ためぞうの冒険 - 番外編 1/19 -
ためぞう「どうやら、オレの知らぬまに『ためぞうの冒険』が、
冒険しないまま、うやむやに消えゆきそうなんだが。」
彼の名はためぞう。
タイトルに名を冠しながら、主人公ではないという、哀れな男子学生であり、
苦労の割に不遇続きの冴えない男である!
彼は長崎副都心構想にあるモデルタウン、『長崎ドラゴンタウン』の義姉の家に居候する、
自称ティーンの怪しいヤツでもあった。
一時は夢見た主人公という座も、キラメキに溢れ輝く周囲の存在に、我が身の程を知ると、
今は慎ましやかにバイトと学業に取り組み、牙を抜かれたタヌキのように、世渡りのみに、
その一心を注ぐ見た目も中身もごく普通の少年?である。
そんな彼は今、平和な冒険もない土曜の昼下がりに、溜まった洗濯物を庭先に干しているが、
ピシッと張ったそよ風に揺られる布地の数々を見る限り、こういう芸には秀でているようだ。
と、悩みもなさそうに淡々を家事をこなす彼は、内心で自分の立場にふと過った不安の一抹を抱えつつも、
手際よく洗濯かご二つ分の衣類を干し終わると、背後にその義姉の気配を感じた。
エリスねーさん「お、ご苦労さん!
あがってコタツにでテレビでも見ながら、みかんでも食って来いよ。」
明らかに人種の違う、それはもうこのためぞうには勿体ないほどの、
ロングの黒髪の美しい美人過ぎるお姉さんが現れた!
もうこの時点で、ためぞうに存在感などない。
端から見れば、モデル並みの容姿を備えたこのナイスバディのお姉さんの背景に完全に存在が埋没している……。
エリスねーさん「なんだ? ためぞう顔色悪いな。
お前が、つまみ食いで失敗なんか考えられんが、どーした、ほれ。
おねーさんに、悩みがあるなら言ってみ。」
ためぞう「……。
なあ、オレの物語にちと終焉を感じるんだが、間違いないかな?」
その鋭い指摘がどうやら義姉さんのハートの奥の的を射貫いたらしく、
チラチラとよそ見をする仕草を見せて、ためぞうに答える。
エリスねーさん「あ、気付いてた?
うんとな、それスピンオフ風だから、まずは落ち着け。」
その言葉を自分に言い聞かせるように言った綺麗なエリス義姉さん。
ためぞうの不安はやはり本物だと確信がもてる、うろたえぶりにためぞうには見えた。
エリスねーさん「うーん、まいったな。
危険察知能力だけは、今や宇宙一とも言えんでもないためぞうに、
私なんかで説明が出来るわけないじゃん!」
苦笑いを浮かべてためぞうを少しでも慰めようとするお義姉さんに、
逆に落ち着きなよとなだめようとするためぞう。
もはやどちらが大人なのかわからない感じだが、
ここでこの美人のお義姉さんに激しく慰められたいと常日頃より妄想している、
銀髪の長身イケメン紳士が、映画並みのCGみたいな激しい閃光をあげて、
突如、ワープアウトして来るッ!
エリスねーさん「なんかいい姉弟のシーンなのに、
何の遠慮なく、どうでもいいヤツが沸いて出たな。」
その白いスーツのセレブな長身イケメンは、このエリスお義姉さんの上司であり、
海よりも深い愛でこのお義姉さんに張り付いている、
ラスボスも一撃で粉砕する、まさに地上の神・セバリオスさんだった。
セバリオスさん「心の友たるためぞう君の危機を感じで、
商談をほっぽり出して駆け付けたが、どうかしたのかい? ためぞう君。」
エリスねーさん「仕事してろよッ!!」
ためぞう「あ、セバリオスさん、どもっす。」
何かに付けては、ためぞうを口実に出会いを求めてくるセバリオスさん。
別にためぞうの心配など全くしてはいないのは、二人にはお見通しだったが、
言って帰ってくれるような素直さはないので、エリスねーさんはなんとなくスルーで話しを続けようとしたが、
お茶目にセバリオスさんがこう遮った。
セバリオスさん「ためぞう君って、冒険できるわけないよねぇ。
ほら、最強魔王のセリカさんの四天王じゃない?
