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「YEN漂流――縮む日本」
[1] 沈む国と通貨の物語
[2] 元経済圏の足音
[3] 気がつけば途上国
[4] 老若男女 夢持てず
[5] 北畑次官の誤算
[6] 新・通貨ウオーズ
[7] 10ミリ秒 対 2秒
[8] 「CO2本位」時代
[9] 介入大国のDNA
[10] 円が消えた日
[11] 仕送り鎖国の罪
[12] 燕は再び飛んだ
[13] 天使よ振り向け
[14] 円高恐怖 超えて
[15] 磁力ある国へ
[4] 老若男女 夢持てず――78歳マネー難民
【「YEN漂流」縮む日本 08.01.06日経新聞(朝刊)】
海外に資産非難
のどかな水田が広がる金沢市郊外の集落。元公務員の荒木茂(仮名、79)は78歳を迎えた2006年、50年以上続けてきた日本株投資をやめた。持ち株をすべて売り払い、BRICs、東南アジア、東欧など新興国中心の外貨建て投資信託を購入した。今では年金以外の金融資産はすべて外貨建てだ。
総額3千万円を投じた外貨建て投信の純資産額は7千万円と2倍以上に膨らんだ。昨夏以降の米住宅ローン問題で新興国株も一時急落したが「長い目でみれば上がる」とお金を日本に戻すつもりはない。
「少子・高齢化が進む日本の将来に期待できない。この町をみればわかる。勢いがあるのは外国だ」「若者が次々去り、景気もさえないし、国や自治体の借金もいっこうに減らない。78歳で円を卒業した荒木にとってこの国はお金を安心して託せる地ではなかった。
「社会保険庁にお金を預けるより、ベトナムに投資する方が安心です」――。昨年末、投資情報出版社が東京都内で開いた「海外投資祭り」。講師の説明に約7百人の出席者は熱心に耳を傾ける。会場ではベトナム、タイ、ドバイ株への投資ガイドブックは飛ぶように売れ、ロシア株投資を扱う証券会社のブースには黒山の人だかりができた。
グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長は04年、日本が円高防止に巨額の為替介入をせざるを得ないのは、日本の投資家には外国より自国の金融商品を好む「ホームバイアス」が特に強い点を指摘した。それからわずか4年。バイアスがウソだったかのように、個人マネーの海外流出が止まらない。
「海外投資を楽しむ会」創立メンバーの作家の橘玲(48)は「名も知らない国の投信を買う方がもうかる時代が続き『国内運用は安心』という迷信は消失した」と言う。その橘の目にも今の海外投資熱は奇異に映る。「長引く低金利で、本来は保守的運用が必要な人まで海外投資に押し出されていないか」と心配が募る。
世界も日本の個人マネーに歓迎一色ではなくなってきた。
口座開設お断り
「通訳付き日本人は口座開設お断り」。香港最大の銀行、香港上海銀行の本店では昨年夏から、言葉の通じない日本人客への口座開設を事実上拒否した。
「日本人ツアー客を一度に数十人連れ込む業者が現れ、窓口業務に支障が出たようだ」と、旅行会社を営む上園良一(47)は言う。上園は口座開設を希望する日本人客には、まだ認める香港上海銀の支店を紹介している。
高利回りのランド建て債で脚光を浴びる南アフリカ共和国。07年の日本の個人向けの債券発行額は129億ランド(2千百億円)と06年の2.7倍に急増した。経営赤字を抱えながら高成長を続ける同国にとって海外からの資金流入は不可欠。だが逃げ足の速いホットマネーが膨らめば自国通貨は不安定になる。
「今のところ規制が必要な段階とは思わないが……」。南アフリカ準備銀行幹部はジャパンマネーに神経をとがらせる。同じく高金利通貨のニュージーランド当局者は、日本からの急激な資金流入に懸念を公に表明している。
戦争や飢饉(ききん)で故国を追われさまよう難民のようなジャパンマネー。受け入れ国にも戸惑いが広がる。それでも国内に十分な投資機会を見いだせない現実が個人を突き動かす。
「では最後の問題。円という通貨だけで資産を持つリスクを挙げてください」
「デフレから抜け出せない」「財政赤字が大きい」――。東大本郷キャンパス。外国為替証拠金取引(FX)の同好会に学生トレーダーたちが集まる。まだゲーム感覚の円売りだが、学生たちの日本への視線は冷めている。メンバーの一人、嶺山友秀(19)は今年成人になるのを待ってFX取引を始めるつもりだ。「日本には国際競争力という考え方が薄い」というのが彼の円売りの理由。グローバル競争にさらされている認識が薄く、改革の歩みも遅い。今の日本の姿を見て嶺山は円を持ち続けることのリスクを感じ取る。
老いも若きも。マネー難民の漂流は続く。 =敬称略
(「YEN漂流」取材班)
