電脳筆写『 心超臨界 』

強みは物理的な能力がもたらすものではない
それは不屈の信念がもたらすものである
( マハトマ・ガンディー )

外国人労働者にとって日本の銀行窓口のハードルは高い――木本結一郎さん

2008-01-17 | 08-経済・企業・リーダーシップ
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「YEN漂流――縮む日本」
 [1] 沈む国と通貨の物語
 [2] 元経済圏の足音
 [3] 気がつけば途上国
 [4] 老若男女 夢持てず
 [5] 北畑次官の誤算
 [6] 新・通貨ウオーズ
 [7] 10ミリ秒 対 2秒
 [8] 「CO2本位」時代
 [9] 介入大国のDNA
 [10] 円が消えた日
 [11] 仕送り鎖国の罪
 [12] 燕は再び飛んだ
 [13] 天使よ振り向け
 [14] 円高恐怖 超えて
 [15] 磁力ある国へ


[11] 仕送り鎖国の罪――海外送金網から孤立
【「YEN漂流」縮む日本 08.01.11日経新聞(朝刊)】


手数料1万円

「日本からの送金はとても不便。日本に来た技術者は米国や英国で働いている友人たちをうらやましがっている」。こう不満を漏らすのは、東京都内の人材派遣会社で働くインド人ビジネスマン、アショカ・グプタ(30)。毎月必ず東京・有楽町にあるインド大手銀、インドステイト銀行の東京支店に出向き、故郷の両親に送金する。

約50人のインド人技術者の派遣業務や支援を手掛けるグプタの毎日は忙しい。それでも、必ず有楽町の同銀行まで出向くのは日本の銀行より送金手数料が安いためだ。日本の大手銀行では、インドへの送金に毎回1万円の前後の手数料がかかるが、ステイト銀なら半額以下の4千円ですむ。2006年の1人あたりGDPが785ドル(8万6千円)のインドでは、送金手数料も大きな額だ。

グプタのように安い送金手段があるのは恵まれたほうだ。インド系銀行の日本支店は東京・大阪にしかなく、九州や中部で働くインド人は、日本の銀行から送金する以外の手段は無い。

「日本は外国人労働者に門戸を開きつつある。だが、彼らにとって不可欠のサービスである国際送金会社の米ウエスタン・ユニオン(WU)幹部のイアン・マーシュ(54)は不満をぶつける。

ヒト、モノ、カネが国境を越えて動き回るグローバル化の進展で、世界の資金の流れにも大きな変化が起きている。世界銀行の推計では、世界の出稼ぎ労働者の途上国への送金額は06年は約3千億ドル(約33兆円)に達し、00年の2.3倍に膨らんだ。これは同年の途上国への政府援助額(千40億ドル)と直接投資額(千6百70億ドル)の合計額より多い。

送金マネーの流れを支えるのが、国際送金会社だ。米国などではスーパーやガソリンスタンドなどが副業でこうした送金会社の代理店を営み、最低10ドル程度の手数料で送金できる。

一方、日本の銀行法は「為替業務」を銀行免許を持つ事業者に限定しており、ペルーのように、日本に母国の金融機関が無い国の労働者は邦銀を利用するしかない。邦銀は送金手数料が米国などの民間業者に比べて割高なうえ、平日の昼間に仕事を抜けて銀行に行く必要があり、日本語か英語で煩雑な送金依頼書を記入しなくてはならない。

「外国人労働者にとって日本の銀行窓口のハードルは高い」。在日ペルー人の生活を支援する木本結一郎(59)は言う。日本政府は1998年の外為法改正で内外の資金の流れを完全に自由にしたとしているが、日本で働く外国人労働者からみると、円は稼いでも外に持ち出しにくい通貨だ。

「なんとか日本に市場の開放を迫ってくれ」。WUのマーシュは、中国郵政貯蓄銀行幹部に会うたびに懇願される。同行は世界の中国人留学生への送金を支援するためWUと提携したが、約8万人いる日本の中国人留学生の多くがこの送金網を使えないからだ。


人材確保に直結

割安な国際送金会社に市場を全面開放しないのは「国内の銀行の既得権益を守るためではないか」とこの分野に詳しい弁護士は指摘する。米国では01年の同時テロ以降、テロ資金などの監視を強化しているが、WUのような業者も協力し、海外送金を支えるインフラは健在だ。

日本の外国人労働者の数は約75万人。労働人口に占める比率は約1%。同比率が1-2割に達し、外国からの人口流入を経済成長に活用する米国や英国に比べて大幅に低い。

厚生労働省推計では、30年に日本の労働力人口は今より1千万人以上減る。看護師は4万人が不足、介護職員も14年には40万人-50万人不足する。アジアとの自由貿易協定(FTA)交渉でも労働市場開放が焦点だ。

国際的な人材獲得競争が激しくなる中で、海外送金網などグローバル経済に対応したインフラ整備は国の競争力にもかかわる。「外国人にも優しい円を」を目指すときだ。  =敬称略

(「YEN漂流」取材班)

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