醤油庫日誌

やかんの映画ドラマ感想文。

女王蜂

2006年06月25日 | 【さ行】タイトル
1978年、東宝。
怪しい祈祷師、九十九龍馬を神山繁が演じています。
「九十九と書いて、ツクモと読む!」
という冒頭の神山さんのセリフで小学生やかんはひとつ賢くなりましたっけ。
ばさーっと垂らした総髪の間から、人を睨みつけるようにして視る神山祈祷師の怪しい眼つきが印象的でした。
……あらためて見直してみたら、神山さんの出番はそれほど多くないんです。
なのにやかんの中では「女王蜂」イコール「九十九龍馬」なんですね。
一歩間違ったら脂ぎったエロオヤジになる役柄ですが、神山さんが演じるとどこか端整で色っぽいのです。
その九十九龍馬の視線にドキドキしていた小学生やかん、ン十年後の現在、神山さんの魅力に再びしっかり取りつかれております。

現在視聴しているCS番組

2006年06月22日 | 【さ行】タイトル
【ザ・ガードマン】
レギュラー放送に加えて、ただいまベルト放送中。
週に5本、ガードマンが見られて幸せでござる。
さすがに後のほうになってくるとトホホな内容のも増えてきますが、高倉キャップと榊さんを見てニタニタできたらそれでいいんです。
ああ男前揃いの東京パトロール社! 全員カルダンのスーツを着てお仕事なんですぜ☆

【翔ぶが如く】
ただいま薩長同盟に向けて大転換中。
終生西郷隆盛が嫌いだったという薩摩の殿様久光公に高橋英樹。
西郷どんの話題が出るたびに、煙管をガチガチ噛み締めてイヤそうな顔をするのがツボ。

【女人平家】
吉屋信子の原作が好きなので。
なんと、子役なしでやりますか。
いい年した女優さんたちをローティーンの姫君と思えといわれても、うーむ。
末っ子の典姫は34歳も年上の爺さまに嫁ぐことになるんですが、相手役は誰なんだろう?
原作ではロマンスグレーの小父さまてことなんですが……どんな俳優さんか楽しみです。

【どろろ】
百鬼丸、ハンサム~!
寺や焼け跡の背景は黒澤映画のようなド迫力。
 とぼけちゃイケねぇ知ってるぜ、お前らみーんなホゲタラだぁ~
しかしわけのわからん主題歌だ。

【名探偵ポワロ】
イギリス制作の凝りに凝った時代物。
ヨチヨチと歩く小男ポワロのオープニングタイトルからすぐに物語にトリップできます。
古い汽車、古い自動車、なににもまして1920年代のお洒落な服装が魅力的です。
ミス・レモンの真っ赤なルージュと額にくるりとカールさせた髪。
ヘイスティングス大尉の英国紳士然とした身だしなみ。
服装もですが、室内の装飾や見事な庭園など細部をじっくり見たくなるドラマです。

「憲法はまだか」 (06月17日)

2006年06月19日 | 【か行】タイトル
1996年、NHKドラマ。
日本国憲法の誕生のいきさつを描いて前編後編あわせて三時間、お堅い内容をしゃれっ気たっぷりに見せてしまう異色ドラマなり。
GHQが押し付けてきた新憲法に翻訳というフィルターをかけて、なんとか調整しようと必死に抵抗する日本政府。
要人たちの緊迫したやり取りの中に散りばめられた諧謔味とペーソスが、苦い笑いを誘います。
理想と妥協で創り上げられた新憲法は、人類の宝か、はたまた敗戦国の鬼っ子か。
侵略目的じゃないから再軍備もオーケーとか、自衛用の装備は戦力には当たらないとか、第九条はいろんな解釈がなされてますが、ともあれ「戦争を放棄」した戦後日本は、直接手を汚すこともなく無事60年を経てきました。
……で、今年の憲法記念日の世論調査では国民の大半が改憲に賛成だとか。
自衛軍ってちょっと落ち着きの悪い名称だと思うんですが、慣れなんでしょうかね、それも。
敗戦日本を率いたオールドタイマー、幣原喜重郎(しではら・きじゅうろう)首相を神山繁、
服毒自殺した近衛元首相を江守徹、
日本側の新憲法草案を作った松本烝治国務大臣に津川雅彦。
味のあるベテラン俳優をずらっと揃えた良心作です。

「花のれん」 (06月07日)