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「YEN漂流――縮む日本」
[1] 沈む国と通貨の物語
[2] 元経済圏の足音
[3] 気がつけば途上国
[4] 老若男女 夢持てず
[5] 北畑次官の誤算
[6] 新・通貨ウオーズ
[7] 10ミリ秒 対 2秒
[8] 「CO2本位」時代
[9] 介入大国のDNA
[10] 円が消えた日
[11] 仕送り鎖国の罪
[12] 燕は再び飛んだ
[13] 天使よ振り向け
[14] 円高恐怖 超えて
[15] 磁力ある国へ
[4] 老若男女 夢持てず――78歳マネー難民
【「YEN漂流」縮む日本 08.01.06日経新聞(朝刊)】
海外に資産非難
のどかな水田が広がる金沢市郊外の集落。元公務員の荒木茂(仮名、79)は78歳を迎えた2006年、50年以上続けてきた日本株投資をやめた。持ち株をすべて売り払い、BRICs、東南アジア、東欧など新興国中心の外貨建て投資信託を購入した。今では年金以外の金融資産はすべて外貨建てだ。
総額3千万円を投じた外貨建て投信の純資産額は7千万円と2倍以上に膨らんだ。昨夏以降の米住宅ローン問題で新興国株も一時急落したが「長い目でみれば上がる」とお金を日本に戻すつもりはない。
「少子・高齢化が進む日本の将来に期待できない。この町をみればわかる。勢いがあるのは外国だ」「若者が次々去り、景気もさえないし、国や自治体の借金もいっこうに減らない。78歳で円を卒業した荒木にとってこの国はお金を安心して託せる地ではなかった。
「社会保険庁にお金を預けるより、ベトナムに投資する方が安心です」――。昨年末、投資情報出版社が東京都内で開いた「海外投資祭り」。講師の説明に約7百人の出席者は熱心に耳を傾ける。会場ではベトナム、タイ、ドバイ株への投資ガイドブックは飛ぶように売れ、ロシア株投資を扱う証券会社のブースには黒山の人だかりができた。
グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長は04年、日本が円高防止に巨額の為替介入をせざるを得ないのは、日本の投資家には外国より自国の金融商品を好む「ホームバイアス」が特に強い点を指摘した。それからわずか4年。バイアスがウソだったかのように、個人マネーの海外流出が止まらない。
「海外投資を楽しむ会」創立メンバーの作家の橘玲(48)は「名も知らない国の投信を買う方がもうかる時代が続き『国内運用は安心』という迷信は消失した」と言う。その橘の目にも今の海外投資熱は奇異に映る。「長引く低金利で、本来は保守的運用が必要な人まで海外投資に押し出されていないか」と心配が募る。
世界も日本の個人マネーに歓迎一色ではなくなってきた。
口座開設お断り
「通訳付き日本人は口座開設お断り」。香港最大の銀行、香港上海銀行の本店では昨年夏から、言葉の通じない日本人客への口座開設を事実上拒否した。
「日本人ツアー客を一度に数十人連れ込む業者が現れ、窓口業務に支障が出たようだ」と、旅行会社を営む上園良一(47)は言う。上園は口座開設を希望する日本人客には、まだ認める香港上海銀の支店を紹介している。
高利回りのランド建て債で脚光を浴びる南アフリカ共和国。07年の日本の個人向けの債券発行額は129億ランド(2千百億円)と06年の2.7倍に急増した。経営赤字を抱えながら高成長を続ける同国にとって海外からの資金流入は不可欠。だが逃げ足の速いホットマネーが膨らめば自国通貨は不安定になる。
「今のところ規制が必要な段階とは思わないが……」。南アフリカ準備銀行幹部はジャパンマネーに神経をとがらせる。同じく高金利通貨のニュージーランド当局者は、日本からの急激な資金流入に懸念を公に表明している。
戦争や飢饉(ききん)で故国を追われさまよう難民のようなジャパンマネー。受け入れ国にも戸惑いが広がる。それでも国内に十分な投資機会を見いだせない現実が個人を突き動かす。
「では最後の問題。円という通貨だけで資産を持つリスクを挙げてください」
「デフレから抜け出せない」「財政赤字が大きい」――。東大本郷キャンパス。外国為替証拠金取引(FX)の同好会に学生トレーダーたちが集まる。まだゲーム感覚の円売りだが、学生たちの日本への視線は冷めている。メンバーの一人、嶺山友秀(19)は今年成人になるのを待ってFX取引を始めるつもりだ。「日本には国際競争力という考え方が薄い」というのが彼の円売りの理由。グローバル競争にさらされている認識が薄く、改革の歩みも遅い。今の日本の姿を見て嶺山は円を持ち続けることのリスクを感じ取る。
老いも若きも。マネー難民の漂流は続く。 =敬称略
(「YEN漂流」取材班)
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