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ダークフォース 第二章 XI

2009年09月29日 15時44分47秒 | ダークフォース 第二章 後編
   ⅩⅠ

 戦いが始まって、すでに数刻。
 エリクの戦天使能力は、セバリオスの想像を遥かに凌駕するものだった。
「これが、真の戦天使の力。欲しい・・・これほどまでに圧倒的とは、な」
 セバリオス自身、彼がこれほど苦戦を強いられるとは、思いもよらぬ事であった。
 エリクに守護されし二つの剣は、神速のセバリオスに迫るスピードで、彼を襲う。
「我が神速の剣にこうも喰い付くとは・・・。なるほど、伝説の剣皇トレイメアスが、かつて異界の神どもを恐れもさせたのも頷ける。並の戦士が戦天使の加護を受けるだけで、こうも鋭い刃となるのだからな」
 長物であるラグナロクを操る分だけ、セバリオスは不利とも言えた。セバリオスは、自身の高速剣とほぼ同等の速さの二つの剣風を、一手に相手させられている。
 セバリオスがどんなにローヴェントとカルサスを強打しようとも、一切の攻撃が戦天使エリクの守りの壁に阻まれてしまう為、セバリオスは次第に、攻撃よりも防御の手数が増えてしまう。
 セバリオスに十分な錬気の隙を与えないほどに、二人の戦士の攻撃は素早い!
 だが、セバリオスは、その攻撃を弾かれながらも、緻密にエリクの光の羽衣が生み出すその防御力を計算していた。
「ラグナロクで第四の剣以降の奥義を錬成できなければ、戦士たちに付与した守りの壁すら、貫くことも出来ぬであろうな。本体のエリク姫の防壁は、さらにその上を行くだろう。・・・しかし、それを錬気するとならば、同時に我が身を守る壁も完全に消失することになる」
 アイスソードとファイヤーソードから、連続して放たれる絶対零度の凍気と、灼熱の烈波導をこのまま喰らい続けていては、いかに堅牢なるセバリオスのシールドを以ってしても、ダメージの蓄積は避けられない。
「どれを喰らい、どれを避けるか。むず痒いものだな」
 始めから全ての攻撃を受けきれるなどとは思っていないセバリオスは、致命的な一撃は全て防いではいるものの、強引に振らなければラグナロクが追いつけないような一撃は、それを軽微と判断した場合、無視して次の攻撃に備え、ラグナロクを最短距離で振り返していた。そうしなければ、速度でローヴェントとカルサスに追いつけない。
 セバリオスがその身が受けたダメージ量は、彼の身体に幾つも描かれた、血の一閃が明らかにしていた。
 そう、セバリオスは押されている。
 彼にとってそれは、初めての経験である。
 セバリオスは今、ジラやフェルツの救援を必要としていた。
 どちらかの一方の援護を得られれば、戦況は一転させられる。
 しかし、彼のプライドはそれを許さない。
 また、仮にそれを実行するにも、妨害を受けるのは目に見えており、ジラやフェルツに自らの危機を伝えるには、まず、王子たちが先に閉ざした隔壁に穴を開ける必要がある。
 普段のセバリオスなら、隔壁を破るなど容易いことなのだろうが、今のセバリオスに、眼前の敵を放って、古代遺産の超硬度の隔壁を打ち抜く為の奥義を発動するヒマなどない。『銀雷』程度の威力では、隔壁の表面に傷を付けるのが限界であろう。
 その異様とも言える神と戦天使との戦いの光景を、少し離れた位置から目の当たりにする男の影があった。
 血の染み出たフルプレートの甲冑に、その身を重く縛られながらも、かろうじて意識を回復させたエリクや二人の王子たちの師、ハイゼンである。
 ハイゼンはエリクや二人の王子たちの為に、戦列に加わりたかったが、その身は指先一つ、満足に動かせないだけの傷を負っていた。
 戦天使は始めからハイゼンの生存には気付いていた様子で、彼の方へとセバリオスの攻撃の余波が向かぬように、セバリオスとの距離を気にしている様子だった。
 また、ハイゼンの方も彼女の行動の意味を、これまで培われた戦闘経験により、即座に理解出来た。
 だが、ハイゼンは何故、エリクがこんな姿になって、あのセバリオスを相手に戦っているのかはわからなかった。
 エリクのその姿は気高く、まるで穢れ無き純白の貴婦人のようであり、その指先から髪の毛の繊維に至る全てが、煌めく光によって満たされている。
 背中から天に突くように伸びる、光輝を集めた二つの翼に目が行った時、ハイゼンにはそれが、地上に舞い降りた天使に見えた。
 これが、セバリオスがエリクを欲した理由だというならば、ハイゼンはそれを十分に頷けた。その名しか聞いたことのない伝説の存在、『戦天使』を、今、目の当たりにさせられているのだから。
 ハイゼンは、足手まといの自分が無理を通して参戦するより、ただじっとその場で壁を背に倒れ込んでいる方が、よほど彼女にとって、戦天使であるエリクにとってはやり易いのだと直感する。
 戦いの次元が違いすぎる。
 万全の状態で参戦したとしても、おそらく自身の実力ではどうにもならないレベルの戦いが繰り広げられていることをハイゼンは感じたのだ。
 それは、歯痒い事だが仕方なかった。
 エリクは、手にしたその二つの剣と戦天使能力により、あの絶対的だったセバリオスを圧倒している。
 
