【 このブログはメルマガ「こころは超臨界」の資料編として機能しています 】
「YEN漂流――縮む日本」
[1] 沈む国と通貨の物語
[2] 元経済圏の足音
[3] 気がつけば途上国
[4] 老若男女 夢持てず
[5] 北畑次官の誤算
[6] 新・通貨ウオーズ
[7] 10ミリ秒 対 2秒
[8] 「CO2本位」時代
[9] 介入大国のDNA
[10] 円が消えた日
[11] 仕送り鎖国の罪
[12] 燕は再び飛んだ
[13] 天使よ振り向け
[14] 円高恐怖 超えて
[15] 磁力ある国へ
[6] 新・通貨ウオーズ――読めぬ「ドル一極」の後
【「YEN漂流」縮む日本 08.01.09日経新聞(朝刊)】
ユーロのような単一通貨圏をアフリカにつくる構想が進んでいる。2018年をめどに南アフリカ共和国、ナミビア、ボツワナなど5カ国程度で始動、徐々に14カ国に広げる。「検討は最終局面。我々は前に進む」。「旗を振る南アフリカ準備銀行総裁のティム・ムボウェニ(48)は宣言する。
「ランド通貨圏」
長らく成長から取り残され「失われた大陸」と呼ばれたアフリカ。近年の鉱物資源の値上がりが景色を変えた。金、白金、希少金属の主要産出国の南アは高成長を続け、初の財政黒字に転換。通貨ランドは既にナミビアなど周辺国で流通しており、通貨統合も「ランド通貨圏」が軸になりそうだ。
南米大陸でも1999年に通過危機に陥ったブラジルが息を吹き返した。鉄鉱石輸出が好調で、国際通貨基金(IMF)からの借金も05年末に繰り上げ完済。昨秋には政府系ファンド(SWF)で余資運用に乗り出すことを表明した。
原油高で潤う中東産油国で構成する湾岸協力会議(GCC)は10年にも域内単一通貨発行を目指す。盟主サウジアラビアも世界最大のSWF設立に動き、域内で2兆ドルに迫るオイルマネーの影響力拡大を狙う。
原油高は、先進国から産油国に膨大な富の移転をもたらした。みずほ総合研究所の試算では、05-07年に先進国などから中東、アフリカ、旧ソ連など産油国に移転した所得は累計3兆3千億ドル(約360兆円)。日本の国内総生産(GDP)の7割に相当する。
富の一部はSWFなどを通じ、米住宅ローン問題で傷ついた欧米金融機関に還流する。「金持ち国家」になった新興国は独自通貨圏構想や国家金融戦略を掲げ始めた。新たなマネーナショナリズムは、ドルを基軸通貨としてきた国際秩序をも揺さぶる。
「あれっ、おかしいな」。昨年末。会社員の早瀬浩三(53)は出張先のアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの両替店で異変に気付いた。手持ちのドルを現地通貨ディルハムに替えたところ、公式レートに比べ受取額が1割も少ない。UAEは97年からディルハムをドルに固定しているが、最近の米景気減速とドル安で「ディルハムの対ドル切り上げが近い」とみた外貨両替店やホテルが、公式レートでの受け取りを拒否したためだ。
国際政治の縮図
東西冷戦が終結、旧共産圏の市場経済への統合が始まった90年代。人々が思い描いたのは政治・経済・軍事面で唯一の超大国になった米国主導の、市場経済と民主主義の普及によるグローバル化の進展だった。
だが21世紀に入り景色は大きく変わった。イラク戦争で国際的孤立を深め、経済も傷んだ米国の威信は揺らぐ。一方、99年に通貨統合をなし遂げた欧州は国際政治でも発言力を増している。そして、ドルの揺らぎと資源高を背景に中国、ロシア、中東などの新興国が世界経済でも存在感を高める。
国際政治学者、青山学院大教授の山本吉宣(64)は「冷戦崩壊後に国際社会が思い描いた『民主主義の平和』が曲がり角を迎えている」とみる。冷戦崩壊は米国防費削減など「平和の配当」をもたらした。だがグローバル化による世界景気拡大が資源高を呼び、民主主義の基盤が整わない国にも富が移り、偏狭なナショナリズムや政治的膨張主義に結びつきかねない不安定な状況を招いた。
ドル相場は急降下し米帝国は間もなく崩壊する」。昨年11月、ベネズエラのチャベス大統領はイランのアハマディネジャド大統領と「反米・反ドル」で連帯を誓い合った。ベネズエラは欧米企業を排除し石油事業を国有化、イランは輸出原油の決済通貨をドルからユーロなどに変更し、揺さぶりをかける。
混沌(こんとん)とする21世紀初頭の通貨情勢は、激動する国際政治の写し絵でもある。戦後、政治面では日米同盟、経済面では円・ドル関係を基軸にしてきた日本。基軸通貨ドルの揺らぎは、円にも新たな課題をつきつける。 =敬称略
(「YEN」漂流取材班)