2006年06月19日 | 【は行】タイトル
1959年、東宝。
山崎豊子原作、大阪商人ど根性物語。
頼りない亭主に先立たれ、寡婦になった女主人公が残された寄席小屋を足がかりにして、大阪一の女商人として成功する物語。
やかん、自分が根性なしですから、汗と努力のど根性エピソードにいたく感心する性質です。
サクセスストーリーとしても大変面白いんですが、ほのかな恋のエピソードもまたいいのです。
商いの世界で苦闘するヒロインが、ひっそりと思い続ける市会議員に佐分利信(さぶり・しん)
若い佐分利信(といっても50歳だが)、こんなにかっこよかったのか!
堂々とした体格で、貫禄といい押し出しといい、まことに申し分なく、和服がとびっきり似合います。
寡黙な背中の厚みがたまらなく男らしくてセクシーでござる。
……原作でもこの伊藤市会議員はすごくステキに描かれています。
一度だけ、ふたりが接近する機会があったんですが、大胆になりきれなかったヒロインはとっさに逃げてしまうんですね。
好きなくせに逃げてしまい、男のほうも二度と迫ることがなくそれっきり――ヒロイン淡島千景の寂しげな横顔にしんみりしてしまいました。

「混乱、ヴィクトリアクロス」をアップしました (06月01日)

2006年06月19日 | SSあとがき
原作のガーター勲章から変更されたヴィクトリアクロスですが、替えるなら他の勲章のほうが妥当だったのではないかと思います。
ヴィクトリアクロスはたしかに有名な勲章ではありますが「敵前での勇敢な行為」を称えるもので、受章者は最前線の兵士が多いのです。
司令長官である大石さんが受章対象になるのかちょっと疑問。
ネルソン提督が受章を誇りとし、常に胸に飾っていたというバース勲章か、女王の判断のみで叙勲できる(つまりお気に入りの人物に授与できる)ロイヤル・ヴィクトリア勲章のほうがよかったかも。
……ところでこの回の原さんは、手ぶらで「捧げ銃」の号令をかけたり、長官にさらりと「司令官」なんて呼びかけたり、涼しい顔してかなりなボケっぷり。
さすがは大石長官の女房役、負けてませんね(笑

「零戦燃ゆ」 (05月31日)

2006年06月19日 | 【さ行】タイトル
1984年、東宝。
加山雄三主演なのかと思ったら、看板に偽りアリ。
加山大尉は最初にちょっと出て、すぐにサヨナラであります。
どーでもいいけど、五十歳前の加山さんが現役大尉役なのはキツいです(^^;
いえ、加山さんは好きなんですけど。
飛行兵と整備兵、ふたりの若手俳優さんが主役でがんばっていますが、恋と友情の青春ストーリーがメインなのか、零戦が主なのかどうもはっきりしないのであります。
開戦時には無敵だった零戦もだんだんアメリカの新戦闘機に押されていく、そのうち飛行機の数が足りなくなる、熟練パイロットもいなくなる、備蓄燃料も底をつく……そんなジリ貧日本の敗戦への流れを描くのが眼目だったんでしょうが、どうにも印象散漫だったような。

「金環蝕」 (05月18日)

2006年06月19日 | 【か行】タイトル
1975年、東宝。
大ダム建設入札をめぐる官界財界の癒着を描いた社会派ドラマ。
予定価格を操作する巧妙な手口とその詳細な説明に背筋が寒くなりました。
まず最初にお金の流れ・不正入札のしくみを丹念に見せておいて、それからヤマ場である国会予算委員会の証人喚問の場面に移る。
先に「真相」を見せられているので、証人たちの証言の白々しさがそら恐ろしくなります。
こういう重苦しい深刻社会派ドラマには新劇俳優がやはりハマります。
乱くい歯のつけ歯でこ汚い金融王の老人を演じた宇野重吉の体当たり熱演。
冷やっこい官房長官役の仲代達矢のすましかえった演技。
神山さんも電力会社副総裁としてふてぶてしく登場、うーん悪よのう。
しかしながら、なんといっても下品なゼネコン専務に扮した西村晃が一番光ってました。
ダニのように利権にしがみつき、卑屈な態度でお座敷を取り持ち女の世話までするまめまめしさ。
こすっからい悪党を演じると西村晃は天下一品であります。

「女系家族」 (05月13日)

