今日の社内連絡(ブログver)

sundayとかオリジナルテンポとかの作・演出家ウォーリー木下のつれづれなるままのもろもろ。

タワーのこと

2020-08-06 | Weblog
東京の東側のベイサイドで生まれ、そのあとは江戸川区で小6まで育ったので、東京タワーは子どもの頃何度も通ってる。家族で学校で町内の友達たちと。高所恐怖症の僕は展望階の透明な床が怖くてしょうがなかった。悪趣味、だと思ってた。それでいうと蝋人形館も怖かった。一体全体誰がこんなことをして喜ぶんだ、と幼心に怒りと疑問を感じていた。つまり、東京タワーは、見世物小屋とかお化け屋敷とかに近い怪しくて近寄りがたい場所だった。でも東京の東側の人間からすると遊びに行く場所は、亀有か東京タワーか有楽町か、狭い選択肢しかなく、行きたくもないのに何度も行って、いつしか、おそろしいものにこそ抗いがたい好奇心が沸く、という人間心理の、欲望の、不思議さを実感していった。

それから30年以上経って、まさか自分が東京タワーに関わることになるとは思ってもいなかった。あの蝋人形館があったフロアだ。そこにワンピースのアトラクションができることになった。およそ5年前の2015年のこと。集英社や東宝、ネルケ、アミューズなどなどの会社が関わるなかなかのビッグプロジェクトで、その年の元旦に新聞に一面広告が出たことを覚えている。
オリジナルテンポで海外公演をするようになったり、大阪でノンバーバルのパフォーマンス劇を創ったりしているうちに、自分の興味が”海外”とか”ショーの演出”にむかっていっていた頃だったのもあって、棚ぼたというか、千載一遇のチャンスだと思って、二つ返事で引き受けた。
ワンピースという日本を代表する漫画のテーマパーク。そこのステージで毎日ライブをする。そりゃ、わくわくするでしょ。それに何にもないコンクリート打ちっ放しのフロアを改造するところから参加できたのも嬉しかった。いわば専用劇場をつくるということだ。その頃、東京で一緒にやらせてもらってたスタッフでチームを組んで、ここでしかできないもの、ここでしか見られないものを創ろうと鼻息荒く挑んだ。
まあ、次から次へと問題は起こったけど、それを上回るアイデアを出して、無理ゲーをなんとかチームワークで攻略し、初日を迎えた。
とにかく、楽しかった。何が楽しかったのか、と思い返せば、創りながら学ぶことも多かったからだと思う。今まで何度も遊園地やテーマパークでショーは見てきたけど、それがいったいどうやって創られていくのか、どうやって運営されるのか、どうやって毎日事故なく公演を打てるのか、わかっていなかった。作品の中に関しても、録音した声でどうやって演技をするのか、ダブルキャストの違いをどうやって解決するのか、観客にどうやったらリアルさを感じてもらえるのか。
他にも、こういう場所だからこそできる観客の能動的な参加や、言葉がわからない人たちへのアプローチや、ワンピースという世界観の中での演劇的な見せ方や、キャラクターというものの捉え方、コンテクストの使い方など、教科書になるようなことを実践で学んだ。それはもう大学に4年間いくよりも、多くの知見を得たと思う。
1分間に1回は驚くようなことをしたかったし、手に汗握って、最後は一緒に歌って踊ってもらえたらそれで良かった。
ありがたいことに、5年半続いた。毎年リニューアルを繰り返し、再演もあったけど、いくつもの実験と挑戦をさせてもらった。長い間やることで、経験も活かされていき、自分にとってはホームグラウンドというか、毎年ワンピースの稽古がはじまると、よし今年はさらにここを追求してみよう、と企んだものだった。意外なことに、”ショーの演出”をすることで”より演劇的なものとはなにか”を考えることができた。生声を出せない、頭から最後まで決まった動きをしないといけない、などなど普通の演劇よりも縛りは圧倒的に多い。しかしその縛り(ルール)は、僕にとって実に演劇的なものに還元できた。だから何回やっても楽しかったのだろう。
キャストに関してはそれを365日するわけで、そのことが彼らの身体におよぼす影響はすごいことだと思う。僕個人的には、東京タワーに出てた人たちは、もうそれだけで十分俳優修業をしてきたと思って信用している。

コロナのせいで、中途半端なタイミングで閉園することになったわけだけど、とてもとても大きな財産として自分には残っている。

世界中から見に来てくれた人たちの中には、人生で最初の生の舞台って人もいただろう。旅の途中にふらりと寄ってくれた人もいるだろうし、もちろんワンピースファンだという人だってたくさんいた。子どもから大人まで、目を輝かせながら、開演のベルを待ってくれている人たちがいて、あの景色は、やはりテーマパークじゃないとなかなかうまれないものだった。とてもとても幸せな場所だったのだろうな。またいつか。

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