なんとかデュッセルドルフ駅での
チケット事件のショックを払い除け、サッカーの街・ドルトムントへやってきた。そう、あのブンデス・リーガの名門、「ボルシア・ドルトムント(BVB)」のホームタウンである。
なぜ高原のいるハンブルガーSVやカーンのいるバイエルン・ミュンヘンの試合ではなく、ドルトムントの試合を見に来たのには訳がある。
僕が高校生のとき、名古屋で行われた日本ユース代表とドルトムント・ユースの親善試合を観に行ったのだが、試合終了後にドルトムント・ユースの選手達がスタジアムに残って気軽にサインに応じてくれたこと。
また今まで唯一観に行ったことのあるトヨタカップの試合で出場してたチームがボルシア・ドルトムントだったこと。この試合は1997年、ベベット率いる南米代表・クルゼイロと試合をして、ドルトムントが2-0で勝利し世界一の栄冠を手に入れた。
そんなこともあってか、ブンデスと言えばボルシア・ドルトムントという構図が成り立ち、すっかりBVBのファンになっていたのである。それにブンデス一熱狂的とも言えるドルトムント・サポーターとドイツ一のサッカー専用スタジアムである「ベストファーレン・シュタディオン」も直に見ておきたかった。
ドルトムント中央駅に降りるや否や、構内はBVBのトレードマークである黄色のユニフォームやマフラーを身につけたサポーターでごった返していた。すでにサポーターはビールをがぶ飲みし、集団で応援歌を大合唱。もの凄いハイテンションである。
その大合唱は地下鉄に乗ってもスタジアムへ向かうにつれてヒートアップする。僕までもこれまでずっ夢見てきたヨーロッパサッカー観戦の実現が近づいているということに神経が昂った。初めて瑞穂競技場へJリーグを観に行ったこと、そして国立競技場へフランスW杯の最終予選を観に行った時のドキドキ感を思い出した。
スタジアムへ到着。周辺を見渡すと、いるいるフーリガン。刺青が彫り付けられ、まるで丸太ん棒のような腕をしたドイツ人。対戦相手のニュルンベルク・サポーターが警官に先導されぞろぞろアウェーの専用席に向かって歩いていく。近づくとちょっと怖いけど、思ったより殺伐とした空気は流れてなかった。
ベストファーレン・シュタディオンは2006年・ドイツW杯の開催地の一つであり、収容人数68,800人を誇る超巨大スタジアムだ。中でもホームのサポーターが集まる南側ゴール裏は、すべて立ち見スタンドになっており、ここが満員になると25,000人の熱狂的サポーターで埋め尽くされるという。因みにこの立ち見スタンドは欧州最大らしい。
この日もスタジアムはほぼ超満員。フランスW杯の開幕試合で、解説者の早野氏(現・柏レイソル監督)が、「菜の花畑のように見えるスタジアムのブラジルサポーター」と比喩表現を発したことが記憶にあるが、このベストファーレンでも25,000人の鮮やかな人工・菜の花畑が目にとまった。
試合が始まりホームゴール裏では、ブンデス一熱いBVBサポーターの地鳴りにも似た25,000人の大歓声がスタジアムに響き渡る。対する数こそ少ないがアウェーからはるばる駆けつけたニュルンベルク・サポーターも負けずに応戦する。
選手の一つ一つのプレーごとに飛ぶ大声援、大ブーイング、喝采の拍手。試合中に包み込まれたスタジアムの雰囲気はもはや劇場と呼ぶに相応しい。僕は初の欧州サッカー観戦をこのベストファーレン・シュタディオンで思う存分楽しんだ。
試合は前半ニュルンベルクが立て続けに2点を先制するも、そのあとドルトムントがすかさず反撃に出る。そして身長202cmを擁するチェコ代表巨漢FW、ヤン・コラーの2ゴールで同点に追いつく。この時スタジアムのテンションは言うまでも無く最高潮に達する。
しかし、前半の点の取り合いから一転、後半は膠着状態が続き、試合は結局2-2のドローで終了した。
スタジアムの雰囲気、サポーターの熱狂、100年の歴史を誇るブンデスリーガのレベルの高さ。もう感慨無量である。しかし、ここであえて一つ苦言を呈するなら、ドイツ人の煙草のマナーである。
ドイツではどうやらスタンドでの喫煙は認められているらしい。よって試合が始まっても観戦しながら煙草を吸ってる人がなんと多かったことか。喫煙者はそれでストレスを発散できて満足だろうが、煙草を吸わない者にとっては迷惑も甚だしい。
僕の周りの観客、前の席に座っている子供連れのお母さん、右隣の若い女性、後ろのお父さん、左隣の小父さん、全てが煙草をプカプカさせ辺りは煙で充満しているのだ。
周囲がみな敵(ヘビースモーカー)ばかりで助けがなく孤立するという四字熟語にある「四面楚歌」のよだった。僕は煙草の煙を吸いすぎて頭が痛くなり、後半は試合どころではなくなってしまった。
非喫煙者、女性、子供が快適に観戦できるようになるためにも、スタンドでは全席禁煙にして、外に喫煙スペースを設けるなどの措置をとった方が良いと思うのだが…。せめて一年後のW杯の時ぐらいはそうなって欲しいものである。
2005年2月5日現在、ボルシア・ドルトムントは18クラブ中13位という下位に低迷しており、かつてメラー、ザマー、コーラー、リードレといったスター選手を擁した'90年代の圧倒的強さは影を潜めている。
しかしバイエルン・ミュンヘンの一極集中状態をいつか打ち破り、ブンデスの頂点に返り咲き、もう一度チャンピオンズ・リーグの舞台で活躍している黄色と黒のタイガーユニフォームを見てみたい。