セリカさん、ガチで本気出したら私でも勝てるかわからない強さだよ。
正体が純度ほぼMAXに近い、超絶戦天使だから、どんな攻撃も無効化するよね。
んで、ためぞうくんもそのセリカさんが見込んだ最強魔王軍の一角じゃない。
何処の異世界に行っても、そもそも魔王とか邪神の強さって、LV70~80前後程度でしょ。
LVが端から93もあるためぞう君だと、まさに神というか、
日帰りで世界救ってコタツで晩ごはんって感じかな。
異世界なら、いつでも飛ばしてあげるんだけど……。」
エリスねーさん「勝手に、終わらせてるんじゃねーYO!!!
ためぞうを応援するためにいるような私の存在まで、
否定すんのかよセバリオス。」
セバリオスさんはエリスねーさんに、惚れた弱みでからきし弱い。
すでに美人でモデル業もやってる、セクシーなエリスねーさんだが、
その真の美貌を解放すると、美の女神と讃えんばかりの神々しい容姿なのを、
セバリオスさんも、ためぞうでさえ知っていた。
ふだんはジャージでコタツにみかんのエリスねーさんも、
その正体は神の中の神『破壊と創造を司る女神・ジラ神』として、
本拠地の世界では、主神にして万能神と崇められるセバリオスさんよりも、
一部熱烈な信仰心を集める女神である為、
現地では心優しい気遣いで、主神の上司セバリオスさんを立てて控えめに露出を抑える、
そんな謙虚で慎ましい一面も持ち合わせた、至高のお嬢さんでもあった。
そこがまたセバリオスさんをより調子にのせてしまうのだが。
こんな超絶な、世界さえ創生してしまう二人に絡まれ、
揉まれて相手をさせらてきたためぞうが、そこらの伝説の勇者なんかより弱いハズもなく、
冒険譚の一つでも語りたい年頃であるだろうのに、ほぼ無冠のままの生活を続けていた……。
ためぞうも若い頃は、そのなけなしの一つの称号である、
『最強魔王軍(最強を冠しているのは、必要悪として人類の仮想敵としての魔王を、
大天使セリカさんが役目を引き受けたからである。(というよりセリカさんの上司の存在Sに押しつけられたのであるが)
……とにかく、諸事情で月の環境をフレッシュな(産業革命前の)地球化し、快適この上ない拠点を根城おいて、
セバリオスさんと争っているフリを続けていた。)』
その天下の魔王四天王としての肩書きだけを武器に、
(実際、腰にぶら下げていた武器は、ためぞうの浪費癖で質から頼んで借りた銅のつるぎ。)中々の醜態を晒し、
人々の中に紛れては透明化のマントで覗きをやったり、人の弱みを握って優位に出ようとしたりしたが、
知力が3しかないので返り討ちにあい、人々は知らぬうちに魔王軍四天王のためぞうを懲らしめる事で、
莫大な経験値を与えてしまい、旨みを知った狡猾な女性冒険者からは、
陰で『はぐれためぞう(稀にいるレアな雑魚)』として、散々な黒歴史を重ねまくっていた……。
ためぞう「勝手に人の辛い過去を語ってんじゃねーよッ!!!」
セバリオスさん「おっと、突然意味不明の解説が流れてしまったようだね。
多少の過去改変や、記憶の操作など造作でもないから、
フレッシュマンためぞう君に、今からでも上書きしようか?」
エリスねーさん「おい、逃げるな。そして、逃がすなセバリオスッ。
色んな苦い経験が今の自分を支えてるんだよ、根性なんだよ。
そんなん、いちいちリセットしてたら、進むどころか後退もいいとこじゃねーか?
