“国立音楽大学ブラスオルケスター”の定期演奏会に伺わせて頂くようになってから、4年目になりました。
と言うか、毎年、楽しみにしているコンサートなのです。
私が初めて聴かせて頂いた時に新入生だった方が最高学年になったんですね。(実際は、このバンドは、3、4年生の方々しか出ないようですが。)
私の仕事は多少、特殊な勤務体系でキチンと曜日によって休みが決まっているわけでは、ありません。
多少の融通はきかせてもらえますが、それでも限界があります。
ですから、本当に行きたいコンサート以外、“行けたら行く”というスタンスで臨む演奏会も多いのです。
だから、年によって行けたり行けなかったり…。
そういう苦しみを味わっているのですが、この“国立音楽大学ブラスオルケスター”は違うんです。
“本当に行きたいコンサート”いや、“絶対行きたいコンサート”なのです。
だから、4年続いているというのが本当のところでしょう。
では、何故、“絶対行きたいコンサート”なのか?
それは、この団体のテーマである「パリ・ギャルドの伝統をくにたちの響きで」という演奏理念が大好きだからです。(去年のプログラムまでは、この「パリ・ギャルドの伝統をくにたちの響きで」という文言が載っていたように思うのですが、今年は、どこにも書いていないような…。)
私は、パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団が個人的に世界最高の吹奏楽団だと思っています。
テクニックはもちろんですが、あのサウンド!
キラキラとした透明感がありながら、甘く色気が漂っている…。
どうやったら、管楽器から、あんな音が出てくるんだろうと何時も思いますね。
そのギャルドの第9代楽長(首席指揮者)であるフランソワ・ブーランジェ氏を迎えて開催されるのが、国立音楽大学ブラスオルケスターの演奏会です。
そして、ギャルドに近いサウンドがこの国立音大の学生さんの手によって、この東京の地に“出現”するのです。
国立音大の皆さんの努力の結晶とブーランジェ先生の力量が、あの素晴らしいサウンドを生み出すのだと思います…。
余談ですが、一昨年の暮れに一度だけ、国立音大まで行って、「シンフォニック ウインド アンサンブル」の演奏会を聴かせて頂いたことがあります。
吹奏楽のオリジナル曲のみを演奏し、しかもメインの曲が私の好物の「プラハのための音楽」。
素晴らしい演奏、そして、とっても楽しい演奏会で強い印象に残っています。(翌年も聴きに行きたかったのですが、諸事情のため断念。今年は、何とかガンバリマス…。)
でもね、サウンドが「ブラスオルケスター」と全然違ったんです。
多分、演奏している方は大きく変わらなかったように思うのですが…。
これは、学生さんがスゴイのか、ブーランジェ先生がスゴイのか、私が聴きに行った時の「シンフォニック ウインド アンサンブル」の指揮をされていたマーク・スキャッタディ教授(イーストマン・ウインド・アンサンブル音楽監督、イーストマン音楽学校教授)がスゴイのか…。(スゴイ人が多すぎて頭が混乱してしまいます。)
とにかく、国立音楽大学の管打楽器の皆さんはスゴイ可能性を秘めているなあと実感した次第。
無駄話が長くなりすぎました。
2015年7月3日、金曜日、19:00。
場所は、お馴染みの池袋西口にある“東京芸術劇場”。
開館25周年を迎えて、入口ロビーの天井から吊り下がっていた“垂れ幕?”もリニューアルされたようです…。
プログラムに載っていたのですが、5年前に演奏して多くの感動を誘ったと言うデ・メイの「エクストリーム・メイク・オーヴァー」の再演があるとか。
これにも注目して参りましょう!
