醤油庫日誌

やかんの映画ドラマ感想文。

20年たちました 続き

2023年01月17日 | その他
20年たちました。
なんかもうね、私も紅玉艦隊なお年頃になってしまいましたよ。
2003年でした。
当時ただ、頭ん中が大石さまでいっぱいで、バーッとどこかに吐き出したかったのです。書いて手放さないと、ずっとその話の断片が頭の中を占領してしまうので。
二つ三つ話を書いて、そのまま勢いでサイト開設してしまった。
ろくにパソ知識もネットの知識もないから無茶苦茶でした、本人が楽しかっただけで。それでも立ち寄って面白がってくださる方がいたのは、大きな励みになりました。その節はありがとうございました。
書きかけのファイルはあれども、もう文章をまとめるのが億劫になってきた今日この頃……これもボケの兆候か?最近、単語がすっと出ないんです、人の名前、花の名前、熟語類語も出てこないwスマホ未対応のまま、サイトのメンテナンスさえもはや??で、他の二次創作の話なんかはピクシブに投げ込んでいます。
タイムスリップ物の「戦国小町苦労譚」の森可成にはまったのは、ルックスが富森艦長に似ているから……という自覚はあります。髭の形といい、細い目といい、寡黙で温厚な戦国武将という性格もどこか富森さんぽくて。もしアニメ化ということになったらぜひ艦長の麦人ボイスでお願いしますw
「キングダム」の呂不韋は玄田哲章ボイスだったので、ずっと「大石長官……♡」と聞き惚れてました。大胆不敵な性格の偉丈夫、とくれば大石長官を彷彿とさせますし、クールで美形な軍師昌平君は原参謀長……ではありませんが、ちょっといけずな人のイメージを、つい……。

書きかけをまだバラバラですが置いておきます。


自慢げに昔の教え子を連れて歩くと見えた。
彼の最愛の教え子が立派な司令官となって基地に立ち寄ってくれた。
柔らかな物腰、おっとりした声、控えめな表情に隠された鋭い頭脳。女に見紛うその美貌と共に大石が愛した前原の美質だ。
前原には鋭いひらめきがある。型に囚われない柔軟な発想がある。
それは訓練や学習では得られない天性のものだけに、前原の中にそれを発見したとき大石は狂喜したものだ。
自分の中にもその天才はあると大石は自負している。それゆえに大石は前原を生徒というより年若い同志として扱ったところがある。

……俺の目に狂いはなかった。
そう満足げに大石は前原を見つめる。
後世日本の切り札ともいうべき紺碧艦隊を率いる司令官、それが前原なのだ。
ステップの段に長い足を片方乗せて、大石は格納庫を覗き込む。
「どうだ?」
にっと不敵に笑って大石は振り向く。
日本武尊の秘匿兵器だ。
「ほう……」
前原も興味深げに格納庫を覗き込んだ。
「よろしいんですか?」
「ふふ、幽霊に見せても害はあるまい」
「なるほど」

「幽霊は年をとらんのかな? おまえときたら、まるで変わらん」
「そうですか? 自分じゃずいぶん年をとったような気がするんですが」
「いい男になった。いい面構えだ……以前は綺麗な一方だったが」
「なんだか……褒めていただいてるんでしょうか、それは?」
「もちろんだ」
大石が笑って前原の肩に手を置く。
肩に感じる大石の力強い手に、前原の胸に甘酸っぱい思いがこみあげる。
目を上げると、すぐ横に慕わしい大石の横顔が笑っている。前原の視線に気づいて、大石がにっこりとほほえみを返した。
……ああ! この笑顔だ!
胸のどこかに痛みを感じながらも、この大石の笑顔に前原はすべてが報われるような心地さえする。親しげな温かな大石の笑顔がうれしい。大石が自分に寄せる好意は何物にも代えがたい。

日本武尊の高い甲板に潮風が吹き抜ける。
前原は感情の高まりを悟られぬよう、砲塔に気を取られたそぶりでさりげなく大石の視線を外した。
青い海原をその瞳に宿した前原が、

「長官もお変わりになりません」
「そんなわけないだろう」
大石は一笑に付す。
「俺はもう年寄りだよ。どうかすると息切れがする」
「艦橋までラッタルを駆け上がったりなさってるんじゃありませんか?」
「ま、急ぎでないときはだな、極力昇降機は使わんようにしておるよ」
「誰だって息切れしますよ、それは」
「そうか? おまえは石段登りが苦手だったからそう思うんだ。足腰は使わんとすぐ弱るぞ、気をつけろ」
「は、そういたします」
広い肩幅、厚い胸板、精悍な横顔は浅黒く健康的だ。そばにいると電流が走るような精気が大石からは感じられる。
二十五年前と変わらない。
前原はかつての恩師の横顔をまじまじとみつめた。
以前と違うところは……あの激しい熱血が老獪な人当たりのよさに紛れてしまっていることだろうか。ぎろりとした目からは、もはや奥深い感情を読み取ることができない……。

久しぶりに会った大石は元帥となって、亀天号の乗組員を出迎えてくれた。
若い頃から人を自然と従わせずにおかない位の高さはあった。以前はしていなかった白い手袋に前原はふと目をやった。