過ぎたことから反省するのはいい。でもよ、それをひっくるめて今の自分を背負うってのが、
なんつーかケジメ付けてていいんじゃね?
未来も過去も考えるのは無意味だぞ、今を一生懸命だ!!
ためぞうなら、言わんでもわかってるだろうから、
これはセバリオス、お前の為に言ってんだよ。このパーフェクト無駄使い男がッ!!」
セバリオスさん「エリスが私の事を想ってくれているのをその艶のある声で聞くのも、実にいいものだなぁ。
得難い想い出もゲットしたし、この辺で私は仕事に戻るとするよ。フフッ、ハハハッ!!」
エリスねーさん「おい、こら待てってセバリオスッ!!」
セバリオスさんは引き際も心得る、超ポジティブ紳士さんである。
中途半端にややこしくした上、満足した時点で一瞬で消え去るお茶目さんで、
この世界を最もエンジョイしている一人と言えるのだろう……。
そんなセバリオスさんと入れ替わるように現れた、
ためぞうの上司にして大魔王のセリカさんが、玄関先でチラッと残された様子を伺っていた。
セリカさんも、この世界をエンジョイしている不思議な勝ち組であった。
自身は強固過ぎる謎の拘束を喰らっているので、本拠地に足止め中なのだが、
そこは自分第一主義のセリカさん。
四天王最強の暗黒騎士として知られる『マベルさん(見た目年齢16~7才の奇跡の美少女)』の重厚なフルプレートを引っぺがし、
悪霊まがいにその精神と肉体に憑依する事で、本来得られなかった有り難い美巨乳と、スタイル抜群の美しき乙女となって、
マベルさんの穢れ無き身体を勝手に使って悪事を繰り返す、どしょーもない上司さんである。
セリカさん「巨乳コンプレックスみたいに言うなっ!!」
マベルさんに憑依しているだけあって、容姿だけは天上の天使のように美しく、
さらにその上、純真無垢な乙女な割にけしからんウルトラバディで、
この容姿に魅了されぬ者などまさに希有であろう。
本来ならば、限界に限界を超えた英雄・勇者たちが試練に試練を重ね、
どこまで先があるんじゃい!と、キレかけた辺りでようやく辿り着けるかどうかの、
運まで持ち合わせていなければ出会う事さえままならない至高の存在。
・ まず、その前に立ちはだかる文武両道のイケメン四天王『ホーネル』に会わない(出かけている時に限る)。
・ 三バカ四天王の一人でありためぞうのマブダチ、四天王のリーダー・マイオストにも出会わない。
(バカだが、その実力は最強四天王の一角。とんちに長けており、戦わずして相手を言葉で負かす、一応の穏健派。)
・ 無論、ためぞうにも会わない事。(黒歴史の塊だが、相手が野郎なら卑怯な手段で辱めようとする……。)
ためぞう「今は、改心してるって!!」
そこまでして出会い、死闘の末に彼女に認められた時、
彼女の本来の目的である『強者の選定』にその実力が達したなら、
彼女は自ら戦闘行為を停止し、主の定め(セリカさんではない上の主)に従って、
その真の姿を、天使の微笑みを見せるのである(意思に関係なくテンプレで。)
目前に現われし戦乙女がこうも可憐で純粋で、歌姫のような美声で問いかけてきたものなら、
これはもう漆黒の鎧に呪いをかけられていたと勘違いするのも男のサガとしても仕方ない。
無論、女性冒険者たちをも魅了する美貌が、彼女たちをドキドキ煌めかせたりもする。
そんな中性的な魅力も兼ね備えているし、
事実、なろうと思えばマベルさんは美少年にさえチェンジも出来た(天使能力をちょちょいと使って)。
だが、所詮セリカさんの憑依するマベルさんでは、
セリカさんのその下品さと小狡さと馬鹿げた欲望のせいで、
闇の甲冑が取り除かれても、その純真オーラは息を潜め、
スペックはガタ落ちもいいところなのだが、流石にバツグンの容姿だけは本物であった。
セリカさん「出てくる前からメンタルをボコられて、それでも出てくるセリカさんです。」
黙っていれば、理想の君であろうセリカさんはそのショートヘアをブラウンに染めて、
おしゃれなカーキーのコートで決めているが、しっかり出てる所は主張して、本来無い胸とその美脚をアピールしている。
ためぞうは、このややこしくどーでもいいセリカさんが、
純真無垢の乙女マベルさんに憑依したものと見ているだけで、
仲間に対する同情で痛々しい気分のもなるが、
それを出すと面倒くささが爆発するので、顔にも出さずいつもの調子でいる事にした。
とにかく関わるとグレート厄介なセリカさんには、
適度にお小遣いを渡して退散して欲しいと願うのだったが、
エリスねーさんが余計に与えすぎるので、それもまた杞憂であった……。
セリカさん「ためさんの心の声が私の中でハイレゾで聞こえてますがッ!
