ペーパードリーム

夢見る頃はとうに過ぎ去り、幸せの記憶だけが掌に残る。
見果てぬ夢を追ってどこまで彷徨えるだろう。

いのちの在り処

2010-02-01 05:25:35 | 歌を詠む
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ホルマリンに浸かりし子象は何思ふ思考などなき静寂(しじま)のなかで 

横たわる数多(あまた)の骸(むくろ)目の前にいのちの在りか問ふ冬の雨

ベッカリもツキノワグマもイノシシも骨になったら気分爽快?

骨だけのミンククジラは動かない潮も吹かないひとりぼっちで

命を認識する

2010-02-01 04:49:09 | 美を巡る
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東京大学総合研究博物館の遠藤秀紀教授を訪ねる。
名古屋の京大霊長類研究所にいらした頃にお世話になって以来、
お目にかかるのは4年ぶりである。
そのときに作った図鑑の次回重版に備えての打ち合わせ。
先ごろ、2009年朝日賞(朝日新聞)を受賞された
自然人類学者・諏訪元教授の長年の研究のもとで
その存在が明らかになった440万年前の初期人類、
ラミダス猿人についての表記を追加、修正することにする。
でき得る限り、確実な最新情報は反映していかなくてはならないのが
図鑑の使命だから。

その後、現在公開中の「命の認識」展を案内していただく。
途中、東京大学コレクションでは有名な
ずらり並んだ頭蓋骨の陳列ケースを見ながら、その部屋に入ると…。

思わず息をのんだ。
部屋中、骨、骨、骨。
おっと、その前に目に入ったのは、厚さ4㎝のアクリルケース。
その中に浮かぶのは子象。
正確には死産で生まれてきた胎児だった子象だ。

この展覧会の総指揮・監督を務める遠藤先生のパンフレットの文言がふるっている。
  「苦悩の部屋へ、ようこそ。
  あなたを苦悩のどん底に陥れる空間を東大の博物館に創ってみたいと思っていた。
     (中略)
  親切心など欠片もない空間に、いま、あなたは立ちすくんでいる。
  あなたの目の前には、死を出発点にしつつこの世に出現したゾウが、
  絶海の孤島の古の巨猿が、
  九千年をヒトとともに生きる色鮮やかなとある野鳥が、
  凍りついたいくつかの野生の命の亡骸が、
  そして、文字のない、すなわち名をもたない何百もの骨が存在を主張している。
  ここで、あなたは命とどう対面するつもりだろうか。」

何十個とあるイノシシ、タヌキ、ペッカリらの頭蓋骨に始まって、
下顎骨、肋骨、脚の骨…
中央には巨大なミンククジラ、その横はキリン、アメリカバイソン、水牛、シカ、…
その間にフナ、カエルの骨が恭しくちんまり収まっているのが可笑しい。
私は遠藤先生にいちいち聞いて回ったからわかったけれども、
普通に見たら、一体何が何やら???であろう。
そうした苦情(?)に備えて、説明用の資料は用意されていたが、
遠藤先生がおっしゃるには、そんなプレートはここでは不用なのだ、と。
この場所に立って、骨に囲まれて、命というものを実感してほしい。
いくらかの入場料を払って、事細かな説明書きを読んで、
見たつもりになっている展覧会の、なんて多いことか。
そんなものが本当に必要ですか?
それよりも、見て感じること、その空間に存在する自分を意識する、
そんな空間があってもいいじゃないですか、ということらしい。

骨になってしまえば皆同じ。
ここに立てば、
私たちもここにいるかつて生きていた動物たちも
すべて命の連環の中にいることを実感する。
実感せざるを得ない。
しばし、そんな異空間へ迷い込んでみるのもいいかもしれません。
3月28日まで。入場料無料。
おススメです。
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2009inochi.html