1、第一次世界大戦を舞台とした不朽の名作
「西部戦線異状なし」の作家、エリッヒ・マリア・レマルクは1916年友人とともにドイツ軍の一兵卒として第一次世界大戦に参戦し、西部戦線に配属された。その後、戦場での体験を通じて戦場を悲惨さを生々しく書いた小説「西部戦線異状なし」を29年に発表。小説のタイトルは前線から司令部へ送られる電文の報告からとられた。最初は出版社に出版を拒否されたが、発売されると15ヶ国語に翻訳されて世界中で350万部超える大ベストセラーとなった。1930年のアカデミー賞作品賞受賞。
一方「突撃」は西部戦線をフランス側から描いた映画。スタンリー・キューブリック監督、カーク・ダグラス主演だが、フランス軍を誹謗、中傷するプロパガンダ映画との批判からヨーロッパ各地で上映禁止となり興行的には成功しなかった。しかし「戦争と人間」を正面から見つめる秀作。
2、第一次大戦の引き金
20世紀に入っての二つの多国間戦争を第一次、第二次世界大戦と並列的に並べるが、この二つの戦争は戦争にいたる原因や、戦争の経過、その後の処理など全く異なる。第一次世界大戦は、何が原因で、何で「世界」大戦になったのだろうか?
この大戦争の直接の火種は、崩壊しつつあるオスマントルコの領土、特にバルカン半島を狙うオーストリア・ドイツのゲルマン主義と、これに対抗してスラブ民族主義に肩入れするロシア南下政策のぶつかり合いということ。
経緯としては・・・ベルリン会議により、ボスニアとヘルツエゴビナの二州はトルコ領でありながら、オーストリアの行政管理下におかれた。1908年、トルコに青年トルコ党の革命が勃発したのを見たオーストリアは、トルコが二州の回収を図る惧れがあるとして、ボスニア、ヘルツエゴビナを完全に自国に併合してしまう。しかし大セルビア主義を掲げ、」ロシアの後押しでスラブ諸民族の統合を意図するセルビアはショックを受け・・・開戦の引き金はオーストリア皇太子のサラエボでの暗殺事件(1914)ということなのだが・・・。今一度、領土の拡張維持のみを命題とするハプスブルグ家と、セルビア(サラエボを首都とする)という国の独立自尊心を理解しておく必要がある。
セルビアは、バルカン半島内では・・・アジア系といわれるブルガール人に対抗するためもあり・・・早くにビザンツ帝国に服属する姿勢を示し、ギリシャ正教を受け入れて勢力拡大、14世紀前半の「ステファン・ドウシャン王」時代は「セルビア人・ギリシャ人の皇帝」を名乗りビザンツ皇帝にとってかわろうとするが、失敗。やがて1389年、新興のオスマントルコに徹底的に痛めつけられる(「コソヴォの戦い」)。こういう歴史からセルビアはスラブ人の雄、大セルビア主義の主導というプライドや使命感を保持するに至り・・・オーストリアに反抗する。
3、なぜ「世界大戦」に
しかしこれが何故「世界」規模に広がるのか。ナポレオン後の「会議は踊る」から100年。
ヨーロッパ諸国は様々な戦いと改革を経てそれぞれの国民国家を造り上げるが、次には新たなる戦いと改革、産業革命と社会主義、そして帝国主義、植民地戦争が待っている。そこでは一つの国家がその縛りの中では生きてゆけない・・・自国の利益を追求しようとすれば必ず他国とぶつかる。 特に永年の宿敵ドイツとフランスは、「敵の敵は味方」とばかりに様々な同盟関係が結ばれる。その窮みが「三国同盟(ドイツ・オーストリア・イタリア)」対「三国協商(英・仏・露間の3つの同盟の繋ぎ合わせ)」。
その結果一つの同盟国が戦争を始めればその国を応援せざるを得ない。オーストリアの背後にいるドイツは直ちにロシアに対し宣戦布告し、中立国ベルギーを経由してフランスに進撃、マルヌの戦い、ヴェルダンの戦いでフランス善戦するに及んで、西部戦線が膠着し始める。そしてロシアとの間に東部戦線が出来上がる。かくして誰もが想像しなかった長期、大規模、戦争史を一変する武器や戦法、まさに世界大戦に変質してゆく。
4、イタリア、そしてアメリカ参戦
面白いのはイタリア。ドイツ対ロシアの戦いが始まると、イタリアはいつの間にか三国同盟に背き、英仏側に味方する。これには深い訳があって・・・。
もともと国力軍事力に弱いイタリアはバルカン半島諸国を切り取る意思も能力もない。それよりハプスブルグのオーストリアに押さえられているアドリア海諸都市や地中海諸島の小さな領土を取り戻したい・・・そこで英仏と密約を結び、三国協商側につくことにする。しかしイタリアはなにせ弱い。戦時、戦後あまり発言力は保てない。
モンロー主義の根強いアメリカは当初は中立を保つが、だんだん独占資本家の参戦意欲に押され、またドイツの無差別潜水艦攻撃に怒り、とうとう英仏側にたって参戦する。そこで、血気にはやる、興味本位の、食いはぐれたあるいは世に拗ねたアメリカの若者が戦争に志願する。そして向かったのは、イタリア戦線ということに(「武器よさらば」の世界」)。
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