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首相の、首相による、首相のための解散

2014-11-30 21:07:15 | Weblog

 700億円ともいわれる費用を投じて、この暮に総選挙を行う意義は何か。

 首相は消費税10パーセントの実施を先延ばしすることについて国民に判断を問う、と言っている。国民の代表機関である国会では、一部の議員をのぞいて、増税先延ばしに強い反対論はない。一般の国民は、日本国の財政危機はともあれ、日々の支出増といういやなことが先送りされることを歓迎している。負担を強いる増税について民意を聞くのであればともかく、嫌なことの先送りについて国民の判断を問うというのは、ご念のいったことである。今回の総選挙の意義は、冗談半分で言えば、700億円を投じることによって、ささやかではあるが景気の浮揚を図るアベノなんとかの一助としての公共投資である。真面目に言えば、解散・総選挙を逆手にとって安保優先「面舵いっぱい」の安倍路線に反対の意思表示をしたい有権者を除けば、無用の解散・総選挙なのだ。

戦後これまで、衆議院は23回解散している。そのほとんどが7条解散という解散のやり方である。日本国憲法7条は「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」とし、その中に「衆議院を解散すること」という項目がある。これは「憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること」「国会を召集すること」などと同じ式典進行役としての天皇の国事行為の種類を定めたものに過ぎないのだが、その式次第について助言と承認を行うのが内閣であるから、衆院解散の権限は内閣にあり、内閣を率いる首相の専権事項であるという論理が、一般常識になっている。

1952年のこと。吉田内閣が憲法「抜き打ち解散」をしたことで、職を失った苫米地義三衆院議員(当時)が憲法7条にのみに基づく解散は違憲であると行政訴訟に持ち込んだ。すったもんだの末、1960年に最高裁は「あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であって、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである」と統治行為論を持ちだして憲法判断から逃げをうった。

以来、内閣は政権維持に有利なタイミングを計って、解散を行って当然という理屈と慣行が広まった。それどころか、自民党は憲法改正草案で「天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による」という一文を草案に入れた。これは、衆院解散については内閣の手続きなしに、首相の独断で可能なように憲法を変更、今まで以上の首相権限の強化を図るねらいだ。

日本の常識は世界の非常識で、日本は政治文化という点では先進国の中でガラパゴス化している。議院内閣制は立憲君主国の多くが採用している。日本も議院内閣制をとっている。その本家はイギリスである。イギリスでも時の内閣が国王を利用して下院解散を繰り返してきた。

そのイギリスで議会が「2011 年議会任期固定法」を決めた。①下院の総選挙の選挙期日を固定することで、下院の任期を5年とし②内閣の解散権を制限し、下院の解散は議会自身が決めるか、不信任決議の可決の場合だけとし、それ以外の理由による解散を認めないことにした。

日本流にいえば、首相から7条解散の権限を奪い、野党を不利な状況に追い込んで、首相が政治的主導権を縛ろうとする動きを封じる効果がある。

日本国憲法のもとで、衆議院はこれまでに23回解散を繰り返した。衆議院の任期は実質平均で3年弱である。そういうことなら、衆議院の任期を米国下院と同じ3年とし、イギリス並みに首相の解散権を制限する法律を作ってはどうだろう。

衆議院の任期を4年とすることは憲法に書かれているので、衆院任期3年は憲法の改正が必要だ。だが、首相の解散権については、法改正だけで可能だ。

現行憲法のどこを見ても、7条解散の権限が内閣にあるとは明記されていない。慣行として行われているだけであり、繰り返すが、最高裁が「その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである」としているので、その気になれば来年からでも可能だ。

(2014.11.30 花崎泰雄)


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