麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

年齢の

2024-04-04 19:10:59 | 短歌

 

年齢のかさみしゆえにもうこれで限界という葉書が届く

今月の詠草を最終として未来短歌会を脱会するという葉書が届く

「笹短歌ドットコム」また「夜ぷち」に和菓子のごとき君の名ありき

笹欄立ち上げ二〇一二年十月号に君の名を見きうれしかりしよ

幾度かバレンタインのチョコレート贈りくれたりうれしかりしよ

数多いる歌友のなかでただひとりわが名を歌に詠みくれしひとよ

一度も出会いしことは無かりしも電話で話したことはあったな

ウェブログに書き込まれたる励ましのコメント読めば君を偲ばゆ

急に気が変わったなんて言っちゃって戻って来たっていいんだよ、おはぎさん

途切れとぎれの夜の雨音を聞きながらお湯で薄めたたジン飲んでいる


  ※ ルビ  幾度(いくたび)      5首目
  ※ ルビ  数多(あまた)       6首目
  ※ ルビ  一度(ひとたび)      7首目


_/_/_/ 未来4月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦1月号

2024-04-04 19:05:25 | 短歌記事

未来4月号からもう1年間、工房月旦を執筆します。
担当は、紀野・高島・飯沼・江田、各選歌欄です。

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工房月旦1月号    鈴木麦太朗

  四十年庭に咲きたる木犀をわたしの義理
  のおとうとと思ふ    有村 桔梗 
 長く庭に咲いている木犀を血縁のない親族
である「義理のおとうと」と捉えたところに
立ち止まらざるを得なかった。近過ぎず遠過
ぎず、触れることの許されないもの。何か特
別な思い入れのある樹だったということだろ
うか。
  着物姿のコーヒー店のママさんのきりき
  りしやんとして桔梗さく 高田 芙美 
 言葉の斡旋が行き届いた文句なくいい歌。
的確で個性的なオノマトペは心地よく、その
音韻から「桔梗さく」を導き出しているのも
うまい。むろん桔梗の有り様はママさんの立
ち姿につながっている。
  映画観て髪を切つては昼を食べ洋服見て
  は買はずに帰る     薮内 栄子 
 行動の羅列が面白いのと同時に調子を整え
るように挟み込まれた副助詞の「は」が効い
ていて、読んで心地よい歌となっている。結
句のウイットもいい。
  いつまでも夏日は続きピーマンと茄子を
  たくさんもらう十月   黒川しゆう 
 昨今の地球沸騰化を捉えた歌と言っていい
だろう。収穫のよろこびのなかにピーマンと
茄子が限りなく増えていくイメージを孕んで
いて恐ろしさもある。
  みつしりと中身のつまつた白雲のふちを
  焦がして月あらはれる  峰  千尋 
 食べ物、具体的に言えば目玉焼きが夜空に
浮かんでいるような描写が楽しい。「みつし
りと」「ふちを焦がして」といった句がうま
く作用して歌を魅力的にしている。
  洋画家の昼寝は長く、客来れば叩き起こ
  すのも私の役目     河原美穂子
 作者はギャラリーの案内の仕事をしている
のだろう。ギャラリーと言えば清閑とした場
所という印象があるが、裏ではこういった事
も起こっているという事実をありのままに提
示している。現場を知らないと出来ない貴重
なリアリティの歌である。
  シャーベットグリーンにふくらむカーテ
  ンの菩提樹は抱くははそはの母
              千葉 弓子 
 作者の母親はたわむれにカーテンに身を包
んでみたのだろう。上句の「シャーベットグ
リーン」という色名の軽やかさと下句の重厚
な感じとの対比が印象的だ。また、菩提樹の
大きな樹形と母のイメージとの呼応も効いて
いる。
  上は横、下には縦の縞縞の珍妙なれどき
  ょうは在宅       安保のり子 
 さても面妖なる生き物かな、と思ったが最
後の「在宅」で合点がいった。たしかに上下
ちぐはぐな服装でも外出しなければ大丈夫だ。
  日曜の雨はひとしくふりそそぐ隣のあな
  たに遠くのわたしに   吉村 奈美 
 言うまでもなく下句の対句がこの歌の要諦
である。物理的にはパートナーと隣り合って
いるのだが心は離れている(と感じている)。
精神的にももっと寄り添いたいという願望が
あるのだろう。
  受け取れるトレイを持ちて店内へ睨みを
  利かせ踏み出す一歩   服部 一行 
 マクドナルドに出向いたときのことを詠ん
だ連作の三首目。静かな席を選んで作業(お
そらく作歌)をしようとしているのだろう。
「睨みを利かせ」に実感があってその情景が
ありありと目に浮かんでくる。