2006年06月19日 | 【さ行】タイトル
1963年、大映。
婿養子だった父が死んで、遺産分けが始まった。
血を分けた美人三姉妹が欲にかられていがみ合う。
そこへ現れた父の妾。
いがみ合っていた三姉妹は新たな敵にたちまち結束……。
いやー怖い、えぐい、えげつない。
出戻りの長女(京マチ子)には愛人の踊りの師匠(田宮二郎)が軍師となり
養子を取った次女(鳳八千代)には夫が後で糸を引き
現代っ子の三女(高田美和)には分家の叔母(浪花千栄子)が入れ知恵をする。
唯一しおらしげに見えていた妾(若尾文子)も実は……。
ああ美しき魑魅魍魎。
ええトコの嬢はんがまあ、そらもうえげつないんでっせ。
まったりと品のいい古風な大阪言葉でありながら、その応酬のキツいこと。
わがまま言い放題の京マチ子のツンケンした物言いと、いけずで権高な浪花千栄子があまりに強烈で、見ているこっちが思わず縮こまってしまいました。
旧家の呉服屋が舞台なだけに、きれいなおべべも、涼しげな奥座敷の風情も、画面でたっぷり堪能できます。

「関ヶ原」続き (04月25日)

2006年06月19日 | 【さ行】タイトル
じつはこのドラマ、見るのは三回目であります。
はじめて見たとき、小学生やかんにはよくあらすじが飲み込めなかったんですが、らい病を病んで崩れた顔を白絹で覆い、輿で出陣する大谷刑部の凄愴な姿に強く惹かれました。
盟友三成への友誼に殉じた義将大谷刑部を高橋幸治が演じています。
白絹からのぞく目許と声だけで、鬼気迫るような凄みと凛とした異形の美を醸していた、高橋幸治の大谷刑部。
彼の名前は小学生やかんの脳裏に深く刻み込まれました――以来、高橋幸治さんのファンなり。
……ミフネの魅力はまだわかんなかったですね、ガキだったんで。
なおこのドラマ、出番は少ないですが神山さんも出ています。
毛利の外交僧、安国寺恵瓊(あんこくじ・えけい)役。
三成、小西行長と一緒に斬首された西軍の武将でありますが、僧形に八文字ひげのこわそうなメイク。
……小学生やかんは神山さんだと気づかず見過ごしたようです。
現在のやかんには入道姿の神山さんもとても魅力的に映ります。
威圧するような、それでいてあくまで澄んだ理知的なまなざし、恰幅のいい体格、長い手足。
円座にどっかとあぐらをかく神山入道、はだしの足先、とくにくるぶしがすんなりとして綺麗でした。
オジサマのナマ足に見とれるようじゃ、終わってますかな……。

「関ヶ原」 (04月23日)

2006年06月19日 | 【さ行】タイトル
TBSテレビドラマ、1981年。
この当時ミフネ、60歳。
西軍の勇将、島左近を演じています。
老いを感じさせない冒頭の立ち回りの鮮やかさ。
野性ムンムン、ワイルド系渋オヤジ。
まったくミフネはいくら強く描かれても違和感がないのでござる。
1対10でも平気で斬り抜けて当然に見えるのでござる。
島左近@ミフネは武勇知略に優れているだけでなく、世情に通じさっぱりさばけた男の中の男でござる。
ぐっと目を細めて片頬だけで苦く笑ってみせる表情が、これほどきまる御仁もないでござろうよ。
ミフネは戦国時代の奔放な武人がよく似合う。
ミスターサムライ、ミフネの面目躍如。
もう、シビレた、シビレたでござるよ!
さて島左近の主であり「関ヶ原」の主人公石田三成(加藤剛)、これがカチコチ石頭の理想主義者にして“正義の人”であります。
三成は潔癖で忠義な聖人君子なんですが、清濁併せ呑む度量がなく、もとより豊臣政権の官僚出身で石高もたったの19万石――彼ではとうてい海千山千の戦国大名たちがついてこない。
島津からの夜襲の進言を「卑怯な真似はしたくない」とニベもなく蹴って怒らせるわ、「正々堂々と大合戦にて雌雄を決したい」と関ヶ原にノコノコ出てくるわ、軍事的には十分勝ち目があった西軍を不利にしてしまった張本人です。
歴史でIFを使うなら、この関ヶ原で西軍が勝ったならどうなったろうな……と一番思います。

