連句集「猿蓑」より 「市中は」の巻
半紙
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有名な連句「市中の巻」の最初の四句。
この巻は、芭蕉・去来・凡兆の三人が交互に詠んでいきます。
初句が「五七五」、それを受けて二句が「七七」、これで一つの世界が完結します。
次に二句の「七七」を受けて、三句が「五七五」、これでまた別の世界が誕生します。
こんな風に延々とつなげていくので、こういうのを「鎖連歌」と言います。
この「市中の巻」は「歌仙」といって「三六歌仙」にちなんで三六句まであります。
【本文】
1 市中(いちなか)はもののにほひや夏の月 凡兆
2 あつしあつしと門々(かどかど)の声 芭蕉
3 二番草取りも果さず穂に出(いで)て 去来
4 灰うちたたくうるめ一枚 凡兆
【口語訳】
1 夏の宵、まだ昼間の暑さが残っていて、町中には様々なもののにおいがたちこめている。
ふと空を見上げると、夏の月がかかっていて、ちょっと涼しさを感じるなあ。
2 どの家でも、人々が門口に出て、あついあついと言って夕涼みをしている。
3 今年は、暑くて、稲の育ちがよくて二番草を取り終わらないうちに、もう稲穂が出たね。(なんて門口の人たちが話している)
4 薪の燠火で直にあぶったうるめいわしが灰だらけになっているので、灰をたたきおとしながら炉端で昼飯を食べている。
こう並べてもわかりにくいですが
1-2、2-3、3-4
というセットでまとまったものとして読むと分かるのではないでしょうか。
1-2では、町中の情景ですが、
2-3では、農村風景に変わっています。
どんどん世界がずれていく面白さがあるのです。