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「YEN漂流――縮む日本」
[1] 沈む国と通貨の物語
[2] 元経済圏の足音
[3] 気がつけば途上国
[4] 老若男女 夢持てず
[5] 北畑次官の誤算
[6] 新・通貨ウオーズ
[7] 10ミリ秒 対 2秒
[8] 「CO2本位」時代
[9] 介入大国のDNA
[10] 円が消えた日
[11] 仕送り鎖国の罪
[12] 燕は再び飛んだ
[13] 天使よ振り向け
[14] 円高恐怖 超えて
[15] 磁力ある国へ
[3] 気がつけば途上国――内外格差で「二重価格」
【「YEN漂流」08.01.04日経新聞(朝刊)】
ハンバーガーからマンションまで、かつて「何もかも高い」と外国人が敬遠していた日本。強い経済と円高で高まった購買力にモノをいわせ、海外で買いあさった日本人。失われた15年を経て、今国内で浮かび上がるのは全く逆の光景だ。
中古車500万円
「一体、何が起きているんだ」――。東京都内最大の中古車競売市場を運営するジェイ・エー・エー取締役の相宮伸一(49)は目を疑った。限定改造車「ムゲンPR」の中古車を、ある輸出業者が新車価格(4百万円台)を上回る5百万円強で落札したからだ。輸出業者の背後にいるのはロシアや中東など裕福な新興国の買い手だ。
かつては輸出中古車といえば、国内では売れないポンコツをロシアや中東などに5万-10万円で処分するというのが常識だった。だが円安と新興国の成長による購買力拡大で、輸出価格が急上昇。人気車種は2百万円、3百万円という高値で真っ先に輸出業者が競り落とす。国内の中古車の売れ筋の価格帯はせいぜい百万円。浜松市の販売業者、梅沢信夫(53)は「全く手が出ない」と嘆く。
グローバル価格と国内価格の二極化。中古車に限らず、日本のあちこちで同じような「二重価格現象」が起き始めている。
「日本向けセカンドライン」。欧州の高級婦人服ブランドの新日本戦略だ。ユーロ高・円安で欧州直輸入品の値上がりが激しく、日本の消費者には手が届かなくなった。それでもブランドを手にしたい人向けの低価格商品だ。
イタリアの高級婦人服ブランド「アントニオ・ベラルディ」を展開するバスストップ(東京・渋谷)は、昨年、直輸入品では平均8万円するスカートを、セカンドラインで3万円で売り出した。それでも日本の消費者は動かず、2008年春夏物からさらに約2割下げ、2万円台にする。伊藤忠商事も仏高級婦人服「エマニュエルウンガロ」とライセンス契約を結び、輸入品より約3割安いセカンドラインを立ち上げた。
バブル期に欧米の高級ブランドショップで現地の人が驚くような高額商品を買いまくり、世界を驚かせた日本人。時は流れ、高級ブランドの廉価版で我慢せざるを得なくなった。
ホテル業界も二重価格に揺れている。平均客室料が6万円を超す外資系ホテルの相次ぐ進出で、2万-3万円の国内の老舗高級ホテルはもはや価格面では最高級とは言えなくなってきた。
危機感を持った国内勢は同一ホテル内に二重価格を導入することで外国人を含む富裕層獲得に動く。
ホテルニューオータニは昨年秋、高層の2フロアを改装し、平均客室料6万円-8万円の最高級客室「エグゼクティブハウス 禅」を立ち上げた。「ホテルの中のホテル」を売り物に、専用ラウンジや専任スタッフを用意した。狙い通りロシア、中国、フランスなど外国人客が約7割を占める盛況となった。一方では、全体の約6割の客室料金は2万円台を維持する。総支配人の清水肇(52)は「国内には手ごろな値段を求める層も多い」と二重構造が必要な理由を説明する。
国際競争の産物
かつて日本から途上国を旅すると、タクシーやホテルなど裕福な外国人観光客向け価格と、現地住民が生活に使う国内価格に大きな差があることに驚かされた。円安とデフレと低成長で、外からみて安くなった日本でも同じような二重価格が静かに進みつつある。
この構造変化は、グローバル化による国境を超えた価格裁定と無縁ではない。世界を飛び回る企業人や旅行者などグローバル層の利用する高級なホテルやサービスは、国際価格に収れんしやすくなる。一方、国内消費者が中心で国際競争にさらされない国内価格はその国の所得や為替相場など購買力に影響される。
三菱UFJ証券チーフエコノミストの水野和夫(54)は「一つの国に国際競争する分野の価格とそうでない国内価格が生じるのはグローバル競争の産物」とみる。国際競争力の低下と円安で相対的に貧しくなった日本。その象徴の二重価格を健全な形で解消するには、成長力を上げ、日本の購買力を増すことが必要になる。 =敬称略
(「YEN漂流」取材班)