的は得ているので否定はしない!! 私はお金が楽して欲しいのでぇす。」
身も蓋もない事を堂々と言って、エリスねーさんにプレッシャーをかけるセリカさん。
こんなセリカさんを打倒するために頑張っている酒場の冒険者たちの事を思うと、
冒険ってなんだろう? という気にさせられそうになるためぞうであったが、
さすがに『冒険』という言葉を否定できない弱みも抱え、
エリスねーさんのお財布事情をチラ見で心配するように、様子を見守っていた。
セリカさん「ためさんから、たかる気はないってw」
セリカさんはためぞうの財布も千里眼で知っている。
その小銭に興味はない!!
ためぞう「何か、いろいろ見抜けるその神がかり的能力を、
ホントどーでもいいことにセリカさんは使ってんな。
人を傷付ける事さえやらなけりゃ、まぁーそれでもいいんだが。
言って聞くセリカさんではないと、みんな知っているからなぁ……。」
知らないのはエリスねーさんくらいなものである。
気のいい姉御キャラがもう定着しちゃってるエリスねーさんは、
ためぞうにとって、神よりも上司よりも貴重で尊い存在だが
(セバリオスさんはともかく、セリカさんなんて名を出すのもおこがましい程。)、
この人も自分が思う以上に純心で穢れないおねーさんなので、
ためぞうはそのおねーさんの真心を想って、口を控えているに過ぎなかった。
エリスねーさん「セリカさん、困ってるの?」
ここぞとばかりにセリカさんの両眼に☆型の閃光が煌めく!!
セリカさん「……月のお小遣い三千円で、細々とやり繋いでおりますので、
ゴホゴホ……、どうかご安心下され、エリスの姐さん。」
三文芝居でより金をたかろうとしているのは、もう見ていて痛々しいのだが、
それを迷い無くやってのける度胸だけはセリカさんにはあった。
見れば一目で分かるブランドの服装を一つでも我慢すれば、
そう生活に困ることもないだろうに、
地上へと遊びに来た大魔王さんは、完全に現代の荒波に飲まれ、
それを乗りこなして道楽と遊興の日々を送っている。
エリスねーさん「最近は物入りだったし、バイクで遠出もしまくったから、
このくらいで足るかな? 足らないならいってくれよ、セリカさん。
ためぞうが世話になってる人だしなぁ、もっと何とかしたいんだけど。」
とエリスねーさんがカパッと開けるガマ口の財布から取り出されたのは、
神々しき光を放つ、ピン札の万金八枚であった……。
ためぞー「ちょ、出し過ぎだって!!」
そっと静かな動作で、その万金たちを懐へとしまうと、
深々とお辞儀をして目の前から消えるセリカさん。
とくにダメージゼロという顔をしているエリスねーさんに、
ためぞうはかける言葉を持たなかったが、
あのセバリオスさんでさえ、絡まれてエラい目にあった苦い記憶から、
対処しかねるそんな圧倒的横暴な存在は、ただただ放置するしかないなぁと、
世の中の出来ないことを、時折吹き抜ける寒風と共に、しみじみ感じるためぞうであった。
つづく。
ためぞう「こんなん、まだつづくの!?」
ためぞう「どうやら、オレの知らぬまに『ためぞうの冒険』が、
冒険しないまま、うやむやに消えゆきそうなんだが。」
彼の名はためぞう。
タイトルに名を冠しながら、主人公ではないという、哀れな男子学生であり、
苦労の割に不遇続きの冴えない男である!
