ヒネモス・ウインド・オーケストラ。
毎年、どこかで名前を聴いたことがある、その程度の印象しか持っていませんでした。(コンクールには出ていないようですね。)
ところが今年に入って、何かのキッカケでこの日の演奏会のことを知りました。(多分、どこかの演奏会でもらったチラシだったような。)
そして、曲目に、とても興味をそそられたのです。
チラシで拝見すると昔の課題曲の名がズラッと並んでいるし、なかなか聴けない曲もある。
初めて、“接する”団体ですが、非常に楽しみに思いながら演奏会当日を迎えました…。
「ヒネモス・ウインド・オーケストラ」は、東京都内、練馬区・豊島区を中心に活動拠点を持っている団体のようです。
『吹奏楽オリジナル作品の魅力を追及する』という目的のために『年1回の定期演奏会』『アンサンブル演奏会』『地域の音楽祭への出演など』を中心に活動されているとか。
今回の演奏会は、『ニッポンの吹奏楽』というテーマを掲げ、『日本の吹奏楽業界に多大な影響を与えた内外の作曲家の作品』や『日本人の持つ独自の音楽観に深く根差した作品』を取り上げるのだそうです。
私の好みにピッタリのテーマ、楽しみです。
2015年(平成27年)4月19日、日曜日。
昨年の11月、カナディアン・ブラスの演奏会以来の“ルネこだいら”大ホールです。
以前、“ルネこだいら”を訪れた時は気付かなかったのですが、建物に隣接して、でっかい郵便ポストがありますねぇ。
何でも、小平市は、使用出来る旧型の“丸ポスト”が31本あり、東京都の自治体では一番、数が多いのだそうです。
それを記念してか、“日本一大きな丸ポスト”が“ルネこだいら”前に設置されたとのこと。
以上、余談でした。
さて、演奏会の方に話を戻しましょう。
プログラムの演奏曲目に目を通してみます。
前半は、オール課題曲ですね。(もちろん、過去の。)
しかも、渋い曲が多い。
『吹奏楽オリジナル作品の宝庫と呼ぶべき過去の課題曲を改めてレパートリーの選択肢と捉えられる某かの機会になるよう願いを込めてのプログラム』なのだそうです。(うれしいことを言ってくれるじゃありませんか!)
休憩をはさんで後半は、「雲のコラージュ」のみが課題曲です。
こちらの選曲は、『抽象的、感覚的な「ニッポンの吹奏楽」』を意図し、『作品に内在する「和」の様式美』を味わってほしいとのこと。
とても、“考えられた”プログラムです。
そして、開演の時間です。
[演奏]Hynemos Wind Orchestra(ヒネモス・ウインド・オーケストラ)
[指揮]岡田 渉(音楽監督)
ロバート・ジェイガー/ジュビラーテ
Robert Jager/Jubilaté
田村 文生/饗応夫人 ~太宰治作「饗応夫人」のための音楽~
Fumio Tamura/Kyo-oh Fujin
川崎 美保/パルス・モーションⅡ
Miho Kawasaki/Pulse MotionⅡ
間宮 芳生/ベリーを摘んだらダンスにしよう
Michio Mamiya/Berry and Step a Dance
三善 晃/吹奏楽のための「クロス・バイ マーチ」
Akira Miyoshi/“Cross-by March” for Wind Brass Ensemble
アルフレッド・リード/シンフォニック・プレリュード
Alfred Reed/A Symphonic Prelude based on “Black is the Color of My True Lover’s Hair”
【休憩】
大栗 裕(辻井 清幸 編曲)/吹奏楽のための「大阪俗謡による幻想曲」
Hiroshi Ohguri (arr.by Kiyoyuki Tsujii)/Fantasy on Osaka Folk Tunes for Band
櫛田 胅之扶/雲のコラージュ〈改訂版〉
Tetsunosuke Kushida/Clouds in Collage
グスターヴ・ホルスト(ジョン・ボイド 編曲)/日本組曲 作品33
