のり巻き のりのり

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生きる

2016年06月23日 | 読書
森越智子 童心社

中学生対象の課題図書にあったので読んでみた。

劉連仁(りゅうりぇんれん)は中国人、1944年に日本軍により強制連行(拉致)され、突然北海道の炭坑で働かされることになる。
極寒の中で同胞は次々と傷つき、死んでいく。

生き延びようと便壺にもぐって脱出し、13年間北海道の山中をさまよいながら生き続けた男の記録である。

戦時中はソ連軍による強制連行、日本軍による中国人朝鮮人の無差別拉致、いずれも強制労働を強いられ悲惨な人生を送った人々がいかに多かったことか。。

私はこれまでさまざまな情報を見聞きし、その実態はある程度理解できているものの、中学生はこの本を読んでどう考えるだろうか。
中学生の感想文を読んでみたいものである。

戦後横井庄一さんや小野田寛夫さんが山中から発見された時はセンセーショナルなニュースとして世間を騒がせたし、若かった私は心底驚いた。
けれど、この劉連仁さんが北海道の山中から発見されたことは、全く知らなかった。報道されたのだろうか。

中国人だったからニュースにならなかったのだろうか。
だとしたら、それこそ差別そのものだ。

この本は中学生むきなので小説風に読みやすくなっている。
ドキュメンタリーとして、もっと写真や資料を多く入れてあるとよりリアルだろうが、多感な中学生には想像力を駆使して読んでもらいたい。

「華人労務者内地移入に関する件」すなわち、拉致して来いという法律を閣議決定したのは、今の総理大臣の祖父。
戦争責任をうやむやにして、謝罪もせず、孫が旗ふる現代の日本。

本の中で、非正規雇用とダブらせて書いている点はちょっと無理があるかもしれないと思っていたが、案外関わりがあるのかもしれない。

おりしも選挙が始まる。
中学生でなく18歳高校生でも大人でも、この機会に日本の過去、未来についてじっくり考えたいものである。

戦後40年、ドイツの大統領リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカーの有名な演説がある。
「過去に目を閉ざす者は、結局のところ現在にも盲目となるのです。非人間的行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです。」

今の日本に必要な言葉である。


また、「倚(よ)りかからず」「わたしが一番きれいだったとき 」の詩を書いた茨木のり子さんは、この劉連仁のことを詩に書いている。

この「生きる」に書かれている内容そのままの叙事詩である。
それを沢 知恵さんがピアノで74分の語りかけをしているのがあったので聞いてみた。

CDも出されている。聞けばだれでも胸に迫ると思う。

沢 知恵《りゅうりぇんれんの物語》 茨木のり子 詩