 

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工房月旦12月号

2024-04-04 19:00:27 | 短歌記事


未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦12月号    鈴木麦太朗

  ほんにちひさな骨壺だつたゆふぐれは残
  りの骨のゆくへを思ふ  藤田 正代 
 初句二句のモノローグと下句の思慮の間に
「ゆふぐれ」を置くことで、作者と「ゆふぐ
れ」とが混然一体となったような、不思議な
感覚が生まれている。
  春の夜の闇に木目より生るる猫睦みて腹
  を見せるものあり(卯月) 柏原 怜子
 「木目より生るる猫」とは何とも奇怪であ
るが一連の歌は版画を見て作られたものと分
かれば納得がいく。斎藤茂吉の「地獄極楽図
」に通ずるものがあり面白く読んだ。
  まだ蓑をまとはぬ虫の垂れ下がる父よ母
  よと夜ごと鳴くらむ   上條  茜 
 ミノガが幼虫から蛹へと変態するところを
捉えた歌。下句の表現が秀逸。幼虫に仮託し
て作者の心情を描出したのかもしれない。
  グラッと沸きそのまま火を止め十五分ど
  んな日もある半熟卵   北野 幸子 
 「どんな日もある」がこの歌の肝であろう
。半熟卵のレシピのなかにこの七文字を差し
込む手際に感服した。
  部屋中を探しさがしたシニアグラスあら
  前髪に留めてあったわ  丸山さかえ 
 われら高齢者にはありがちな光景。下句の
工夫により諧謔味のある歌に仕上がった。
  手の甲をすべらせ位置を確かめて目薬の
  瓶を水平に置く     細沼三千代 
 枕元だろうか。見えにくい場所に目薬の瓶
を置いている場面だろう。ていねいな描写に
より情景がありありと伝わってきた。
  病床の子規食べつくす蜜柑十個いかにも
  食べそう旨かりしかな  秋本としこ 
 『仰臥漫録』を読むと子規の旺盛な食欲に
驚く。「蜜柑十個」という記述はあったかど
うか、定かではないが、あっても不思議はな
い。蜜柑を通して子規と心通わせたひととき
が歌に結実したのだろう。
  人生は吾だけのものだ缶詰にされたトマ
  トを鍋へと放つ     酒匂 瑞貴 
 初句二句の言挙げとその後の叙景により成
り立っている歌。前向きな言葉の裏にうっす
らと哀感が滲んでいるように感じられた。
  おそらくは豆腐とわかめ 汁だけの味噌
  汁をまたひと口と噛む  紺野ちあき 
 虫垂炎のため具入りの味噌汁を飲むことが
できない作者。早く固形物を食べられるよう
になりたいのだろう。具を想像したり噛んじ
ゃったりしているのが面白い。
  兄姉もおとうと妹もう亡くてわたくしひ
  とりお月見してる    江口マサミ 
 天体は亡きひとの魂に通じるものがある。
月を見ることで兄弟姉妹のことを偲ぶ感じは
よくわかる。
  酔の字を入れられなくてごめんねと新し
  い位牌に手を合わす   氏橋奈津子 
 故人が酒好きだったことが端的に伝わる。
仏教的には戒名に「酔」の字を入れるのは難
しそうではあるが……。
  馬追虫と似ても似つかぬゴキブリの髭も
  そよろに秋風に揺れ   赤木  恵 
 長塚節の「馬追虫の髭のそよろに来る秋は
まなこを閉ぢて想ひ見るべし」の本歌取り、
と言うよりパロディーと言った方がいいだろ
うか。ちょっと笑ってしまった。
  おえつって仮名に開くとどう見ても吐い
  てるよねとずっと笑った 西村  曜 
 たしかに仮名だと吐いてる感がある。結句
でバランスを取っているのが巧みだ。