Gustav Theodore Holst (arr. By John Boyd)/Japanese Suite, Op. 33
大栗 裕/吹奏楽のための神話 ~天の岩屋戸の物語による
Hiroshi Ohguri/A Myth for Symphonic Band – On the Story of “AMENO-IWAYADO”
前半は、課題曲を楽しみましょう。
今回のプログラムの曲は、作曲者が“巨匠”ばかりです。
だから、課題曲とは言え、名曲ぞろいですね。
最初の曲は、ジェイガーの「ジュビラーテ」。
1978年(昭和53年)、第26回全日本吹奏楽コンクールの“課題曲A”です。
作曲者のジェイガーは、私の年代には、たまらない作曲家ですね。(代表作のひとつである「シンフォニア・ノビリッシマ」は昔、よく演奏したものです。)
この年は、吹連発足40周年を記念して課題曲は委嘱作品ばかりだったようです。(フランシス・マクベスも委嘱され、課題曲を書いてます。)
この日の演奏は、とても懐かしく聴かせて頂きました。
きれいにまとまった演奏で安心して聴けましたが、もう少し、躍動感やスピード感があると、より良くなるのではと、思いました。
そして、ここからは3曲、1994年(平成6年)、第42回大会の課題曲が続きます。
まずは、“課題曲Ⅲ”の「饗応夫人」。
現在は、神戸大学大学院の准教授をされている田村文生先生の作品です。
この曲は、現代でも語り継がれている名曲ですね。
演奏時間は、課題曲史上、もっとも長い約7分、そして、その難易度の高さ。
太宰治の小説がモチーフになった曲ですが、“標題音楽”故か、演奏者にしてみれば、表現力が要求されます。
だからこそ観客は、非常に聴きごたえがある。
そんな気がします。
ヒネモス・ウインド・オーケストラの演奏は、ダイナミクスに留意し、ある部分はデリケートに、またある部分は大胆にと緩急を意識していて良かったと思います。
演奏の加速が増してきたようです…。
続いては、「パルス・モーションⅡ」。
実は、私事ながら、この1994年という年は、人生の中でイチバン吹奏楽から離れていた時期です。
ですから、前述の「饗応夫人」も含めてリアルタイムでは、知りません。
その中でも、この「パルス・モーションⅡ」は何故だか最も印象が薄いんです。
でも今では、とても好きな曲ですが…。
最初、何となく始まったような印象があった演奏でした。
でも、徐々に音楽に流れを感じました。
だから、非常に自然な形で音を受け入れられる…。
各パートのアンサンブルがしっかりとかみ合っていて、一見、機械的にも感じるこの曲の違った形の良さを引き出してくれているように思いました。
1994年の課題曲、前半の最後の曲は、間宮芳生先生の「ベリーを摘んだらダンスにしよう」。(「吹奏楽のための序曲」〈1986〉、「カタロニアの栄光」〈1990〉に続く、3曲目の課題曲です。)
『野に出てベリーを摘み太陽光を満喫するのが北欧の民の短い夏の楽しみ』であると言う事を表現しているそうな。
メロディのモチーフは、『スカンジナビアの舞曲や民謡から』のものだそうです。
ポイントを押さえたリズム感あふれる演奏でしたが、もう少し、メロディラインから読み取れる“諧謔味”が表現されていると良いかなと思いました。
“1994年シリーズ”は、一旦、終了。
次の曲は、三善晃先生の「クロス・バイ・マーチ」。
最近、良く取り上げられますよね。
吹奏楽の演奏会では良く耳にします。(今年の3月の“芸劇ウインド・オーケストラ”の演奏会でも聴かせて頂きました。また、三善先生は、1988年〈昭和53年〉の「深層の祭」に続いて2度目の課題曲でした。)
この曲は、1992年(平成4年)第40回大会の“課題曲C”です。
マーチと名前がついてはいますが、色々なことを考えると“それ”を越えた実にセンスの良い吹奏楽オリジナル曲だと思います…。
冒頭からハギレ良いサウンドを聴かせて頂きました。
