Zapf 2004-2011

2000年代の暮らし。自転車・ゴルフ・Yセツ・城・リコーダー....
今に続くいろんなことが芽吹いた季節

船に乗れ!  藤谷治

2010年05月19日 | book
一番楽しかった自分の高校・大学時代の記憶が薄いんです。

もちろん、大まかな出来事(オーケストラ部に所属して、何年にどの曲を弾いた)みたいなことはだいたい覚えています。そこそこ写真も残っているので、別に問題はないのですが、いまひとつそのころの日常生活の中の「愉快なエピソード」的な記憶の残り方が普通の人より足りない気がしています。

その頃の友人と久方ぶりに再会したりすると、楽しい昔話に花が咲くことは咲くんですが、どうも私の方があまり話せる思い出がなく、友人達が語る「あの時」をもっぱら聞くだけになることが多いです。そして話の半分くらいは、言われても実感として記憶の風景が蘇ってこない。

ああ、そうか、そこでそんな風に生きていた自分がいたんだなあと、人の記憶から過去の自分を構築する感じ。

わがままで、やんちゃで、人と違うことを言いたくて、ちょっとナイーブ(笑)な私が、私でない別の人の記憶の中で息づいています。なんか不思議だね。



さて、そんな記憶の薄い私の記憶の殻を叩き割ってぐずぐずの想い出を引きずり出したのが、この三冊。



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ちょっと他人より自分が賢いように勘違いしている自意識まみれの高校生のチェロ男子が、音楽と恋愛の波間に翻弄されつつ苦悩する青春小説。

あまりにも30ウン年前のオノレとかぶる部分が多くて、ちょっと参ったなあと思いながらも、一気に3冊読みました。

室内楽(メンデルスゾーンのPf Trioの1番)や、オーケストラ曲(リストの『レ・プレ』)なんかの譜読みから練習風景が、かなり克明に、かつ無駄にリアルに描かれていて、それも一般の人が普通使わない音楽用語が特に解説もなく普通に使われているので、これって一般の人にどこまで伝わるんだろうと心配になるくらい。

それが筋書きに大いに関係するかというと、まったくそうではないので、別に心配することはないんだろうな。とは言え、オケ経験者はこのあたりの描写は面白いんじゃないでしょうかね。
私は途中から書かれている曲のスコアを出してきて、小説に出てくる「○○小節のホルンのソロからアードゥアに転調して」みたいな台詞を、楽譜と確認しながら読みました。(やらしい?)

バイオリンの少女との恋バナも、途中までは甘酸っぱくていいんですよ。

お互い惹かれあっているのに、不器用に音楽の話しかできない喫茶店。

主人公が彼女をオペラに行かないか誘う場面のウブなやり取りは、読んでいて恥ずかしくてうれしくて、思わず奇声を発してしまうほど。(1巻の最後のところだ。読んでくれ)

この辺までが、私にとってのこの小節のピークかな。

2巻の途中からは、私にはつまらなかったです。
つまらないんじゃないな。展開が気に入らない。好きでないお話。

うれし恥ずかし甘酸っぺーは、もう最後まで出てきません。

「青春もの」なんで、挫折や苦悩はつきものなんだけど、1巻がキラキラしていただけに、中盤以上のぐだぐだ感や、どうにも共感しずらい各登場人物の想い、一番いけない偽善的で饒舌な哲学薀蓄教師。

書き手にはいろいろ思惑もあってのことでしょうが、私にはなぜこういう面白い設定の中で暗い話を書きたいのか。意味わかんなかったです。たぶん書きたかったから書いたんだろうけど。


とはいえ、そこそこ読者にも恵まれたようで、わりかし評判いいですよね。
おめでとうございます。

盗難された作者のチェロも一昨日発見されたみたいで、まあ終わりよければすべて良しかな。

オケ経験者、オケ内恋愛経験者は(こんだけ貶しておいてなんですが)一読をお勧めします。
練習や譜読みや嫌味な指揮者って物語になるんだよ。





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関係ないけど僕のチェロ。


小説に出てくる「レ・プレリュード」は、大学2年の春の定期演奏会、だったかな。
何考えて弾いてたのかな。