彼は長崎副都心構想にあるモデルタウン、『長崎ドラゴンタウン』の義姉の家に居候する、
自称ティーンの怪しいヤツでもあった。
一時は夢見た主人公という座も、キラメキに溢れ輝く周囲の存在に、我が身の程を知ると、
今は慎ましやかにバイトと学業に取り組み、牙を抜かれたタヌキのように、世渡りのみに、
その一心を注ぐ見た目も中身もごく普通の少年?である。
そんな彼は今、平和な冒険もない土曜の昼下がりに、溜まった洗濯物を庭先に干しているが、
ピシッと張ったそよ風に揺られる布地の数々を見る限り、こういう芸には秀でているようだ。
と、悩みもなさそうに淡々を家事をこなす彼は、内心で自分の立場にふと過った不安の一抹を抱えつつも、
手際よく洗濯かご二つ分の衣類を干し終わると、背後にその義姉の気配を感じた。
エリスねーさん「お、ご苦労さん!
あがってコタツにでテレビでも見ながら、みかんでも食って来いよ。」
明らかに人種の違う、それはもうこのためぞうには勿体ないほどの、
ロングの黒髪の美しい美人過ぎるお姉さんが現れた!
もうこの時点で、ためぞうに存在感などない。
端から見れば、モデル並みの容姿を備えたこのナイスバディのお姉さんの背景に完全に存在が埋没している……。
エリスねーさん「なんだ? ためぞう顔色悪いな。
お前が、つまみ食いで失敗なんか考えられんが、どーした、ほれ。
おねーさんに、悩みがあるなら言ってみ。」
ためぞう「……。
なあ、オレの物語にちと終焉を感じるんだが、間違いないかな?」
その鋭い指摘がどうやら義姉さんのハートの奥の的を射貫いたらしく、
チラチラとよそ見をする仕草を見せて、ためぞうに答える。
エリスねーさん「あ、気付いてた?
うんとな、それスピンオフ風だから、まずは落ち着け。」
その言葉を自分に言い聞かせるように言った綺麗なエリス義姉さん。
ためぞうの不安はやはり本物だと確信がもてる、うろたえぶりにためぞうには見えた。
エリスねーさん「うーん、まいったな。
危険察知能力だけは、今や宇宙一とも言えんでもないためぞうに、
私なんかで説明が出来るわけないじゃん!」
苦笑いを浮かべてためぞうを少しでも慰めようとするお義姉さんに、
逆に落ち着きなよとなだめようとするためぞう。
もはやどちらが大人なのかわからない感じだが、
ここでこの美人のお義姉さんに激しく慰められたいと常日頃より妄想している、
銀髪の長身イケメン紳士が、映画並みのCGみたいな激しい閃光をあげて、
突如、ワープアウトして来るッ!
エリスねーさん「なんかいい姉弟のシーンなのに、
何の遠慮なく、どうでもいいヤツが沸いて出たな。」
その白いスーツのセレブな長身イケメンは、このエリスお義姉さんの上司であり、
海よりも深い愛でこのお義姉さんに張り付いている、
ラスボスも一撃で粉砕する、まさに地上の神・セバリオスさんだった。
セバリオスさん「心の友たるためぞう君の危機を感じで、
商談をほっぽり出して駆け付けたが、どうかしたのかい? ためぞう君。」
エリスねーさん「仕事してろよッ!!」
ためぞう「あ、セバリオスさん、どもっす。」
何かに付けては、ためぞうを口実に出会いを求めてくるセバリオスさん。
別にためぞうの心配など全くしてはいないのは、二人にはお見通しだったが、
言って帰ってくれるような素直さはないので、エリスねーさんはなんとなくスルーで話しを続けようとしたが、
お茶目にセバリオスさんがこう遮った。
セバリオスさん「ためぞう君って、冒険できるわけないよねぇ。
ほら、最強魔王のセリカさんの四天王じゃない?