肩先が触れ合うほどぴったりと寄り添って並ぶ。
親しげな笑顔を見せて肩を抱く。
じっと目の奥をのぞき込むようにして話しかける。
大石は教官だった頃と変わっていない。好意を抱く相手には強い関心を示し、一挙一動に親愛の情を表して誰にも憚らない。


大石の前に出ると「いい子」になろうとしてしまう自分を前原は感じていた。
よき生徒、よき教え子……。
学業成績よりも深い洞察力と広い視野を若いうちにしっかりと養えと大石は言った。
首席になったって、後で使い物にならなきゃ意味ないだろ? 大石は白い歯を見せてちょっと嘲笑気味に笑って見せた。
その時大石は前世の軍中枢部にいた秀才たちを思い浮かべていたのかもしれない。
大石は自分の何に期待を寄せているのか?
大石が手放しで自分を褒めてくれたのは、ジュットランド沖海戦の考察だった。
「フフ、そうだ、おまえが見つけた作戦の要諦……それは将来きっと役に立つ! いいか、この先海上で砲を撃ち合うだけでは敵に勝つことは出来なくなる。新しい戦法、新しい攻略手段が必要になる日が遠からず来る」
「……空と海中からの攻撃ですね」
「そうだ! 海上海中それに空、多角的に綿密な連携を取り合う三次元的な戦法が必要になるだろう!」
大石は片頬に不敵な笑みを浮かべて、前方の何かをを睨み据えていた。彼の眼には黒煙を噴き上げる巨大な戦艦と、その上空を飛び回る爆撃機が、轟音と火柱がありありと映っていたのだと、今は前原にもわかる。

20年たちました

2023年01月16日 | その他
20年たちました。もはやホームページビルダーも古すぎて使えないありさま。いまどきは文章もpixivに抛り込んだ方が楽で見やすいですね。
兵学校の話を、前原編と磯貝編を、それぞれ用意しかけていたんですが、完成が覚束ない。古い書きかけを置いておきます。


「起立!」
伍長の号令に間髪を居れず生徒たちは席を立ち、完璧な直立不動の姿勢をとる。さすがは一号生徒、見事なものだ。
新任の教官はゆっくりと教壇の中央に進むと、生徒たちの顔をぐるりと見回した。
「……うん」
教官は軽くうなずいた。
「着け!」
ザッ、ガタガタン! 椅子を引き、また席につく動作もまた一斉だ。揃いの白い事業服にいがぐり頭……真摯な目の一号生徒の視線が教壇の新任教官に集中した。
大柄なその教官は、つややかな黒い髪を整髪料でオールバックに撫で付けていた。
「運用術を教える大石だ」
声量豊かな声が教室に響いた。
「運用術とは何か。まずそこから説明する」
彼はくるりと背を向けるとチョークを手に取り、カツカツと大きな音をたてながら黒板に『運用』と大書した。
「……聞きなれない言葉だと思う。実際、運用術なるものが確立されたのは近々十年ほどでしかない……ああ、今日は筆記しなくていい」
大石はノートを取ろうとした生徒に声を掛けた。
「漫談だと思って気楽に聞いておけ」
快活な笑みを見せて大石は話を続ける。

ひどく魅力的な男だった。
大石教官が教壇で表情豊かに語りかけてくると、生徒たちはたちまち彼の話に引き込まれた。彼が語ると教室の空気が明るくなるような感じがした。陽気で快活で、その声と生き生きした表情に生徒たちは魅了された。

「なぁ、どう思う? 運用術の教官」
「大石教官」
「二枚目だな。髪の長い教官なんてはじめて見た」
「……スゴイ男前だ」
「軟派じゃないのか?」
教室を移動するためのわずかな休憩時間に一号生徒たちはせわしなくささやきかわした。
「前原、貴様はどう思う?」
「……さあな」
前原と呼ばれた生徒が気のない声で答えた。だが彼の胸の中にはしっかりと大石教官の笑顔と声が刻み込まれていた。
……あの士官だ。桜並木で見かけた……。

その年の桜は例年より早かった。
講堂前の桜並木はすっかり若葉に変わり、名残の花びらのみがひらひらと春の風に舞っている。

「どうした。鼻血じゃないか」
「は、転びました!」
「おまえも転んだのか、唇が切れているぞ」
「私は木にぶつかりました!」
「ふーん、そうか。これからはちゃんと前を見て歩くんだぞ、坊主ども……行っていいぞ」

「さて、と……。前原だったな」
「はい」
「おまえはどうした、おまえも散歩か?」
「は……」
答えに窮した前原を見下ろして、大石はニヤニヤと笑った。
「鉄拳修正か……ま、俺の期でもやったがね」
「おい、手を見せてみろ」
前原が隠そうとした右手を大石はぐっと容赦なしにひねり上げた。
「ンフフ……」
三号生徒を殴った拳は赤く腫れていた。
「顔に似合わずきつい奴だ。まあほどほどにしておけ」
ひねり上げていた手をぽーんと放り出すと、大石はそれきり後も見ずに歩き出した。
大柄な教官の後背は八方園の向こうの濃い宵闇にすぐに紛れて消えてしまった。大石教官の舶来品らしい整髪料のいい匂いが、前原のそばにしばらく漂っていた。前原は痛んだ拳を左手で押さえながら、その嗅いだことのないほのかに甘い香を深く吸い込んでみた。