映画で楽しむ世界史

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アンジェイ・ワイダの「ダントン」

2011-10-12 10:44:37 | 舞台はフランス・ベネルックス
 ダントンといえば、パリのサン・ジェルマン大通りの、オデオン四辻のあたりに立っているダントンの銅像を思い出す。
 アンジェイ・ワイダ監督の「ダントン」。フランス革命上の有名人物を、極めて人間くさく、ロベスピエールと対比しながら描いた秀作だ。

 原作はスタニスワヴァ・プシビシェフスカの「ダントン事件」ということであるが、この映画に描かれている内容は、その細部においても史実に一致しているようである。

 最初のシーンはたいへん印象的。田舎に引っこんでいたダントンが新妻とともにパリに出てきたのである。馬車は革命広場のギロチン台をぐるっと廻ってゆく。ギロチンには不気味な黒布がかぶせてあって、その黒布のあいだから、ギロチンの刃がまた不気味な光りを放っている。──この導入部が早くもダントンの運命を暗示し予告している。
 やがて、ジェラール・ドパデューふんするダントンが、大柄で人なつっこい顔を乗り出して「ダントン万歳!」を叫ぶ民衆に手を振って答える。この光景をその通りの二階の窓から、ヴォイチェフ・プショニャックふんする、いかにも神経質らしいロベスピエールが、嫉妬に燃える眼で見おろしている……。

 ダントンの協調政策に協力するデムーランの新聞の印刷所が、ロベスピエール一派によって襲撃され、ダントン一派が攻撃される。最後の和解をはかるために試みられたダントンとロベスピエールの会見の場面・・・二人の対照的な個性をあざやかに演出して見せてくれる。
  この場面で、激昂したダントンはロベスピエールに言う。「きみは民衆のことなど何もわかりっこないんだ、何も!」「きみは女と寝たこともないらしい」──しかしロベスピエールは冷静で冷徹で、落ちつきはらっている。その生活もつつましく、汚職などは知らなかった。
 3月30日の公安委員会で、サン・ジュストがダントン逮捕を提案し、その告訴状を読む場面、ダントンの逮捕につづく、革命裁判における裁判闘争の場面など、きわめて印象的。

 ダントンは傍聴席をうずめた群衆に語りかける。「わたしが告発されたのは、わたしが真実を言うからだ。わたしが人民の正義の生みの親だからだ。わたしのもう一つの罪は、わたしのもっている人民の人気だ。フランス人民よ、裁くのはきみたちだ……」

 革命広場のギロチン台上にのぼる場面で最後の言葉、「わたしの首を人民にみせるがいい。この首にはそれだけの値打ちがあるのだ」
 死刑執行人はまだ血のしたたるダントンの首を高だかとかかげて、四方の群衆に示す……。怖るべき沈黙の一瞬。 「彼らはフランスの首を切ったのだ!」

 1794年4月5日、ダントン、デムーランたちがギロチンにかけられてから二カ月後、ロベスピエール、サン・ジュストたちも処刑され、恐怖政治は終わりを告げる。

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