画家の笹尾光彦さんに
「ほぼ日曜日」のロゴをお願いしたいんです、
と、ほぼ日のデザイナー平本・森から
聞いたとき、
「どんなロゴになるんだろう」と思いました。
すこし意外な気もしたし、
にわかにはイメージできなかったのです。
ただ、それがどんなものになるとしても、
きっとぼくらは
「歓迎されている」と感じるだろうなあ、
と思いました。
代表的な作品「レッドソファ」をはじめ、
笹尾さんの絵を前にすると、
「ようこそ」という声が聞こえてきます。
ようこそ、来てくれました。
さあさあ、どうぞ、おすわりください。
あらかじめ、手がさしのべられている。
最初に、ほほえみかけている。
きっと、笹尾さんの絵みたいなロゴに
なるだろうと思いました。
いちばんはじめのミーティングでは、
府中にあるご自宅の2階、
キャンバスだらけのアトリエにうかがい、
何時間もかけて話しました。
ぼくたちが、一方的に、話をしました。
笹尾さんから、
これまでの社内の話し合いで出た、
トピック、イメージ、アイディアのかけら、
言葉の断片、ボツ案、くだらない冗談‥‥
何でもいいから、
このテーブルのうえにぶちまけてほしいと
言われたからです。
きれぎれで、系統だっておらず、
互いに矛盾さえしているその混沌のなかから、
笹尾さんは、
糸井重里による「ほぼ日曜日」という名称と、
「わからない。」というキーワードを
ひろいあげ、
さまざまな角度からながめたりしては、
おもしろがってくれました。
そして、静かに興奮してくださいました。
のちに、ぼくらをびっくりさせることになる、
笹尾さんの「ほぼ日曜日」の世界観は、
その日の夜のうちに、完成していたそうです。
はい、笹尾さんが考えてくれたのは、
ただの「ロゴ」では、ありませんでした。
それは、ひとつの「世界観」でした。
ロゴ自体のつくりは、極めてシンプルです。
角の丸い既成のフォントで、できています。
個性のきわだつ、「つくり文字」ではなく。
あとから自由に展開できるように、
どんなコンテンツでも、包み込めるように。
そこへ「5脚の椅子」が、添えられました。
対話の象徴としての、
ようこそという気持ちの表現としての。
おいおい発表されていくと思いますが、
ロゴから派生して、
キービジュアル、空間の装飾、
イメージムービー、ちいさなグッズから、
お客さまの席にいたるまで、
さまざまに、たのしい提案がありました。
ひとつひとつに、おどろきがありました。
ぼくらはもう、学ぶことばかりです。
今回のクリエイティブでは、
「画家・笹尾光彦」を前に出さないこと、
そのことも徹底したそうです。
可能性に満ちた空間のロゴに、
誰かの色をつけるのはよくないんですと、
そう、おっしゃっていました。
56歳で画家に転身される以前は、
広告業界で、ながく
アートディレクターをしていた人の判断だと
思いました。
そして「ここを、あなたにお任せします」と
たのまれた仕事で自分を消すなんて、
なかなかできることではないとも思いました。
ただ、ロゴ自体からは、
「誰かの色」や「気配」は消されていますが、
ぼくらチームの仲間にしてみると、
笹尾さんという人の人柄が、にじみ出ている。
笹尾さんの絵とまったく同じだと思いました。
あらかじめ、手がさしのべられている。
最初に、ほほえみかけている。
なりたい自分たちのすがたとかさなるロゴを、
つくってくださいました。
笹尾さんからいただいた色とりどりの提案を、
どこまで実現できるかは、
ぼくたち「ほぼ日」のちから次第です。
笹尾さんご自身は、ぶあついプレゼン資料‥‥
というより、
開けば音楽の鳴り出すようなたのしい絵本を
ぼくらにポイと手渡すや、
「ぼくの仕事はここまで。あとは、よろしく」
と言って、アトリエに戻っていきました。
ご自身22回目の個展のための作品制作が、
ことしも、
78歳の笹尾さんを、待っているからです。