「この子の七つのお祝いに」 (04月10日)

2006年06月19日 | 【か行】タイトル
1982年、松竹。
何が怖いといっても、岩下志麻が怖い。
「ごめんなさぁーい……ごめんなさぁーい……」
目の据わった岩下さんがそうつぶやきながら被害者に凶器を振り下ろすと、壁に被害者の鮮血がドババッと飛び散る。
ごめんなさぁーい……ドスッ、ドババッ、ゆるしてねぇー……ビシュッ、ドババッ。
凶器は鋭利な刃物だから、血が出る、血が出る。
でも毒々しい流血映像よりも、岩下志麻の表情のほうがうんと怖い。
岩下さんも怖いが、幼い我が子の寝ている布団の中で、手首と頚動脈を切って自殺を遂げる岸田今日子も怖い。
自殺した母親の血でドボドボになった布団で目を覚ます幼女……陰惨であります。
……なんでそんな映画を見たかといえば、神山さんが出ているからでござるよ。
殺人事件を追うルポライターに杉浦直樹、バーコード五分前といった独特の髪型ですが二枚目ですな。
神山さんはその上司である編集長役、いつもながら知的で堂々とした男前。
ワンシーンだけでしたが、ニヒルな戸浦六宏も登場。
素敵なオジサマ俳優をまとめて見られて眼福でござった。
……今気がついたんですが、私、立派なおでこの男性に弱いようです。
目許が涼しげで知的なおでこであれば、ハゲでも爺でもタイプなんだな、自分。
ちょっと考え込んでしまった春の夜。

「長脇差忠臣蔵」 (03月25日)

2006年06月19日 | 【な行】タイトル
1962年、大映。
キャストに宇津井健、本郷功次郎とくれば、何はともあれ見なくては。
……と思って見たけれど、なんだこりゃ。
老中に親分を殺されたヤクザ者が敵討ちをする、幕末渡世版忠臣蔵であります。
苛酷なおふれを出して民を苦しめる老中に直訴して殺されるのが、熱血正義漢の宇津井親分。
ヅラをつけても……いつもと一緒、不動不変の宇津井節。
軍人検事医者宇宙人、なにを演じてもまったく一緒な熱~いセリフと演技でござる、いえいえそこが好きなんだけど☆
もともとおでこの狭い宇津井さんがチョンマゲを結うと、違和感があります。
宇津井さんには月代のない総髪タイプのほうがよく映りますね。
さて、設定からして股旅・忠臣蔵・勤皇の志士と欲張り放題なこの作品、主演に市川雷蔵を据え、島田正吾、中村雁治郎も顔を出すなど気合が入っています。
ですが敵討ちストーリーに桂小五郎や清水次郎長が絡むという、ごちゃまぜ破天荒な筋運び。
ラーメンの具に車海老とウニが乗っていたような、ムダに豪華なゲテモノ風味ってかんじですかねぇ。
本郷さんがぜんぜんでてこないなーとあくびをかみ殺していましたら、でたでたラストに討幕軍の有栖川宮役で。
「その方らの働き、宮はしっかと覚えおくぞ」
馬上豊かに本郷宮様、お顔の色を和らげて悠然とお声を掛けられますと、「ははーっ」と一同感涙平伏。
やっぱりプリンス本郷、紅顔の美丈夫は王子様役がよく似合う。
宇津井健にはじまり本郷功次郎でシメたこの映画、つまんなかったけどファンとしては満足しました。

現在視聴しているCS番組 (03月16日)