セリカさん、ガチで本気出したら私でも勝てるかわからない強さだよ。
正体が純度ほぼMAXに近い、超絶戦天使だから、どんな攻撃も無効化するよね。
んで、ためぞうくんもそのセリカさんが見込んだ最強魔王軍の一角じゃない。
何処の異世界に行っても、そもそも魔王とか邪神の強さって、LV70~80前後程度でしょ。
LVが端から93もあるためぞう君だと、まさに神というか、
日帰りで世界救ってコタツで晩ごはんって感じかな。
異世界なら、いつでも飛ばしてあげるんだけど……。」
エリスねーさん「勝手に、終わらせてるんじゃねーYO!!!
ためぞうを応援するためにいるような私の存在まで、
否定すんのかよセバリオス。」
セバリオスさんはエリスねーさんに、惚れた弱みでからきし弱い。
すでに美人でモデル業もやってる、セクシーなエリスねーさんだが、
その真の美貌を解放すると、美の女神と讃えんばかりの神々しい容姿なのを、
セバリオスさんも、ためぞうでさえ知っていた。
ふだんはジャージでコタツにみかんのエリスねーさんも、
その正体は神の中の神『破壊と創造を司る女神・ジラ神』として、
本拠地の世界では、主神にして万能神と崇められるセバリオスさんよりも、
一部熱烈な信仰心を集める女神である為、
現地では心優しい気遣いで、主神の上司セバリオスさんを立てて控えめに露出を抑える、
そんな謙虚で慎ましい一面も持ち合わせた、至高のお嬢さんでもあった。
そこがまたセバリオスさんをより調子にのせてしまうのだが。
こんな超絶な、世界さえ創生してしまう二人に絡まれ、
揉まれて相手をさせらてきたためぞうが、そこらの伝説の勇者なんかより弱いハズもなく、
冒険譚の一つでも語りたい年頃であるだろうのに、ほぼ無冠のままの生活を続けていた……。
ためぞうも若い頃は、そのなけなしの一つの称号である、
『最強魔王軍(最強を冠しているのは、必要悪として人類の仮想敵としての魔王を、
大天使セリカさんが役目を引き受けたからである。(というよりセリカさんの上司の存在Sに押しつけられたのであるが)
……とにかく、諸事情で月の環境をフレッシュな(産業革命前の)地球化し、快適この上ない拠点を根城おいて、
セバリオスさんと争っているフリを続けていた。)』
その天下の魔王四天王としての肩書きだけを武器に、
(実際、腰にぶら下げていた武器は、ためぞうの浪費癖で質から頼んで借りた銅のつるぎ。)中々の醜態を晒し、
人々の中に紛れては透明化のマントで覗きをやったり、人の弱みを握って優位に出ようとしたりしたが、
知力が3しかないので返り討ちにあい、人々は知らぬうちに魔王軍四天王のためぞうを懲らしめる事で、
莫大な経験値を与えてしまい、旨みを知った狡猾な女性冒険者からは、
陰で『はぐれためぞう(稀にいるレアな雑魚)』として、散々な黒歴史を重ねまくっていた……。
ためぞう「勝手に人の辛い過去を語ってんじゃねーよッ!!!」
セバリオスさん「おっと、突然意味不明の解説が流れてしまったようだね。
多少の過去改変や、記憶の操作など造作でもないから、
フレッシュマンためぞう君に、今からでも上書きしようか?」
エリスねーさん「おい、逃げるな。そして、逃がすなセバリオスッ。
色んな苦い経験が今の自分を支えてるんだよ、根性なんだよ。
そんなん、いちいちリセットしてたら、進むどころか後退もいいとこじゃねーか?
過ぎたことから反省するのはいい。でもよ、それをひっくるめて今の自分を背負うってのが、
なんつーかケジメ付けてていいんじゃね?