 セバリオスが倒されることなど、あってはならない事だ。
 
 彼はこのエグラート世界の主神であり、彼を中心に四千年間もの間、この世界の秩序は維持されてきた。
 セバリオスの存在を抜きにして、今の、この世界の繁栄は成り立たない。
 全ての厄災の源である、異界の敵『ギーガ』に対し、今も世界は二つの備えでそれに対抗している。
 一つは、先に話した異界の門を封じる、戦天使セリカの守りの壁。
 その力によって、ほとんどの異界の敵の侵攻は阻まれてはいるが、世界に絶対などなく、常にその例外を起こすモノたちの存在がある。
 それは、『テーラ』と呼ばれる異界の神々『六極神』や、その僕(しもべ)である『魔神』たち。
 それ等に対抗し得る、現在、唯一の機動戦力が、神界フォーリナの神々『セバリオス・ジラ・フェルツ』の三神である。
 これまで、主神セバリオスを中心に、神の剣であるジラと、神の盾であるフェルツが、異界の門以外から、時空を喰い破って侵攻して来る『魔神』たちを数多、退けてきた。
 そう、世界はこのセバリオスの存在によって、幾度もの危機から守られて来たのだ。
 その戦いの常に先頭にいるセバリオスを失えば、世界は魔神等の侵入を許し、内側から異界への門をこじ開けられかねない。
 もし、異界の門が開かれれば、この世界の秩序は崩壊する。
 全ては『ダークフォース』の深淵なる闇へと没することになるだろう。
 セバリオスは、自身の敗北の意味を理解していた。
 そう、セバリオスは「敗北」の二文字を意識し始めている。
 セバリオスが始めからこの状況を想定出来ていたのなら、彼はエリクたちを圧倒する戦力を投入して、難なく勝敗を決していただろう。
 彼の過去に、戦天使との戦闘経験が一度でもあれば、単独での勝利も可能だった。
 しかし、その為に必要な剣が彼の手元にはない。今、必要なのは、二人の王子の攻撃をさらに上回る速度。その自らの神速を最大限に生かす、もう一つのラグナロク。
 直刀の細身のサーベルである『ラグナロク弐式・片刃』である。
 それが王子たちの隔壁により遮蔽され、手元へと転送出来ないとは、それは二人の王子たちの意図した範囲外であった。
 故に、セバリオスは今その手ある、長物の『ラグナロク壱式・両刃』のみで決戦するしかなかった。
 本来なら、長物とはいえ、このセバリオスのラグナロクの速度に付いてこれる者など、数限られている。それに長物の方が破壊力では格段に上だ。
 まさか地上に、彼の神速に並ぶ者が剣王バルマード以外にいるとは、セバリオスにも思いも寄らぬことであった。しかも、通常の錬気のラグナロクでは、その長物の破壊力を以ってしても、戦天使の守りの壁に対して傷すら入れられないとは。
 正確にはセバリオスの出すダメージ以上の速度で、守りの壁の耐久が回復されている。その回復量は凄まじく、削り合いの勝負をしては確実に負ける。
 だが、セバリオスにも戦士としての、意地がある。
 まして、彼は戦士の中でも最強の、「マスタークラス」の頂点に立つ男だ。
 端から、自身の勝敗を武器のせいになどする気はない。
 長物には、もう一つ、長物なりの強みがある。それは、強固な戦天使の守りの壁を貫いた時に出来る、そのリーチの差だ。
 勝つ為に選べる手段はもう僅かだ。
 それは、光の渦の中心にいる戦天使エリクに肉薄し、彼女の守りの壁を貫く最強の一撃を放つ事だ。
 その為に、セバリオスは自身の守りを完全に捨て去り、エリクのその背中に伸びる光輝の翼を、戦天使能力の源を、渾身の一撃で撃ち抜かなければならない。
 光に近付けば近付くほど、ライトフォースの防壁はその厚みを増す。
 光輝の翼は、このセバリオスを以ってしても計り知ることの出来ない、強大なシールドの奥にある。
 勿論、その一撃を二人の王子が、ローヴェントとカルサスが、黙って許すハズもない。
 ローヴェントも、カルサスも、二人とも己の身体が、風化していくように徐々に砕け散っているのを感じていた。
 決着の時まで持てばいい、それが二人の王子たちにとっての、ただ一つの願いだった。
 カルサスは言う。
「もう少し、戦っていたい気分だ。雰囲気はすっかり変わっちまってるが、あそこにいるのは、オレ達のエリクに間違いねえんだからなッ!」
 ローヴェントも、カルサスのその言葉に頷いた。
「エリクと共に戦おう、それが、私たちが戦士として生まれて来たことの意味だ!!」
 直後、眩き光で満たされた白金の瞳を、エリクは大きく見開くと、その戦天使能力を最大開放する!!

 白き姿の戦天使は、その高貴なる翼を高らかに舞い広げ、エグラートの主神を狩る為に駆ける!!


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