宝石ざくざく◇ほらあなJournal3

ロシア語をはじめ、外国語学習に関するあれこれを書いておりましたが、最近は…?

言葉に誠実であろうとすると

2023年11月06日 | 

週一更新にならないし、不規則生活のため、どうしても更新日がランダムになってしまう…が、あまり気にせず

おもしろい本を読んだ。

『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』(済東鉄腸 左右社)

最初は、図書館の新着図書コーナーで目にしてちょっと気になったのだが、なんというかライトノベルっぽい感じなのかなと思って、読んでみることはしなかった。ルーマニアという国に良い印象がなかったせいもある。

が、後日書店で「岸本佐知子さん推薦」の帯がついているのを見て(図書館の本は帯がついていない)、にわかに読んでみたくなる。

で、また図書館に行ってみたのだが、すでに新着図書コーナーにはなかったので、検索エンジンで現在の本の状況を検索してみる。

漠然とエッセイの棚にある気がしていたのだが、分類番号によると「その他の国の文学」でイタリア文学の本の隣にあったのが意外だった。

意外だったけど、実際に本を読んでみると、ここの図書館の司書さんはちゃんと本を読んだうえで分類している!と感心した。当たり前かもしれないけど、なぜこの本がここにと思うこともわりとあるから。

今、amazon のレビューをいくつか読むと、期待はずれと書いている人は「エッセイ本」の範疇に収まらない部分が苦痛だったのかなと思われるが、かといって「外国文学」の棚に収めてしまうと、この本が刺さるに違いない人の目に留まらなくて残念なような…と思ったけど、外国文学の棚もついつい眺めてしまうような人にこそこの本は刺さるんだろうから、いいのか。

さて、私個人の感想としては、ものすごくおもしろかった。すごく刺激を受けた。

著者の語学文学そして世界に対する誠実な態度に感服する。

斜に構えたりふざけたりいいかげんだったり、しない。

正々堂々真正面から対峙している。だからこそ、同時代のルーマニア語作家とも、日本におけるルーマニア語翻訳の大家とも、ステキな良い関係がつくれるのだろう。うらやましいな。

最初のほうに、韓国映画好き中年女性への尊敬が語られていたけど、世界に対してフィルターがかかっていると、なかなかそんなふうに気づけないし、素直に語れないと思うのだ。

SNSを駆使した語学学習法はさすが現代の若者だなーと思うけど、フェミニズムとかLGBTQとか、それに絡んだ「言葉」の問題に対しても、昔の若者(たとえば私)はこんなに誠実でまっすぐに向かい合ってはいなかった、そこも現代の若者だなーと思う。

今ふと思ったのだけど、言葉に誠実であろうとすると、現代日本では引きこもり傾向にならざるをえないのだろうか。

心にもないことを平気で言える人は引きこもらないような気がする。

それは社会にとって損失だし、なんとかしたい。

「引きこもりの俺」とあるけど、実際の著者は自分と言葉と世界に誠実に向き合いながら、世界に対して自分を開いている。励まされる。こういう本を出す「左右社」という出版社にも興味が。

単純に語学好きとしては、ロマンス諸語とスラブ語の狭間にあるというルーマニア語、あらちょっと分かるような気が、という発見があって嬉しかった。(もちろんちゃんと学ぼうとするとややこしいのだろうけど)