未来も過去も考えるのは無意味だぞ、今を一生懸命だ!!
ためぞうなら、言わんでもわかってるだろうから、
これはセバリオス、お前の為に言ってんだよ。このパーフェクト無駄使い男がッ!!」
セバリオスさん「エリスが私の事を想ってくれているのをその艶のある声で聞くのも、実にいいものだなぁ。
得難い想い出もゲットしたし、この辺で私は仕事に戻るとするよ。フフッ、ハハハッ!!」
エリスねーさん「おい、こら待てってセバリオスッ!!」
セバリオスさんは引き際も心得る、超ポジティブ紳士さんである。
中途半端にややこしくした上、満足した時点で一瞬で消え去るお茶目さんで、
この世界を最もエンジョイしている一人と言えるのだろう……。
そんなセバリオスさんと入れ替わるように現れた、
ためぞうの上司にして大魔王のセリカさんが、玄関先でチラッと残された様子を伺っていた。
セリカさんも、この世界をエンジョイしている不思議な勝ち組であった。
自身は強固過ぎる謎の拘束を喰らっているので、本拠地に足止め中なのだが、
そこは自分第一主義のセリカさん。
四天王最強の暗黒騎士として知られる『マベルさん(見た目年齢16~7才の奇跡の美少女)』の重厚なフルプレートを引っぺがし、
悪霊まがいにその精神と肉体に憑依する事で、本来得られなかった有り難い美巨乳と、スタイル抜群の美しき乙女となって、
マベルさんの穢れ無き身体を勝手に使って悪事を繰り返す、どしょーもない上司さんである。
セリカさん「巨乳コンプレックスみたいに言うなっ!!」
マベルさんに憑依しているだけあって、容姿だけは天上の天使のように美しく、
さらにその上、純真無垢な乙女な割にけしからんウルトラバディで、
この容姿に魅了されぬ者などまさに希有であろう。
本来ならば、限界に限界を超えた英雄・勇者たちが試練に試練を重ね、
どこまで先があるんじゃい!と、キレかけた辺りでようやく辿り着けるかどうかの、
運まで持ち合わせていなければ出会う事さえままならない至高の存在。
・ まず、その前に立ちはだかる文武両道のイケメン四天王『ホーネル』に会わない(出かけている時に限る)。
・ 三バカ四天王の一人でありためぞうのマブダチ、四天王のリーダー・マイオストにも出会わない。
(バカだが、その実力は最強四天王の一角。とんちに長けており、戦わずして相手を言葉で負かす、一応の穏健派。)
・ 無論、ためぞうにも会わない事。(黒歴史の塊だが、相手が野郎なら卑怯な手段で辱めようとする……。)
ためぞう「今は、改心してるって!!」
そこまでして出会い、死闘の末に彼女に認められた時、
彼女の本来の目的である『強者の選定』にその実力が達したなら、
彼女は自ら戦闘行為を停止し、主の定め(セリカさんではない上の主)に従って、
その真の姿を、天使の微笑みを見せるのである(意思に関係なくテンプレで。)
目前に現われし戦乙女がこうも可憐で純粋で、歌姫のような美声で問いかけてきたものなら、
これはもう漆黒の鎧に呪いをかけられていたと勘違いするのも男のサガとしても仕方ない。
無論、女性冒険者たちをも魅了する美貌が、彼女たちをドキドキ煌めかせたりもする。
そんな中性的な魅力も兼ね備えているし、
事実、なろうと思えばマベルさんは美少年にさえチェンジも出来た(天使能力をちょちょいと使って)。
だが、所詮セリカさんの憑依するマベルさんでは、
セリカさんのその下品さと小狡さと馬鹿げた欲望のせいで、
闇の甲冑が取り除かれても、その純真オーラは息を潜め、
スペックはガタ落ちもいいところなのだが、流石にバツグンの容姿だけは本物であった。
セリカさん「出てくる前からメンタルをボコられて、それでも出てくるセリカさんです。」
黙っていれば、理想の君であろうセリカさんはそのショートヘアをブラウンに染めて、
おしゃれなカーキーのコートで決めているが、しっかり出てる所は主張して、本来無い胸とその美脚をアピールしている。
ためぞうは、このややこしくどーでもいいセリカさんが、
純真無垢の乙女マベルさんに憑依したものと見ているだけで、
仲間に対する同情で痛々しい気分のもなるが、
それを出すと面倒くささが爆発するので、顔にも出さずいつもの調子でいる事にした。
とにかく関わるとグレート厄介なセリカさんには、
適度にお小遣いを渡して退散して欲しいと願うのだったが、
エリスねーさんが余計に与えすぎるので、それもまた杞憂であった……。
セリカさん「ためさんの心の声が私の中でハイレゾで聞こえてますがッ!
