスのファイヤーソードに蓄えられた爆炎が、一気に放たれた!
「火炎剣・烈波導ッ!!」

  ドゴォォォーーーーーンッ!!!

 と、激しい地響きをさせて、二人の渾身の奥義が炸裂した!!
 ハイゼンも、二人の王子も、瞬時に間合いを取り直して剣を構える。
 この程度の攻撃が、あれほどの圧倒的力量差を感じさせたセバリオスに通じるハズはない。
 セバリオスとの差を埋めるには、何度となく波状攻撃を仕掛ける必要がある。
 ハイゼンの戦闘経験があれば、二人の王子もそれが可能ではないかと思わせた。
 王子たちの攻撃で、広間の外壁の一部が剥き出しになり、辺りには金銀様々な装飾の破片が粉のように舞っている。
 エリクが身を隠した場所は、青銅色をした石壁の装甲に守られており、彼女が自ら表に出ない限りそれらの被害を被る事はない。
 セバリオスがその塵を一気に振り払うと、彼のその右手には長剣が握られていた。
 彼のその長剣は、名を『神剣・ラグナロク』という。
「なかなか良い動きをする。さすがに、この私に挑むという大言を吐くだけの事はある。なるほど、二人の王子たちはハイゼンという、良い師に恵まれたようだな。三人の勇士たちに応えるよう、私も剣を取ろう。フフッ・・・、フェルツ辺りに姫のことを頼んでいたら、返り討ちにあっていたかも知れぬな」
 セバリオスが神剣・ラグナロクを握ると、ついにその実力が顕わになる。
 凄まじい剣気、恐るべきオーラ。
 三人は、そのセバリオスの超越した力の壁の前に、身体ごと押し潰されそうになる。
 また、その足は重い鉄球でも括り付けられたかのように、酷く鈍くなるのを感じた。
 三人が、『マスタークラス』格にある戦士と戦うのはこれが初めての事になる。
 先んじて、剣王バルマードと一戦交えていれば、これほどに強烈な力の差を痛感せずにすんだのかも知れない。
 セバリオスは、対する三人すらも己の力の源の対象としてそれを吸収し、絶対的なライトフォースの錬気を神剣・ラグナロクへと集中させていく。
 戦士としての技量は、いかに周囲に存在する質量、エネルギーを己のものに出来るかで大抵は決まる。まして、セバリオスはマスタークラス中最強の戦士と言ってもいい。
 同じ、マスタークラスのバルマードなら、ハイゼンや二人の王子たちのように、自らの力まで奪われるようなことはなかっただろう。
 三人が感じているその感覚は、紛れも無くセバリオスの吸収(ドレイン)を受けているせいなのだが、それにより、本来の差以上の力量差をセバリオスに付けられてしまう。
 時間をかければかけるほど、その差を広げられてしまうと瞬時に感じたハイゼンは、セバリオスの集中を止めるべく、わざと彼の前に飛び出した!!
「神と一太刀交えられるなら、武人として思い残すこともない。まして、神界一のセバリオス神ならば!!」
 ハイゼンは、セバリオスの攻撃を交わす気などない!
 自らの持てる力の全てを、攻撃と速度に回し、決死の覚悟でセバリオスの懐に飛び込むッ!!
「我が奥義、御覧あれ! 苛烈剣・烈火ッ!!」
 撃ち出されたハイゼンの高速の一撃は、赤い一閃となって神剣・ラグナロクに叩きつけられる!!

  カアァァァーーーーンッ!!!

 セバリオスの前を、二つに割れた烈火の赤が過ぎ去る!

  ドスンッ!!

 と同時に壁際まで弾き飛ばされたハイゼンの姿があった。
 ハイゼンの身体は、壁に酷く打ち付けられ、その甲冑の隙間からは鮮血が流れ出す。
 ぐったりと壁を背に倒れこむハイゼン。
 遠目から、彼の生死を窺い知る事は出来なかったが、口元から垂れ落ちる赤い雫が、床を滲ませた円をじわじわと大きくする。
 エリクはその光景に、言葉を失う。
 恩師であるハイゼンが目の前で倒れ、兄たちはそれに振り返ることなく、強大な敵を相手に剣を構える。
 エリクは自分を守る為に、大切なものが失われていく、壊されていくその瞬間に、耐えられずにその身を震わせた。
 エリクがハイゼンの元へ駆け寄ろうと、その身を乗り出そうとすると、それに気付いたローヴェントは右手を突き出してそれを制止し、エリクの方に微笑んで見せた。
 カルサスもローヴェントと気持ちは同じで、師であるハイゼンがその身をかけて作り出したセバリオスの隙を、無駄になどすることは出来ない。
 セバリオスの錬気がハイゼンの捨て身の一撃で、不十分になったのを、二人の王子は軽くなったその身体で感じ取ることが出来た。
 攻撃するには、今をおいて他に無い!!
 ローヴェントもカルサスも、その一撃に全てを賭けて、この日の為に編み出した奥義を、セバリオスに向けて繰り出す!!
 その奥義の名は『グランドクロス』。
 ローヴェントもカルサスも、その全身全霊の凍結剣と火炎剣を放ち、その攻撃をセバリオスを軸にして融合させる!!
 その威力は先ほど放った奥義の比などではない。
 爆縮するグランドクロスは、小太陽をこの空間に生み出し、セバリオスを核熱の渦へと叩き込む!!
 核熱をカルサスが増大させ、ローヴェントの緻密な計算で撃ち出される凍結剣がその外殻となり、より高温の核融合を可能にした。
 凍結剣の外殻は恐ろしいほどのスピードで融解、再構成を繰り返しており、その分厚い氷壁によって、周囲はほぼ無音状態にある。
 
  シャリーーーーンッ!!
 
