ウルトラ解釈ブログ作戦

ウルトラシリーズについて色々語るブログ。

市川森一追悼 明日のエースは君だ!

2011-12-18 10:09:31 | ウルトラマンエース
市川森一氏がなくなって一週間。
さっきNHKで黄金の日々の再放送をしてましたが、つくづく凄い脚本家だったんだなと思います。
市川さんはワイドショーでよく見てましたが、その時の印象は結構厳しいこと言うけど根は優しそうな人という感じでした。
脚本界の重鎮になってもウルトラマンやブースカを黒歴史にはせずいつまでも愛着を持たれていたように、常に誇りを持って脚本を書かれていた方だと思います。

その市川氏の最後のウルトラ脚本がこの「明日のエースは君だ」。
正直前回との温度差が凄すぎてウルトラの最終回としての評価は微妙なのですが、1本の脚本としては凄まじいものがあります。
以前にも書きましたが、展開は「悪魔と天使の間に」の発展版という感じ。
ただ、その救いのなさは当時の市川氏の心境を映していたかのごとく。
その辺り「悪魔と天使の間に」と比較しつつ見ていきましょう。

まず「悪魔と天使の間に」では善に見える聾唖の少年が悪という展開だったのですが、今回は逆に最初は悪に見えるサイモンが善と見せかけてやっぱり悪というドンデン返しを用いてます。
しかも子どもたちにウルトラマンのお面を被せ、サイモンを死刑にすると言わせる念の入れよう。
この辺は後のインタビューでも語ってますが、ウルトラマンというのは結局弱いものいじめなのではないのかという問題意識があったようです。
自分たちのやってきたことは何の役にも立ってないのではないか。
この辺りは市川氏の子ども番組に対する真摯さの表れでしょうね。

次に「悪魔と天使の間に」ではウルトラマンを物理的に抹殺するのが目的でした。
しかし本話ではエースを物理的に抹殺することは目論んでません。
むしろ精神的に抹殺することで地球にいれなくする。
そのためならヤプールは殺されてもいい。
この辺りはより狡猾で悪魔的と言えなくもないでしょう。
この違いは単に最終回というだけでなく市川氏の心境の変化というものがあるように思います。

「悪魔と天使の間に」では信頼してくれたMATの隊員たち。
そして最後に助けてくれた伊吹隊長。
しかし本話では誰も助けてくれません。
見守ってくれたのは夕子だけ。
この辺りの孤独からは氏のウルトラに対する疎外感が感じられます。
市川氏の元々の構想では最終回では北斗と南が結ばれる予定だったという。
それに比べてあまりにも暗い本話のラスト。
この変化は単に設定の変化だけとはとても思えません。

本話では結局北斗はヤプールの策略にはまって地球を去ることになります。
一応ジャンボキングは倒しますが、結果的にはエースの敗北。
初代マンは確かに敗北して地球を去りましたが、ここまで後味の悪い別れではありませんでした。
本来なら男女の愛で悪魔を倒すはずだったエース。
しかし、この最終回では正直言って悪魔は残ってしまいます。
このままエースが飛び去ってしまえば、子供番組としては完全な破たんとなっていたでしょう。

そこで挿入されたのが、件のエースのメッセージ。
「優しさを失わないでくれ」。
これは帰ってきたウルトラマンの「ウルトラ5つの誓いに」当たるものでしょうが、これがなければ正直この話はウルトラの最終回として成立しなかったと思います。
それほどまでこの話には救いがありませんでした。
このメッセージからは市川氏の当時の子ども番組すべてに対する猜疑心みたいなものが読み取れます。
氏がこの作品を最後に子ども向け特撮番組から去ったのも仕方ないでしょう。

以前にも触れましたが、この辺りの問題意識は既に「ベロクロンの復讐」でも描かれてました。
例え悪が相手でもそれを殺してしまって、果たして許されるのか。
「悪魔と天使の間に」では悪は殺して当然というのが前提とされてました。
人間は最後まで悪と戦わなければならない。
しかしこの頃の市川氏は悪とは何か、正義とは何かという問題意識があったようです。
こんな問題意識を持ってしまっては、なかなか子ども向け特撮ものは書けません。
本当の悪とは個々の人間の心にあるというのが市川氏の信条。
それを表現する場として、子ども向け特撮には限界があったのです。

かくして、この最後のメッセージは市川氏の敗北宣言のようなものになってしまいました。
ただ本話のタイトル「明日のエースは君だ」を悪い意味で解釈しようというのは間違いだと思います。
そもそもこのタイトルが市川氏発案なのかもわかりませんが、このタイトルにはやはり最後のメッセージ、これからは君たちが優しさを失わずエースのように戦ってくれという制作者の願望が込められていると思います。
そしてこのメッセージは当時の子どもたちだけではなく、当時の特撮番組制作者全てに対する市川氏の願いでもあったでしょう。

市川氏はこの話を最後にウルトラの脚本は書かれませんでした。
ただ個人的にはそれで良かったと思います。
今の時代、市川氏の作風が子供向けで受け入れられるとは思いません。
それに、さすがに子ども向けを書くにはお歳をとり過ぎてましたし。
ただ、お亡くなりになるにはまだまだ若すぎます。
ウルトラ関連のインタビューは頻繁に受けられてましたし「私が愛したウルトラセブン」などの傑作ドラマもお作りになられてましたが、まだまだウルトラに関わっていて欲しかったです。
70歳というお若さで逝かれたのは本当に残念。
心よりのご冥福をお祈りして、追悼の拙文を締めたいと思います。

コメントを投稿