【 これらの記事を発想の起点にしてメルマガを発行しています 】
「YEN漂流――縮む日本」
[1] 沈む国と通貨の物語
[2] 元経済圏の足音
[3] 気がつけば途上国
[4] 老若男女 夢持てず
[5] 北畑次官の誤算
[6] 新・通貨ウオーズ
[7] 10ミリ秒 対 2秒
[8] 「CO2本位」時代
[9] 介入大国のDNA
[10] 円が消えた日
[11] 仕送り鎖国の罪
[12] 燕は再び飛んだ
[13] 天使よ振り向け
[14] 円高恐怖 超えて
[15] 磁力ある国へ
[6] 新・通貨ウオーズ――読めぬ「ドル一極」の後
【「YEN漂流」縮む日本 08.01.09日経新聞(朝刊)】
ユーロのような単一通貨圏をアフリカにつくる構想が進んでいる。2018年をめどに南アフリカ共和国、ナミビア、ボツワナなど5カ国程度で始動、徐々に14カ国に広げる。「検討は最終局面。我々は前に進む」。「旗を振る南アフリカ準備銀行総裁のティム・ムボウェニ(48)は宣言する。
「ランド通貨圏」
長らく成長から取り残され「失われた大陸」と呼ばれたアフリカ。近年の鉱物資源の値上がりが景色を変えた。金、白金、希少金属の主要産出国の南アは高成長を続け、初の財政黒字に転換。通貨ランドは既にナミビアなど周辺国で流通しており、通貨統合も「ランド通貨圏」が軸になりそうだ。
南米大陸でも1999年に通過危機に陥ったブラジルが息を吹き返した。鉄鉱石輸出が好調で、国際通貨基金(IMF)からの借金も05年末に繰り上げ完済。昨秋には政府系ファンド(SWF)で余資運用に乗り出すことを表明した。
原油高で潤う中東産油国で構成する湾岸協力会議(GCC)は10年にも域内単一通貨発行を目指す。盟主サウジアラビアも世界最大のSWF設立に動き、域内で2兆ドルに迫るオイルマネーの影響力拡大を狙う。
原油高は、先進国から産油国に膨大な富の移転をもたらした。みずほ総合研究所の試算では、05-07年に先進国などから中東、アフリカ、旧ソ連など産油国に移転した所得は累計3兆3千億ドル(約360兆円)。日本の国内総生産(GDP)の7割に相当する。
富の一部はSWFなどを通じ、米住宅ローン問題で傷ついた欧米金融機関に還流する。「金持ち国家」になった新興国は独自通貨圏構想や国家金融戦略を掲げ始めた。新たなマネーナショナリズムは、ドルを基軸通貨としてきた国際秩序をも揺さぶる。
「あれっ、おかしいな」。昨年末。会社員の早瀬浩三(53)は出張先のアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの両替店で異変に気付いた。手持ちのドルを現地通貨ディルハムに替えたところ、公式レートに比べ受取額が1割も少ない。UAEは97年からディルハムをドルに固定しているが、最近の米景気減速とドル安で「ディルハムの対ドル切り上げが近い」とみた外貨両替店やホテルが、公式レートでの受け取りを拒否したためだ。
国際政治の縮図
東西冷戦が終結、旧共産圏の市場経済への統合が始まった90年代。人々が思い描いたのは政治・経済・軍事面で唯一の超大国になった米国主導の、市場経済と民主主義の普及によるグローバル化の進展だった。
だが21世紀に入り景色は大きく変わった。イラク戦争で国際的孤立を深め、経済も傷んだ米国の威信は揺らぐ。一方、99年に通貨統合をなし遂げた欧州は国際政治でも発言力を増している。そして、ドルの揺らぎと資源高を背景に中国、ロシア、中東などの新興国が世界経済でも存在感を高める。
国際政治学者、青山学院大教授の山本吉宣(64)は「冷戦崩壊後に国際社会が思い描いた『民主主義の平和』が曲がり角を迎えている」とみる。冷戦崩壊は米国防費削減など「平和の配当」をもたらした。だがグローバル化による世界景気拡大が資源高を呼び、民主主義の基盤が整わない国にも富が移り、偏狭なナショナリズムや政治的膨張主義に結びつきかねない不安定な状況を招いた。
ドル相場は急降下し米帝国は間もなく崩壊する」。昨年11月、ベネズエラのチャベス大統領はイランのアハマディネジャド大統領と「反米・反ドル」で連帯を誓い合った。ベネズエラは欧米企業を排除し石油事業を国有化、イランは輸出原油の決済通貨をドルからユーロなどに変更し、揺さぶりをかける。
混沌(こんとん)とする21世紀初頭の通貨情勢は、激動する国際政治の写し絵でもある。戦後、政治面では日米同盟、経済面では円・ドル関係を基軸にしてきた日本。基軸通貨ドルの揺らぎは、円にも新たな課題をつきつける。 =敬称略
(「YEN」漂流取材班)
【 これらの記事を発想の起点にしてメルマガを発行しています 】