Zapf 2004-2011

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今に続くいろんなことが芽吹いた季節

「明日の記憶」萩原浩

2005年05月21日 | book

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主人公は広告代理店の営業部長50歳。最初はちょっとひどい物忘れ程度で、職場で笑われる程度だったのが徐々に異常と思える状態に。神経科での診断結果は若年性アルツハイマーだった。

もともと人並み以上の健忘癖で、生活や仕事に支障を感じている私にとっては、どうしても読みたい小説だった。今までも冗談で自分のことを「アルツ君」などと茶化していたが、この本を読んで、自分がこの病気に対して何ら正しい知識もないまま、偏見だけで冗談のネタにしていたことを恥じる。

・アルツハイマー病と、それ例外の痴呆(という言葉もなくなるようだが)の違い
・アルツハイマーは治療法のない病気であること
・アルツハイマーは記憶だけでなく人格も同時に破壊される病気であること
・アルツハイマーは死と直結する病気であること
分かっているようで知らなかった事実を噛みしめながら読み進むことになる。

誰もが持つ感想だと思うが、この小説は「アルジャーノンに花束を」と多くの類似性を持つ。一般にはアルツハイマーの患者にとって、日記を書くという行為はかなりの困難を要する行為だそうだが、あえて病状の進行を日記で語らせるということで、この小説がアルジャーノンへの一種のオマージュとなっていることが伺える。
ただし、この小説ではアルジャーノンの前半部分はない。あるのは後半の失われていく記憶だけ。アルジャーノンは「ファンタジー」だったが、この小説はスリラー、もしくはサイコだ。徐々に記憶が失われていくということが、徐々に肉体を切り刻まれていくことと、それほど違わないことに気づかされる。

文章はそれほど上等ではないが、適度に軽く、深刻さが必要以上に滲まないようになっている。小説全体は中年夫婦のラブストーリーと評されることもあるだろう。あちこちの書評で言われているようにラストは大変美しい。
でも、私には本当に恐ろしい話だったよ。