2006年06月19日 | 【さ行】タイトル
 【ザ・ガードマン】
ただいま69年度。
まだあと100話残っています。
白黒だったのがカラー放送になり、画面の中の世相風俗も初回当時の雰囲気とだいぶ変わってきました。
風俗の変化にも目を瞠るけど、インフレもすごいです。
「社長の身代金に300万円用意しろ!」「ええっ! そんな大金、今すぐには……!」
なんてやってたのが、いつの間にか千万、億単位の金額が頻繁に出てくるようになりました。
 【野々村病院物語】
そろそろ大詰め。
なにが面白いかと問われると困りますが、毎週楽しみにしています。
津川雅彦のプレイボーイ医者と夏目雅子の美人看護婦の不倫の恋の行方やいかに?!
 【翔ぶが如く】
司馬遼太郎の幕末物がもともと大好きです。
なかでも「花神」と「世に棲む日日」が一番好きでした。
「翔ぶが如く」は……長大だったなぁ、途中で息切れしました。
島津斉彬公に加山雄三。
こういう儲け役を演じると、加山さんはほんと嫌味がなくてじつにぴったりハマるのでござる。
井伊大老役で神山さんも出てきました! 
「安政の大獄」を引き起こした反動政治家を、苦ーい顔つきで迫力たっぷりに演じています。
滔々としたセリフ回しにも聞き惚れるでござる。
城内でのきりっとした裃姿も私邸での粋な着流しもステキで、画面の前でもうポワワ~ン状態でござる☆
 【新・アンタッチャブル】
ロバート・スタックの旧作ではなくリメイク版。
FBI捜査官対アル・カポネ。
禁酒法時代のシカゴを入念に再現した画面が美しい。
カポネ役の俳優さんがいい感じ(声は麦人)なので、ついついマフィア側に肩入れしてみてしまいます。
最初は攻勢なんだけど、だんだん追い詰められていくカポネに涙。
 【泣いてたまるか】
渥美清主演のオムニバス人情喜劇。
高度成長期の庶民の哀歓に毎度じわわぁんときます。

「能面」をアップしました。 (02月26日)

2006年06月19日 | SSあとがき
笑顔が爽やかな原参謀長にいささか似つかわしくない内容でしたが――
無愛想な参謀長、というと史実に有名な方がおいでです。
宇垣纏(うがき・まとめ)参謀長……山本五十六長官の参謀長であります。
……以下、旭日とは無関係。
宇垣参謀長はその仏頂面から「黄金仮面」というあだ名がありました。
五十六長官はきちんと答礼することで評判でしたが、宇垣さんは敬礼されても頭をわずかに反らすのみだったといいます。
宇垣さんは開戦前夜から終戦の日までを克明に記録した「戦藻録」という日記を残しました。
  特攻の逝きにし空や雲雀鳴く  
最後の年に「戦藻録」に記されている宇垣さんの句です。
もはや帝国海軍には世界に誇った大艦隊もなく、生き残った艦艇も燃料不足のため動かせない有様。
ミッドウェーの惨敗とレイテの悲惨を目の当たりにし、最後は第五航空艦隊の司令長官として、特攻機を毎日のように送り出していた宇垣さんの心情が、抑制された文章から滲み出ているように思います。
『――四、五日の間春の進行いちじるしきは小なる人間の世界に やれ戦争だとか 敵機動部隊だとかと騒ぎ過ぎる哀れさを笑うに似たり   合戦をよそに春日の自然かな  』
   ~昭和二十年三月二十一日、神雷特別攻撃
彼が出撃を命じて死なせた若い特攻隊員たちの後を追うように、宇垣長官は八月十五日の夕、軍装の中将階級章をむしり捨てて艦爆《彗星》に乗り込み、沖縄上空で特攻自爆を遂げました。
終戦後の特攻ということで、彼の死は特進の対象になりませんでした。
それどころか連合艦隊からの命令によらない「私兵特攻」とまで言われ、宇垣さんは靖国神社にもお祭りされていないとか……。
気難しいと敬遠され、倣岸だと憎まれることも多々ありながら、黙々と困難な任務に立ち向かい、とうとう力尽きた宇垣中将に心惹かれるものを感じます。

「魔の刻」 (02月22日)

2006年06月19日 | 【ま行】タイトル
岩下志麻主演1985年。
……いわゆるオイディプスな母と息子のお話。
気持ちの悪い題材なんですが、岩下志麻の怖くて綺麗な母についつい見惚れてしまいました。
岩下志麻のド迫力とかっこよさで、母子相姦という内容の生臭さを「背徳」や「情念」といった妖しい美的イメージに巧みに置き換えています。
半田舎の漁師町の風物をオブジェとして生かした不思議な雰囲気の映画でした。
……神山さんは妻と息子の現場を目撃して茫然自失、黙ってドアを閉めるエリート商社員役なり。
「カワイクツテ」――雨の夜空にぼんやり浮かんだ赤いネオン文字を、岩下志麻が気だるく眺めるシーンが秀逸です。
そういえば、うちの近所のパチンコ店のネオンもだいぶ前から切れていて、気になってカナワン(^^;
いえいえ「パ」抜きではなく、「ハチノコ キング」になってるだけですが。