醤油庫日誌

やかんの映画ドラマ感想文。

ジョン・アダムス

2020年01月19日 | 【さ行】タイトル
2008年 アメリカ
ジョン・アダムスとは、ジョージ・ワシントンとトーマス・ジェファーソンの間の合衆国大統領。
本国ではどうか知らんが日本での知名度は低い。
ジョン・アダムス、薄ハゲのずんぐりしたブ男である。
弁護士であるから弁は立つが、短気で怒りっぽくて愚痴が多くてメソメソするし、およそ観ていて魅力はない。
なんでこんなオッサンが賢くて貞淑な美人の奥さんと結婚できたのか?
奥さんにしがみついては愚痴を聞いてもらってるオッサンの図は「おんな太閤記」の趣あり。
あの「おかかー!」ってやつ。
そういやオッサン、西田敏行に似てなくもないw
アダムスは独立宣言採択後、フランス・イギリス・オランダで外交を担う。
フランス語すら話せない急ごしらえの外交官となっなって悪戦苦闘するのだが、画面が急に華やかになる。
なんてったって、革命前のフランス宮廷!
白粉を塗った貴公子、つけほくろの貴婦人に、新大陸の粗野な弁護士が立ち向かうが相手にされない。
一方、英国はヴィクトリア女王の祖父の時代。
こちらは宮廷がぐっと重厚。
貴族たちの白い目の中でアダムスは謁見の際のお辞儀を習う。
扉の所で一回、正面で一回、進み出て一回。
婦人のカーテシーもだけど、膝を屈伸して交差しつつ上体を倒すって至難の業w
アダムス大使、ここでも失敗してオランダへ。
運河の明るい光と裏腹に、施政者たちの服装は真っ黒でレンブラントの絵みたいだ。
……家族の話と政局を同じボリュームで取り上げるので、アダムスの一代記としてはよくわかるが、建国史として観ようとするともたつきを感じる。
アダムスが乗る海軍創設期の帆船の細部、森と沼地だったワシントンDCを黒人奴隷たちが開拓している図、カツラや服飾の移り変わりなど、多分考証がしっかりしているんだろう、豊富な情報に目を瞠る。
当時の風俗や暮らしをアダムスを通して見学できるのが素晴らしい。
ガンコなオッサンが大統領になり引退して農場主になり、妻を失い子を失いながら長生きし、長男ジョン・クインシー・アダムスの第六代大統領就任を見届けて大往生を遂げる、じつに骨太な物語。
……ルーファスさんがカツラをつけてハミルトン長官役で出てくる。
まだ若くてムチムチと太めなルーファスさんが見られる。
あのしわがれた独特の声が流れるとこっちの耳がぴくっと動く(気がするw

ナイアガラ

2020年01月11日 | 【な行】タイトル
1953年 アメリカ
シリアスなマリリン・モンローとナイアガラ観光。
すごいね、ナイアガラの滝。
ナイアガラに行った気分になれる。
雨合羽と長靴で滝を真横から見たり、橋から見下ろしたり、鐘楼から眺めたり。
八時半からライトアップだよ、とか、鐘楼は曲のリクエストができるよ、とか、観光案内もばっちり。
もちろんセクシーなモンローも鑑賞できる。
シャワーから出てきても、寝起きのベッドでも真っ赤な口紅まつげバッチリのフルメイクだけど。
ミステリーもいいぞ。
口笛とか靴とかナイフとか非常階段とか激流とか、もう盛りだくさんでノンストップ。
つまり非常にサービス精神旺盛な映画なんである。
見て損はない。
やたらハイテンションな陽気なオジサン、接待要員にはいいかもしれんがあれが家族だったら耐えられんw
間男に殺されかけて逆にやっつけてしまう夫、さすが朝鮮戦争帰りなのである、戦地帰りをなめてはいかん。
でもなぜ神経症の夫を殺そうとするかね? マリリン・モンロー。
間男と手に手を取って蒸発すればいいじゃないか。
殺害成功の合図である鐘のメロディを耳にしたときのモンローの喜色満面の様子にぞっとした……殺したいほど嫌な夫ってよっぽどつらい結婚生活だったのかなぁ。
悪女を演じても、モンローってどこか悲劇的な女にみえてしまうのだ。

レベッカ

2020年01月01日 | 【や・ら・わ行】タイトル
1940年 アメリカ
大好きなんです、原作。
ヒロインの細やかな観察眼がモンテカルロでのシンデレラストーリーから始まってイギリスの貴族の館に舞台が移り、死んだ前妻のレベッカの話があらゆる人の口から語られていく緊迫感と家具や使用人や庭や紅茶の描写にワクワクさせられるんです。
デ・ウィンター様に見初められて結婚して、マンダレイのご領地に乗り込むヒロイン。
安物の下着と不格好なスカートのままで、たくさんの使用人に出迎えられるが、どう受け答えしたらいいかもわからない。
頼りのデ・ウィンター様も何を考えているのかわからない。
美貌のレベッカ、洗練されたレベッカ、几帳面で有能だったレベッカ。
人見知りと劣等感にさいなまれるヒロインに誰もが共感してしまうんじゃないでしょうか。
……つくづくマキシムって身勝手じゃない?
レベッカに敵わなかったからって、若くて従順なヒロインを引っさらってきといて何のフォローもなしに、さあ今日からマンダレイの女主人になれって無理に決まってるじゃないか。
何の支度も予備知識も無しに連れてこられたヒロインが哀れすぎ。
次の朝からさっそく義姉夫妻が押し掛けてくるし、肝心のマキシムは留守にするし、帰宅しても客の前で不機嫌になってヒロインをハラハラさせるし。
だいたいマンダレイを前妻のいたときのままにしておくってどういう了見だ?
園芸室にはレベッカのレインコート、家事室にはレベッカのレターセット、なんでも"R"の頭文字が入っている。
前妻の持ち物を使わされる新妻の気持ちになってみろという……四十男がそんなこともわからんか。
浜辺の散歩で急に不機嫌になって、自分の言う通りにヒロインが動かないからと怒り出すマキシム最低。
殺人現場だったなんて知るかいなw
追い詰められたマキシムの告白を受けて、彼を守ろうと強くなったヒロインに、君は老けてしまった、とぼやくマキシム。
なんという勝手な言い草、アンタはただの若い子好きか。
38歳の大人になりたい、と言った初々しいヒロインに、38歳の中年女になんかなるな、と返したマキシムですからそういうことなんでしょう、自分は四十男のくせにw
名家の出のやり手の妻に痛い目に遭ったからって、とにかく若くて従順な娘を選ぶマキシムって……家名と財産がなければただのカス。
マンダレイを失って覇気のなくなってしまったマキシム、腫れ物に触るように話題まで気を遣ってやらねばならぬマキシム、知人を避けて安ホテルを渡り歩くマキシム。
お屋敷が焼けてしまうと成金でないと再建は無理なのかな……。

映画ではローレンス・オリビエが繊細そうなマキシムを演じています。
ただ、フランク役の俳優さんのほうが体格がよくて強そうなので、あれっ? と思っちゃう。
「昨夜、私はまたマンダレイへ行った夢を見た」
あのぞくぞくするような冒頭の文章そのままの映像を、この映画は見せてくれます。
筆跡だけの前妻レベッカの存在感と、今にも潰れてしまいそうな可憐なヒロインがとてもよい。