政治の季節【稗史(はいし)倭人伝】

稗史とは通俗的な歴史書等をいいます。
現在進行形の歴史を低い視点から見つめます。

天皇の政治的利用と私的利用

2009-12-14 19:09:40 | 政治
できることなら触れずに済ませたい話題の代表が”天皇”に関する問題であろう。
”天皇”に関して口を開こうとすると、何故かだれもが奥歯に物が挟まったような、歯に衣を二重にも三重にも着せたような、靴の上からかゆいところを掻くような物言いになる。

羽毛田宮内庁長官の説明要旨…「特例会見」 (YOMIURI ONLINE 12/12)
 陛下の外国賓客との会見については、希望日が迫って願い出が来ると、陛下の日程調整に支障を来し、繁忙を極める両陛下に想定外のご負担をおかけするため、1か月以上前に外務省から願い出をいただくルールを設けてきた。特に平成16年(2004年)以降はその前年に前立腺がんの摘出手術があり、ご負担軽減、ご高齢ということも考え、厳格に守ってもらいたいと徹底をしてきた経緯がある。

 しかし、中国副主席との会見の申し出が1か月を切った段階(11月26日)で外務省から宮内庁に内々にあり、ルールに照らして(翌27日に)応じかねるとの回答をした。外務省も了承していたのだが、その後(12月7日に)官房長官から、ルールは理解するが日中関係の重要性にかんがみ、内閣としてぜひ会見をお願いするという話があった。私としては、1か月というのは事務的に作ったルールにすぎないとの考え方もあるが、陛下をお守りするため政府内で重視されてきたルールであり、国の大小や政治的に重要な国であるかどうかにかかわらず尊重してほしいと申し上げた。


中国側の要請を伝えたのが小沢ということで、鳩山内閣は中国副主席の天皇との会見を是非にも実現したかったらしい。
力で押し切られた羽毛田宮内庁長官がその腹いせに会見で政府批判を展開したというところである。
羽毛田長官の記者会見は定例のものではなかったらしい。

天皇陛下と中国副主席の会見、宮内庁が政治利用を懸念 (Nikkei Net 12/11)
宮内庁の羽毛田信吾長官は11日、習副主席と陛下の会見を巡る経緯について急きょ、報道陣への説明の場を設け「ルールはこれまでも政府内で重視され、国の大小や政治的な重要性にかかわらず尊重してやってきた」と話した。


急遽、記者会見を開いて、自分の思いをぶちまけている。
「ルール」というのは、宮内庁側で定めたルールらしい。
「ルールはこれまでも政府内で重視され」とはいっても、自民党政府の話である。
民主党政府は、憲法と法律と常識に乗っ取って対応すればよい。

日本国憲法
第3条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
   9.外国の大使及び公使を接受すること。


これまで気がつかないでいたのだが、天皇の外国訪問や外国首脳の接待は憲法上の国事行為としては挙げられていない。
中国副主席との会見も必ずしも憲法上の国事行為ではなさそうである。
類似行為を準国事行為とみる考え方があるらしい。

そこで中国副主席との会見を準国事行為と見なせば、鳩山内閣総理大臣の指示が優先する。
羽毛田長官は宮内庁ルールの存在について注意を喚起するだけでよい。
政府に対する批判は越権行為である。
しかも、わざわざ記者会見を開くなどもってのほかである。

先の読売の記事に戻る。

陛下の国際親善の活動は、政府の行う外交とは次元を異にしている。相手国の政治的重要性とか、国の大小とか、関係なく行われてきた。憲法下における天皇陛下の務めや役割という基本的なあり方にもかかわる。今回のことはルールの理念と整合性が取れないし、残念なことをせざるを得なくなった。陛下を政治懸案の打開役にとなったら、今の憲法下での陛下のなさりようと大きく狂うことになる。

 こうした懸念を伝えたが、聞き届けられなかったのは甚だ残念。もう二度とこういうことがあってほしくない。

 (「天皇の政治利用に当たる懸念があるということか」との記者の質問に)大きく言えばそういうことだ。政治利用といったことを超えたところで外国とおつきあいするのが陛下の国際親善のありようで、それを政治的に重要だとか政治的懸案があるからだとかということでしたら、天皇陛下の役割について非常に懸念する状況になるのではないか。


羽毛田長官は、今回の民主党・鳩山政権の要求を「ルール破り」そして「天皇の政治的利用」としても弾劾している。
しかし、国際親善が政治と離れて行われるはずもない。
良かれ悪しかれ”天皇”は、内閣の助言と承認によって行動する以上、政治的存在たることを免れ得ない。

いずれにしろ羽毛田長官の発言は、役人の分を超えたものである。

東京五輪招致に皇太子を担ぎ出そうとして、宮内庁に断られた石原慎太郎が悔しそうに吐き捨てていた。
「宮内庁のばかが余計なことをいって」
「宮内庁ごときが決める問題ではない」
とかの発言が伝えられていた。
宮内庁の拒否の理由は「皇太子の政治的利用」ということらしかった。
拒否したこと自体は正しかったが、理由は間違っていた。
じつは石原慎太郎の「皇太子の私的利用」であったのだが。

慎太郎にもほんのちょっとの理はある。
何が政治的利用であり何がそうでないか、「宮内庁ごとき」が決める問題ではない!




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