【 このブログはメルマガ「こころは超臨界」の資料編として機能しています 】
「YEN漂流――縮む日本」
[1] 沈む国と通貨の物語
[2] 元経済圏の足音
[3] 気がつけば途上国
[4] 老若男女 夢持てず
[5] 北畑次官の誤算
[6] 新・通貨ウオーズ
[7] 10ミリ秒 対 2秒
[8] 「CO2本位」時代
[9] 介入大国のDNA
[10] 円が消えた日
[11] 仕送り鎖国の罪
[12] 燕は再び飛んだ
[13] 天使よ振り向け
[14] 円高恐怖 超えて
[15] 磁力ある国へ
[14] 円高恐怖 超えて――企業が逃げない環境整備
【「YEN漂流」縮む日本 08.01.20日経新聞(朝刊)】
「産業界は円高恐怖症を克服した」。日本経団連会長の御手洗冨士夫(72)は、昨年11月の記者会見で言い切った。ニクソン・ショック、プラザ合意と円高に翻弄された日本企業。本当に恐怖を克服したのだろうか。
想定1ドル=60円
「今後は代金をバーツ建てで払いたい」。タイに拠点を置く日系の中小部品メーカーは最近、デンソーやホンダ系列の自動車部品大手から、相次いで持ちかけられた。従来は円やドルで代金を払っていたが、為替リスクを避けるため現地通貨建てに切り替えるという。この中小メーカーは、円高でタイに生産拠点を移した大手メーカーの後を追って進出した。だが為替リスク管理を強化する大手企業はここへきて、下請け企業の為替リスクまで面倒をみるのをやめたのだ。
タイ・バーツ、マレーシア・リンギ、インドネシア・ルピア――。国際協力銀行が融資や社債の保証を通じてアジアの日系企業に供給した現地通貨建て資金は、合計約550億円に達する。為替リスク回避のため円と決別し資金の現地化を進める日本企業が急増している。
中国向け貿易などで空前の好況に沸く海運業界。商船三井社長の芦田昭充(64)はそれでも気を緩めない。2008年3月期の連結純利益千8百億円の8割を内部留保に回し「10年3月期までに自己資本を1兆円にする」と決めている。
芦田が目指す1兆円の自己資金はいわば「円高対応準備金」。商船三井はこの30年、為替と闘い続けた。海運会社の収入はドル建てで相場変動が直撃する。プラザ合意前の1984年に2千5百人いた日本人乗務員は今は約260人。全乗組員の96%はドル払いの外国人船員だ。晴れの日に傘を用意するような自己資本増強は「1ドル=60円にも耐える」ためだ。
日本企業は為替リスクをいかに減らすかに腐心してきた。その成果は出ているが、それでもリスクから完全には逃れられない。
東芝専務の村岡富美雄(59)は「ドル・円の社内の輸出入の貿易収支を十年かけて均衡させた」と胸を張る。海外と取引でドルの受け払いを均衡させ、為替リスクゼロに近づいたが、欧州事業が北米と並ぶ稼ぎ頭に成長するにつれ、ユーロの変動リスクも無視できなくなってきた。
グローバル化する事業展開。日本企業には欧米企業に比べ決定的なハンディがある。自国通貨が米ドルやユーロのような国際決済通貨ではないことだ。
法人税率は突出
日本の円建て比率は37%。円が優勢だったアジア向け輸出も06年後半からドル建てが円建てを上回った。欧州では貿易全体の7割弱が欧州域内で決済通貨はユーロだ。「アジアでも共通通貨など通貨安定の枠組みを考えないと日本企業の競争力は損なわれる」と一橋大教授の小川英治(50)は警告する。
競争力が高くグローバル展開する日本企業は、為替リスクと闘いながらも、付加価値の高い技術開発や生産を国内に残そうと努力している。それでも日本がグローバル化に対応した環境整備を怠れば、力のある企業から先に国を離れていくリスクは高まる。
米財務省は昨年末の報告書に、法人実効税率の引き下げ案を盛り込んだ。米国の連邦と州をあわせた法人実効税率は39%と先進国では日本(約40%)に次いで高い。ドイツなど欧州が競争力強化のために法人税率下げに動くなかで、米国も危機感を持ち始めた。米国が引き下げに動けば、先進国の中では日本の税率の突出が鮮明になる。
かつて円高のたびに産業空洞化の議論が起きた日本。企業の多くは海外現地生産を拡大しながらも、まだ日本を捨ててはいない。だが今後は日本の人口は減り、放っておけば成長力は鈍り、市場も縮小、投資機会も乏しくなる。
アジア地域の通貨・金融協力にとどまらず、税制・財政・社会保障など多くの改革で、国内だけでなくグローバル競争の視点を取り入れて進めないと、企業は本当に日本と円を見捨てるかもしれない。 =敬称略
(「YEN漂流」取材班)
