電脳筆写『 心超臨界 』

人の心はいかなる限界にも閉じ込められるものではない
( ゲーテ )

介入で相場は管理できるという考え方が根強かった――2人の予言者

2008-01-16 | 08-経済・企業・リーダーシップ
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「YEN漂流――縮む日本」
 [1] 沈む国と通貨の物語
 [2] 元経済圏の足音
 [3] 気がつけば途上国
 [4] 老若男女 夢持てず
 [5] 北畑次官の誤算
 [6] 新・通貨ウオーズ
 [7] 10ミリ秒 対 2秒
 [8] 「CO2本位」時代
 [9] 介入大国のDNA
 [10] 円が消えた日
 [11] 仕送り鎖国の罪
 [12] 燕は再び飛んだ
 [13] 天使よ振り向け
 [14] 円高恐怖 超えて
 [15] 磁力ある国へ


[9] 介入大国のDNA――それでも為替は動く
【「YEN漂流」縮む日本 08.01.13日経新聞(朝刊)】


2人の予言者

老経済学者は静かに語り始めた。

「1ドル=360円を変えない、という考え方を見直すきっかけを与えたかった。なぜ固定相場制にしがみつくのだろうかと」

1971年7月。当時42歳だった東京大学教授の小宮隆太郎(79)は仲間の経済学者35人とともに、1ドル=360円で固定していた円相場を小刻みに切り上げる為替政策の抜本改革の提言をまとめた。

この提言は、政府・経済界から大きな批判を浴びる。大蔵省は「基礎的不均衡はなく、調整の必要はない」とする反論を発表。経済同友会副代表幹事だった長谷川周重(故人)は「為替相場が毎月変動するようでは商売もできなくなる」とかみついた。「世の中は為替が動くこと事態を怖がっていた」。提言メンバーだった東大名誉教授の貝塚啓明(73)は証言する。

その1カ月後、米政府は金・ドルの交換の停止を発表、これを機に固定相場制は崩れ、日本は「海図なき航海」に放り出される。

85年7月。東海銀行調査部長だった水谷研治(74)は行内で「要注意人物」に指定された。

「1ドル=150円の世界」。当時の円相場は250円前後。水谷は調査リポートで、経済実態と乖離(かいり)した相場に疑問を投げかけた。これに主要取引先のトヨタ自動車が猛抗議した。頭取から呼び出された水谷は「君は本当にこの相場が実現すると思っているのかね」と詰問された。

その2カ月後、プラザ合意で日米欧当局はドル高是正を打ち出し、円高・ドル安が急激に進行する。小宮と水谷、いずれの予言もすぐに現実になったり、現実がさらに先にいくのだが、最初は激しい批判にさらされる。その背後には「相場は市場が決める」のではなく「政府が決める」という官主導国家の体質がのぞく。かつて円高のたびに産業界などから円売り介入を求める大合唱が起こった。介入で相場は管理できるという考え方が根強かったからだ。

だが、世界はどんどん動いていった。85年のプラザ合意から87年のルーブル合意まで、日米欧が介入で相場の管理を試みた局面もあったが、結局挫折し、90年代後半には米欧は脱介入を鮮明にする。米国は2000年9月、欧州連合(EU)は同年11月から介入をしていない。


規制を好む民

03年7月、当時米財務次官だったジョン・テーラー(60)は、財務省財務官の溝口善兵衛(61)から円・ドル・ユーロの相場管理案を持ちかけられたが、即座に拒否した。「主要国は介入しないのが最近の流れだ」とテイラーは言う。

03-04年に日本は円高防止のため35兆円にのぼる巨額介入を実施したが、その後4年弱にわたり介入をしていない。だが、市場での競争を恐れ官の介入を好む体質は、日本のあちこちにまだ残る。

「ぜひ規制をお願いします」。運転代行業の業界団体は昨年、最低料金規制の導入を国土交通省に要望した。飲酒運転取り締まり強化を受け、飲酒時に車の運転を代わる運転代行業界は急拡大中だ。新規参入で競争が進み、料金も下がっている。利用者にはメリットも多いのだが、業界は保護を求めて国に頼る。要望を受けた国交省側は「規制するほど公共性はないのでは」とむしろ困惑気味だ。

日本総合研究所の試算では、教育、水道など日本の官製市場の規模は20兆円超。家電の国内流通市場の2倍だ。規制緩和や市場化の行き過ぎを指摘する声はあるが、まだまだ官が支配する領域は多い。官依存が強すぎると、生産性は上がらず競争力も損なわれる。

「口先介入の効果が長続きするとは思えない」。07年12月19日、米財務省がまとめた為替報告書は日本の為替政策についてこう記した。例示されたのは英紙に載った首相、福田康夫(71)の「急激な円高は望ましくない」との発言。財務省幹部は「首相発言の真意がうまく伝わっていない」と不満げだが、介入大国のイメージを消すのは容易ではない。  =敬称略

(「YEN」漂流取材班)

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