熨斗(のし)

のし(熨斗)について、趣味について、色々なことを綴っていきます

ひとりごと(さくら)

2017-04-16 20:40:47 | ひとりごと

ここ数年、南信州の、ありとあらゆる桜の写真を撮ってきた。

特にここ南信州は一本桜が多い。

あちこちに立派な桜があり、

今や、どこに行ってもカメラマンがいて、

SNSやFacebookや雑誌に紹介されていて、

画像がグルグル回っている。

桜を撮るには青空でなくちゃダメ、とか、どの角度が一番きれいに見えるか、とか

この時間に行かなくちゃとか、

桜を愛でる純粋な心がなくなってきた。

 

父の生まれ故郷の家を壊す事になった。

過疎の集落で、もう人が住んでいない。

誰も住んでいなかった家なのに、いざ壊すとなると寂しいもので、

そんな日の来ることは、父が一番よく知っていた。

山の中の、

鹿やタヌキやイノシシが住人の様に歩き回っているこの土地が、

数年もすると雑木林に変わっていく事は、

言葉にこそ出さないまでも、誰もが感じていた事だった。

 

十数年前、

父が桜を植えたのは、

桜の根元に一つの石碑を立てたのは、

誰も行かない山の中でも、

1本の桜が生き続けてほしいと思う気持ちからだったと思う。

この地に人が生きたという証を、

残したかった。

それだけだと思った。

 

石碑には

「布る里の(ふるさとの) 峪のこだまに今もなほ 籠りてあらむ母が筬(おさ)の音」

「さと恋えば、見ゆる恵那山 霞む谷」

と、父と弟が詠んだ句が刻まれている。

山道を上って、上って、

家の跡地の近くまで行ったとき、満開のピンクの花が見えた。

満開に咲いた桜を見た時に、涙が出た。

忘れていた感情を思い出した。

 

どの桜も、

どの一本桜も、

どんな気持ちで植えられたのだろう。

どれほど長くその地を守り続けたのだろう。

忘れちゃだめだった。