演奏会が始まります。
[演奏]国立音楽大学ブラスオルケスター
Kunitachi College of Music Blasorchester
[指揮]フランソワ・ブーランジェ
François Boulanger
喜歌劇「天国と地獄」より序曲/J.オッフェンバック:A.ティリ編曲
Orphée aux enfers – Overture/Jacques Offenbach(1819~80) :Arranged by A. Thiry
楽劇「神々の黄昏」より第3幕 ジークフリートの葬送行進曲/R.ワーグナー:Y.E.ゴアス編曲
Gotterdammerung – Siegfried’s Death and Funeral March/Richard Wagner(1813~83): Arranged by Y. E. Goas
交響詩「ドン・ファン」作品20/R.シュトラウス:F.J.ブラン編曲
‘Don Juan’Tondichtung nach Nicolaus Lenau Op.20/Richard Strauss(1864~1949) : Arranged by F. J. Brun
【休憩】
ディオニソスの祭り 作品62-1/F.シュミット
Les Dionysiaques Op.62-1/Florent Schmitt(1870~1958)
エクストリーム・メイク・オーヴァー ~チャイコフスキーの主題による変容~/J.デ・メイ
Extreme Make-over Metamorphoses on a Theme by Tchaikovsky/Johan de Meij(1953~)
スペイン奇想曲 作品34/N.リムスキー=コルサコフ:R.リチャード編曲
Capriccio Espagnol Op.34/Nikolai Rimsky-Korsakov(1844~1908)/Arranged by R. Richard
Ⅰ.アルボラダ Alborada
Ⅱ.変奏曲 Variations
Ⅲ.アルボラダ Alborada
Ⅳ.シェーナとジプシーの歌 Scena e canto Gitano
Ⅴ.アストゥリアのファンダンゴ Fandango asturiano
舞台上へ「国立音楽大学ブラスオルケスター」の皆さんが入ってきます。
いつもギャルド的な楽器の配置です。
まるで、オーケストラのよう。
バイオリンの位置にクラリネットをズラーッと並べたり、同じクラリネットでもソロ楽器は上段の中心に置いたりと特殊です。
まず、最初の曲はオッフェンバックの「天国と地獄」。
オペレッタの名曲です。
おお、弦バスが6本いますね。(ストリングバスは、“本”と数えるのでしょうか?間違っていたら、ゴメンナサイ。)
最初から期待以上のパフォーマンスです。
何と言っても、ソフトでノーブルなサウンドに感激。
それとソロの皆さんが充実した演奏をして下さること!
特に協奏曲における“カデンツァ”みたいに聴こえたクラリネットソロはキレイだった。
決して大きな音を出しているわけではないのですが、音が恐ろしく響いていました…。
2曲目は、「ジークフリートの葬送行進曲」です。
この曲は、オジサンが若い頃、コンクール自由曲としてもブームになったことがあったような気がします。(その頃と今日の演奏は編曲が違いますよね、きっと。聴いてて、そう思いました。)
冒頭の低音部のメロディは少し、ハギレが悪かった?
もちろん、みんなで合奏するパワーのある部分も良かったのですが、何しろ、どの楽器もピアニッシモがとても美しい。
トランペットはカッコよかったですねぇ。
“リング”の雰囲気が出ていて気持ちよく聴こえました。
若い頃、日本で「ベルリン・ドイツ・オペラ」の公演があり、「ニーベルングの指環」をやったのですが、その時、「ベルリン・ドイツ・オペラ」に付随する管弦楽団の楽器運びのスタッフのアルバイトをしておりましたので、ゲネプロを覗かしてもらったことがありました。
ワーグナーの神聖な世界を身が震える思いで感じとったことをこの日のブラスオルケスターの演奏で少しだけ、思い出しました…。
さあ、早いもので前半、最後の曲です。
これも奥の深い名曲、リヒャルト・シュトラウスの「ドン・ファン」。
まるで、水面に光る陽の光のような演奏でした。
キラキラとした中にも重厚さも兼ね備えている。
音楽に心地よい流れがあって、とっても安定的。
先程から、何度も言いますが、本当に上品なサウンドで、こういうのが、リヒャルト・シュトラウスのような作曲家の奥行きを作り出していけるのだと実感した次第。(吹奏楽ではありますが…、)
前半を聴いて。
毎年、聴かせて頂いているとは言え、いつも新鮮な気持ちになるサウンドでした。
本当に聴きたかったものに出会えたって感じでしょうか?