 

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工房月旦11月号

2024-04-04 18:58:12 | 短歌記事


未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦11月号    鈴木麦太朗

  パクチーがよけられた皿さげるときうか
  ぶあの日のビールのぬるさ 飯豊まりこ
 視覚の記憶から温度の記憶を呼び起こして
いるのが工夫であり印象深い。
  とび箱の中に隠れる夢をみてそれから数
  年間の真夜中      太代 祐一 
 ひたすらに暗い世界が続いている様を表し
た。誇張表現が活きている。
  連絡を待ちつつ直すしろくまの鼻のフェ
  ルトの小さな歪み    氏橋奈津子 
 「連絡」と「小さな歪み」が響き合ってい
て何か不穏な感じがある。
  兄さんの鷲鼻 すこし生きづらく壁にぶ
  つけたりしたでせう。好き 新井 きわ
 部分をていねいに述べることで「兄さん」
への惜しみない愛情が伝わってきた。
  友達の嘔吐物を片付けてやり平気でいた
  ら叱られたっけ     和田 晴美 
 褒められることはあっても叱られることは
なさそうに思うが……。気になる歌だ。
  ハイいいですとためらいながら返事して
  義歯填め込みはやっと終了 赤木 恵 
 「ためらいながら」にその時の感覚が集約
されていて状況がよくわかる。
  寿がきやのスープの面にネギの輪が偶然
  ハート描けば掬う    藤島 優作 
 微笑ましくこころ温まる感じの歌。結句を
言い過ぎずにまとめたのがいい。
  ゴーヤーを切ればどこからにんじんにな
  るのだろうか、みたいな天気 西村 曜
 独特な比喩。はっきりしない天気なのだろ
う。付け句の題材にすると面白そうだ。
  雨傘を開いてできた空間は雨の匂いと私
  の自由         岡田 淳一 
 結句の意外性にしびれた。世の男性の悲哀
を感じたのは私だけだろうか。
  七つある信号青に変わり行くわが越ゆる
  なき夕ぐれの道     西城 燁子 
 どこか懐かしいような風景が目にうかぶ。
「七つ」がちょうどいい塩梅だ。
  制服を着て教室に来る九月 きみはきの
  ふの雲を秘むるか    三田村広隆 
 謎めいた感じの内容も良いが、カ行の音を
巧みに使った調べの良さに注目した。
  「あにきー」と声にするときの甘やかさ
  三男坊の夫の口から   野口 道子 
 パートナーの意外な一面をみたときの感情
をうまくまとめている。
  中一で故郷離れる汽車に乗りそれからず
  っと旅をしている    さかき 傘 
 「人生は旅」という普遍的な事象を詠んだ
歌だろう。「中一」にリアリティがある。
  うごかざる水鳥の眼とわれの眼の出会い
  いたるをしずかに外す  立原  唯 
 水鳥と作者が対峙している場面。静かな緊
張感がいい。
  幸せかと夫が時おり聞いてくる多分あの
  世のあなたより幸せ   谷口ひろみ 
 皮肉めいた感じにドキリとしたが、作者の
幸せを旦那様は喜んでいることだろう。
  「見ましたか」「ええ夜遅く」「わたく
  しも」タヌキが結ぶ近所の絆     
              坂井花代子 
 なるほど、そういう事もあるだろう。台詞
を五七五にうまく収めて一首がきまった。
  それさつき言つたぢやないとは応ふまじ
  君もさういふ年齢だから 森 由佳里 
 「さういふ年齢」がどれほどの年齢なのか
述べずともよくわかる。

 

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