室生犀星
「蝉頃」全文
半紙
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蝉頃
いづことしなく
しいいとせみの啼きけり
はや蝉頃となりしか
せみの子をとらへむとして
熱き夏の砂地をふみし子は
けふ いづこにありや
なつのあはれに
いのちみぢかく
みやこの街の遠くより
空と屋根とのあなたより
しいいとせみのなきけり
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あまり知られていませんが
「抒情小曲集」に収められています。
「東京にて」というくくりの中にありますから
この詩の中の「みやこ」は東京です。
この詩で特徴的なのは、
せみの声を「しいい」という擬音語で表現していること。
この詩以外に「しいい」という擬音語は見たことがありません。
昨日、はじめてニイニイゼミの声を聞いたのですが
この「しいい」と鳴くセミは
どう考えてもこのニイニイゼミだと思うのです。
まだ無名時代の犀星が、東京で孤独な生活をしていたころの
しみじみとした感情が歌われています。
セミの声が、こんなに切なく響く詩も珍しいのではないでしょうか。