でも、それだけじゃなかったのです。
後半にもっとすごい“感動”が待っているとは…。
後半最初は、「ディオニソスの祭り」。
この曲は、皆さん、ご存じでしょうがギャルドのために作曲されたました。
“解説”を読みますと1913年に完成しながら、戦争のために演奏が出来ず、やっと日の目をみたのは1925年6月。
ギャルドの第5代楽長のギョーム・バレーの指揮で初演されました。(もちろん、ギャルドの演奏で。)
それから、1世紀近く、未だに人気の衰えない吹奏楽の名曲として演奏され続けていますね。
冒頭のTubaとかのメロディ、個人的には、もっと仰々しくやって欲しかったかも。
全体的なムードは、とても良かった。
ディオニソスは神話の世界の神なので、一種のオドロオドロしさも効果的に音楽に反映されていて楽しめました。
最後は、非常に透明感のある感じで終わりました。
いつも日本の団体で聴いているのと違う。
こういうのが“フランス風”なのでしょうか?
次の曲は、ヨハン・デ・メイの「エクストリーム・メイク・オーヴァー」。
サブタイトルに「~チャイコフスキーの主題による変容~」ってありますから、チャイコフスキーのメロディによる変奏曲なんですね。(そう言えば、何年か前にアンサンブルリベルテがコンクール自由曲にしていたような。)
『オランダのフローニンゲで2005年に開催されたヨーロピアン・ブラスバンド選手権の課題曲として、2004年にブラスバンド編成で作曲された。その後2006年に、ドイツのフライブルグ・ブラスオルケスターのコンサートのために吹奏楽編成で新たに編曲された』曲なのだそうです。(“解説”より。)
このブログの最初の方で申し上げましたが、わざわざブーランジェ先生の希望で再演されるとのこと。
残念ながら、私は5年前の演奏は聴いておりませんが、よっぽどの演奏だったのでしょう。
今回の再演に期待に心を弾ませながら聴かせて頂きました。
予想以上のすごい演奏でした。
まず、最初のサックス四重奏でガッチリ心を掴まれ、後はもう、曲の中に自然に“引きずり込まれた”ようなカンジです。
“解説”にも書いてありましたが、『水を入れたボトルをホケトゥス(しゃっくり)のように鳴らし、そこにマリンバ独奏を重ねる特殊な楽器使いによってガムランのような効果』を狙った部分の演奏は、初めてみる光景で少し、驚きました。
何もかもがかみ合っていて、完璧に近いアンサンブルを聴かせて頂きました。
ソロパートの皆さんの充実度は言う事がありませんでした。
これを“名演”と言わずに何を“名演”と言うのでしょう。(私は、声を大にして言いたい!)
トリはリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」です。
もちろん、誰もが知っている名曲です。
この曲も前半で演奏された「ジークフリートの葬送行進曲」と同様に昔、コンクール自由曲として吹奏楽界で流行りました。
華やかで明るいし、何よりエキゾチックなムードがたまらない。
私も大好きな曲ですね。
この日の演奏は…。
理屈抜きで素晴らしかった!
優れた演奏を聴いた時にいつも使う言葉があります。
それは、「名画を見ているよう」。
絵の事が何もわからなくても、見ているだけで心に何かしらのインパクトを与えてくれる絵画。
それをきっと“名画”というのでしょうが、同じように心に響く音楽も似たような感覚に陥りますね。
この日の「スペイン奇想曲」がまさに“そう”でした!!
聴いた者にしか、わからない、そして、それを会場にいた聴衆の皆さんと共有できた事がこの上ない幸せでした…。
アンコール曲は上記のとおりです。
それにしてもアンコールに日本の“唱歌”を持ってくるとは…。
これまでの雰囲気を壊さない素晴らしい選曲だと思いました。
正直な話していいですか?
これまで行った3回のブラスオルケスターの演奏会。
それは、どの回も素晴らしいコンサートで大満足でした。
そして、4回目の今年。
感動しました!
今までの中でイチバン良かった!
確かに、これまでも“ギャルドの雰囲気”は色濃く感じてはいました。
でも、姿がハッキリ見えたように感じたのは初めてだったかも知れません…。
そう、「パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団」の姿を……。
浦和河童です。
コメントありがとうございます。
私もブーランジェ先生のサウンドが大好きです。
それにしても、何であんなにサウンドまで変わってくるのでしょう?
不思議です。