【 これらの記事を発想の起点にしてメルマガを発行しています 】
「YEN漂流――縮む日本」
[1] 沈む国と通貨の物語
[2] 元経済圏の足音
[3] 気がつけば途上国
[4] 老若男女 夢持てず
[5] 北畑次官の誤算
[6] 新・通貨ウオーズ
[7] 10ミリ秒 対 2秒
[8] 「CO2本位」時代
[9] 介入大国のDNA
[10] 円が消えた日
[11] 仕送り鎖国の罪
[12] 燕は再び飛んだ
[13] 天使よ振り向け
[14] 円高恐怖 超えて
[15] 磁力ある国へ
[3] 気がつけば途上国――内外格差で「二重価格」
【「YEN漂流」08.01.04日経新聞(朝刊)】
ハンバーガーからマンションまで、かつて「何もかも高い」と外国人が敬遠していた日本。強い経済と円高で高まった購買力にモノをいわせ、海外で買いあさった日本人。失われた15年を経て、今国内で浮かび上がるのは全く逆の光景だ。
中古車500万円
「一体、何が起きているんだ」――。東京都内最大の中古車競売市場を運営するジェイ・エー・エー取締役の相宮伸一(49)は目を疑った。限定改造車「ムゲンPR」の中古車を、ある輸出業者が新車価格(4百万円台)を上回る5百万円強で落札したからだ。輸出業者の背後にいるのはロシアや中東など裕福な新興国の買い手だ。
かつては輸出中古車といえば、国内では売れないポンコツをロシアや中東などに5万-10万円で処分するというのが常識だった。だが円安と新興国の成長による購買力拡大で、輸出価格が急上昇。人気車種は2百万円、3百万円という高値で真っ先に輸出業者が競り落とす。国内の中古車の売れ筋の価格帯はせいぜい百万円。浜松市の販売業者、梅沢信夫(53)は「全く手が出ない」と嘆く。
グローバル価格と国内価格の二極化。中古車に限らず、日本のあちこちで同じような「二重価格現象」が起き始めている。
「日本向けセカンドライン」。欧州の高級婦人服ブランドの新日本戦略だ。ユーロ高・円安で欧州直輸入品の値上がりが激しく、日本の消費者には手が届かなくなった。それでもブランドを手にしたい人向けの低価格商品だ。
イタリアの高級婦人服ブランド「アントニオ・ベラルディ」を展開するバスストップ(東京・渋谷)は、昨年、直輸入品では平均8万円するスカートを、セカンドラインで3万円で売り出した。それでも日本の消費者は動かず、2008年春夏物からさらに約2割下げ、2万円台にする。伊藤忠商事も仏高級婦人服「エマニュエルウンガロ」とライセンス契約を結び、輸入品より約3割安いセカンドラインを立ち上げた。
バブル期に欧米の高級ブランドショップで現地の人が驚くような高額商品を買いまくり、世界を驚かせた日本人。時は流れ、高級ブランドの廉価版で我慢せざるを得なくなった。
ホテル業界も二重価格に揺れている。平均客室料が6万円を超す外資系ホテルの相次ぐ進出で、2万-3万円の国内の老舗高級ホテルはもはや価格面では最高級とは言えなくなってきた。
危機感を持った国内勢は同一ホテル内に二重価格を導入することで外国人を含む富裕層獲得に動く。
ホテルニューオータニは昨年秋、高層の2フロアを改装し、平均客室料6万円-8万円の最高級客室「エグゼクティブハウス 禅」を立ち上げた。「ホテルの中のホテル」を売り物に、専用ラウンジや専任スタッフを用意した。狙い通りロシア、中国、フランスなど外国人客が約7割を占める盛況となった。一方では、全体の約6割の客室料金は2万円台を維持する。総支配人の清水肇(52)は「国内には手ごろな値段を求める層も多い」と二重構造が必要な理由を説明する。
国際競争の産物
かつて日本から途上国を旅すると、タクシーやホテルなど裕福な外国人観光客向け価格と、現地住民が生活に使う国内価格に大きな差があることに驚かされた。円安とデフレと低成長で、外からみて安くなった日本でも同じような二重価格が静かに進みつつある。
この構造変化は、グローバル化による国境を超えた価格裁定と無縁ではない。世界を飛び回る企業人や旅行者などグローバル層の利用する高級なホテルやサービスは、国際価格に収れんしやすくなる。一方、国内消費者が中心で国際競争にさらされない国内価格はその国の所得や為替相場など購買力に影響される。
三菱UFJ証券チーフエコノミストの水野和夫(54)は「一つの国に国際競争する分野の価格とそうでない国内価格が生じるのはグローバル競争の産物」とみる。国際競争力の低下と円安で相対的に貧しくなった日本。その象徴の二重価格を健全な形で解消するには、成長力を上げ、日本の購買力を増すことが必要になる。 =敬称略
(「YEN漂流」取材班)
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