藤沢周平全集 第二十一巻 第五刷 1994年 文芸春秋発行 を読み始めた。この巻頭に「友情を描く藤沢周平」と題して中野孝次氏がエッセイを書いたものが挿入されている。
この中で「・・・現代ではテレビマンの触れるところ物みな下品になる。・・・やはり藤沢文学は読むに限る・・・」と書いている。この点では半分賛成で半分反対である。
ドラマや映画になると、原作者の意図とは異なる点が生じるのは避けられないのであり、その点では、読むのに限るという考えに賛成である。しかし、新たに映像作者が作り出した新らしい視点を楽しめるという点では反対なのである。これは見る人の選択でよいのだろうと思っている。
この巻には「三屋清左衛門残日録」ち「秘太刀馬の骨」の二編を載せている。
どちらもNHKTVで放送された作品である。特に小生の印象が強いのが、仲代達也主演の「三屋清左衛門残日録」である。これは小説であれTVドラマであれ、何度読んでも見てもよいような気がいしている作品である。
さらに中野孝次氏のエッセイから引用すると
「・・・時代小説作家にも二種類あって、全集になると買う気も持つ気も起らぬ作家。もう一方は藤沢周平のように全集になればなおさら全部を読みたくなる作家だ。」という。これには完全に同感と言わざるを得ない。
それから“・・・「蝉しぐれ」の文四郎と兵之助や逸平たちの友情と「三屋清左衛門残日録」での清左衛門と奉行佐伯熊太(NHKドラマでは財津 一郎が演じた)との男の付き合い心の通い合いなどを引合いにだし、男の友情に対する憧れや感触を味わいたいというのが、人気の原動力だと書いている。
いわれてみれば、自分が実生活で実現不可能な心のやり取りを小説が満たしてくれているということなのかもしれないと思うのである。
図書館読者の宿命;
第一巻から順番に読むことができないのは、図書館で手に入る本が順番にならないからである。
藤沢周平全集は今でも根強い人気があるのだろう、すべての巻が揃っていることなどはなく、先日などは10冊ほどしか棚に残っていないという繁盛ぶりで、どうしても小生が借りることができるものはとびとびのばらばらとなってしまっている。