自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

随想

2007年07月14日 | Weblog
 故福永武彦の画文集『玩草亭百花譜』を気の向くままに見る。この作家が死の直前まで描き続けた野の花の写生集である。
 ナデシコ、オミナエシなどの絵がある。信濃追分を吹く風の音が聞こえてくるようだ。林道に咲くマツムシソウもクサアジサイも不思議なほどの清澄さを醸している。野の花を友にした著者は、スケッチに心を遊ばせ、小さなものの命を見つめることで肉体の苦痛を逃れることが出来たらしい。一枚一枚の絵には、野草の生命力に対する憧憬が感じられる。
 詩人・木下杢太郎にも『百花譜』という写生集がある。この木下作品に福永武彦が一文を寄せている。「木下さんは、ひそかにその命の焔の長くは燃え続きそうにないことを知って、最後の夢を写生に託し情熱の一切を傾けたのではないか」と。 野の花は二人を最後まで励ましたに違いない。僕んちの猫の額には、有り難いことに白いムクゲが咲いてくれている。朝咲いて夕方にはしぼむ一輪一輪の生命は儚くとも、台風にも負けない気丈さを醸成している。