映画で楽しむ世界史

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詳しすぎる「もう一人のシェクスピア」

2013-03-17 13:33:39 | 舞台はイギリス・アイルランド
古くから「シェクスピア別人説」は多々あり、喧々諤々の議論が尽きない。

シェクスピアの作品があまりにも見事であり、圧倒されること甚だしいから、彼のキャリアを調べると、
これが何ともプアーで、ストラットフォードの田舎の貧しいなめし皮職人の息子が、
あれだけのものを書いたとは思えない。

そこから英文学者たちは、当時の知識・教養・地位の人の中から、
あれらの作品を書けるであろう人物を探し始める。

河合祥一郎氏の「謎ときシェクスピア」(新潮選書)は良くできている。彼の整理に依れば、
シェクスピアに成りすました、あれら戯曲の本当の作者を探してゆくと、候補者は以下の6人と言う。

①フランシスコ・ベーコン 哲学者
②クリストファー・マーロウ 劇作家
③第6代ダービー伯爵
④第17代オックスフォード伯爵
⑤第5代ラトランド伯爵
⑥ヘンリー・ネヴィル

しかし学者や相当イギリス漬け人ならともかく、一般人がこれら6人の可能性を逐一フォローするのはとても無理だ。
そういう意味でもこの映画は大変興味深い。有り難い映画だ。

この映画は、こうした諸説の中で「最も説得力があり、魅力的だと思われている(小田島恒志氏)」上記④の
「第17代オックスフォード伯爵エドワード・ド・ヴィア」が、シェクスピア作品の真の書き手だとして、
「もし彼がシェクスピアだったとしたら、こんな種々の複雑な事情があった筈だ」というスタンスで、
渾身の力で書いた脚本のように思える。

そういうスタンスに立つと、実にいろいろのことがある。

何せシェクスピアの時代はイギリスの絶対王権昂揚期・・・・・
複雑な政治・経済、国際情勢、宗教改革絡みの魑魅魍魎が渦巻くイングランド宮廷、
処女王エリザベスが真に賢明?狡猾に大活躍し、結果的に「大英帝国」への道を切り拓いた。

文化面ではイギリス・ルネッサンスの開花期・・・・・
英語の普及、大衆娯楽の開花、その需要に応えるに、ショウビジネスの世界にもいろんな企みが登場する。
いわば庶民の力が伸び、何でもありうる世の中と言ったムードだったのではないかと思う。

だから、シェクスピア探しでも、種々雑多の物を盛り込んで、ミステリー風に面白おかしく語られる。

しかし、正にこのことが、この映画の欠点でもあるように思う。
監督なのか脚本家なのか、少し良心的すぎて、シェクスピア別人説に伴うありったけの考えを盛り込んだため、
ストーリーが複雑化した。この映画のストーリーは?と聞かれると、旨く応えるのに相当の苦労を伴うだろう。

だからというわけではないだろうが、この映画は「パンフレット」が良くできている。
最近の映画のパンフレットは、ストーリーさえまともに書いてない、碌なものが無いが、
この映画のものは良い・・・・・ストーリーがしっかり纏められているとともに、
シェクスピア別人説も詳しく説明されている。お勧めである。(了)

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