音色も曲に合っていてバッチリ決まっています。
“曲の最後の一音”に向かって、演奏者全員が同じ方向を向いていると感じられるパフォーマンスは、とても良かった。
但し、途中で独特のリズムに振り回されていると感じられた部分がなかったとは言えませんが…。
前半最後の曲は、アルフレッド・リードの「シンフォニック・プレリュード」。
この曲は、1965年(昭和40年)第13回大会の“大学の部・一般の部”の課題曲です。
さすがに私もリアルタイムで、この曲は知りません。
ですが、滅多に聴けないこの曲には縁があるのか、2月の大宮吹奏楽団の演奏会でも聴かせて頂き、今年は2回目の“出会い”でした。
ゆったりとした、どこか宗教色(もちろんキリスト教)も感じられる曲調を持った名曲だと思います。
これからも、色々な団体が色々な機会に取り上げて頂きたいものです。(“Ⅲ”を除いて今年の課題曲なんかより、よっぽど良いかなと思います。個人的意見です。悪しからず。)
ハーモニーやサウンドの融合に気を使った演奏は、とてもステキでした。
最後まで、厳かな雰囲気は崩れず、“至福の時”を与えてくれた…。
休憩をはさんで後半は、「和」の中にどっぷりとツカりましょう。
最初は、この日の演奏会の曲の中で最も有名な曲と言っても過言ではないでしょう。
大栗裕先生の「大阪俗謡による幻想曲」。
この曲は、全日本吹奏楽連盟理事長も務められたことのある日本を代表する指揮者、朝比奈隆先生がヨーロッパ演奏旅行に行かれるに際して、ベルリン・フィルからの要請に従って作曲された曲です。
もともと、上記の理由でオーケストラのために作られていますが、今では、まるで吹奏楽のオリジナル曲ように演奏されていますよね。
華やかな曲調に即した演奏でした。
何度聴いても聴き飽きないこの曲を新鮮な感覚で受け入れさせてくれるように思いました。
音量的には十分なのだけれど、この曲の独特の土俗性やスピード感がもう少し出れば、もっと良くなるのではと感じました。
それと、トランペット、少しバテ気味でしたかね?
次は、前半から続く、“1994年課題曲シリーズ”?最後の曲、「雲のコラージュ」です。
ゆったりとした、キレイな曲です。(私も大好きです。)
今回は、後に大編成用に出版された“改訂版”の演奏です。
冒頭のフルートソロも含めて、非常に美しい演奏でした。
とても、曲名に即した雰囲気があって良かった。
どこか懐かしさを感じるような“優しい”時間を味あわせて頂きました…。
後半、3曲目は、ホルストの「日本組曲」。
渡欧して活躍した舞踏家伊藤道郎とホルストとの出会いが生んだ楽曲です。
何でも伊藤氏が口笛で吹いた日本のメロディをホルストが書きとめていって作られた曲のようです。
決して激しくはありませんが、「和」的な要素をわかりやすく表現している演奏でした。
なかなかの熱演だったと思いましたが、多少、ソロパートに不安を感じました。
さあ、大トリの曲は、またまた、大栗裕先生の「神話」です。
この曲、昔はケッコウ、コンクール自由曲として流行ったんですが、最近はめっきり演奏される機会がなくなりましたね。
いわゆる古事記の「天の岩屋戸の物語」を描いた“標題音楽”です。
メインの曲だけあって気合いが入ってましたな。
徐々に盛り上がってくる感じがとても良い。
サウンドが(どちらかと言えば)深いので、こういう曲に合ってるかも。
最後に相応しい演奏でした。
全ての演奏が終わり、アンコール。
曲は、スーザの「雷神」でした。
本音で言いますと、ここまで課題曲にこだわったのだから、アンコール曲は、課題曲として作曲されたマーチをやって頂けるとカッコ良かったかなぁ…。
ともかく、今回の演奏会のコンセプトは素晴らしかった!
ただ、バラエティに富んだ内容というだけではなく、アカデミックな側面からも吹奏楽を分析する試みは素晴らしいと思います。
これからも普通と違った切り口で演奏会を開催して頂ければと思います。
期待しています、ヒネモス・ウインド・オーケストラ!