ゲストハウスの最寄り駅から鐘路方面に向かい、独立門駅から降りてすぐにある西大門刑務所。
かつて日本が朝鮮を植民地支配していた時代、愛国者を含めた多くの朝鮮の人々が連行され、拷問や暴行等の残虐行為を受け、この場所で処刑された。
獄舎、独房、死刑場など一部の施設が当時のまま保存され、今は歴史館となり一般に公開されている。
正門の入口を入った時の建物の印象は、緑豊かな芝生と木々に囲まれた洗練された赤レンガ倉庫にしか見えず、ここが刑務所だったようにはどうしても感じられなかった。
しかし、建物の中を見学すると、その印象は図らずも一変する。
特に本館地下にある内部展示室。
日本官憲による拷問と尋問の様子が、人形と音声によってリアルに再現され、それは本当に生々しいものであり、日本人として見るには耐え難く、当然写真など撮れるわけもなく、ただこれほどまでに自分が日本人であることを、その場でひた隠したいと思う気持ちにさせられるのは初めての経験であった。
僕がここを訪れた日、ちょうど多くの小学生が見学に来ており、先生やガイドの説明を食い入るような目で聴いていた。
僕は韓国語が少ししか出来ないので、先生がどんなことを話してかは分からない。
しかし、これまでの韓国人の対日感情を考えれば、その内容は容易に想像できる。
ただ今の韓国の子供たちは、今回の見学で日本に対してどのような印象を与えたのか気になるところだ。
21世紀に入り、領土問題を除いて日本と韓国の関係は比較的良好だ。
W杯日韓共催は成功を遂げ、日本人のおば様方は韓流スターに熱中し、ソウルの繁華街ではショッピングやグルメ目当ての日本人観光客で溢れかえ、相互の文化交流は15年前には想像すら出来ないほどに活発になった。
僕自身もたくさんの韓国ドラマや映画を観賞したし、旅先やネットを介して多くの韓国人の友達を作り、韓国は今回を含めて5度も訪れ、様々な文化や習慣に触れることができた。
でもそれだけじゃいなけない。
戦後に生まれて平和に育ってきた日本人の若者は、歴史、つまり過去に日本が犯してきた罪についてあまりにも無知だからだ。
ポーランドのアウシュビッツを訪れる人たちの中で最も多いのが、実はドイツ人だと聞いたことがある。
ドイツでは自分たちが過去に何をしてきたのか、後世にきちんと伝え、過去の過ちを繰り返さないようにしているとのことらしい。
要はここソウルの西大門刑務所も、世界遺産に登録されているアウシュビッツ強制収容所や広島の原爆ドームと同じ「負の遺産」なのである。
だから日本人の若者も歴史をよく知った上で、よく反省をしてから、お互いに交流をすべきであると思うのだ。
そうなれば、日本をこれまで非難してきたアジア諸国の人々も理解を示し、本当の意味での「近くて近い国」に生まれ変わっていけるのでないだろうか。
刑務所を見学し終わった後、公園内にある独立門へ。
パリの凱旋門と比べたら、拍子抜けするほど小さかった。