【 これらの記事を発想の起点にしてメルマガを発行しています 】
「YEN漂流――縮む日本」
[1] 沈む国と通貨の物語
[2] 元経済圏の足音
[3] 気がつけば途上国
[4] 老若男女 夢持てず
[5] 北畑次官の誤算
[6] 新・通貨ウオーズ
[7] 10ミリ秒 対 2秒
[8] 「CO2本位」時代
[9] 介入大国のDNA
[10] 円が消えた日
[11] 仕送り鎖国の罪
[12] 燕は再び飛んだ
[13] 天使よ振り向け
[14] 円高恐怖 超えて
[15] 磁力ある国へ
[14] 円高恐怖 超えて――企業が逃げない環境整備
【「YEN漂流」縮む日本 08.01.20日経新聞(朝刊)】
「産業界は円高恐怖症を克服した」。日本経団連会長の御手洗冨士夫(72)は、昨年11月の記者会見で言い切った。ニクソン・ショック、プラザ合意と円高に翻弄された日本企業。本当に恐怖を克服したのだろうか。
想定1ドル=60円
「今後は代金をバーツ建てで払いたい」。タイに拠点を置く日系の中小部品メーカーは最近、デンソーやホンダ系列の自動車部品大手から、相次いで持ちかけられた。従来は円やドルで代金を払っていたが、為替リスクを避けるため現地通貨建てに切り替えるという。この中小メーカーは、円高でタイに生産拠点を移した大手メーカーの後を追って進出した。だが為替リスク管理を強化する大手企業はここへきて、下請け企業の為替リスクまで面倒をみるのをやめたのだ。
タイ・バーツ、マレーシア・リンギ、インドネシア・ルピア――。国際協力銀行が融資や社債の保証を通じてアジアの日系企業に供給した現地通貨建て資金は、合計約550億円に達する。為替リスク回避のため円と決別し資金の現地化を進める日本企業が急増している。
中国向け貿易などで空前の好況に沸く海運業界。商船三井社長の芦田昭充(64)はそれでも気を緩めない。2008年3月期の連結純利益千8百億円の8割を内部留保に回し「10年3月期までに自己資本を1兆円にする」と決めている。
芦田が目指す1兆円の自己資金はいわば「円高対応準備金」。商船三井はこの30年、為替と闘い続けた。海運会社の収入はドル建てで相場変動が直撃する。プラザ合意前の1984年に2千5百人いた日本人乗務員は今は約260人。全乗組員の96%はドル払いの外国人船員だ。晴れの日に傘を用意するような自己資本増強は「1ドル=60円にも耐える」ためだ。
日本企業は為替リスクをいかに減らすかに腐心してきた。その成果は出ているが、それでもリスクから完全には逃れられない。
東芝専務の村岡富美雄(59)は「ドル・円の社内の輸出入の貿易収支を十年かけて均衡させた」と胸を張る。海外と取引でドルの受け払いを均衡させ、為替リスクゼロに近づいたが、欧州事業が北米と並ぶ稼ぎ頭に成長するにつれ、ユーロの変動リスクも無視できなくなってきた。
グローバル化する事業展開。日本企業には欧米企業に比べ決定的なハンディがある。自国通貨が米ドルやユーロのような国際決済通貨ではないことだ。
法人税率は突出
日本の円建て比率は37%。円が優勢だったアジア向け輸出も06年後半からドル建てが円建てを上回った。欧州では貿易全体の7割弱が欧州域内で決済通貨はユーロだ。「アジアでも共通通貨など通貨安定の枠組みを考えないと日本企業の競争力は損なわれる」と一橋大教授の小川英治(50)は警告する。
競争力が高くグローバル展開する日本企業は、為替リスクと闘いながらも、付加価値の高い技術開発や生産を国内に残そうと努力している。それでも日本がグローバル化に対応した環境整備を怠れば、力のある企業から先に国を離れていくリスクは高まる。
米財務省は昨年末の報告書に、法人実効税率の引き下げ案を盛り込んだ。米国の連邦と州をあわせた法人実効税率は39%と先進国では日本(約40%)に次いで高い。ドイツなど欧州が競争力強化のために法人税率下げに動くなかで、米国も危機感を持ち始めた。米国が引き下げに動けば、先進国の中では日本の税率の突出が鮮明になる。
かつて円高のたびに産業空洞化の議論が起きた日本。企業の多くは海外現地生産を拡大しながらも、まだ日本を捨ててはいない。だが今後は日本の人口は減り、放っておけば成長力は鈍り、市場も縮小、投資機会も乏しくなる。
アジア地域の通貨・金融協力にとどまらず、税制・財政・社会保障など多くの改革で、国内だけでなくグローバル競争の視点を取り入れて進めないと、企業は本当に日本と円を見捨てるかもしれない。 =敬称略
(「YEN漂流」取材班)
【 これらの記事を発想の起点にしてメルマガを発行しています 】