ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

成瀬巳喜男・21~『女の座』

2020年04月25日 | 日本映画
『女の座』(成瀬巳喜男監督、1962年)を観た。

舞台は、東京の下町らしき雑貨屋。
店の奥は大家族が暮らせるような造りとなっている。
住んでいるのは、石川金次郎(笠智衆)とあき(杉村春子)夫妻と、
亡くなっている長男の嫁・芳子(高峰秀子)とその息子の健。
それに、次女の梅子(草笛光子)、四女の夏子(司葉子)、五女の雪子(星由里子)が同居している。
あきは後妻のため、次女・梅子とは血が繋がっていない。
その梅子は婚期を逃し結婚の意思もなく、離れで生け花を教えている。
四女の夏子は会社が倒産し家にいて、五女の雪子は映画館の切符売り場で働いている。

このような前提があって、物語は金次郎が倒れたということで、長女の松代(三益愛子)や次男の次郎(小林桂樹)も集まってくる。
しかし容体は大したことがないと言うことで、九州の三女・路子(淡路恵子)には来なくていいと電報を打とうするが、
ひょっこりと夫・橋本正明(三橋達也)とやって来てしまった。

長女の松代はアパートを経営しているが、夫・田村良吉(加東大介)は下宿人と駆け落ちして家を出ている。
次男の次郎はラーメン屋をやっていて人手が足りなく、夏子に手伝って欲しいと言う・・・

石川家の雑貨屋は芳子が切り盛りしている。
その芳子の夫の三回忌までと、九州から出てきた路子夫婦はこの家に転がり込んだまま帰らない。
要は仕事にあぶれてしまって行き先がないのに、黙ったままズルズルと居座る。

長男の三回忌のお寺での席で住職から夏子の見合いの話が出る。
しかし雪子は、夏子と次郎のラーメン屋の常連客・青山(夏木陽介)が付き合うよう積極的に勧めている。

これだけの俳優(芳子の妹に団令子もいたりする)が出ていたりするから、話の内容も盛り沢山でややこしくなりそうだが、それが見事にこなれていて分かりやすい。
そして、あきが前夫の元に置いてきた一人息子・六角谷甲(宝田明)が現れてからの梅子が夢中になる様子といい、
その六角谷の胡散臭さを嗅ぎ取っている芳子と、母親のあきの心の落ち着かなさ。
その結果の、梅子の芳子に対する敵対心。
それに輪を掛けて芳子を絶望に落とし込む、息子・健の事故死へとクライマックスに突き進む。

すべて物事が終わってみると、石川家をやり繰りしていた他人としての芳子には行き場がなくなっている。
ある日、金次郎とあき、芳子の三人での墓参りの帰り、金次郎がこぢんまりとした他人の家を見て、このような家に一緒に住もうかと言う。

ラストを見ると、よく言われているようにこの作品は『東京物語』(小津安二郎監督、1953年)のテーマと相通じるものがある。
当然『東京物語』は名作だとしても、この作品だって十分過ぎるほど心に残る魅力を持っている。

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