的は得ているので否定はしない!! 私はお金が楽して欲しいのでぇす。」
身も蓋もない事を堂々と言って、エリスねーさんにプレッシャーをかけるセリカさん。
こんなセリカさんを打倒するために頑張っている酒場の冒険者たちの事を思うと、
冒険ってなんだろう? という気にさせられそうになるためぞうであったが、
さすがに『冒険』という言葉を否定できない弱みも抱え、
エリスねーさんのお財布事情をチラ見で心配するように、様子を見守っていた。
セリカさん「ためさんから、たかる気はないってw」
セリカさんはためぞうの財布も千里眼で知っている。
その小銭に興味はない!!
ためぞう「何か、いろいろ見抜けるその神がかり的能力を、
ホントどーでもいいことにセリカさんは使ってんな。
人を傷付ける事さえやらなけりゃ、まぁーそれでもいいんだが。
言って聞くセリカさんではないと、みんな知っているからなぁ……。」
知らないのはエリスねーさんくらいなものである。
気のいい姉御キャラがもう定着しちゃってるエリスねーさんは、
ためぞうにとって、神よりも上司よりも貴重で尊い存在だが
(セバリオスさんはともかく、セリカさんなんて名を出すのもおこがましい程。)、
この人も自分が思う以上に純心で穢れないおねーさんなので、
ためぞうはそのおねーさんの真心を想って、口を控えているに過ぎなかった。
エリスねーさん「セリカさん、困ってるの?」
ここぞとばかりにセリカさんの両眼に☆型の閃光が煌めく!!
セリカさん「……月のお小遣い三千円で、細々とやり繋いでおりますので、
ゴホゴホ……、どうかご安心下され、エリスの姐さん。」
三文芝居でより金をたかろうとしているのは、もう見ていて痛々しいのだが、
それを迷い無くやってのける度胸だけはセリカさんにはあった。
見れば一目で分かるブランドの服装を一つでも我慢すれば、
そう生活に困ることもないだろうに、
地上へと遊びに来た大魔王さんは、完全に現代の荒波に飲まれ、
それを乗りこなして道楽と遊興の日々を送っている。
エリスねーさん「最近は物入りだったし、バイクで遠出もしまくったから、
このくらいで足るかな? 足らないならいってくれよ、セリカさん。
ためぞうが世話になってる人だしなぁ、もっと何とかしたいんだけど。」
とエリスねーさんがカパッと開けるガマ口の財布から取り出されたのは、
神々しき光を放つ、ピン札の万金八枚であった……。
ためぞー「ちょ、出し過ぎだって!!」
そっと静かな動作で、その万金たちを懐へとしまうと、
深々とお辞儀をして目の前から消えるセリカさん。
とくにダメージゼロという顔をしているエリスねーさんに、
ためぞうはかける言葉を持たなかったが、
あのセバリオスさんでさえ、絡まれてエラい目にあった苦い記憶から、
対処しかねるそんな圧倒的横暴な存在は、ただただ放置するしかないなぁと、
世の中の出来ないことを、時折吹き抜ける寒風と共に、しみじみ感じるためぞうであった。
つづく。
ためぞう「こんなん、まだつづくの!?」