 という音と共に、球体となった凍結剣が砕け散る。
 ダイヤモンドダストのように凍気の結晶が舞い散る中、二人の兄、ローヴェントとカルサスの姿を、エリクは見つけた。
 何が起こったのかのか、エリクにはわからない。
 わからないが、二人の兄たちは、そこにちゃんと立っている。
 疲れた顔をごまかすように、二人の兄たちがエリクに向かって微笑むと、エリクは堪らずその場所を飛び出し、兄たちの元へと駆け寄った。
 その次の瞬間!!

  ザシュッ!! ザシュッ!!!

 セバリオスの長剣ラグナロクが、二人の兄たちの身体を貫く。
 二人の兄は膝を折るようにして、ゆっくりとその場に倒れた。
「さて、後はエリク姫を頂いて、フォーリナへと戻るとしよう」
 そう言ったセバリオスは、腕や足などに多少の傷を負ってはいたが、それはかすり傷程度の事でしかない。結局、渾身の奥義もセバリオスにはダメージを出せなかった。
 逆に、二人の兄たちは致命的な一撃を受けており、もはや助ける術も無い。
 エリクが二人の身体をその両手で抱き寄せると、その白いドレスは二人の血の色で、朱く染められていく。
 エリクはどうしてやることも出来なかった。
 次第に白いドレスは、吸血でもするかのようにその生地を深い赤色で染めて、血の版図を広げていく。
 ローヴェントはエリクの膝にその美しい黒髪を乗せると、エリクを見上げてこう言った。
「まもれなくて・・・ごめん・・・。生きて、エリク・・・」
「ローヴェント兄様、しっかりして下さい!! 約束はどうなるんですかッ!」
 カルサスは最後の力を振り絞って、エリクの肩に手を乗せると、笑いながらこう言った。
「約束って・・・なんだよ。・・楽しいことなら、・・オレもまぜて・・くれよな・・」
 エリクは二人の兄の身体を必死に抱きしめる。
 止めどなく流れ落ちる涙。
 エリクの温かい体温に、二人の兄たちは安らいだ表情を見せる。
 もう、目は見えていないようだ。
 二人が何かを、言葉にしようとしている。
 エリクは耳を傾け、その微かな声を拾おうとする。
 とても小さな声だったが、二人が口にした言葉は同じものだった。

 「ありがとう」
       ・・・と。

 二人の心音が止まるのをエリクは感じた。
 この時、エリクの中で世界の全てが終わったように思えた。
 もう、あの場所へは戻れない。
 二人の兄たちとハイゼン候と、どんなに寒い雪の日でも、一緒にいれば温かかったあの小さな楽園。
 二人の兄たちが大事にしていた毛糸の手袋も、今ならもっと上手に仕上げられた。
 力尽きた二人の兄たちのそれぞれの懐に、大事にしまわれたその手袋を見つけた時、
 エリクは人を愛することの意味を理解した。
 この身などどうなろうと構わない、かけがいのない人たちを救うことが出来るのならば。
 エリクは二人の兄たちを救いたいと願った。
 だが、過去を変えることは、二人の兄を救うことは、もう出来ない。
 エリクは瞳を閉じて、沈黙する。
 自分がいなければ、ハイゼン候や兄たちを巻き込むこともなかった。
 彼らの優しさを想えば想うほど、それは痛く胸に突き刺さった。
 ありがとう、を言わなければならなかったのは、むしろ自分の方だった。
 だから、今からでも言おうと思う。
 そう、
 「ありがとう」、と。
 
 エリクが再びその目を開いたとき、赤いはずの瞳の色が変わっていた。
 それは、白い。
 全ての色の光を混ぜたような、そんな白い瞳。
 エリクが無表情に立ち上がると、その艶やかな赤い髪さえ、白く染まっていった。
 エリクがその顔を上げた時、それは以前のエリクとは別人であった。
 二人の兄たちの身体は、眩いばかりの白い光に包まれて、その光の中に消えていった。
 残された二人の剣、アイスソードとファイヤーソードをエリクは手にする。
 その光景にセバリオスは、銀色の瞳を大きく見開いた。
 息を呑んでエリクを見つめるセバリオスの方を、エリクは冷淡なその白い瞳で見つめ返す。
 と、同時に、強大な力がエリクを中心に溢れ出て来る!!
 力は、エリクの身体を軸に収束を始め、やがてエリクの背中に二枚の翼のような光を形成するに至る。
 エリクは覚醒する。
 
  その名を、『戦天使』という。
 
 それはかつて、この地上にもたらされた、たった一つの希望と呼ばれた。

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